多くの方にとっては、またまた聞き覚えのない名前の虫だと思いますが、その美しい外見から、昆虫マニアやカメラマンの間では広くその名が知られている虫でもあります。
今回は、そんなヤブヤンマの生態と人気の秘密を解き明かしていきたいと思います。
ヤブヤンマってどんな虫?
ヤブヤンマは「ヤンマ」という名前からもわかるとおり、トンボの仲間です。
蜻蛉目ヤンマ科に属しています。
東アジアに広く分布しており、日本でも北海道を除いた全国各地で見ることができます。
多くのトンボ類と同じように、卵から産まれ、幼虫からサナギを経ずに成虫になる「不完全変態」によって成長します。
ヤブヤンマの成虫の生態
ヤブヤンマは全長9.0cmにも達することがあり、これはヤンマ科の中でも大きな部類に入ります。
ヤブヤンマの成虫は4~9月にかけて見られ、スズメバチを思わせるような黄と黒の縞模様が特徴的です。
早朝や夕方などの薄暗い時間帯に活発に活動する「薄明薄暮性」の習性があり、日中にはその名のとおり藪の中の草木などにじっと止まっている姿を見ることができます。
完全な肉食性で小型の昆虫類などを捕食します。
ヤブヤンマの幼虫の生態
ヤブヤンマのヤゴは2.0mmほどの大きさで孵化した後に、脱皮を繰り返して全長5.0cm前後にまで成長します。
すらっとした、いわゆる「ヤンマ体型」のヤゴで、股にあるはっきりとした横縞模様が特徴的です。
他のトンボ類のヤゴと同じように完全な肉食性で、小型の魚類や水生昆虫を捕食して成長します。
主に樹木に囲まれた池や沼などに生息していますが、水質の悪化にも耐性があるため、水量の小さな水たまりのような場所でも見かけることがあります。
ヤブヤンマと人間との関わり
ヤブヤンマは森林地帯の水辺近くに生息しているため、人間と関わる機会はそれほど多くありません。
しかし、成熟した雄のヤブヤンマは複眼が美しい鮮やかな青色に染まるため、被写体として高い人気を誇っています。
飛び回っているヤブヤンマを撮影することはなかなか難しいため、ヤブヤンマの活性が低い日中、藪の中の草木にじっと休んでいるところを狙うのがオススメです。
ヤブヤンマの飼育方法
トンボ類を飼育する醍醐味は、小さなヤゴの背中を破って大きな成虫が姿を現す、羽化の瞬間にあります。
まずはヤブヤンマが生息していそうな森林地帯の池沼に赴き、ヤゴを採取してきましょう。
そのとき、生息地の水をプラケースに半分ほど汲んでくることを忘れないようにしてください。
羽化するときのことを考えて、飼育容器には比較的大きなプラケースを用います。
水中には、落ち葉や木片など隠れ家となるものを入れてやると良いでしょう。
また、水面から半分出るように木の枝などを立てかけておくことで、羽化する際の足場となります。
飼育容器は直射日光の当たらない風通しの良い場所に置いておきましょう。
日常的な管理については、まず飼育水の交換がポイントとなります。
水質の悪化には強い本種ですが、水道水に含まれる塩素はヤゴにとって猛毒ともいえます。
数日汲み置きしておくか、市販のカルキ抜きを使用して塩素を中和してください。
飼育水を一度に全部換える必要はありません。
1週間に1~2回の頻度で、半分ほどを交換すると良いでしょう。
また、ヤブヤンマのヤゴは止水域に生息しているため、エアレーションは不要です。
ヤゴは基本的に、生きている(動いている)餌しか食べようとしません。
ボウフラやイトミミズ、メダカなどが好ましいですが、生きている餌を常備することはあまり現実的でありませんので、ピンセットでつまんだ熱帯魚用のアカムシやイトミミズをヤゴの目の前で動かしてやることで、ヤゴに餌として認識させることができます。
食べ残した餌は水質悪化の大きな原因となりますので、必ず取り除きましょう。
少し手間はかかりますが、成虫が羽化する姿は実に感動的で、生命の神秘を目の当たりにする悦びを味わうことができます。
みなさんも機会があれば、ぜひ飼育に挑戦してみてください。
(ライター:國谷正明)