日本の固有種であるムカシトンボ。
オニヤンマを小さくしたような風貌で、水の綺麗な渓流に生息しています。
何万年も前から命をつなぎ続けている彼らが伝えてくれることは・・・・?
全世界に3種類しかいないムカシトンボ
ムカシトンボは化石としては世界中で60種類ほどが確認されていますが、現在生存が確認されている種類は全世界に2種類といわれていました。日本のムカシトンボともうひとつはヒマラヤ付近に生息するヒマラヤムカシトンボです。
しかし、2011年、中国で3種類目のムカシトンボが見つかり、しかも、その3種類は遺伝子的にあまり差がないということもわかってきました。
隔離的に分布して生息しているムカシトンボはジュラ紀からそれぞれの地域で個々に生き残っていると考えられていたのですが、この事実によって、今では最終氷河期にそれぞれの地域に分かれていったと考える方が妥当とされています。
現在ムカシトンボが見られる地域はその頃の自然に近い環境が残されているということなわけで、そう考えると、ちょっと神秘的です。
中国やヒマラヤはまだしも、日本にもそんなところがまだ残されているということです。
ムカシトンボの幼虫
ムカシトンボの幼虫はゆで卵を半分に割ったような形をしています。この形は激しい渓流の流れに流されない効率的なフォルムのようです。
そして、その幼虫の状態で5~7年を過ごします。
幼虫の間は水中でじっとエサを待っているようです。例えば流れてきたヒラタカゲロウの幼虫などを食べたり。
積極的に水中を泳いだり、捕食するといった派手な行動はとらず、じっと石の上などに張り付いて、静かにほふく前進しながら移動します。これも、渓流での移動手段としては激しい流れに抵抗する公立ていな移動方法なわけです。
敵に襲われそうになった時は、体を石にこすりつけてキシキシという音を出すことがささやかな抵抗です。それ以外鳴いたりもしません。
羽化前には落ち葉などの下に移動し、そこで成虫になります。
ムカシトンボの成虫
羽化したムカシトンボは4~6月に綺麗な渓流付近で見ることが出来ます。北海道では7月にも目撃の記録があるようです。
高知県での目撃情報も多く、原始の自然が残されている地域が良くわかります。
交尾をしたあと、メスは水辺の植物の茎などに産卵します。渓流に張り出したフキやウバユリなどが多いようです。S字上にクリーム色の卵を1時間かけて1000個ほど産み付けます。
ムカシトンボは4枚の翅の大きさが同じで、オスはホバリングが出来ない形状になっています。
そのため、メスの産卵は出来るだけ他の昆虫たちが活動していない時間帯に、単独で行われることが多いようです。
ムカシトンボのスローな成長過程
ムカシトンボは幼虫時代が長いだけでなく、成虫になっていく過程もとてもゆっくりです。
例えば普通のトンボがヤゴからトンボになる時、最終脱皮は20日ほど前にするのに対して、ムカシトンボの最終脱皮は前年の夏。幼虫の最終段階をたっぷり一年楽しんだ後にトンボになるというわけです。
また、トンボになる前にヤゴは呼吸器官の切り替えを行うわけですが、それも普通のトンボが数分~数時間で切り替えを行うのに対して、ムカシトンボの呼吸器の切り替えは2~3日かかるそう。
つまり、すべてがゆったりとゆっくりなのです。
SNSやインターネットの急速な発達で、昨日のことも、下手すると数時間前のことも次々と過去の事になっていってしまう現代の時間の流れ。こんな時代をムカシトンボはどう見るのかな・・・・と思ってしまいます。
この夏、ムカシトンボ探しに出かけ、彼らの持つ時間の流れに思いを馳せてみる、というのはいかがでしょうか?
(ライター ナオ)