オニヤンマは美しい体に似合わず、最強の肉食昆虫スズメバチをも捕食する獰猛な昆虫です。

危険で恐ろしいイメージのスズメバチ

昆虫界で最も危険な生物と聞かれてまず頭に思い浮かぶのはオオスズメバチです。

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私も少年時代はご多分に漏れず昆虫好きでありましたが、夏の放課後にカブトムシやクワガタを採りに近所の雑木林に行くと必ずといって良い程、奴が樹液の染み出るクヌギの木に陣取っていました。

当時はインターネットなども無い時代で「スズメバチに刺されたら死ぬかも知れない」と言う都市伝説じみた噂が我々少年達の間で広まり(運が悪ければ死ぬこともありますが)、スズメバチには最大限の警戒心を持って、こちらに向かって来ようものなら全員猛ダッシュで退散するというのがスズメバチへのリスペクトに基づいた接し方でした。

スズメバチの種類ごとの危険度レベル

オニヤンマは美しく威圧的なイメージの昆虫

一方でオニヤンマについても、今では高層マンションが立ち並ぶ実家の周辺にも私が子供の頃には野原も残っていた為、毎年夏になるとその美しく立派で、そしてまた妙に威嚇的に感じさせる風貌で子供たちを魅了してくれました。

oniyanma

当時はオニヤンマの主食が何であるかなど考えも及ばぬところでしたが、大人になってから実はオニヤンマは肉食で他の昆虫を捕まえて食べると言う事を知りました。

オニヤンマによるスズメバチの捕食シーン

オニヤンマは見かけによらず(良く見ると見かけ通りなのですが)、意外と獰猛であり、最凶の昆虫スズメバチをも捕食する事があります。

 

 

オニヤンマは蝉も捕食する事があるようです。

 

スズメバチはカマキリなど、他の肉食昆虫を捕食している動画が頻繁に見られますが、不意打ちなど余程悪い条件が揃わない限り負ける事はないようです。

記事タイトルにはスズメバチの天敵と謳っていますが、オニヤンマがスズメバチを襲う事はそう頻繁に起きる事ではないでしょう。

カマキリもスズメバチの捕食に成功する事がありますが、オニヤンマもカマキリも背後からスズメバチに奇襲攻撃を仕掛けて動けないように固定し、相手の大顎と毒針を封じる事が出来なければ逆にスズメバチに殺されて食べられてしまうでしょう。

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オニヤンマが大好きです!!

オニヤンマが大好きなんです!

あのかっこ良い容姿、ジェット戦闘機のようなシルエット、黄色と黒と緑色の鮮やかな色合い、無類の力強さ、飛ぶときの滑空とそのスピード、王者の風格と威厳、獰猛な生態・・どこを取っても、昆虫界の最高傑作がオニヤンマだ!・・と、私は思っています。

昆虫少年を魅了したオニヤンマの衝撃!

私がオニヤンマを知ったのは、もちろん少年の頃です。

当時はカブトムシやクワガタムシの強さとそのたくましい形態に魅せられ、カマキリの獰猛さと最強の戦闘力に憧れ、ゲンゴロウやタガメの舞うような水中での動きに心を奪われ、これらを飼育しながらながめては、一人悦に浸っておりました。

そこに現れたのが輝く緑色の大きな複眼を持ち、すごいスピードで空を自由自在に飛び回るオニヤンマでした。

そのかっこう良さと威厳のある姿は、昆虫少年にはとても衝撃的でした。

 

オニヤンマを手にしたときの感動!

何度も失敗をくり返し、ようやくオニヤンマを虫取り網で捕らえた時の感激は、一生忘れることができません。

翅を激しくばたつかせながら暴れるオニヤンマをその手につかむと、同じトンボであるアキアカネなどとは比べ物にならない重厚な質感に感動しました。

無駄のないキリっと締まったその身体の流れるような形態は、最新鋭のジェット戦闘機を思わせるほどかっこ良く、黄色と黒の鮮やかなコントラストは、美しさと同時に王者の風格をも感じさせる威厳に満ちたものです。

そりゃあ、カブトムシ、クワガタムシを始めとした甲虫類の戦車や軍艦のような機械的な力強いフォルムも素晴らしいですし、配色だとか光沢のある色合いなどについていえば、タマムシやモルフォチョウ、ニジイロクワガタなど、この世のものとは思えないようなものも存在します。

しかしオニヤンマの機能的な造形美は、それらに勝るとも劣らない、芸術を超越した、神が作り賜うたものと言えるのではないでしょうか。

 

昆虫少年たちの一番人気は・・

当時の私の周りの少年たちの間では、ノコギリクワガタとミヤマクワガタが一番人気で、みんなが憧れており、それを飼うことが一種のステータスでした。

真夏の樹液を巡る戦い「スズメバチ」vs「カブトムシ」vs「ミヤマクワガタ」

ミヤマクワガタは地方に行ったときに捕まえてくるのですが、東京では暑過ぎてなかなか長生きしませんでした。ですから、たいてい飼っているのはノコギリクワガタでしたが・・。

もちろんカブトムシやオオクワガタはじめ、カミキリムシやタマムシなども人気がありました。

私は、これらの甲虫類はもちろん、別のゲージでカマキリを飼い、タガメとゲンゴロウも水槽で飼っていました。

オニヤンマ派?ギンヤンマ派?

トンボ類の人気は、オニヤンマ派とギンヤンマ派に二分していました。

オニヤンマとギンヤンマの違いと見分け方

もちろん私はオニヤンマ派です。なんと言っても、私にとってオニヤンマは昆虫ナンバーワンですから(笑)

しかしギンヤンマもとても魅力的です。

オニヤンマに比べると一回りほど小さいのですが、その飛翔スピードは昆虫界ナンバーワンの時速100キロに達するほどなのです。

美しきギンヤンマ!

オニヤンマの最高速度は、時速70キロ(90キロと謳っている文献もあります)といわれていますが、ギンヤンマはそれよりもさらに速いのですから、そのことだけでも少年の心をおおいに惹きつけます。

しかも、ギンヤンマは輝くばかりの色鮮やかな美しさをあわせ持っているのです。

水色がかった大きな複眼と、黄緑と水色の絶妙な色合いを呈するすらっとした身体は、夏の日差しに照らされるととてもよく映えるのです。

キラキラと虹色に光りながら猛スピードで飛び去っていくその姿は、まるで真昼の流れ星のような錯覚さえ覚えます。

楽しき昆虫論争!

少年たちの昆虫論争では、美しさはひとまず置いておき、いつでもこうしたスペックをもとにして、実際に戦ったらどちらが強いかということに集約されてしまいます。

あの強敵スズメバチを捕えて食べてしまうほど獰猛な大型のオニヤンマか、昆虫界ナンバーワンのスピードを誇るギンヤンマかは常に意見の分かれるところです。

捕まえたらオニヤンマの勝ちだ、飛んでいたらギンヤンマが逃げ切るなどと、いつも論争のタネになっており、それがいつまでも続くのです(笑)

私はスラっとした、いかにも速そうな空気抵抗の少ない流線型をしたギンヤンマの体型・・たとえるならばイタリアのスーパーカー・・よりも、複眼の後ろの肩というか背中というかがグッと盛り上がり、まるで闘牛のように前のめりに身構えているような姿勢を取り、ゴツゴツした感じでたくましいオニヤンマの体型・・たとえるなら大排気量のアメ車・・の方がより魅力的に思えたのですが、みなさんはいかがでしょうか?

少年ハンターを刺激する

さて、オニヤンマもギンヤンマも魅力的な昆虫ですし、動きが早く捕獲の難易度はどちらもとても高いといえます。

だからこそ征服欲を刺激され、それを捕まえたい、飼いたいという思いを少年昆虫ハンターたちの胸にいだかせるのです。

何度も失敗を重ねながら、いろいろと工夫し、知恵を絞っては、追いこんでいく方法を考えて、何とか捕獲しようと試みるわけです。

ちなみに産卵後のメスは一気に弱ってしまうようで、河原の石などに止まったままほとんど動きませんので、ハンティングとしての価値はありません。

しかし、手に乗せたり肩に止まらせたりすることは可能なので、触れ合うことについては十分楽しめます。

トンボを飼うことは至難の業!

しかしそういった努力の結果、実際に捕えてみると、今度はオニヤンマを始めトンボ類を飼うことは、さらに難しいということに気付くのです。

トンボ類はカマキリ同様、生きた昆虫しか食べませんので、エサやりは不可能に近いと言えます。ムシカゴに入れておいたら、せいぜい1~2日しか生きられないでしょう。

狭苦しいゲージの中に入れてしまうと、満足に飛ぶこともできず、時速70キロだ100キロだといったところで、本来のスペックを発揮しようもありません。

トンボは大空を飛びまわるのが似合う!

ゲージの壁にバタバタと翅を打ちつけ、それでも大空を飛ぶことを諦めないその姿を見ているうちに、なんとも切なく、かわいそうな気持ちになってしまいました。

ですから私はオニヤンマ、ギンヤンマなどを捕えると、仲の良い友人に捕えた証拠としてその実物を見せると、すぐに放してやるようにしていました。

オニヤンマもギンヤンマも、グングンとスピードをあげて飛びまわってこそ、その魅力を発揮するものだと、気付いたのです。

少年の征服欲やヒロイズムは、その猛烈に速く飛び回る昆虫を自分の力で捕えたことだけで、十分満足できたのです。

昆虫のスピードって!?

さて実際にオニヤンマは時速70キロ、ギンヤンマは時速100キロものスピードが出せるのでしょうか?そしてそれをどうやって計測したのでしょうか?

伝書バトがおこなう公式レースなどでは、距離も時間も正確に測定できますので、きちっとした数字を出すことは可能です。

しかし野生生物を、自然のままの状態で、その動きを捉えて正確に計測することが可能なのでしょうか。

おそらく、スピードガンのような機器を使用したのか、あるいは目測などによる推定ということになるのかもしれません。

人類の最高速度は!?

ウサイン・ボルトの100メートル走9秒58の世界記録から、人類が出し得る最高速度は時速約37.58キロということになります。

ただしこれはほんの一瞬の、最高の条件の下で叩きだしたスピード記録です。野生生物のような自然の状態とはいえません。

長距離の巡航速度ということになると、ハーフマラソンでは58分23秒が最高記録ですので時速約21.68キロ、フルマラソンなら2時間02分57秒が最高記録ですから時速約20.59キロということになります。

こちらなら渡り鳥が休むことなく海を越えていく巡航速度と十分比較対象になります。

野生動物のスピードは?

チーターは時速120キロで走るなどといわれていますが、動物の出すスピードは記録に挑戦しているわけではありません。

あくまで獲物を捕えたり、敵から逃げ切るために一瞬間だけ全力を出すということがほとんどです。

ヨーイ、ドンで同時にスタートするわけではありませんから、不意を突かれたり、スタートが遅れてしまえば、たとえ潜在能力が上回っていようとも、命を賭けた競争に負けてしまいます。

どちらが速いかということにあまりこだわらず、参考記録程度で考えた方がよいのではないかと思います。

日本はトンボの国!

オニヤンマは蜻蛉(せいれい)目=トンボ目オニヤンマ科に属する日本最大のトンボです。

トンボとは、諸説あり「飛ぶ羽」「飛ぶ棒」「飛ぶ穂」などから派生した言葉のようですが、古くは、秋津(あきつ、またはあきづ)と呼んでいたようです。

「日本書紀」にもその記載があります。神武天皇は国見をして日本列島はトンボが交尾をしているような形をしていると言われ、本州を「大日本豊秋津州(おおやまととよあきつしま)」と呼んだというのです。

「トンボ」の交尾方法が面白い!

また「古事記」にも日本を「大倭豊秋津島」と表し、「倭の国を蜻蛉島(あきつしま)と呼んだ」という記載があります。

トンボは勝ちムシ!

トンボは前にしか飛ぶことがないので、「勝ちムシ」と呼ばれ、縁起の良いムシとしてとても尊ばれていたのです。

敵を前にしても不退転の決意で戦に臨むように武士たちはそれにあやかりました。

そのためヨロイカブトや刀などの武具にトンボのモチーフを入れた装飾を施したり、その柄を用いたりすることがよく見られました。

そのほか紀元前2世紀頃に作られたとされる銅鐸にもトンボの絵が刻まれていました。

昔から日本人とはとてもなじみのある昆虫でもあったのです。

ただし西洋では「ドラゴンフライ(龍のようなハエ)」と呼ばれて忌み嫌う傾向があり、ネガティブなイメージがあるようです。

トンボなのかカゲロウなのか・・

現在、トンボを漢字では蜻蛉と書き表しています。

昔の文献にもこの蜻蛉という言葉がよく登場しますが、一概にトンボだけを指すのではないようです。

もっとも有名なものは、平安時代中期に藤原道綱母によって書かれた蜻蛉日記(かげろうと読む)です。

蜻蛉日記では、その書名の由来として命のはかなさを掲げていますので、このことから蜻蛉とはトンボのことではなく、カゲロウ(蜉蝣)=カゲロウ目に属する昆虫のことを指しているようです。

カゲロウの仲間は、短いものでは成虫になって数時間ほどの寿命しかありません。

トンボとカゲロウでは、その姿かたちや生態は、誰が見てもはっきりと異なりますので、どうやら文字あるいは呼び方として、蜻蛉(トンボ)と蜉蝣(カゲロウ)が混同されてきたようです。

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トンボはゴキブリよりも古い!

そもそもトンボは、このカゲロウ(蜉蝣)とともにその翅の特徴から古代昆虫からの生き残りだといわれています。原始的な昆虫は翅が出しっぱなしで、しまうことができません。

トンボが登場するのはおよそ3億2千万年前の古生代石炭紀であり、ゴキブリ(2億8千万年前)よりも、恐竜(1億6千万年前)よりも古くから存在しているのです。

当時はメガネウラ(通称ゴキブリトンボ)という翅を拡げると70センチ以上にもなる大型の種も存在して、その化石も残されています。

ただしすべてのトンボ類が大型であったわけではないようです。

発掘された化石からみると、ごく一部を除き、現存する種と変わらない大きさのものがほとんどだったと考えられています。

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トンボ目は3つに分類される

世界におよそ5千種、日本だけでも200種いるといわれるトンボ目の種は、翅の型と休憩時など止まった時の翅の状態でさらに三つの亜目に分けています。

均翅亜目(イトトンボ亜目)は、前後の翅がほぼ同じ大きさで、休むときには翅を閉じている、イトトンボなどの種が属しています。

不均翅目(トンボ亜目)は、いわゆる一般にトンボといわれる種が属しており、前翅に比べて後翅が大きく、休むときには翅を拡げたままです。

均翅不均翅亜目(ムカシトンボ亜目)は、両者の中間の性質を取り、休むときには翅を閉じます。1科1属2種のみ存在しています。

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オニヤンマはヤンマの仲間ではない!

ヤンマとは、本来ヤンマ科に属するギンヤンマなどの種を指します。

他のトンボ類に比べ大型で腹部が長いのが特徴です。

オニヤンマやウチワヤンマは、形態がヤンマ科のトンボに似ているので一応ヤンマと名乗っているのですが、それぞれヤンマ科とは別のオニヤンマ科、サナエトンボ科に属していますので、正確にはヤンマ類ではありません。

ヤンマじゃないのにヤンマと呼ばれる「コオニヤンマ」

オニヤンマの特徴!

オニヤンマは、オスよりメスの方が大きくなります。

トンボの大きさでよく使う腹長はオスで7センチ、メスで8センチほどにもなります。頭から尾の先端までの体長は10〜11センチほどになります。

特にメスには尾部に産卵管(弁)が突き出しているので見分けがつきやすいと言えます。

翅の長さ(身体からみると横幅ですね)は、大きな方の後翅で55〜65ミリほどになりますので、翅を広げた横幅は11~13センチにもなります。

左右にある大きな鮮やか緑色の複眼は頭部正中でわずかに接します。ヤンマ類は左右が完全に接触しているので、この点が大きく異なります。

北は北海道から、南は八重山諸島まで日本列島に広く分布しています。

ただし地域によって大きさや体色・模様に差があります。北海道や伊豆諸島などでは8センチほどの小型の個体が主流であり、奄美大島では、オスの複眼が青緑色を呈し、またオス・メスともに腹部がオレンジ色を帯びています。

オニヤンマの翅のすごさ!

4枚の翅は薄く、オニヤンマは後翅の方がやや大きくなっています。翅を横から見ると折れ曲がって凹凸がありますが、実はこの構造が空気の渦を作り、空気抵抗を減らしてより速く飛ぶヒミツでもあるのです。

薄い翅は破れやすいのですが、1枚消失しても、また一部が欠損しても飛ぶことは可能です。このことは、私自身がよくアキアカネで実験をしていました(笑)

トンボの脚は毛だらけ!

トンボ類の脚は細く、主に獲物の確保に使われます。脚には太い毛が密生しており、6本の脚をカゴ状に丸めて獲物を捕らえるので、つかまったらまず逃げられません。

この細い脚は、何かにつかまってぶら下がることは可能ですが、歩くことには適していません。したがってトンボはわずかな距離でも歩くことなくスっと飛び立って移動します。

オニヤンマは益虫!

オニヤンマに限らず、トンボ類は肉食性で、ガ、ハエ、ハチ、蚊などの昆虫類を空中で補食します。

これらはヒトにとって害虫であるので、トンボ類はそうした害虫を退治する益虫として考えられています。

大型のヤンマ類になるとさらに大きなセミやバッタ類なども補食の対象になります。

これらの大型の昆虫にかぶりつくオニヤンマの姿もまた、獰猛で精悍な感じがして思わず見とれてしまいます。

オニヤンマの天敵!

天敵としては、鳥類やコウモリが挙げられます。

スズメバチやシオヤアブについては、補食の対象であるとともに、被補食されることもありますので油断できない相手でもあります。

また大アゴの力はとても強いので、オニヤンマを捕まえたときに、頭部をヘタに触ってしまうと、ガブリと咬まれて出血することがあります。毒はありませんが、注意が必要です。

オニヤンマの好きな場所!

オニヤンマの成虫は、水のきれいな川の周囲や林のはずれの比較的涼しい場所を好んで生息しています。

ヤンマ科の種は湖や池などのあまり流れのない水辺を好みますので、これらの種とは生活環境が異なります。

オニヤンマは、きれいな水がある環境なら山間部から郊外の都市部まで、かなり広い範囲で見かけることができます。

オニヤンマのテリトリー

オニヤンマの成虫は夏に羽化すると、成熟に伴い流水域へと移動をしていきます。

オスは繁殖期になると、主に川の流れに沿った特定の区域を自分のテリトリーに定め、終日その区域を何度も往復して見回りをするように活動します。

そして、テリトリーの端まで来るとそこでUターンをして、また戻っていくのです。このことから目的地に着くとすぐに戻ることを『とんぼ返り』と言うようになりました。

この往復活動を巡回とかパトロールと称することがあります。これは主に自分のテリトリーに入ってくるメスを見つける為でもあるのです。

自分のテリトリーをパトロール!

こういったパトロール活動では、オニヤンマは、ほぼ一定のゆっくりした速度で飛行しています。

平常時の巡航速度は秒速2メートル(時速7.2キロ)ほどで、このとき水面から20センチ程度の高さを飛んでいます。

気温が高いときにはそのスピードは遅めで、気温が低いときには多少速めに飛び、体温調節とエネルギー消費のバランスを取りながら活動しています。

ホバリング(空中停止飛行)をして、空中の一点でかなり長い時間静止し続けることも可能です。そしてその状態から一気に加速して、一瞬で最高速まで到達することも可能なのです

空中で捕食!

オニヤンマの最高速度は、時速70キロといわれ、これは宿敵スズメバチの時速40キロを大きく上回ります。

飛んでいる獲物である昆虫を見つけると猛スピードで追いかけていき、一気に捕えます。

そして空中で飛行を続けながらそのままガブリとかぶりつきます。

大型の獲物であると、さすがに着地して食べるようですが、大アゴの力が強いので、自分の体重分の獲物も30分ほどで完食してしまいます。

大食いで早食いなのです。

オニヤンマは昼行性ですので、昼間はほとんど休みなく飛び続けています。

夜間や休憩時には他のヤンマ類と同様に、脚を草木にかけてぶらさがるようにします。

このとき翅は広げたままで、すぐに飛び立てるような体勢を取っています。

オニヤンマの性質~回転するものに反応する!

オニヤンマのオスはナワバリ意識が強いとされてきましたが、最近の研究では、オスは羽ばたくものをすべてメスだと認識して近寄る傾向があるようです。

回転しているもの(扇風機など)やキラキラ光るものに特に強く反応することが判ってきました。

この性質を利用した回転円盤を利用した実験では、特に緑色に強い反応を示し、また大きい円板により強く反応したことから、オニヤンマのオスは大きな活発なメスを求める傾向が強いことが判ってきました。

トンボの捕まえ方!

トンボ類を素手などで捕まえるときに、トンボの目の前に人差し指を立ててグルグル回すというちょっと原始的な方法があります。

これでトンボが目を回すので捕まえやすいなどといわれていますが、実はこれは理に適った捕獲法なのです。

オスのトンボは、回転するものをメスだと認識してしまいますので、それを待ち構えたり、向かっていくという習性を利用しているのです。

止まっているトンボはこうすることで意外と簡単に捕獲することができてしまうのです。

ただし、この方法はオスには有効ですが、メスにはまったく効果がありません。

メスは動くものが近付けばかえって警戒してしまい、すぐに逃げてしまいます。

二つの眼、三つの眼!

昆虫には単眼と複眼という2種類の眼があります。

オニヤンマでは複眼が発達してとても目立ちますが、左右の大きな複眼の間・・ヒトで言う鼻に相当する位置に3つの小さな単眼があります。

単眼を持つ種の多くでは、背単眼といわれる独立した三個の単眼を持ちます。

これは頭部にある正三角形に近い3つの眼のことです。

主に光の感知に使われており、画像を見るのではなく、明暗を見分けるのが役割です。

ピントの調節等が不要なのでその情報は瞬時に脳に伝達されます。

伝達時間は複眼の3分の1しか掛からないといわれています。

単眼は空間識のために重要!

単眼が三つあるのは空間識をつかさどるためです。

二つの眼では左右または上下を見分けることができますが、より立体的に捉えるためには、三方からの情報が必要になります。

飛行機の操縦士がアクロバット飛行などをしたとき、上下左右が認識できなくなり墜落してしまうことがあるのは、ヒトの目が2つしかなく、空間識を失調してしまうからだといわれています。

単眼が三つあることで、昼間なら太陽、夜なら月や星と自身の位置を認識して飛行時の空間識を把握することができるのです。

またセミでは外の明るさを認識することでオスが鳴く時間帯を調節しているようです。

また側単眼と呼ばれるものは、おもに昆虫の幼虫の頭部側面にある単純な視覚器官で、色や物の形態をある程度感じることができるといわれています。

270度もの広い視野!

これに対して複眼は、孤立した多数の個眼が集合してできています。六角形や円形の個眼がびっしりと隙間なく並んでいます。

個眼には像を結ぶ網膜はなく、色を識別する視細胞だけがあります。

したがって複数集まることで情報を統括し、複眼全体で像を認識していると考えられていますので、視力や解像度はかなり低いといえます。

複眼の利点は視野の広さです。

トンボの大きな複眼では、その視野が270度にも達します。

したがって少し頭をずらすだけでほぼ全周が見渡せてしまうのです。

また複眼では時間の分解能がとても高く、ヒトの眼では1秒間に60回が限界だといわれる光の点滅も150回ほど見分けられるといわれています。

高速連写が可能な超精密なカメラのような目というわけです。

2万個の眼が見つめるのは・・

トンボの複眼はおよそ2万個の個眼が集合しています。

したがって物の動きを見極める動体視力は抜群によいと言えるのですが、視力自体は低く、回転する物体が何かを見分けることができないのです。

ヒトの眼は赤、青、緑の三原色を強く感じ取りますが、トンボの複眼では紫外線と青緑を特に強く感じ取るようです。

その一方、赤色の認識は弱いといわれています。

リング状の交尾!

オニヤンマのオスはメスを見つけると追いかけていき、捕まえて交尾をします。

このとき背中から近づき、まず首を確保して腹部の先端で押さえ込みます。

覚悟したメスは腹部を折り曲げてオスの腹部前端(胸)に回すので、二匹のオニヤンマはリング状になってつながります。

この状態ではさすがに飛び続けることは難しいようで、枝などに止まっている姿を良く見かけます。

一見すると、オスとメスがお互いの尾を咬み合っているようにも見えるのです。

けっして咬み合っているわけではありませんが、「交尾」というより「咬尾」といった感じに思えてしまいます(笑)

交尾したまま産卵する種もいますが、オニヤンマでは、交尾を終えたメスは、すぐにオスから離れて単独で産卵場所を探します。

メスは幼虫が活動しやすい小川や水たまりなどの流れの穏やかな場所を見つけ、そこに産卵します。

比較的浅い泥地や砂地の中に産卵管(弁)を突っ込んで、一瞬のうちにおこなわれます。

オニヤンマの幼虫も獰猛!

卵は一月ほどで孵化し、幼虫=ヤゴになります。

孵化したてのヤゴは半透明で翅はなく、腹部も短い体型をしています。

オニヤンマのヤゴはヤンマ類のヤゴと異なり、くびれがなく、脚が太く、ずんぐりむっくりとした体型で全身に細かい毛が生えています。

ヤゴは水底の土中に潜み、獲物を待ち伏せて捕獲します。

齢によりますが、最初はミジンコやボウフラなど小さなムシを食べ、齢を重ねるとオタマジャクシや小魚などの自分よりも大型のものまで選り好みなく補食します。

オニヤンマのヤゴは非常に食欲旺盛で、近付くものはほとんどなんでも食べてしまいます。

また、成虫同様にナワバリ意識が強いので、他種のヤゴはもちろん同種のヤゴと共存することはなく、共食いを繰り返します。

オニヤンマのヤゴってやっぱりでかいの?

幼虫期間はセミ並みの5年!

オニヤンマの幼虫期間は5年といわれ、越冬しながら成長し、10回ほど脱皮します。

トンボ類はさなぎの時期のない不完全変態の昆虫ですので、終齢幼虫は5センチほどの大きさにまで成長して羽化の時期を待ちます。

夏の夜に、幼虫は羽化するために水中を出ます。木の枝や岩などにしっかりと脚を固定すると羽化が始まります。

オニヤンマの羽化!

セミなどと同様に背中が破れて中から成虫が顔を出します。

そのままのけぞるように頭を下にして体重をかけて、逆さのまま長い尾部をゆっくりと抜いていきます。

そして限界まで下がると今度は起き上がるように向きを変えながら尾を完全に抜き出し、その後は翅を伸ばして乾かします。明け方までに翅が伸びて身体が固まり羽化は完了というわけです。

成虫の寿命はおよそ1〜2ヶ月ほどです。その間にオニヤンマは自由に大空を飛びまわりながら成熟していき、テリトリーを確保して、メスを求めて生殖活動を行うのです。

オニヤンマの名の付く会社!?

前述したように、トンボは日本人に親しみがある昆虫であり、それをモチーフにした意匠や装飾も大変多く存在します。また「勝ち虫」にあやかることもよくあります。

ちなみにトラクターなどで有名な「ヤンマー」という会社も、その社名の由来はオニヤンマから取られたそうです。

当初は豊作のシンボルとして「トンボ」そのものを考えていたそうですが、すでに商標権が他社に取られていたので、最大のトンボであるオニヤンマを選んだとのことです。

(ライター:オニヤンマ)

恐るべし危険な「毒虫」30選!