ブヨと聞くと、私にはとても不快な思い出があるので、どうしても苦々しい顔になってしまいます。
かつて、私はブヨにふくらはぎを咬まれたことがあります。
そりゃあ、かゆかったの、痛かったの、大変な思いをしました。
ブヨに刺されると猛烈な痒みに襲われる!
だいぶ昔の話になりますが、仲間たちと河原でバーベキューをしているときでした。
ふくらはぎにチクっとした痛みを感じたように記憶していますが、そのときはあまり気にならなかったので、おそらく蚊だろうとそのまま放っておいたのです。
「ああ、ブヨに刺された!」
しかし、しばらくするとふくらはぎに猛烈なかゆみと熱を帯びた感覚がありました。
傷口を見てみると中心部に赤い出血痕があり、その周囲が腫れあがっており、大きさも500円玉ほどになっていました。
これは蚊じゃない、ブヨだ!と直感し、慌てて傷口をつまんで毒出しをして、薬を塗りました。しかし時すでに遅し・・でした。
傷口はさらに大きく腫れていきました。
痛さもかゆさも極限!
その帰り道、かゆみもかなり強かったのですが、掻いたらもっとひどくなることを知っていましたので、かゆみ止めを塗りまくって、じっと我慢をしていました。
しかしそのことより気になるのは、ふくらはぎ自体がパンパンに膨れてきたことです。
直径はテニスボールほどもあろうかという大きさになっていました。
これほど腫れてしまうと、そこを触ることはおろか、足を少し動かしただけでも痛みを感じてしまいます。
ふくらはぎなので、なおさら動かさないわけにいかないのですが・・
それからの数日間は地獄の日々でした。
かゆくてたまらないわ、痛くて歩くのも辛いし、満足に動くことができませんでした。
当然日常生活・・特に仕事にも大きく支障をきたしてしまったので、散々な目に遭いました。
ブヨ憎し!です。
ブヨの外見的特徴と生態
ブヨは双翅目(ハエ目)、カ亜科のブユ科に属する昆虫で、日本では50~60種類が知られています。
アシマダラブユが「日本代表」的な種になります。
ブユ(蚋)というのが正式な名称で、関西ではブトとも呼ばれています。
ここではなじみのよい「ブヨ」にさせてください。
ブヨはハエや蚊の仲間(双翅目)であり、見た目はコバエという感じで小さめのハエによく似ていますが、行動は吸血動物ですので蚊に近いといえます。
でも、ちょっと違います。
産卵期になると人を刺す!
ブヨは蚊と同様にメスだけがヒトに限らず、おもに哺乳類から吸血します。
通常はオスもメスも花の蜜や果汁などを摂取していますが、産卵を控えたメスだけはどうしてもタンパク質が不足するために他の動物の血液からそれを補給するというわけです。
この点は蚊と同じです。
ブヨと蚊の決定的な違いが、その吸血方法にあります。
蚊は口吻(こうふん)と呼ばれる管状のくちばしのようなものを相手の毛細血管に差し込んで直接吸血するのに対し、ブヨはそのアゴで皮膚に咬みついて食い破り、出血させておいて血を吸うのです。
ですから、蚊よりもかなりワイルドなヤツなんです。
ブヨに刺されると猛烈に痒くなるのはなぜ?
蚊は細い針を刺し、刺すと同時に麻酔成分の入った唾液を注入します。
ブヨは皮膚を咬み切りますので、かなり痛いはずなのですが、実は事前に麻酔成分を塗りつけてから咬むので、傷の大きさの割にほとんど痛みを感じることはありません。
その一連の吸血行動をたとえるなら、蚊はそっと血を盗み取るスリのような存在で、あとから気付いて、やられた~!と叫ぶ程度で済むのですが、ブヨは強盗か空き巣のように気付かれないのを幸いに散々他人の部屋(身体)の中を荒らしまわり、最後に放火していくような凶悪な犯罪者といった感じです。
どちらも被害(吸血量)そのものはたいしたことありませんが、ブヨに刺されると半端ないほど腫れあがり、猛烈なかゆさと痛みを引き起こしますので、吸血後に受ける身体的な苦痛は、蚊の比ではないのです。
蚊はマラリアをはじめとした伝染病を媒介しますが、国内に限れば、ほとんどそういった危険はありません。
唾液に入っている抗凝固物質のはたらき
蚊にしろ、ブヨにしろ、あるいはヒルなどにしても、吸血動物はその唾液中に、血液に対する抗凝固物質を含んでいます。
傷口などから血管外に出た血液は、血漿(血液中の液体成分)の中にある線維素(フィブリン)の働きにより、血球が閉じ込められた形で凝固します。
この現象は15種ほどある凝固因子と呼ばれるものが関与した複雑な過程で起こります
吸血動物が血管を破壊または穿刺して吸血すると、血管外に出た血液は凝固を始めますので、血液は個体へと変化してしまいます。
これを防ぐために、吸血動物の唾液中には凝固を阻止する抗凝固物質が含まれています。
ヒルの唾液腺からはヒルジンと呼ばれる抗凝固物質が分泌されています。
吸血中のヒルを引き剥がしてしまうと、その傷口からの出血がなかなか止まりません。
これは、このヒルジンが傷口周囲に浸透しまっているからなのです。
ブヨの唾液には酵素毒が入っている!
なぜ刺されたあとの症状が、ブヨと蚊でこれほど違うのかといえば、まず第一にブヨの唾液にはムカデやスズメバチなどのような酵素毒が含まれているということが挙げられます。
たとえ少量であっても、この毒素によって傷口は腫れあがってしまうのです。
そして第二に、ブヨは皮膚を食い破り、組織を破壊して出血させますので、ヒトの肉眼でもわかるほど大きく深い咬み傷が残ります。
ここから毒素が体の奥に浸透していってしまうのです。
痛みとかゆみはアレルギー反応
咬まれた(刺された)あとの痛みやかゆみは、このとき注入された唾液に対するアレルギー反応と毒素の浸透によって起こります。
ブヨの毒素は遅延型のアレルギーを引き起こすので、咬まれた直後はそれほど強く反応しません。
数時間から2~3日後に強い反応が出てくるのです。
強いかゆみによって傷口を引っ掻いてしまうと毒素が拡がってしまい、傷口の周囲ばかりでなく、リンパ節などにも腫れが拡大してしまうことがあります。
また傷口が拡がることで、その他のバイ菌も入りやすくなってしまいます。
ブヨはどこにいる?
困ったことに、ブヨは集団になって襲来することが多いのです。
多数のブヨに同時に何箇所も咬まれると、頭痛や発熱などの身体症状が現れたり、呼吸困難に陥ることもあります。
最悪の場合、アナフィラキシーショックを起こすなどして、生命の危機に発展する場合もあるのです。
ブヨに咬まれることは、「ブヨ刺症」または「ブヨ刺咬症」というれっきとした医学的な病名が付けられている
ほどなのです。
ですから複数個所咬まれた場合には、すぐに病院へ行って手当てを受けてください!
ブヨは水場から離れられない!
交尾を終えたメスは、水辺や流れの穏やかな水中などに十数個から数十個の卵を塊として産みつけます。
孵化した卵は幼虫となり、水辺や水中で活動を始めます。
やがて水中で蛹になり、1週間ほどで羽化します。卵から羽化までの生活環は蚊よりも長く、およそ1~2ヶ月程度です。
ブヨの幼虫は特に澄んだ水を好み、汚れた水の中では生きられません。
水質の指標昆虫に指定されるほどですので、ブヨ(特に幼虫)がいる場所は、それだけ清冽な環境であるといえるのです。
ブヨの成虫も行動範囲が狭いので、こういった良好な環境にある水辺から離れて活動することができません。
大都市や工業地帯などでは生育することができませんので、都市部の住宅地でブヨに咬まれるということはまずありません。
河原のキャンプ場が要注意!!
ブヨはこれからの時期、特に6~9月ごろにかけて盛んに活動をします。
真夏は暑さを避けて朝夕の比較的涼しい時間帯に活発になります。
吸血鬼のイメージと同様、実はブヨは太陽が苦手です。
湿度の高い水辺の藪や草木の生い茂った、日中でも薄暗い場所を好みますので、陽が射す明るい場所に現れることはほとんどありません。
夜行性ではありませんので曇りや雨の日ならば、日中ずっと活動しています。
ですから特に夏休みの河原のキャンプ場などで被害に遭うことが多いのです。
こういった場所に、肌を露出した状態で近付かないことが肝心なのですが・・特に子どもたちにそのような注意を伝えても、なかなか難しいですよね。
ブヨを近づけないようにすること!
ブヨは音もなく忍び寄ってきますので、その接近に気付くことはほとんどありません。
ですから被害を食い止めるためには、とにかくブヨに近づかれないようにするに越したことはありません。
一般の虫よけスプレーは、ほとんどが蚊への対策のために作られています。
ブヨに対してはあまり効果が期待できません。
キャンプなどに行く場合には、むしろブヨ専用のものを使うか、あるいはハッカを嫌う性質があるので、そういったものも効果があります。
ブヨは明るい色が苦手!
ブヨは蚊と同様に、温度や湿度、二酸化炭素、汗から分泌される乳酸などに反応してヒトに近付いてきます。
ブヨが生息していそうな場所に出かける時には、長そで長ズボンなどでなるべく肌の露出を避け、汗をこまめに拭くなどしてニオイを消し、なるべくその存在を気付かれないようにする方が賢明です。
またブヨは太陽が直射するような明るい場所や明るい色が苦手だといわれています。
ですから、赤や黄色などの明るい色の服装をして活動することも予防につながります。
ブヨに刺された時の対処・治療方法
ブヨに刺された場合、痛みを感じることもありますが、気付かない場合のほうが多いといえます。
ただし症状が出る前に初期対応をしっかりすることが、被害を最小限に食い止めるために大変重要なのです。
蚊と違って刺された(咬まれた)場所が出血していますので、ブヨに咬まれたと気付いたら、すぐに毒(唾液)を吸い出すことが肝心です。
傷口の周囲を、指でつまんだり爪などを使って毒素を押し出しても良いのですが、『ポイズンリムーバー』という注射器のようなスポイトがより効果的です。
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熱めのお湯などで傷口を温める!
ブヨに咬まれた場合は、その傷口を温めることで痛みやかゆみを軽減すること可能です。
ブヨの唾液に含まれる酵素は43度以上の熱で変性しますので、傷口に熱々の蒸しタオルを乗せたり、43度以上の熱めのお湯をシャワーなどでかけて温めることで、浸透した毒素を変性させ、中和することができます。
ただし中途半端に温めるだけではかえって血行を良くしてしまい、毒素の浸透が拡大してかゆみが増してしまいます。
43度以上=熱めのお風呂と覚えておいてください。
温度調節が可能なお湯を用意できない場合は、使い捨てカイロなどが代用できます。でも夏場はなかなか用意していませんよね・・・。
絶対に掻いてはいけない!!
通常でもブヨに咬まれた傷の治りは悪く、1~2週間から体質によっては一ヶ月以上かかる場合もあります。
かゆみが強いので傷口を掻き潰したりしてしまうと腫れの範囲が拡大してしまい、更に治りが悪くなり、治癒に数年かかることもめずらしくありません。
ですからどんなにかゆくても、絶対に傷に触らず掻かないようにする必要があるのです。
特に子どもの場合、無意識で掻いてしまいますので、かゆみ止めを塗った上で大きめの絆創膏や包帯で覆ってしまうというのも有効です。
かゆみ止めを塗って掻かないように!
ブヨの毒素に対しては、ステロイド系のかゆみ止めが効果的です。
ステロイド剤は、かゆみに対してとても効果的です。ただし強い副作用を示す場合もありますので、使用の際には注意が必要です。
ブヨの場合には治りが悪いので繰り返し皮膚に直接塗布することになります。
こういった場合、皮膚線条(妊娠線などの皮膚の割れ目)などのダメージを与える可能性があるのです。
(投稿者:オニヤンマ)