田舎道、田んぼの畔(くろ)と呼ばれるあぜ道を歩き、ふと田んぼの水を覗いてみると、泳ぎ回っているおたまじゃくしとたくさんのタニシの姿。
昔はこのような風景がどこにでも見られたのですが、今では農薬などの使用のためか、田んぼの中の生き物もほとんど姿を見かけなくなりました。
タニシという言葉には郷愁さえおぼえるほどですが、どんな生き物か注目してみましょう。
タニシって見たことある?
タニシとは、タニシ科の淡水産巻貝の総称で、南米と南極大陸を除く各大陸の淡水に生息している巻貝です。
貝は全て右巻きです。
貝の大きさは1cm~8cm程度で、5cm以下のものが多く見られます。
水田や池沼などの泥地に棲み、冬は泥中にひそんでいますが、春になり水が温かくなると、泥の上を這いまわります。オスの個体とメスの個体がいる雌雄異体で、卵は産まず稚貝をお腹で育ててから産む卵胎生です。
日本では、田んぼや沼その周辺の水路などでごく普通に見かけられる生き物のひとつでした。
タニシは食べられる?
海の巻貝であるサザエなどのように、タニシは食べられるのでしょうか。
日本では、地域にもよりますが昔から味噌汁や煮物などの食材にされてきたようです。
昔は庶民が当たり前のように食べていたようで、時代小説家、池波正太郎の作品『剣客商売』などでも、主人公が酒の肴に食べている様子がしばしば登場しています。
泥抜きし、寄生虫予防のためしっかり加熱して調理すると、ほんのり苦味のある大人の味で美味だそうです。
若い読者がタニシと聞いてもわからないだろうということを配慮してか池波先生も、作品の本文中にタニシの生態についての記述を加えているほどだとか。
近年、通称ジャンボタニシ、スクミリンゴガイという外来種が増殖し、稲やレンコンを食害するという被害が深刻化していますが、これは、養殖業者が、アルゼンチンから食用として輸入したのがきっかけで、日本での増殖が始まったということです。
日本のタニシ
「静さに堪へて水澄むたにしかな」と与謝蕪村が詠んでいますが、タニシ(田螺)は、春の季語になっており、日本人や日本の田園風景には馴染みのある生き物だと言えます。
日本に生息しているのは、マルタニシ、オオタニシ、ナガタニシ、ヒメタニシの4種です。
マルタニシ
貝の大きさは約4.5cm~6cm、日本中に生息しています。
乾燥に強く、農閑期の水田や干上がった溜池などでも泥に潜って耐えますが、極度の乾燥や水質の汚染、汚濁などには弱いので、現在では絶滅危惧種に指定されています。
オオタニシ
貝の大きさは約6.5cmと少し大型です。
乾燥して干上がることのない池や沼、湧き水がある場所を好み生息しています。
日本中に見られ大型なので食用に利用されてきました。
ナガタニシ
貝の大きさは最大7cmで、琵琶湖のみに生息しています。
貝高は最大7cmほどになり、他種よりも貝の色が緑がかったものが多く見られます。
これも大型なので食材に使用されてきました。
ヒメタニシ
貝の大きさは約3.5cm、水田、池沼、用水路など日本のタニシの中ではもっとも多様な環境に棲むことができます。
また汚染にも比較的強いので、日本でもっともよく見られるタニシと言えるでしょう。
タニシは何を食べている?
タニシは、他の生き物には見られないトリプル食性をもっています。
まず、普通の淡水貝がもっている、水底に溜まった微生物や微生物の死骸などを食べるデトリタス食、岩や壁面に生えた苔などを削いで食べる刈り取り食、タニシはその他に、エラで濾過したものを餌とする濾過摂食という食性をもっています。
タニシは水槽の掃除屋さん?!
タニシの食性をみればわかりますね。
タニシを水槽に入れておくと、水底に溜まった他の生き物の食べ残しや微生物及びその死骸などを食べます。
そして置石や壁面の苔などを削ぎ落として食べます。
さらには、水中に漂っている小さな微生物などの養分をエラでこして食べます。
このように水質浄化の効果はかなりのものなので、タニシは、優秀なクリーナー生体、つまり水槽の掃除屋さんと言っても過言ではありません。
タニシはメダカを食べるという都市伝説はホント?
今までみてきてわかりますよね。
タニシには、生きたピチピチのメダカを捕まえて食べる能力はありません。
ただ、弱って動けなくなったもの、死んで底に沈んでしまったものなどは、水槽の掃除屋さんであるタニシは食べてしまうことがあるのでしょう。
むしろ、タニシがいる水槽は水質が保たれて、メダカにとっては住みやすい環境だと言えるのです。
タニシを飼育してみよう!
水槽の水質は弱アルカリ性の硬水が理想的ですが、カルキを抜いた普通の水でもいいでしょう。
エサは、水槽内の苔や藻などなんでも食べるので特に与える必要はありませんが、飼い始めで水質がきれいなときは食べ物がない状態なので、水草を植えたり、植物性の人口飼料を与えたりするとよいでしょう。
水が完全に凍結しない地域なら屋外飼育できますが、直射日光は避け、逃げないように蓋をしておきます。
間違ってジャンボタニシなどは飼わないように!卵を産んで急増し、水草なども食い尽くされてしまします。
ペット屋さんではヒメタニシが多く流通しているとのこと。
ヒメタニシなどは稚貝の状態で産むので個体数の調整がしやすいからです。
まとめ:タニシを見かけなくなったということは、タニシが棲むのどかな自然の風景がなくなってしまったということなのでしょう。
タニシを求めて郊外にでかけてみたいと思いました。
(ライター sensyu-k)