伊勢えびは日本を代表する高級食材として、古くからたくさんの人々に親しまれてきました。
今回は、そんな伊勢えびの旬と美味しい食べ方、そして知られざる生態をみなさんにご紹介していきます。
伊勢えびの生態
伊勢えびは十脚目イセエビ科に属しています。
見た目はザリガニに良く似ていますが、ハサミを持たないという特徴があります。
平均全長はおよそ30cm、大きな個体では40cmに達します。
茨城県以南の太平洋沿岸に分布し、その名の由来にもなっている三重県の名産として広く知られています。
伊勢えびは夜行性であるため、昼間は比較的浅い海の岩礁に潜んでいますが、夜になると活発に動きまわり、貝類やウニ、稀に海藻などを捕食します。
姿が似ているためロブスターと混同されることも少なくないのですが、大きなハサミを持つロブスターは、伊勢えびよりもザリガニに近い生き物であるといえます。
また、伊勢えびの一番の天敵はタコであるといわれています。
その習性を利用し、伊勢えびの住処に長い竿の先に括り付けたタコを潜り込ませ、慌てて逃げ出した伊勢えびをタモ網で捕獲するという技ありな漁法も存在しています。
伊勢えびと人間との関わり
伊勢えびは「具足海老」や「鎌倉海老」とも呼ばれて古くから親しまれており、古くは733年に編纂された「出雲国風土記」に記述が確認されています。
伊勢えびの太くて長い触覚や鎧を思わせる頑丈な殻が「威勢の良さ」を連想させるとして、武家の間では縁起物として根強い人気を誇っていました。
現代でも高級食材として高い人気を集めている他、鏡餅の上に乗せるなど正月や祝い事の飾りつけとしても多く用いられています。
また、現代では「伊勢えび」という呼称が全国的に定着していますが、江戸時代では京阪と江戸でその呼び名は異なっていました。
伊勢えびを伊勢から輸入していた京阪では「伊勢海老」、主に鎌倉から輸入していた江戸では「鎌倉海老」と呼ばれていたのですが、漁獲量の多い伊勢が優勢になり、いつしか「鎌倉海老」という呼称は廃れてしまいました。
伊勢えびの旬の時期は?
食材としての伊勢えびの旬は、10から1月頃といわれています。
伊勢えびは5~8月にかけて産卵期を迎えますが、産卵期の間は資源を確保するために伊勢えびを獲ることは禁じられています。
地域によって多少の前後はありますが、産卵期の終わった9~10月頃に伊勢えび漁は解禁され、産卵期を迎える翌5月まで伊勢えびを獲ることが許されます。
また、伊勢えびは脱皮を繰り返すごとに大きく成長していき、体調が30cm前後まで成長するにはおよそ5年を要するとされています。
つまり、孵化してから5年前後が経過し、10~1月に捕獲された伊勢えびこそ最も食べごろであるといえます。
伊勢えびを食すときには、伊勢えびが生きてきた歳月に思いを馳せると美味しさも一入ではないでしょうか。
また、600gを超える大きさのものは一万円以上の高値で取引されることが一般的です。
旬の伊勢えびの美味しい食べ方
伊勢えびの代表的な調理法に、せいろ蒸し、鍋、味噌汁、お造り、焼きものなどがあります。
鍋や味噌汁では上質な出汁の風味を、せいろ蒸しやお造り、焼きものではぷりっとした歯ごたえと滋味に富んだ伊勢えび本来の旨みを堪能することができます。
死んでしまった伊勢えびは自己消化が進みやすいため、いずれの調理法の場合にも、活きた伊勢えびを用いるという鉄則があります。
また、伊勢えびは緻密な肉質をもつ反面、味が染みこみにくいという特徴があるため、伊勢えび本来の風味を活かした調理法が適しているとされます。
流通経路が発達した現代では、漁獲地から遠く離れた場所でも新鮮な伊勢えびを手に入れることは難しくありません。
みなさんも新鮮な伊勢えびの味に舌鼓を打ってみては如何でしょうか。
(ライター 國谷正明)