名前が気になり、何かに興味を持つことがあります。
映画の題名や本のタイトル、化粧品に付けられた名前など、ジャケ買いならぬ名前買いのようなものですね。
実際に買うかどうかは懐具合と相談の上、決めることになりますが。
風変りな名前のオトシブミという昆虫の場合はどうでしょう。
不思議な名前、オトシブミ
公にできない内容をしたためてまるめた文(ふみ)を落とす、落とし文(おとしぶみ)。
ずいぶん密やかな行為ですね。
この「落とし文」が、昆虫のオトシブミが葉で作るゆりかごに形が似ているところから名付けられたそうです。
名前の由来のように、オトシブミは奥ゆかしい虫なのでしょうか。
オトシブミってどんな虫
オトシブミは、甲虫の中でも種類がとても多いゾウムシの仲間です。
とても多いどころか、その数は日本国内だけでも約1300種、沖縄にはいないようですが、生物界において最大のグループといっても過言ではないほど世界中にほぼ満遍なく存在しており、まだ新種もいるという驚きの大家族です。
ゾウムシ科のオトシブミの姿かたち
ゾウムシとはその名のごとく、象のように頭部が発達した口吻が付いている為、その体の形を象ってゾウムシというそうです。確かに体の比率からすると、随分長い鼻です。
さて、こんなオトシブミですが生態や行動も個性的な昆虫です。
どこで見つかる?オトシブミ
オトシブミの成虫が見られるのは春から初夏です。林の横の小道などで見つかる事が多く、比較的見つけやすいかも知れません。大きさは種類により様々ですが、成虫でも1㎝に満たないような小さい虫です。
葉で作る特製ゆりかご、オトシブミの実態
成虫の雌が葉を切り出して、ゆりかごの様な筒状のものを作ります。
これが見られるのはちょうど新緑の頃です。
柔らかい葉を器用に丸め、産卵するのです。
昆虫が葉でゆりかごを作る様子を文章で説明するのは難しいのですが、長い手脚を使い葉にしがみついてゆりかごを作っているオトシブミの雌の様子は、動画などで見ることができます。
便利な時代ですね。
万が一、不器用でうまくゆりかごを作ることができない個体はどうするのだろうかといらない心配をしてしまうほど、器用な仕事です。
丸められた小さな葉が土の上に転がっていたら、中にはオトシブミの卵が入っているかも知れません。
ゆりかごは1~2㎝ほど、卵は1㎜ほどです。中の卵は、幼虫になるまで葉の栄養を摂りながら育ちます。
昆虫が好きな人だと、そのゆりかごを持ち帰って孵化させる事もあるようです。
オトシブミはだいたい1㎝程の小さな虫なので、飼うのにいいかも知れませんね。
なぜゆりかごを作るのか
それにしても、昆虫が葉を切りゆりかごを作るとは不思議です。
ゆりかごを作り終えるまで、おおよそ一時間程かかるようです。その間、天敵に襲われるような心配はないのでしょうか。
ゆりかごの目的
オトシブミの最大の天敵は、卵や幼虫に寄生するハチやハエです。
それらの脅威から大切な卵を守る為、このように葉で筒状のゆりかごを作るようになったのではないかと言われています。
葉を丸めてその中に産卵する、というのは孵化するまで幼虫を守る為だと思えばわかる気もしますが、葉の横も折りたたんでいるのを見るとその几帳面さに驚きますね。
また、作ったゆりかごを切り落とし地面に落とすという行為は、ハチなどに見つかりにくくする為ではないか、とも言われています。
切り落とす個体と、切り落とさない個体が存在するようです。
それでも、葉でゆりかごを作る間に成虫が襲われる危険もあります。
オトシブミは、何故か低木や比較的目につきやすい所に生息しているからです。
魅惑のオトシブミワールド
このようにざっと見ていくだけでも、オトシブミという小さな虫には心ひかれるポイントが幾つもあります。知れば知れほど興味がわくような不思議な魅力。
ちなみにオトシブミに似たゾウムシ科の虫に「チョッキリ」という虫もいます。
このチョッキリ、という名前も面白いですね。
北海道弁で「ぴったり」の事を「チョッキリ」と言うことがありますが、それとは無関係のようです。
(ライター おもち)