オケラの正式名称は?
オケラは・・正式には「ケラ」なのですが、長年なじんだ呼びやすい名前なので、今回はその俗称である「オケラ」で統一させていただきます。
オケラは、バッタ(直翅)目のケラ科に属する昆虫です。
日本国内ほぼ全域に分布していますが、実は国内には「ケラ」という単一種しか生息していません。
世界中にはおよそ70種が熱帯から温帯域(一部亜寒帯を含む)に生息しています。
北から南までいる同一種!
南北に長い日本列島において、北海道から南西諸島まで、同一種が存在することは、極めてまれな、珍しいことなのです。
おそらくオケラとトノサマバッタしかいないはずです。
少し想像していただきたいのですが、もし北海道と沖縄に同一種がいるのなら、ほぼ同じ食性でなければなりません。
果たしてそれが可能でしょうか?
たとえば植物食性の種であれば、その食物になる植物が亜寒帯に属する北海道と亜熱帯に属する沖縄や南西諸島とではまるっきり違うからです。
同一種であるなら、北海道のオケラを南西諸島に、あるいはその逆に沖縄のオケラを北海道に移動させ、その自然の野山に放しても十分生きられるということになります。
これは、じつにすごいことだと思いませんか?
オケラは不思議がいっぱい!
トノサマバッタには、長距離を飛翔する能力がありますので、海を渡って広く分布したり、活動することが可能だと言えます。
オケラにはそのような飛翔力もなければ、荒波を越えて泳ぎ渡る能力があるとも思えません。
まさか海底トンネルのように、地中を掘り進んでということもないでしょうが、オケラは一体どうやって分布していったのでしょうか・・本当に不思議な昆虫なのです。
しかもオケラは国内においては単独種としてわずか一種のみが存在します。
似たような姿かたちの種や同じような生態をみせる近似種さえ、まったく存在しないのです。
オケラは完成型!?
そもそもオケラ科の昆虫は、全世界に分布しているにもかかわらず、70種しかいません。
そのこと自体極めて珍しいことだといえるのです。
昆虫の分類における「科」では、カミキリムシ科だけでも2万種類を数え、オケラの属するバッタ類の直翅目全体でも1万5千種類が存在します。
ところが、オケラの仲間は一つの「科」を構成しているのにわずか70種類しかおらず、しかもその70種はほとんど見分けがつかない程よく似ているのです。
そう考えると、オケラの形態自体が、地中生活を中心に活動する昆虫の完成型であるといえるのかもしれません。
オケラは特殊な昆虫!?
最近はオケラをあまり見かけなくなりましたが、私が子どものころは、田植えの時期に田んぼの中を泳いでいたり、土を掘り返すと出てきたりしていました。
すばしこくユーモラスに動き、下半分はコオロギによく似ていますが、上半分はザリガニのような独特の形態で、特に前脚はモグラのように、シャベル状になっています。
生活の本拠は地中です。
コオロギの仲間は地中に穴を掘って巣を作って生活する種も珍しくありませんが、そういう種でも、活動は地上に出て行います。
ところがオケラはモグラ同様、ほぼ完全に地中で生活する昆虫なのです。
地中でエサを取り、地中で生殖をし、産卵も子育てもすべて地中で行います。
たまに地上に出ることもありますが、活動のほとんどが地中という特殊な昆虫なのです。
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オケラは毛だらけ!
成虫の体調は3~4センチ程度です。
体色は茶褐色を呈しており、そこに産毛のような細かい金色の毛が密生して生えています。
これは土中でも土にまみれることなく、ほとんど汚れがつかないことと、水を弾くことで、水上を楽に泳ぐことができるというメリットがあります。
触覚は短いのですが、おしりには触角のような長い毛が二本伸びています。
これは尻毛といいます。
オケラの前脚!
さて、オケラの前脚ですが、これが最大の特徴といってもよく、太く頑丈になっており、モグラの前足とよく似た形態になっています。
外向きについたツメのあるこの前脚は土を掘るのに適しており、オケラはこれを使って土を掻き分けながらトンネルを作り、地中を進むことができるのです。
その掘り進むスピードは1分間に20センチとも言われています。
オケラはモグラによく似ている!
オケラとモグラは、昆虫と哺乳類というまったく系統の違う生き物なのですが、その生活や生態は共通するところが多く、形態も類似しているところが多いのです。
【著作者:Michael David Hill, 2005】
前脚の形態もそうですが、そのほかにも全身を筒状に丸めることができること、体の表面に細かい毛が密生して汚れが付きにくいこと、トンネル内を掘り進むのに有利なように東部の先端が楕円形をしていることなどが挙げられます。
収斂進化とは?
こういった種を超えてその生活に有利なように共通の特徴を持つものを「収斂進化(しゅうれんしんか)」といい、モグラとオケラの前脚の形態の共通性は、その代表例としてよく論じられています。
ラテン語表記の学名にしろ、英語名にしろ、オケラの場合は「モグラコオロギ」という名が与えられているのです。
オケラに似ている?昆虫たち
また逆に、地中生活をする昆虫の代表例として「ケラ」の名を冠した「ケラカミキリ」という、穴を掘って地中で生活するような種も存在します。
水生昆虫であるトビケラ(毛翅目)やカワゲラ(襀翅目)は、かつてオケラ(直翅目)と同種とされていたことから名付けられましたが、後にまったく違う種であることが判明しました。
オケラは水がないと生きられない
オケラはモグラやアリなどのように地中に巣穴を掘ります。
その巣穴は、生活の本拠である数本の縦穴と地表直下にはエサを探すための横穴が多方向に走っています。
おもに田畑の近くや草地などに棲息していますが、乾燥した場所よりも、水分の多い、湿地や泥地などを好む傾向があります。
これは水分がないところでは生きられないことと、地中の掘りやすさとエサになる動植物の多さのためだと考えられています。
雑食性の大食い!
昆虫類には珍しく雑食性で、植物の根や種などを食べたり、ミミズや他の昆虫類の特に幼虫を捕食したりします。
カブトムシやセミの幼虫はオケラによく捕食されます。
地中を活発に動き回るために運動量が多く、筋肉が発達しているので、食欲は猛烈に旺盛で、代謝も活発です。
したがって飢えと乾燥には弱く、水分のないところでは生きられないのです。
オケラの探し方
オケラを探すとき、土を掘り起こして偶然見つかる場合もありますが、畑よりも田んぼの方が居る確率が高いといえます。田植えの際の代掻きで掘り起こした場合に見つけやすく、また田に水を張ると驚いて浮き上がって来て、泳ぐ姿を目撃することができます。
オケラの全身に生えている毛はよく水を弾くので、簡単に浮くことができ、かなりの速度で泳ぐことができるのです。
オケラにも翅がある!
地中に潜って生活をしていますが、成虫にはきちんと4枚の翅(前翅はかなり短く、後翅は極端に長い)がありますので、飛ぶこともできます。
夜間に街灯などに飛んでくることもありますので、むしろそういった場所のほうが、オケラを見つけやすいかもしれません。
またオスにはコオロギ同様、前翅にヤスリのようなギザギザが付いており、これを擦り合わせて鳴くこと(発音)ができます。
オケラの鳴き声~愛の歌
オケラのオスは、メスを誘うために初夏によく鳴きます。
その鳴き声は、ジ〜あるいはビ〜という連続音であることが多く、地中に掘った巣穴を使って共鳴させているので、より大きな音を発することができます。
メスもそれに反応し、わずかばかりの断続的な音を発することができます。
このオケラの鳴き声は地中から音が発せられるので、かつてはミミズの鳴き声だと思われていたそうです。
オケラの動きは自由自在
オケラの前脚は特殊な形態をしており、それが特徴でもありますが、後脚もバッタ目の種ですから、発達しており跳躍力に優れた形態をしています。
ただし、成虫は跳躍するよりもすばしこく走ることのほうが多いといえます。
また、オケラは後進(バック)もかなりのスピードで進むことができます。
これは一本道のトンネルの前方に外敵が現れた場合、身体の向きを変えてUターンすることができないような狭い場所であっても、素早く逃げなければならないことから備わった習性なのでしょう。
かなりの多芸ですが・・
こうして見ていくと、オケラは地中では土を掘って進むことができ、水上を泳ぐこともでき、地上においても、飛ぶ、跳ねる、走るなどとても活発に、自由自在に動き回ることができるのです。
したがって陸海(水)空のすべての環境で活動できる能力を身につけている、万能生物と言えるのです。
しかし逆に、この何でもできるがそれぞれが中途半端ということが、あまり良いイメージにはつながらないようです。
器用貧乏なオケラ
「オケラの七つ芸」あるいは「ケラ芸」などという言葉があります。
これは、前述したようにオケラの能力である、穴を掘る、泳ぐ、飛ぶ、走る、跳ねるなど何でもできる多芸でありながらも、それぞれが傑出したほどの能力とまではいえない、器用貧乏な状態を指します。
能力が中途半端であるなど、良い意味では使われません。
また慣用句に「オケラになる」というものがあります。
所持金がまったくない状態を言いますが、これはオケラを捕まえたときに、前脚を高く挙げバンザイ状態になることから、お手上げを意味するようになったようです。
単に無一文である状態を「オケラ」ということもあります。
オケラの親は面倒見が良い!
交尾をしたオケラのメスは、5〜7月に数十から300個程度の卵を産みます。
巣穴の奥で産卵し、周囲は草などを押し込んで泥で固めて密封してしまいます。この草は孵化した幼虫のエサになります。
卵はおよそ2週間で孵化しますが、この間成虫はほぼ付きっきりで卵の保護をします。
孵化した幼虫は翅がない以外は成虫と姿がよく似て居ます。これはバッタやコオロギ、カマキリと同様で蛹の時期を経ないので、不完全変態と呼ばれます。
幼虫はしばらく親や兄弟たちと集団生活を送ったあとにそれぞれ巣立ちをして、独立して同じような生活を始めます。
幼虫のまま越冬し、翌春に成虫となります。成虫になっても越冬することが多いので、寿命はおよそ二年ほどだといわれています。
知っているのは名前だけ!?
あるテレビ番組で、オケラについての調査が行われました。
誰もが知っている唱歌「僕らはみんな生きている」の歌詞に登場するオケラですので、その名の知名度はかなり高い(調査では9割)のですが、実物を見たことのある人は、実は日本人の31%(約3割)しかいないそうです。
環境の変化や、水田の減少などにより、オケラを見かける機会自体が減っています。世界的に見ても生息数は激減しているといわれています。
オケラを見つけたら・・
オケラを見つけ、触る機会があれば、ぜひ手のひらに包んでみてください。
意外とやわらかく、細かい毛に覆われていますので、さわり心地も良いです。
オケラの最大の特徴である大きな前脚ですが、手や指で触ってもくすぐったい程度で、切られたり、傷つけられたりすることはまずありません。
この前脚を使い、指の間などの隙間から這い出そうとしますので、くすぐったい感じがして、とても楽しく遊ぶことができます。
咬まれたりすることはありませんし、きれい好きで汚れも少なく、強いニオイもありませんので、安心して触ることができます。
オスとメスの最大の違いは、腹部のくびれです。人間と逆で、オスはほっそりとしており、特に産卵を控えたメスの腹部は、とてもふっくらとしています。
オケラの天敵!
オケラの天敵には、鳥類やカエル、モグラ、タヌキなどの小動物が挙げられます。
特にムクドリは好んでオケラを食べることが知られています。
田植えの時期には、サギなどの大型の鳥類もオケラを狙って集まってきます。
また寄生バチの仲間は、オケラの幼虫・成虫どちらにも卵を産みつけます。
カリバチなどは、オケラを毒針で刺して麻酔し、そのまま巣に持ち帰って眠らせておき、卵を産みつけます。
孵化した幼虫は、眠ったままのオケラを食べて成長します。
食用オケラ
漢方薬の材料としてはもちろん、食用としてオケラを食べる地域があります。
私は食べたことがありませんので想像でしかありませんが、天ぷらにするとスルメのような味わいがするとのことです。
みなさん、いかがでしょうか。
ただ、オケラはそれほど大繁殖したり、見かける機会の多い昆虫ではありませんので、食用にするといっても、日常的に頻繁に食べるものではないようですし、食材としてもそれほど重視されてはこなかったようです。
オケラは益虫?害虫?
オケラは地中にトンネルを掘り、土壌を撹拌することでその通気性や通水性を高めてくれますので、土質を改善してくれる益虫といえます。
ところがオケラは雑食性ですので、昆虫類などのほかに農作物の根(イネ、ムギ、トウモロコシ、トマトなど)や根菜類、芋類などを食い荒らしてしまいますので、農家にとっては農業害虫として駆除の対象になります。
オケラは地中深くに潜って越冬し、春になると地表近くに現れます。夏の暑い時期は再び地中深くに潜ってしまい、秋にまた地表近くに現れるという行動パターンを取ります。
オケラへの駆除方法として地面に薬剤を散布する場合がありますが、夏冬は地中深くに居るので、薬剤が届かず、まるっきり効果がありません。
4〜6月ころ、地表近くに現れた場合にのみ有効だと考えた方が良いようです。
特に最近では、オケラに芝の根を食い荒らされるというゴルフ場が増えているようです。
オケラは水分を好みますので、ゴルフ場で言えば、スプリンクラー近くや池の周りによく現れ、この周囲の芝の根を食い荒らしてしまうようです。
オケラの飼い方
私は子どものころにオケラを捕まえ、珍しかったので飼ってみたことが何度かあります。しかしオケラの飼育はとても難しく、あまり長生きしてくれませんでした。
土と水分は必須ですので、湿った土を用意して、霧吹きなどでこまめに水分を与えなければなりません。
また、ケース内に植物を植えるというのも良い方法です。
その植物の根をオケラが食べるのでエサにもなりますし、植物の活きを見ることで土中の水分の状態を把握することができるからです。
土はあまり掘り返さず、ゲージなどの周囲は黒い紙などで覆っておくとオケラは活発に活動してくれます。
昆虫類には珍しく雑食性を呈しますので、狭いゲージで複数匹飼うと、共食いすることもありますので要注意です。
ミズゴケがいいです!
土の代わりにミズゴケを使うのがおススメです。
ペットショップや園芸店でなどで乾燥したミズゴケが安価で売っていますので、それを水で戻してから余分な水分を絞って飼育槽に入れれば、それでオケラの住居が完成です。
エサは雑食性ですので、煮干しなどの動物性のものとニンジンやジャガイモなどの根菜類の切れ端などを与えます。
カブトムシなどの甲虫用のゼリーやドッグフードなどでも十分事足りますので、ミミズなどの生餌を与える必要はありません。
私が飼っているころはそのようなことを知りませんでしたから、ひたすらミミズばかり集めていましたが・・(笑)
植物のオケラもいます!
ちなみに日本にはオケラという植物が存在します。
キク科の多年草で、日当りの良い山野に自生しています。
根を乾かして薬用としたり、若芽を茹でて食用としたりします。
オケラの正式名称は白朮(はくじゅつ)で、その名の由来はウケラ(乎介良または宇家良)からきているので、昆虫のオケラとはまったく関係はありません。
(投稿者:オニヤンマ)