カメムシは、どうして嫌われ者なのでしょう。

みなさんがお持ちのカメムシのイメージのなかで一番多いのは、強烈な悪臭を放つことから、昆虫界の「スカンク」的な存在で、近付きたくない、近寄って来てほしくないムシだということではないでしょうか?

この臭いニオイを出すということがあまりに強烈な個性なので、それ以外の生態についてはあまり詳しく知られておらず、気にすることも無いような存在なのかもしれません。

とにかく、こっちに来るな~!という感じなのでしょう。

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カメムシの臭いの成分は強力な有害物質

カメムシの出す悪臭の主成分は、トランス―2-ヘキセナールといい、「青葉アルデヒド」の異名を持つ、木の葉や草の醸し出す青臭い成分そのものなのです。

実はまったく同じとは言えませんが、コリアンダー(パクチー)の成分もほぼ同じものですので、かなり近いニオイなのです。

そう言われてみれば、タイ料理を食べた時、パクチーの香りのあまりの強烈さにグッとくる感じは、似ているかもしれない・・と思ってしまいました(笑)

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主成分であるアルデヒドの類は、生物にとって有害物質でもあります。

ホルマリンはホルムアルデヒドの35~38%の水溶液ですし、アルコールが分解されたアセトアルデヒドは、二日酔いの原因物質でもあります。

ヒトにとっても有害であることは確かなのです。

カメムシは、外敵に襲われたり警戒態勢に入ると、胸部の腹側にある臭腺からこの悪臭を分泌します。

カメムシに近付いて悪臭を浴びたアリなどの昆虫は、マヒを起こして動けなくなり、最悪の場合は死んでしまいます。

カメムシもビンなどの密閉した容器に入れておくと自分自身の分泌する悪臭により死んでしまうこともあるのです。

 

つまりカメムシの出す悪臭は、自身をも害する可能性の高い、昆虫類にとっての強力な毒ガスということになるわけです。

lgf01a201403091500【著作者:Mstyslav Chernov】

この悪臭が周囲に拡散していくと、近くに居る他のカメムシはそれを危険信号であると感じ取り、遠くへ逃げていきます。仲間の危機は自分の危機でもあるからです。

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カメムシの臭いは警報フェロモン

フェロモンという言葉があります。

動物(おもに昆虫)が、同種の仲間とのコミュニケーションに使うために分泌する化学物質です。

ガのメスがオスを誘引するのに使われることが有名なので、交尾に絡んだ性フェロモンがよく知られていますが、その目的によって集合フェロモン、道標フェロモン、警報フェロモンなどの種類があります。

つまりカメムシの出す悪臭は、仲間にも危機を知らせる警報フェロモンとして作用しているということなのです。

gi01a201503211500【著作者: Vector Open Stock】

ちょっと話がそれますが、ナゲナワグモという面白いクモがいます。

獲物が近付くと投げ縄のように尻から垂らした糸を振り回し、捕獲しますので、そういった名がつけられました。

このナゲナワグモは、いつも特定のガのしかもオスのみを捕獲しているのです。

そのことを不思議に思った研究者が調べてみたところ、このクモの粘液からガのメスの性フェロモンと同じ化学物質が分泌されていることがわかりました。

つまりそのメスの匂いにだまされて、ガのオスたちが次々とナゲナワグモに寄って来るのです。そして自慢の投げ縄で捕まえられてしまうというわけなのです。恐ろしい知恵ですね。

アメンボやタガメもカメムシの仲間?

さて、カメムシに戻ります。

この悪臭を撒き散らすという悪行が、カメムシのイメージを悪くしているのですが、実はカメムシの仲間(カメムシ目)というのは、国内におよそ900種類も存在します。

驚くことに、その中にはセミや、アブラムシ、ヨコバイ、さらに水生昆虫であるアメンボ、タガメ、タイコウチなども含まれているのです。

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そういえばどことなく似ているかな・・と言えなくもありません。カメムシ目の昆虫は、どれもストロー状の長く尖った口を持っています。

それをエサに突き刺すという共通性があるのですが、植物食、肉食など様々です。

つまり植物食の種は、花の蜜や樹液を吸うためにその口を使いますし、肉食の種は、獲物の身体に突き刺して、その血を吸うのです。

 

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一般的にカメムシと呼ばれるのは?

一般にカメムシと言えば、ホームベースのような五角形をしたものを指します。

ただのカメムシという名がついた種は居りませんので、この一般的にカメムシと呼ばれる種も、複数のカメムシ科に属しています。

そしてその生態もまちまちなのです。

悪臭を放つということだけで、カメムシの仲間は、そのほとんどが害虫扱いにされています。

部屋に入ってきたカメムシを追い払おうとして悪臭を撒き散らされたりするばかりでなく、外に干した洗濯物を取り込もうとして包み込んでしまったり、払おうとすれば、カメムシは攻撃を受けたと判断して反撃してきます。

家の中や洗濯物についたニオイはなかなか取れず、いつまでもその残り香が続きますので、余計に憎まれてしまうのです。こういったものを不快害虫と呼んでいます。

 

農業害虫カメムシの大量発生

マルカメムシ科の種は、白い色を好みますので洗濯物に付くことが多いのですが、ときどき都市部で大発生することがあります。

この大発生というのも、カメムシが嫌われる要因です。

通常は山間部で生息している種類でも、越冬を控えた時期などに大発生をして里に下りてくることがあります。

東北地方や北海道にいるスコットカメムシはその典型で、数万匹の大群となって押し寄せるのです。

 

当然、その時の悪臭は想像を絶するものがあります。

こういった悪臭や大発生以外のことでも害虫扱いされている種がいます。

特に植物食の種では、農作物を食い荒らしてしまうので、甚大な被害を与えることがあります。

こういったものを農業害虫と呼んでいます。

特にクサギカメムシは、果実にたかってその果汁を吸いますので、果実農家に嫌われ、典型的な農業害虫にされています。

恐るべきヒトを刺すカメム サシガメ

さらに嫌われているというよりも恐れられているものに、サシガメがいます。

その名のごとく、ヒトを刺すカメムシです。このサシガメの類は肉食性です。

ストロー状の口で獲物を刺して血を吸ったり、消化液を流し込んで肉を溶かす体外消化をしたりする種もいます。

 

日本在来種はヒトから吸血することはありませんので、蚊のようにヒトを積極的に刺すわけではありません。

しかし不用意に触ろうとすると悪臭を放ち、なおかつ刺すという二重の反撃を食ってしまうのです。

カメムシは病気を媒介する衛星害虫としても?

南米に居る種などは、ヒトから吸血して、シャガース病などを媒介することが知られています。

シャガース病とは、べん毛虫トリパノソーマにより心臓や肝臓などに不調が見られる感染症です。

 

こういう感染症などを伝播するものを衛生害虫と呼びます。

サシガメに刺されると、かなり強い痛みを伴います。

これはサシガメの口の形が他のカメムシと異なり、太く短くなっているためです。

刺されるとひどく腫れる場合も多く、ヒトによってはハチよりも痛いと感じるらしいです。

強い毒を持っているわけではありませんので、アナフィラキシーショック以外では、命にかかわるようなことはありません。

身体は小さいのですが、とても危険な昆虫といえるのです。

サシガメの類は、すべて肉食で、さまざまな昆虫を食す広食性と言われるものいますが、アリだけを食べる種、ヤスデだけを食べる種など捕食対象が限られたものも多くいます。

ヨーロッパにいる種は人体に寄生する南京虫(トコジラミ)を捕食しますので、ヒトのすぐ近くにいます。

唇を刺すことが多いので『接吻虫』というしゃれた名前で呼ばれることがあります(笑)

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嫌われ者だがハナカメムシだけは益虫

これほど嫌われ放題のカメムシですが、ハナカメムシの類だけは、益虫と呼ばれています。

ハナカメムシは体長3ミリほどの小さな種です。肉食であり、実は野菜や果実などに付く農業害虫であるアザミウマやハダニなどの小さな昆虫などを捕食します。

特に温室内で大量に発生して甚大な被害を与えるアザミウマに対しては、優れた駆除効果を挙げています。

 

大量に農薬を散布する代わりに、ハナカメムシを肥料のように与えるようです。

製剤化されて、ハナカメムシを容器に入れて販売しているものもあります。天敵関係を利用したエコな農法と呼ばれ、推奨されているのです。

しかしハナカメムシの類のように益虫と呼ばれるカメムシは例外中の例外で、ほとんどのカメムシは害虫と呼ばれ、退治される宿命にあるようです。

カメムシの撃退方法は?

現在、カメムシに対しての完全な駆除法、撃退法などは有りません。

せいぜい、家の周囲の草刈りをして雑草類を処分してしまうとか、家屋への侵入を防ぐように殺虫剤を撒くといったことくらいしかないのが実情です。

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カメムシはセリ科やマメ科の植物をこのみますが、ミントなどのハーブは嫌う傾向があるので、そういったものを庭に植える場合には工夫した方が良さそうです。

カメムシは、日当たりの良い場所を好むので、南向きの壁面などに止まることが多いのです。

こういった場所にあらかじめ殺虫剤を塗布するなどして、家屋への侵入を防ぐ方法が取られています。

ふと考えてみましたが、前述したカメムシ自身のニオイをカメムシの撃退に応用できないものでしょうか?

カメムシが悪臭を放つと、同種のカメムシはそれを警報フェロモンとして受け取り、遠くへ逃げて行きます。

この習性を利用して人工的にカメムシのニオイを散布すれば、カメムシは警戒して近付いて来ないのではないでしょうか?

そんなものを撒いて、その悪臭はどうするのかって?・・フェロモンは極めて低濃度で効果を発揮しますので、もしかしたらヒトが感じ取れないレベルのニオイでもカメムシの撃退が可能かもしれません。

興味のある方はぜひとも研究してもらいたいと思います。

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カメムシは食べられる!

さて、最後にちょっと驚きの報告をしておきます。

実はアフリカや、東南アジアなどでは、カメムシを食べる、つまりカメムシ料理があるのです。

それも一部のモノ好きが食べているわけではなく、一般的な庶民料理として存在するのです。

 

カメムシに限らず、ゴキブリ、シロアリ、といった昆虫類を食べる国や地域はたくさんあります。

日本にもイナゴ、ハチの幼虫などを好んで食べる地域があります。

そういったものを食材として受け付けない方もいますが、見た目の醜悪さと食材そのものの味や含まれる栄養素とはあまり関係が無いと言えます。

カメムシを食べるということは、われわれ日本人の感覚からすれば、ゲテモノ料理という認識になってしまうことは否めませんが、現在の日本のように食材が豊富にあり、食料が有り余っているような環境ならばともかく、昆虫が数多く存在していて、それが特に毒にならないものであるなら、むしろ有用なタンパク源、ミネラル源として貴重な食材にもなり得るのです。

カメムシを口に入れる場合、やはりそのニオイがネックになることでしょう。

まず生で食べるようなことは無いはずですから、捕えたカメムシにお湯をかける、あるいは茹でるという処理をして、まずそのニオイを取り除くのがどの地域でもカメムシ料理の第一歩のようです。

そしてニオイの元である臭腺を忘れずに取り除かなければならないでしょう。

もしかしたらツウぶったグルメのような人が、そのニオイがあるからこそカメムシ料理なんだと強く主張することも想像できますが、一般人には無理だと思います(笑)

 

そうして下ごしらえをしたあとは、天日干しにしてから炒めたり、揚げたりして調理するようです。

味はバターピーナッツに似ているなどという表現もみられますが、私自身が体験していないので、想像の域を出ません。
無理におススメはしませんが、一度くらいは試してみる価値はあるのかもしれません。

(投稿者:オニヤンマ)