愛らしい姿が人気のウミウシですが、そのなかでもウデフリツノザヤ ウミウシは、ピカチュウにそっくりで多くのダイバーに愛されています。

ここでは、そんなウデフリツノザヤ ウミウシについて、くわしく紹介します。

ウデフリツノザヤ ウミウシの生態

ウデフリツノザヤ ウミウシは、フジタウミウシ科のウミウシの一種です。

 

インド洋と西太平洋、そしてメキシコ湾に分布します。おもに水深10メートル前後の砂底に棲息しています。

体のほとんどの部分はダイダイ色ですが、触角の根元や背中の突起、尾には青色のまだらがあります。

これらのまだらは黒で縁取られており、また背中の中央に見えるエラも黒くなっています。

 

ウデフリツノザヤ ウミウシの大きさは、3センチから4センチです。

広大な海のなかで3~4センチというと小さく感じられるかと思いますが、しかし、ウミウシは1センチ以下のものが多く、また水中では陸上よりも物が大きく見えるので、意外にも発見しやすいはず。ウデフリツノザヤ ウミウシは、その模様や色のせいもあって、ウミウシのなかでは比較的見やすい種と言われています。

あまり動きまわることもないので、そのことも発見や観察を容易にしています。

雌雄同体と生殖

ウデフリツノザヤ ウミウシは雌雄同体ですが、受精は単独ではできません。

異個体間で交尾することで行われます。

 

しかもウデフリツノザヤ ウミウシは、雌雄同体のなかでも、同時的雌雄同体と呼ばれる種です。

同時的雌雄同体は、一般的には、配偶時にはオス役(精子を渡す役)かメス役(精子を受け取る役)のどちらか一方の役割をこなします。

 

ですが、ウデフリツノザヤ ウミウシの場合は、配偶時にオス役とメス役を同時にこなします。

つまり、体の右側面がオスとして精子を送りながら、反対側ではメスの交接器官で精子を受け取るのです。

人間との関わり

ウデフリツノザヤ ウミウシは、その特徴的な見た目から、日本のダイバーのあいだでは「ピカチュウ」の愛称で親しまれています。

ウミウシの観察を目的としたダイビングが普及するそのキッカケにもなりました。

 

ただし。ウデフリツノザヤ ウミウシは、観察や採集は容易ですが、飼育は困難だと言われています。

というのも、ウミウシは、カイメンやヒドロ虫、コケムシ、ホヤといった群体性のベントスを食べるのですが、エサとなる種がそれぞれのウミウシで限られているからです。

 

人工餌料などの代用食は使えません。

これは、ウデフリツノザヤ ウミウシも例外ではなく、飼育をする場合は、生息地に自生する特定の藻類を入手し続けなければなりません。

事実上不可能といえるでしょう。

ウデフリツノザヤ ウミウシの飼育

また、成体の飼育に成功しても、卵を孵化させて累代飼育することはそれ以上に難しいといわれています。

ウデフリツノザヤ ウミウシは、卵から幼生のかたちで孵化しますが、流れのない水槽では多くが死滅してしまいます。

 

循環水槽では、浄化槽で「ろ過」されてしまうので、適切に水流を生じさせた容器内で、海水を交換しながら育てる必要があるのです。

さらには、表面張力で幼生の殻が水面に張りついてしまうこともあります。

 

幼生の時期にエサとなる植物プランクトンを培養し、安定して確保しなければなりません。

せっかく幼生の育成に成功しても、成体がエサとする生物の上でないと変態しません。

このこともウデフリツノザヤ ウミウシの継代飼育を困難にしています。

ウミウシと昭和天皇

ウミウシは、有毒な付着生物を食べることで体内に毒を蓄積しています。

そのため食用には適しません。それは、ウデフリツノザヤ ウミウシも同様です。

 

が。実は、昭和天皇が食してみたことがあるんです。

昭和天皇は、ウミウシを「研究のためだから」と、甘辛く煮付けて食べました。

「煮るとこんなに小さくなる」と指で輪を作って笑っていたそうです。

 

当時の侍従長・入江相政は「味が無いし、こりこりして噛み切れない。

それを三度もお召し上がりになったのだから……」と恐れ入った様子で回想しています。

ウデフリツノザヤ ウミウシのまとめ

以上、愛らしいウデフリツノザヤ ウミウシについて紹介しましたが、いかがでしたか?

個人的には想像していた以上に小さいことにもビックリしましたが、同時的雌雄同体という妖しくも艶めかしいその生態のほうに興味津々です。かわいい顔をして、なかなか色っぽい動物です。

(ライター ジュン)

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