みなさんはムシトリスミレという植物をご存知でしょうか。
ハエトリグサやウツボカズラなど、食虫植物の多くはひと目で分かる奇妙な姿をしています。
しかし、ムシトリスミレは一見して食虫植物とはわからない、ありふれた外見をしています。
今回は、そんな食虫植物らしくない食虫植物、ムシトリスミレについてご紹介していきます。
ムシトリスミレってどんな植物?
ムシトリスミレは、シソ目タヌキモ科に属します。
ムシトリスミレは漢字で「虫取菫」と表します。
字面からわかるように“虫を取る”食虫植物なのですが、スミレに似た花をつけるというだけで、じつはスミレの仲間ではありません。
ムシトリスミレは別名「ピンギキュラ」とも呼ばれます。
この呼び名は「Pinguicula vulgaris」という学名が由来となっています。
ムシトリスミレの生態
ムシトリスミレは、四国以北の日本国内に自生しています。
高山地帯に多く生息し、岩の上に生えている姿も多く見られます。
葉の表面の腺毛から粘液を分泌して獲物を捕らえ、じわじわと時間をかけて消化していきます。
ムシトリスミレは、6~8月にかけて花を咲かせます。
前述したように、スミレとよく似た青紫色の美しい花を咲かせますが、ひとつひとつ独立した花弁をもつスミレとは違い、ムシトリスミレはすべての花弁が合着しています。
葉の形状もスミレとは大きく異なりますので、容易に判別することができます。
ムシトリスミレの種類
日本国内には、ムシトリスミレの他に「コウシンソウ」というムシトリスミレ属の植物が自生しています。
コウシンソウは、名前の由来にもなっている栃木県の庚申山や群馬県の袈裟丸山などで生息が確認されています。
また、コウシンソウは絶滅危惧Ⅱ類に分類されており、庚申山における自生地は、国の特別天然記念物にも指定されています。
コウシンソウは、ムシトリスミレと比べるとひと回りほど小さく、淡い青紫色の花を咲かせるので、判別は容易です。
また、ムシトリスミレ属の植物は世界中で約80種が確認されており、代表的なものに、アシナガムシトリスミレ、ヒメアシナガムシトリスミレ、ピンギキュラ・プリムリフローラ、ピンギキュラ・アグナタなどがあります。
ムシトリスミレと人間との関わり
ムシトリスミレは、美しい花を咲かせることから、観葉植物として高い人気を誇っており、北米やメキシコを原産とした様々なムシトリスミレの仲間が、国内でも数多く流通しています。
中でも、「メキシカン・ピンギキュラ」と呼ばれる、メキシコ原産の熱帯高山性のムシトリスミレは、特に綺麗な花を咲かせるものが多いとして、根強い人気があります。
ムシトリスミレの育て方
ムシトリスミレを育てる際は、用土を常に湿らせておく必要があります。
そのため、植木鉢の下に水を溜めた受け皿を置いておき、受け皿の水は定期的に新鮮なものに取り替えるようにしてください。
用土には、水分を保つ性質のある水苔が適しています。
ムシトリスミレは半日陰を好みますので、なるべく直射日光が当たらない場所に置くと良いでしょう。
屋外に置いておけば、葉で小虫を捕らえて養分とするため、肥料を与える必要はありません。
世界中に分布するムシトリスミレの仲間は、その原産地によって育て方が少しずつ異なります。
ムシトリスミレを購入する際には必ず原産地を確認し、それぞれの性質に合った方法で育てるようにしてください。
また前述したように、コウシンソウは国の特別天然記念物に指定されています。
採取することは法で禁じられていますので、くれぐれもお気をつけください。
ちなみに、ムシトリスミレの花言葉は「欺きの香り」。
なんとも詩的で、且つ食虫植物らしさのある、素晴らしい花言葉ですね。
みなさんも一度、ムシトリスミレの放つ危険な香りに欺かれてみては如何でしょうか。
(ライター:國谷正明)