ガガンボは、『大蚊』という字をあてるように、蚊を一回り、二回り大きくしたような形態をしています。その容姿から『蚊の母』が名前の由来になったとも言われています。
ガガンボの別名はカトンボやアシナガトンボ
全国各地のあらゆる場所に分布していますので、ヒトの目に触れる機会はとても多く、別名として『カトンボ』『アシナガトンボ』など地方によって独特の呼ばれ方をすることもあります。
それだけメジャーな存在の昆虫だということですね。
その名付け方をみれば、ガガンボのイメージは、やはり蚊の大きなもの、あるいはやせ細ったトンボということになるのでしょう。
ガガンボは蚊の仲間?害虫?
ガガンボは蚊によく似た形をしていますので、分類学上では近い種類だと言えますが、その生態はずいぶんと違います。
蚊は花の蜜などを吸い、メスだけが産卵期に限って吸血しますが、ガガンボはオスもメスも花の蜜などを吸うだけで、ヒトに害を及ぼすことはありません。
ただしガガンボの幼虫は、蚊の幼虫である『ぼうふら』と姿かたちは異なり、芋虫に近い形をしていて、土中で生活しています。植物の根を食べたり、養分を吸い取ってしまうので、植物を枯らせてしまうことがあるのです。
特に農地では、イネやムギなどの根を食い荒らす害虫として知られ、駆除の対象になっています。
ガガンボの成虫は華奢で弱々しいスタイル
それにしても、幼虫は割合たくましく生きているのですが、成虫はあまりにも弱々しく貧弱な存在なので、とても不思議な感じがします。
私が小学生の頃、ガリガリに痩せた弱々しい同級生のあだ名が『カトンボ』でした(笑)
背は高くて手足が細長く、色白で病弱でした。なんと彼は小学校の六年間に5回も骨折しましたので、きっとそんなあだ名がついたのでしょう。
ガガンボを観察すると、よく言えばスマートでスタイル抜群ということになりますが、別に速く飛ぶわけでもなければ、長い脚を活かして狩りをするわけでもありません。
むしろその長い脚が細くてすぐに抜けてしまうので、何の役に立っているのかわかりません。なんだか無駄に長いだけだなあという気がするのは私だけでしょうか(笑)
また、昆虫にしてはあれだけの大きさですから、よく目立ちますので却って外敵に狙われやすいのではないでしょうか。
といっても、肉食の動物からすれば、大きさの割にそれほど身が多いわけではないので、獲物としての価値は低いのかもしれません。
ガガンボは光に集まる習性がある
夏の夜など、部屋の中にガガンボが迷い込んで来ることがよくあります。
障子やふすまにガンガンとぶつかって、大きな音を立てていることで、その存在に気付くことが多いものです。
まるで見つけてくれと言わんばかりですよね。そのくせ、逃げ足が遅いので、手で払うと簡単にへたってしまいますし、すぐに脚が抜けてしまったりします。なんて弱々しいのかと、憐憫の気持ちを抱いてしまい、なんだか哀しくなってしまいます。
ガガンボはなぜ光に集まってくるの?
さて、この光に集まってくるという性質ですが、なぜだかご存知でしょうか?
夜行性の昆虫は、家の電燈や街燈、自動販売機などに集合しますが、光が好きで、光に誘引されてやってくるのではありません。
実は昼行性の昆虫は太陽を、夜行性の昆虫は月を基準に飛行しています。太陽や月の位置を目安に、これに向かって飛ぶことにより、その高さや方向を決定しているのです。これを走光性といいます。
従って夜行性の昆虫は、どうしてもよく目立つ強い光に向かって動きますし、結果としてその光の周囲をぐるぐると周回してしまいます。これは、月にはけっして到達できませんが、電燈なら簡単に近付けてしまうからです。
そのため、電燈にぶつかったり、行き過ぎてからまた戻るということを繰り返してしまうのです。
といっても、肉食の動物からすれば、大きさの割にそれほど身が多いわけではないので、獲物としての価値は低いのかもしれません。
『飛んで火に入る夏の虫』は、そういう行動の現れです。従って夜行性の昆虫たちは、電燈の光を見つけてしまうとそれが飛行行動の基準となってしまいますので、その場から離れられなくなってしまうのです。
昆虫の視力曲線を観察してみると、ヒトの可視光線の下限近くの380nm辺りの波長に特に強く反応して集まる傾向が強いのです。これは紫色の光の波長になります。
ですからコンビニエンスストアの入り口などで見かける、ビシッビシッと不気味な音を立ててガなどの昆虫を誘い込んで撃退する『電撃殺虫器』は、おとりとして紫外線ランプなどの紫色の光を使っているのです。
ガガンボの偽物、ガガンボダマシやガガンボモドキ
さて、ガガンボは大抵の方がご存知だと思うのですが、あなたが知っているのは、あるいは見たことがあるのは、本当にガガンボでしたか?
実は、ガガンボにはニセモノが存在するのです。しかも、きちんと分類された、れっきとしたニセモノなんです。それも一種類だけじゃないんです!
ガガンボの親戚?ガガンボダマシ
一つはガガンボダマシという仲間です。ガガンボ『ダマシ』って・・どんなネーミングセンスなんでしょうか(笑)
この仲間は羽根が透明で色が付いていません。同じハエ目のガガンボダマシ科に属しており、名前はともかく、まあこれは親せきのようなものですからまだ許せますよね。
もう一つは全然別系統なので、まさしく『ニセモノ』です。
ガガンボの偽物、ガガンボモドキ
ガガンボモドキと言い、ガガンボモドキ科に属するれっきとした昆虫なのですが、こちらはシリアゲムシ目に属します。
『ホンモノ』のガガンボはハエ目ですので、系統的にはずいぶん離れたものですが、見た目はそっくりで、素人目にはほとんど区別がつかないほどです。
ガガンボモドキ科の属するシリアゲムシの仲間は、サソリのように尻尾の部分が持ち上がっています。だから『尻上げ虫』なのです。
オスはこの尻尾の部分が二股に分かれていて、ハサミになっているものもいますが、ガガンボモドキではこの尻上げが見られません。
ただ、姿形はよく似ていますが、系統的にはかなり違う種類ですので、よく観察してみるとホンモノとニセモノの違いがわかります。
一番わかりやすいのは、羽根の枚数です。ガガンボは二枚なのに対し、ガガンボモドキは四枚です。昆虫の羽根は4枚が基本ですが、ガガンボの羽根は後ろ側の二枚が退化してしまい、痕跡が残っているだけなのです。
また、ガガンボモドキは肉食で、他の小さな虫などを捕食します。付属肢と呼ばれる後脚が特殊で、これが鎌状に曲がっており、獲物を捕えるのに適しているのです。つまりガガンボモドキの長い脚は、おおいに役に立っているというわけです(笑)
それにしても、ガガンボダマシに、ガガンボモドキですよ。これだけニセモノがいるってことは、ガガンボの姿かたちは、もしかしたら昆虫の中では憧れのスターのような存在なのかもしれませんね。
(投稿者:オニヤンマ)