越年と書いて何と読むかご存知でしょうか。

オツネンです。聞いた事はあるなと思う人が殆どかと思いますが、漢字の如く「年を越す」などという意味です。

 

年の瀬を迎え「そろそろオツネンかァ」と思う人は稀でしょうし、「今年のオツネンどうする?」などと話しかける事もないでしょう。

越年は「エツネン」とも読み、「オツネン」は明治時代以前に使われていた読み方だと言われています。

 

トンボの中にはその生態からオツネントンボ(越年蜻蛉)と呼ばれる種類がいます。

日本には3種ほど生息しています。その中のひとつがホソミイトトンボです。

ホソミイトトンボの特徴や生息地

ホソミイトトンボは腹部が細い水色のトンボです。

トンボ目イトトンボ科ホソミイトトンボ属のトンボであり、生息地域は本州の南西にあたる地域や九州などです。

 

イトトンボ科のトンボは暖かい地域に多く生息しているようです。

ホソミイトトンボには「夏型」と「越冬型」があり、それぞれ外見の特徴や現れる時期が異なり、成体のトンボがあまりいない冬にも観察できるトンボです。

ホソミイトトンボの特異な生態について

6月~8月末頃に見られるホソミイトトンボの成体はその年に羽化した夏型です。

夏型のホソミイトトンボの腹長は24mm~28mmほど、後翅長は20mm以下くらいのようです。

 

ホソミイトトンボは華奢で目立たない姿で、沼の草地などを一筆書きで描かれた線のように飛んでいます。

夏になると繁殖行動が見られます。

 

夏型のホソミイトトンボが産卵した卵から孵化し幼虫であるヤゴの時期を経て羽化した個体が、越冬型のホソミイトトンボと呼ばれます。

発生時期は8月~9月末くらいまでです。夏型よりも体の色の水色が濃いのが特徴です。

 

夏に羽化した越冬型は秋になるにつれ体色が茶系になります。

冬眠から醒めた翌年、繁殖期の4月~5月になるにつれ水色が再び濃くなっていきます。

 

腹長は夏型より長く33mm~34mmほどになり、後翅は22mm程度です。

このような生態のため、秋口になるとホソミイトトンボの夏型と越冬型が入り混じる事があるようです。

ホソミイトトンボの夏型と越冬型の外見の違い

夏型と越冬型の外見の一番の違いは、越冬型のホソミイトトンボは体色が濃く、腹節も5mmは長い事です。

複眼の後方にある模様を眼後紋と呼びますが、ホソミイトトンボの眼後紋は左右つながっています。

 

後頭条の黒い越冬型の方が細長く水色も濃く、やや緑混じりの水色です。

また、胸部の横にあるスジ模様の肩縫条(けんぽうせん)は越冬型のホソミイトトンボの方が太くはっきりしているようです。

ホソミイトトンボの翅の特徴や飛翔について

トンボは飛ぶ昆虫です。トンボの翅は4枚あり、それぞれを自在に動かして飛ぶのが特徴です。

4枚翅があっても飛ぶ時は2枚しか使わないように見える昆虫が多い中、トンボは4枚動かしており、空中でも止まる時にも飛び立つ時にも効果的に翅を使っています。

 

トンボの翅の網目模様は緻密で複雑な構造です。

翅の付け根には突起のような部位もあり、それぞれ4枚の翅には適した動きを可能にする為に筋肉のようなものがあると言われています。

 

ホソミイトトンボの翅の特徴は、四角室という翅脈がある事です。

ちょうどトンボの翅の付け根に近い部位にありますが、殆どのトンボの翅は三角室と言う三角形の模様があります。

 

このような翅の模様はその昆虫の飛翔に大きく関わっていると考えらえています。

ホソミイトトンボは均翅亜目ですが、前後左右の翅の大きさや形がほぼ同じなのも特徴です。

 

トンボの1秒間の羽ばたきは20~30回です。これは飛ぶ昆虫の中でも特に少なく、ミツバチは100回も羽ばたきます。

トンボの緻密な翅脈やそれを動かす仕組みはいかに効率よくバランスを保ちながら飛翔できるかという点において、とても優れています。

飛ぶには胴が長すぎる気がするホソミイトトンボですら、ふらふら飛ぶ事はあまりないようです。

ホソミイトトンボの繁殖スタイルについて

ホソミイトトンボの繁殖は初夏から夏にかけて水辺付近の植物の茎で行われます。

トンボの交尾についても専門用語があり、タンデムと呼ばれる事もあります。

 

トンボのオスの生殖器は腹部付近にあり、メスの生殖器は尾にあるので、ホソミイトトンボのペアは頭に近い腹部と尾をくっつける必要があります。

オスメス共に体が長すぎますので、見る角度により彼らの間にはハート形のような空間が生まれます。

 

無事タンデムが終了すると産卵です。ホソミイトトンボはオスが上で飛びながらメスが水中の草などに産卵するようです。

バランスを取るのが難しく、苦しい体勢になる事もあります。

 

稀にホソミイトトンボが3匹連なっているなどという場合は、1匹は止まり木のような役割になっている場合も散見されるようです。

産卵場所は水中の草の根などで、これを植物組織内産卵と言う事もあります。

ホソミイトトンボのヤゴの特徴

ホソミイトトンボの幼虫であるヤゴは黄色がかったような半透明の体です。

ホソミイトトンボは夏になると流れのない淡水の草のあるところに産卵します。

 

卵は1mm弱で細長く白いものです。

1~3週間で孵化し、ヤゴの期間は1、2ヶ月のようです。

 

草の根元にしがみついて生息しています。ホソミイトトンボのヤゴの大きさは最初1mm程度ですが、脱皮して大きくなり終齢になるとやっと11mmになります。

とても小さいヤゴなので、更に小さい水棲動物などを食べているようです。

 

ホソミイトトンボのヤゴには魚の尾ひれのようなものが3つ付いています。

これは尾鰓(びさい)です。ヤゴにも様々な種類があります。尾鰓があるのは均翅亜目という種類のトンボのヤゴの特徴です。

 

トンボ類は均翅亜(イトトンボ亜)目、不均翅亜(トンボ亜)目、ムカシトンボ亜目に分けられます。

ホソミイトトンボの様な均翅亜目の特徴は翅が薄く体が細長く、どこかにとまる時は翅を畳んでとまる事などが特徴です。

 

不均翅亜目は力強い系のヤンマなどです。どっしりしていてヤゴも大きいです。

ヤゴは直腸内にある鰓で呼吸しているらしいと言われますが、ホソミトンボのヤゴの場合は、尾鰓が欠損しても生存している事があり、ヤゴにも不可思議な点があるようです。

越冬するホソミイトトンボ

昆虫の越冬する姿というのは土中に潜ったり、じっとしているように見えて蛹の中で何か重要な事を行っていたりと、実際どのような姿でどのように冬を越しているかは分かりにくいものです。

 

ホソミイトトンボは成虫のような姿で冬を越します。

成体と言っても、ホソミイトトンボは未成熟な状態の成体のまま越冬します。

 

そのためホソミイトトンボの変態を半変態と呼びます。

不完全変態であるトンボにはホソミイトトンボのように半変態する種と小変態する種がいるようです。

 

ホソミイトトンボの越冬時期は地域やその年により様々なようですが、普段見かける水辺から少し離れた雨風に当たりにくい日向のような場所で越冬するとされます。

茶色い茎に頭を上にしぶら下がるようにとまっています。

 

この時点でホソミイトトンボの体色は周囲の草と同じ茶色になっています。

ホソミイトトンボは外気温がだいたい14度になると活動が弱まり冬眠体制に入るとされ、時期は10月~3月末頃までと言われています。

ホソミイトトンボの特徴

ホソミイトトンボの特徴は成体で越冬し、「夏型」と「越冬型」が見られ、晩夏になると両者が混在する事、体が細長く鮮やかな水色の体色である事などです。

体つきは確かに細長くあんな体でオツネン(越冬)が可能なのか、と思われるほど弱々しい印象なのですが、見た目よりは丈夫にできているようです。

 

何しろなぜ成体の状態で越冬できるのかは解明されておらず、オツネントンボの中でも2型出現するホソミイトトンボは珍しい昆虫のひとつです。

ホソミイトトンボは温暖な地域に生息し、北限は北関東の栃木県、日本海側の石川県あたりではないかと言われています。

関東地方に現れる事もあるようなので、お近くの細長く水色のホソミイトトンボを探しに林や丘陵が近くにある池や沼地などに行ってみてはいかがでしょうか。

(ライター:おもち)