手に付いた茶色の液体(醤油!?)や遅くまで夢中になって遊んだ原っぱの風景と共にどこかノスタルジックなバッタの世界。公園で見ていたバッタ達は一体何種類いたのだろう、と遠い記憶を呼び起こしてしまいます。
実際日本には多くの種類のバッタが分布、生息しているようで、その中で代表的な種類のバッタについてまとめてみました。
イナゴ
イナゴは直翅目・バッタ亜目・イナゴ科に分類される昆虫。日本ではイネを食べる害虫とされてきた半面、佃煮などにして貴重なたんぱく源として食べられていました。
昔からイネの害虫として扱われていたのはコバネイナゴ。日本全土や台湾などに分布しているイナゴで成虫の体長はオスが28~34㎜、メスが40㎜程です。
体色は明るい緑色で側面には黒色の線が頭部から尾部まで走っています。背中は肌色、または緑色で稀に紅色。名前の通り翅は短く、腹端を越えない場合が多いのですが長い個体もいます。
本来はヨシなどの生えた湿った環境を好んでイネ科植物の葉を食べるので、水田にも多く生息することになります。成虫は7月頃から頻繁に見かけるようになり、11~12月頃まで出現しています。イネを下の方から救うように虫取り網を動かすと採集できます。
オンブバッタ
オンブバッタはオンブバッタ科に分類され、メスの上にオスが乗っている姿をよく見かけます。
日本全土、朝鮮半島、中国、台湾まで離島を含む東アジアに広く分布します。日当たりの良い草原に生息しています。クズやカナムグラ、カラムシなど葉の広い植物を食べるので、これらの植物が多い半日陰の林縁などにも生息しています。
体長はオスが25㎜、メスが45㎜前後でバッタの中では小型。メスの方が体も大きく、体つきもずんぐりしています。
頭部はショウリョウバッタのように前方に尖り、先端付近に触角と複眼が並んでついていて体の断面は三角形に近く、複眼、前胸部、後脚腿節にかけての白い線で背面と覆面が分かれます。
翅は前後とも先端部分が尖っていて、前翅の陰に隠れている後翅は透明で基部が黄色みを帯びています。翅は長いですが飛ぶことはなく、後脚で跳躍や歩行によって移動します。体色は緑色と褐色の2種類の個体が存在します。
畑や草地に普通に見られ、網で草をなでるようにして採種すると簡単に取ることができます。
カワラバッタ
カワラバッタは本州、四国、九州に分布し、河原の拳大の石ころが眼立つところに生息しています。
体長は34~43㎜で体は砂や石の保護色の灰色のまだら模様。後翅は青みを帯びた透明で基部は青みが強く美しい色をしています。翅の中央部分に広い黒色帯が入るのも特徴。
成虫は夏から秋にかけて出現しますが、静止している時は砂礫の色と全く区別できず、見つけにくいバッタです。
クルマバッタ
クルマバッタは日本全土や東洋の熱帯に分布し、林と草原が隣接する場所や草丈に高低差のある広い草原に生息していますが、局所的に人工的な環境にもいることもあります。
体長はオスが40~45㎜、メスが55~60㎜で前翅背面部が体色と同じ色で、前胸背面は著しく隆起し、後ろ翅の中央部に半月上の黒帯があるのが特徴。飛ぶとこれが黒い半円に見えるところが名前の由来。
トノサマバッタに似ていますが、体長はトノサマバッタより小さいこと、前胸背面の隆起、飛翔時の音が大きく飛翔距離が長いことで区別できます。
イネ科の草をよく食べ、日中は羽音をたててよく飛び回るので容易に見つけることができます。
ショウリョウバッタ
ショウリョウバッタは日本に分布するバッタの中では最大種のバッタ。
ユーラシア大陸の熱帯から温帯に分布し、日本でも全土に分布しています。
ただし、北海道に分布するようになったのは20世紀後半頃からと考えられています。
主に背の低いイネ科植物が生えた明るい草原に生息していますが都市部の公園や芝生、河川敷などにも適応し、日本のバッタ類の中でも比較的よく見られる種類です。
オスの成虫は体長5㎝前後で細身ですがメスは8~9㎝程でオスよりも体つきがガッシリしていて、オスとメスの大きさが極端に違います。体色は周囲の環境に擬態した緑色が多いですが茶褐色の個体も見られます。
また、オス成虫には目だった模様はありませんが、メス成虫は体側を貫くような黒白の縦帯模様が入る個体が多いようです。
日本のバッタ類の中では比較的よく見られる種類です。
ショウリョウバッタモドキ
ショウリョウバッタモドキは台湾、インドシナ、日本では本州以南の暖地に分布し、平地、山間部のイネ科群落に生息しています。ショウリョウバッタよりも草丈が高く、やや密に茂ったところを好みます。
体長はオスが25~30㎜、メスが45~50㎜。
全身薄緑ですが体側及び背面に赤い部分を持つ個体もいます。
メスのみが全身が赤い個体も稀に現れます。ショウリョウバッタ同様の細い体つきをしていますが、頭部は尖らず、頭部の幅も広く、目もさほど細くありません。
脚は体に対して短く、後脚も短くて跳躍力は弱いですが飛翔力には優れています。イネ科植物に擬態するのが上手く、危険を感じると体を草にピタッと寄せてそのまま反対側に回り込み隠れます。
分布が局所的なので、生息場所では8~11月にかけて普通に見られますが、一般的に目にする種類ではありません。
トノサマバッタ
トノサマバッタはアメリカ大陸以外の北半球に分布し、日本では全土に分布していますが、長崎県対馬の個体群がレッドリストの指定を受けています。
平地から低山地の日当たりの良いイネ科植物の多い草原、特に草があまり密集せずまばらであるか丈がそれほど高くない所を好み、そのような環境は日本においては河川敷に限られるのでトノサマバッタも河川敷に生息しているということになります。
体長は35~65㎜の大型のバッタでオスよりメスの方が大きく、前翅には茶色と白色のまだら模様があります。後翅はクルマバッタやクルマバッタもどきなどとは違い模様がありません。個体によって体色には差があり、緑色型と褐色型の2つのタイプがあります。
イネ科の植物の葉を好んで食べていますが、高い飛翔力を持つ上に人の気配に敏感で、そばに近寄るのは結構難しく容易に捕まえられる種類ではありません。
ただ、バッタ釣りという枝や竿の先に糸を垂らし、その先に黒い棒状のようなものを巻き付けて潜んでいる場所に投げるという捕獲方法があり、メスと勘違いしたオスが近づいてきて棒に飛び乗るという性質を利用して捕獲することも出来ます。
ノミバッタ
ノミバッタは台湾、中国、日本全土に分布し、日当たりの良い湿った地面や砂上を好み、畑地や河川敷などに生息しています。地表の土粒を積み上げてドーム状の巣状の物体を作り、その中に潜んでいます。
体長は4~6㎜。黒色で頭部に丸みがあり、全体に頑丈そうなスタイルの小さなバッタです。
前翅はウロコ状で後翅は扇型をしています。
腹端には尾角、尾突起合わせて4本の突起物が目立ちます。後脚が発達していて、跳躍力が極めて強く、水面からでも跳ね上がることができ、小さくてよく跳ねることからノミバッタの名前がついたと言われています。
生息地ではよく見かけるバッタです。
ヒシバッタ
ヒシバッタは中国、シベリア、朝鮮半島、日本全土に分布しています。
種類によって乾燥した畑地や草地に多く生息しているものと、河川敷、池沼、田んぼなどの湿った環境に生息しているものがいます。
体長は10㎜内外。体色は土色で背面に黒紋があることが多く、後翅は短く扇型をしていてほとんど飛べません。種類がとても多いヒシバッタですが、全ての種類で前胸背が後方に長く延長し腹部の前部を覆っていて、背面から見ると全体がひし形に見えるのが名前の由来でもあり、ヒシバッタの特徴です。
ヒシバッタは1年中出現し、比較的見つけやすいものが多いようです。
ヒナバッタ
ヒナバッタは旧北区に広く分布し、日本全土で見られます。主に草原、特に野芝の生えているような環境に好んで生息しますが、混生するトノサマバッタやクルマバッタなどに比べると草原の真ん中よりも灌木や藪に近接した位置にまとまって見られる傾向にあります。
体長はオスが19~23㎜でメスが25~30㎜程。体色は艶のない褐色をしていて腹部の黒い縞模様が目立ちます。個体によっては体色が黄色、緑、紫色のものもいて、色彩変化に富んでいます。
一般的に明るい草地に住むものは明るい体色になり、暗い湿地に住むものは黒っぽくなる傾向があります。前胸背板の背面左右の縁は灰白色でやや内方にくの字形に曲がっています。オスは翅をこすり合わせてシュルルルルと鳴きます。
ヒナバッタは日本ではよく見るバッタです。
日本のバッタの種類のまとめ
いかがでしたでしょうか。懐かしい数々のバッタたち。子供の頃何気なく遊んでいた公園で見かけたあのバッタ、このバッタ。大人になって改めて彼らの特徴を知ってみると、当時の記憶と見事にリンクしていて面白いものです。都会では今はあまり見かけなくなってしまった草原ですが、バッタたちはいるところには相変わらず子孫を残し、かつてと変わらない生活を続けています。
皆さんもぜひ懐かしい「草むら」にバッタを探しに出かけてみてはいかがでしょう。