ヤドカリ(宿借)は、その名のごとく貝に棲む生物ですが、貝を探すのが難題です。
そこで、ちゃっかり棲み処を他に得ているヤドカリもたくさんいます。
ソメンヤドカリとベニヒモイソギンチャク
ヤドカリとイソギンチャクの共生関係は、ヤドカリの多くの種類に見られる現象です。
日本近海で見られる例として、ソメンヤドカリとベニヒモイソギンチャクの関係があります。
ヤドカリ上科のソメンヤドカリは、千葉県近海水深10mから30m程の岩礁に生息しています。
主に熱帯の海に生息するので、南房総あたりが北限だそう。
イソギンチャクは刺胞生物の一種です。刺胞生物は刺胞という毒を注入するための針をもちます。
非常に原始的な構造の生物で、体は外胚葉と内胚葉のふたつに分かれています。
イソギンチャクのように付着性のものをポリプ型、クラゲのように漂うものを漂泳性といいます。
ソメンヤドカリとベニヒモイソギンチャクの暮らし
ソメンヤドカリは、貝の上にベニヒモイソギンチャクを幾つもくっつけて生息しています。
ヤドカリの天敵はタコ。
タコに襲われそうになった時に、ベニヒモイソギンチャクの毒が役に立つのです。
ベニヒモイソギンチャクは体長5㎝ほどの小さいイソギンチャクです。
宿主のソメンヤドカリは夜行性なので、日中は石の下などに隠れています。
貝を取り換える際は、ハサミなどでベニヒモイソギンチャクを丁寧にはがして新しい貝にくっつけます。
ベニヒモイソギンチャクにしたら、ソメンヤドカリにくっついていると一緒に動くことになり行動範囲が広がります。
もとは自ら動かない生物なので、イソギンチャクにとっていいことなのかよく分からない気がしますが、ヤドカリの貝の上にいるのは、岩にへばりついているのとさして変わらないし動けないよりは動けた方が気分的にいいのでしょうか。
しかし、ソメンヤドカリはお腹が空くと共生関係プラス天敵から守ってくれているガードマンの様な存在のイソギンチャクを、食べてしまう事もあるそう。
こうなると、共生関係にしてはヤドカリに利が多いような気がするのは否めません。他のベニヒモを見つければいい、というくらいの事なのでしょう。
また、サメハダヤドカリもベニヒモイソギンチャクと共生している事があります。
こんな例もある、ビジュアルが宇宙的になってしまう共生関係
ホンヤドカリ科のイイジマキヤドカリは、ヤドカリスナイソギンチャクを背負っています。
彼らの関係は、共生を超えた一心同体関係といっても良さそう。
はっきりしたメカニズムは解明されていない部分も多いようですが、スナイソギンチャク科の中には、ホンヤドカリ科のヤドカリに直接くっついているようになる場合もあるようなのです。
そのような状態になると、彼らは共生しているというよりひとつの生物に見えます。
全体の色は淡いオレンジ色で、もはや海の中の多肉植物のようです。
不思議なのは、スナイソギンチャク科のイソギンチャクは、水深300mから1000m付近の深海に生息しておりもっと深い海で見つかる事もある種だという事です。
うっかり深海に行くことになったヤドカリが水圧に耐えるため、棲み心地のよさそうな貝を背負ったのかも知れませんが、そのおかげでヤドカリは実は浅瀬だけにいるものではなく、案外深い海の中にも生息できるようになったのかも。
おそらくヤドカリの方も、そこまで深い海の中に生きるには一人では心もとないと思ったのでしょう。
オールマイティーなヤドカリたち
深海の定義は水深200mだそうです。それより深い海の中には太陽光が届かず光合成ができない為、若布や昆布などの海の植物が育たないのです。
地球にある海の深さを平均すると約3700mだそうなので、海の中はほぼだいたいが深海であるとされています。
マリアナ海溝のようにとても深い部分も多く含まれており、それを平均してしまうのは大胆な試みだと思いますが、便宜上そういう事になってるようです。
海の中の実態は、まだほとんどわかっていないみたいです。
ヤドカリの仲間には浅瀬にいるものもいますが、びっくりするような深海にも生息しており、そのことにはイソギンチャクとの共生関係が関係しているようです。
(ライター:おもち)