黒いアリが大きな昆虫に群がって解体しどこかへ運ぼうとしている様子は誰しも一度は見た事があるでしょう。
クロヤマアリは名前にヤマが付きますが、特に山にのみ生息しているという事もなく、硬めの土のあるところなら日本全国ほぼどこにでも見られるようなアリです。
クロヤマアリについて
クロヤマアリはヤマアリ属の普通に見られるアリです。生息地域は日本全国で、小さい黒いアリです。
学校の校庭や宅地などにも巣を作りますが、比較的標高が高い土地にも生息する事があり、クロヤマアリの営巣場所はバラエティーに富んでいます。
クロヤマアリの巣が見られるようになるのは3月くらいからです。
営巣として好まれるのは日当たりがよく、乾燥気味でよく日向になるようなところです。
クロヤマアリは熱心に餌を集める種のアリです。
真冬以外はほぼ一年中姿を見かける事ができます。
クロヤマアリは地中の温度が14度以上程度になると地上に出てきて、12度以下になると巣へもぐる事が多いようです。
巣へ帰り用事を済ませてもクロヤマアリは睡眠というものをしないようです。
少し休み、また出ていきます。
クロヤマアリの外見の特徴
アリは膜翅目という、昆虫の中ではハチと同じ大きなグループに属しています。
ハチも胸部の第1節が腹部の最初とくっついていて腹柄節(ふくへいせつ)というのですが、アリにも腹部の後方に腹柄節があります。
クロヤマアリと外見がよく似ている気がするクロオオアリですが、クロオオアリはアリ特有の腹柄節がすこし大きく2つに分かれているようです。
クロオオアリの腹柄節はもっと小さいようです。
この腹柄節はくびれており、クロヤマアリも成体になると固形物を消化できません。
腹柄節の形状によりアリの種類が分かるようです。
クロヤマアリの頭部の特徴
クロヤマアリの触角は12節の事が多いようです。
頭部には大きな複眼と上の方に3つの単眼があります。
顔の形は前から見ると丸みのある逆三角形のようで大顎は細めです。
歯は5~13つあるのが普通のようです。顎のあたりには唇があり、ヒゲもあります。
ヒゲはクロヤマアリの感覚器官の中でも重要なもので餌を判別する時に使用されます。
クロヤマアリの餌は昆虫などです。糖分も好むと言われますが、主に昆虫の死骸などを好むようです。
見慣れているせいか攻撃的な印象はないアリです。
体長は4,5mm~7mmほどです。
クロヤマアリの胸部と脚について
昆虫というと腹部から3対の脚が出ている気がしますが、アリの場合は胸部に脚を持つのも特徴のひとつです。
クロヤマアリは前脚・中脚・後脚がそれぞれ2対ずつあります。
役割に応じてツメがあったりします。また、夏に出現する翅を持つクロヤマアリの翅は胸部付近から出ています。
働きアリたちは翅がいらないので翅本体はありませんが、女王アリなど翅を必要とする個体の胸部には翅の名残りのような脱翅痕があります。
女王アリは翅が要らなくなると落としてしまいます。
クロヤマアリの腹部の構造
クロヤマアリの腹部の腹側は第1~3腹板と呼ばれ、背中側は第1~3背板とされます。
節と節の間にはやや段差があります。
クロヤマアリも体毛を持ちますが、腹部にも毛が生えています。
この腹部の内部には各種消化器官があります。
中でもアリ特有であり、クロヤマアリも持つ「そのう」という器官は餌の貯蔵場所です。
アリは貯蔵が大好きなのです。クロヤマアリの働きアリが幼虫に餌を与える場合、このエネルギータンクから餌に適するものを唇まで逆流させ、幼虫に与えます。
自分に栄養が必要な場合は胃から消化するようです。
アリの生活や翅のあるクロヤマアリの発生時期
アリには女王アリや幼虫の世話、餌の捕獲や管理、営巣などに携わるメスの働きアリとひたすら産卵する女王アリ、交尾のために一時出現するオスのアリの主に3種がいます。
これらはアリの種類の違いではなく、役割分担によるものです。
翅を持つクロヤマアリが出現するのは関東地方では6月~7月、温暖な地方では8,9月頃です。翅のあるクロヤマアリが発生しやすい日は、風のあまりない晴れの日のようです。
この翅のあるオスのクロヤマアリと女王アリは交尾をし、オスは死亡し女王アリは翅を落として巣の中で産卵、育児に励みます。
落とした翅は女王アリが幼虫に与える栄養になります。この夏に現れる女王アリはその年に産まれた新しい女王アリです。
アリの翅というのは交尾や産卵に重要なものですので、翅を持つクロヤマアリの出現時期は地中の温度が上がる夏になる事が多いとも考えられています。
クロヤマアリも冬の期間は巣の奥で成体で越冬します。
クロヤマアリも他のアリと同じように卵から生まれ幼虫、繭、蛹、成体になる完全変態の昆虫です。
クロヤマアリの巣について
クロヤマアリは乾燥し踏み固められたような硬い土地に地下1m以上にもなる巣を作り生活します。
アリの巣のかたちにもいろいろなものがあります。クロヤマアリは縦長でまっすぐに深く地中を掘るのが特徴です。
クロヤマアリの巣の働きアリは時には1000匹を超える事もあるようです。
直接地面に穴を開けて作り、巣穴が沢山ある場合がある事もクロヤマアリの巣の特徴です。
クロヤマアリは巣を引っ越す事があります。ひとつの穴から別の巣穴へ蛹の状態の幼虫を咥えて移動していたりするようです。
このような行動は夏頃に見られる事が多いようです。
クロヤマアリとサムライアリの隷属関係
アリには一般に「奴隷狩り」と言われる習性をもつ種もいます。
サムライアリはクロヤマアリの巣を狙い、集団でやってきて幼虫などをさらい隷属させるアリです。
なぜサムライアリがクロヤマアリの巣を特に狙うのかは分かっていないようです。
このサムライアリの乗っ取りの多くは真夏に行われるようです。サムライアリの見た目はやや茶系の体です。
サムライアリの働きアリは体長4mm~7mmくらいです。
顎が発達しているので頭部の顎が広がっているようで、クロヤマアリよりくびれた姿に見えます。
サムライアリの女王アリは、6月頃に交尾が済むとクロヤマアリが苦心して作った巣を乗っ取ります。
巣から女王アリを追い出す為、その巣のクロヤマアリの女王を大顎で噛みつき殺害します。
サムライアリの女王は特殊な匂いのワックスを体につけ、女王が交代した事をカムフラージュするとも言われています。
この匂いはアリにとって重要なもので、匂いのせいかクロヤマアリの巣にもとからいた働きアリたちは新しい女王アリを特に不審に思わず働き始めます。
アリは一旦働きだすと働きを止める事がないように見えます。
止める時はそのアリが死亡した時です。働きアリたちは成長し働き始めると匂いが変わっていくようです。
サムライアリの女王が産卵するとその巣のクロヤマアリの働きアリたちはその子を育てる事になります。
クロヤマアリを始め、女王アリというのは巣作りや産卵、子育ても最初は働きアリがいないので全て単独で行う必要がありますが、サムライアリの女王アリは産卵するだけのようです。世話をするクロヤマアリの働きアリの数が少なくなると、また違うクロヤマアリの巣に行き新しい奴隷を連れてきます。
サムライアリは随分酷いように思えますがこういった行動を長らく続けた為、サムライアリたちは巣を乗っとったり、クロヤマアリに働いてもらわないと生きていけないのかも知れません。
このような習性から、サムライアリには女王アリの世話や幼虫の世話や営巣ができる働きアリは存在せず、繭や幼虫をさらう個体は兵隊アリと言われています。
クロヤマアリの特徴と見分け方
- クロヤマアリの働きアリが見られるのは3月~10月頃までです。
- クロヤマアリは他のよく似たアリより触角が長く、特に夏頃になると巣穴の数が多くなる傾向があるようです。
- 主に夏に巣穴を引っ越す事があります。
- クロヤマアリの餌は昆虫の死骸などです。
- クロヤマアリは行列を作らないようです。黒いアリが連なっていたら、それはクロヤマアリではありません。
(ライター:おもち)