春になり色とりどりのお花が咲き始めると、どこからともやってきてなくひらひらと飛び交うチョウチョ、こころがいやされる光景ですね。
でもチョウの幼虫のイモムシやケムシが成虫となり、美しく舞うためには自然の厳しさをくぐり抜けなければいけません。
幼虫たちが鳥などのエサになるのはわかっていましたが、そのほかにもっと恐ろしい世界があります。
ヤドリバチやヤドリバエに寄生され体の内側から食い尽くされてしまうという恐怖の世界。
今回は、ヤドリバエの驚くべき生態について注目します。
ヤドリバエとは
ヤドリバエはハエの仲間でヤドリバエ科に属する昆虫の総称です。
チョウなどの幼虫のイモムシやケムシの体内に入り込み、それらから栄養を横取りして育ちそれらを死に至らしめる寄生昆虫のひとつです。
イモムシやケムシなどの宿主の体のなかの卵から孵化した幼虫は、周囲から徐々に栄養分を吸収し、宿主の動きが止まり蛹化すると急成長し、蛹の表面を破って幼虫の姿を現します。
一方、宿主はチョウになることなく死んでしまいます。
1宿主に複数個体が寄生していることも多く、宿主から次々と脱出した幼虫は、土中にもぐり蛹化し羽化します。
ヤドリバエの寄生の仕方
どうやってヤドリバエは、イモムシやケムシなどの宿主に寄生するのでしょうか。
大きく2つの方法があります。まずひとつは、イモムシやケムシの体表に産卵管を突き刺して体表や体内に直接産み付ける方法です。
イモムシなどの幼虫を観察していると、産み付けられた小さい卵が見えることがあるのですが、とってあげようとしても、皮膚に深く刺さっているので簡単にはとれません。
もうひとつは、イモムシやケムシが好む植物の葉に大量に卵を産み付け、それを食べるイモムシやケムシの体内に取り込ませるという方法です。
ブランコヤドリバエの場合
ブランコヤドリバエは、イモムシ・ケムシの体表に産卵しますが、どうやって宿主を探すのかそのしくみが実験によって解明されています。
イモムシ・ケムシに食害されると、植物は特定の匂いを放出してイモムシ・ケムシの天敵であるブランコヤドリバエを呼び寄せるのです。
さらにブランコヤドリバエはイモムシ・ケムシが好む植物の緑色にも敏感に反応します。
したがって、ブランコヤドリバエは、宿主が食害したときの植物の匂い(嗅覚情報)とその植物の色(視覚情報)の両方を手がかりとして利用し、宿主にするイモムシ・ケムシを探していると考えられています。
ムラタヒゲナガハリバエの場合
ムラタヒゲナガハリバエは、宿主であるイモムシ・ケムシが蛹になる前の状態を好み、宿主の頭や頭近くに産卵します。
ムラタヒゲナガハリバエの宿主なるミノウスバの幼虫は、蛹になる前に蛹化する場所を探して活発に徘徊するそうです。
ムラタヒゲナガハリバエは、宿主が蛹になる前の活発な動きを認知して産卵するのです。
さらに頭付近を狙って産卵するのは、宿主である幼虫は産卵されたとき、口を使って体表についた卵を落とそうとするのですが、頭に産卵すれば口が届かないからだといわれています。
ノコギリバエの場合
ノコギリバエは、産卵管を使い、孵化直前の卵を宿主の体腔に産み込みます。
孵化した幼虫は、中腸のなかに住み込むのですが、囲食膜という膜に守られて消化されることもなく生き延びます。
また中腸のなかには空気は少ないのですが、宿主の気管を自分のいる中腸内に引き込んで自分の気門をつなげて呼吸していることがわかったとのことです。
マダラヤドリバエの場合
宿主である幼虫が好む植物に小さい大量の卵を産み付け、宿主がそれを食べることによって寄生を開始するヤドリバエには、マダラヤドリバエがいます。
名前の一部にもなっているアサギマダラというチョウの幼虫が好むガガイモ科の植物に卵を産み付けます。
マダラヤドリバエは、チョウの体内で孵化し栄養を横取りし続け、宿主が活動をとめ蛹になると急成長し、蛹の体表を破って出てきます。
チョウ側のヤドリバエへの抵抗
チョウ側も一方的にヤドリバエに攻撃を食らっているわけではありません。
チョウの中には、卵を摂取しても生体防御反応によって幼虫を体内で殺す血球濃度を高くしたり、ハエの少ない地域へ長距離移動を可能にする飛翔能力を備えたり、また幼虫が食べる植物の種類を広げたりする種がいるということがわかっています。
まとめ
小さな虫の世界でも、いろいろな駆け引きがあり、それらに打ち勝っていかないと生き残れないのですね。
ヤドリバエたちの恐ろしくも不思議な世界、興味をもたずにはいられません。
(ライター sensyu-k)