カタツムリが梅雨の時期にアジサイの葉の上に乗っているのって、すごく似合いますよね。
カタツムリも、ムシ好き少年だった私とよく遊んでくれた『おともだち』です。
寒さばかりではなく、暑さにも弱いカタツムリ
最近あまり見かけなくなった、数が減っているのかなと思っていませんか?
確かに都会ではその生息数が減っているようですが、日本全体ではそうではないようです。
見かけない理由というのは、恐らくカタツムリの活動期間がかなり短いからなのです。
カタツムリは、寒さばかりでなく、暑さや乾燥にも弱い生き物なのです。
従って冬は冬眠しますが、夏の暑い時期も活動を停止します。これを夏眠(かみん)といいます。
そのときカタツムリは、殻に閉じこもり、入り口を薄い膜状の組織で塞ぎます。
これはエピフラムと呼ばれる粘液を固めて作った簡易的な蓋です。
これにより内部の乾燥を防ぐことができますが、微少な空気穴も開いていますので、蓋があっても呼吸は可能なのです。
休眠中のカタツムリを突いてみたりすると、エピフラムは簡単に破れて中からのそーっと出てきます。
このとき先に出てくるのはおしりの方ですので、カタツムリが殻に閉じこもるときは、頭を先に入れることがわかります。
ダンゴムシにしろ、ヤスデにしろ、カタツムリにしろ、突っつくと丸まったり殻に入ろうとしたりする動きが面白いですし、しばらくして安全を確かめるとまた動き出す、それを待っている時間が子どもにとってはすごくワクワクする瞬間なんじゃないでしょうか(笑)
夏の朝など、カタツムリが通った跡が朝日を浴びて虹色に輝いているのを見ると、すごくうれしくなってしまいます。
カタツムリは乾燥からわが身を守るために、粘液に覆われています。
ですからカタツムリの通り道にはこうした粘液が残されています。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
カタツムリとナメクジの違いは?
カタツムリというのは定義づけが難しいようです。
一般的にカタツムリやデンデンムシと呼ばれるものは、オナジマイマイ科やニッポンマイマイ科に属する軟体動物を指します。
軟体動物には、貝類やイカ、タコなど広く種類がいます。
その貝類のうち、海にすむものと陸にすむものを分けた陸貝に分類され、更に殻に蓋をすることができるヤマタニシなどとは別になり、蓋のできないマイマイ科などは有肺類と呼ばれます。
ナメクジもその仲間ですが、ごく簡単に殻のあるものをカタツムリ、ないものをナメクジと呼び習わしているようです。
ちなみにカタツムリの殻は本体と一体のもので、筋肉でしっかりと繋がれています。
ですから出した身体を引っ込めて、殻の中に閉じこもることができるのです。
また殻の中に内臓などの器官がありますので、殻から無理やり引き出せばナメクジになるどころか、死んでしまいます。
ナメクジがヤドカリのように殻に入ってカタツムリになり、ときどき抜け出しては殻を取り替える・・ということではありません。
殻を背負っているような感じなのです。
その殻は、いつもきれいで汚れていません。
実はカタツムリの殻には、細い溝が規則正しく並んでいるのです。
溝の中には水の膜が張ってあり、油などの汚れがついてもすぐに浮き上がらせて流してしまうのです。
こうした構造を応用して、汚れにくい外壁材なども作られています。
日本のカタツムリの種類は700~800種類
前述したように、その定義があいまいなカタツムリですが、国内ではおよそ700~800種が発見されているそうです。
これだけ種類が多いのは、動きが鈍いので移動が少なく、冬眠や夏眠をするなどして活動期間も限られ、その分布がごく狭い範囲であることが原因のようです。
南西諸島や小笠原諸島では、島ごとに固有種がいるくらいなので、今後も新種が見つかる可能性があります。
国内種のカタツムリは、1ミリほどの小さな種から殻の直径が6センチを超えるアワマイマイという種まで大きさはまちまちです。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
アフリカの巨大カタツムリ
アフリカには、殻の直径が20センチ、体長が40センチにもなる巨大な種も存在します。
カタツムリは、ほとんどの種が植物食性で葉や菌類などを食します。
またセルロースを分解できる消化酵素を持つので、紙類を食べることができます。
新聞紙なども十分エサになるのです。
一部存在する肉食のカタツムリは大型のものが多く、同じ陸貝やミミズなどを捕食します。
カタツムリには歯がある?
意外なことに、カタツムリには歯があります。
歯舌(しぜつ)と呼ばれるおろし金のようなギザギザしたごく小さなものです。
一列に80本あり、それが150列も並んでいますので、そのギザギザは1万2千にもなります。
この歯舌は、葉をすりつぶすというよりも、コンクリートなどを削るために使われます。
カタツムリは殻を有しますが、その素材となるのは炭酸カルシウムなのです。
カタツムリの殻は、最初は『の』の字型の小さなもので、成長に従って外巻きに入り口の部分を足して延ばしていくことで大きくなります。
ですから殻を大きくするために大量のカルシウムが必要になるのです。
これを自然な状態なら石灰岩から、都会ではコンクリートやブロック塀などから歯舌を使い、削りながら摂取するのです。
地球上の巻貝は大多数が右巻きだと言われています。つまり『の』の字の方向に巻いています。
国内種では95%が右巻きだそうですが、左巻きのものもわずかですが、存在しています。ヤドカリにしてみれば、きっと居心地が悪いでしょうね。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
水が苦手なカタツムリ
もう一つ、意外というよりもちょっとびっくりすることがあります。
カタツムリは貝類であり、乾燥が苦手なくせに、海にいる貝類や陸にいるタニシなどと違い、水が苦手なのです。
分類上は有肺類ですので、「肺」があるのです。
つまり貝類や魚のようなエラ呼吸でないので水中では生きられないのです。
ですから雨が降ると、水没する可能性のある地面から避難して高い場所に逃れようとするのです。
そういうわけで、雨の日にヒトの目につく高さの葉の上などにいるのです。
けっして雨が好きだから喜んで外で遊んでいるわけではないのです。
カタツムリの触覚
カタツムリには、角(触覚)が4本あります。
大小2対あり、前側にあるのが小触覚といい、ニオイを感じるセンサー、つまり嗅覚が存在します。
後ろ側にあるのが大触覚でこれが目になります。ただし視力はほとんどなく、明暗を感じることができるくらいだと言われています。
ちなみに聴覚はありませんので、音に対しては反応しません。
カタツムリの歌・・「でんでんむしむしかたつむり~」のあとに、角出せ、槍だせ、頭出せと続きますが、角は触角のことで、槍は生殖器を指しています。
カタツムリの交尾
カタツムリの生殖器は、右下(右巻きは右側、左巻きは左側)にあります。
交尾のときには槍状になって突出するのです。
これをラブダート(恋の矢)といいます。
実はカタツムリは雌雄同体の種が多く、こういったものは交尾をしなくても生殖が可能です。
カタツムリを一匹だけ飼っていても、いつの間にか卵を産むのはそのためです。
行動範囲が狭く、他の個体と遭遇する機会が少ないカタツムリにとっては、うってつけの生殖方法と言えます。
しかし他の個体と遭遇した場合には、交尾をすることが可能です。
このとき槍状の生殖器(恋の矢)を出して、相手に挿入しますが、相手も雌雄同体です。
相手の生殖器も受け入れるのです。
従ってカタツムリの交尾は、電車の連結器のように、二重に恋の矢が行き交った状態になるのです。
ある研究によれば、この恋の矢(ラブダート)には、相手の生殖能力を低下させる働きがあることがわかりました。
カタツムリは機会があれば何度も交尾を重ねますが、利己的な遺伝子の働きで、その後の交尾を拒絶するような作用を及ぼすのだそうです。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
カタツムリの産卵
交尾をしてもしなくても、カタツムリは卵を産みます。
5月から8月にかけて、直径2~3ミリの真珠様のものを40~50個産みます。
半月からひと月で孵化し、親とほぼ同じ形の『の』の字型の殻を持つ小さな子が誕生します。
寿命は1年程度の種もいますが、中型のもので2~3年、大型の種になると10年以上生きる個体もいます。
恐るべきカタツムリの寄生虫
さて、ヒトも口にするカタツムリですので、多くの動物が捕食の対象にしています。
天敵としては、マイマイカブリなどの大型の昆虫類やホタルの幼虫、鳥類や小型の哺乳類、ヘビやトカゲなどの爬虫類、カエルなどの両生類など多岐にわたります。
更にカタツムリには悲劇が待っています。
こういった大きな動物に捕食されるばかりでなく、小さな虫たちにも寄生されるのです。
寄生虫はカタツムリの身体を徐々に蝕んでいき、死に至らしめます。
特にその中でも、狡知にたけ、恐ろしい活動をするスーパー寄生虫をご紹介しましょう。
カタツムリをゾンビ化する寄生虫 ロイコクロリディウム
「ロイコクロリディウム」という、吸虫の仲間です。
このロイコクロリディウムは、成虫のジストマとして、最終宿主の鳥の直腸に寄生しています。
カタツムリはあくまで中間宿主として、幼虫時代だけ寄生するのです。
ジストマは鳥の直腸から栄養を吸収し、そこで産卵して鳥の糞中に含ませて排出します。
ジストマの卵は鳥の糞中でじっとカタツムリに食べられるのを待ちます。
鳥たちがわざわざカタツムリの存在する場所を狙って糞をするわけではないので、確率としては、かなり低いのではないでしょうか。
カタツムリが鳥の糞を食べ、その消化管内に侵入するとジストマの卵は孵化します。
孵化した幼生は成長しながら、数十匹の集団が塊となってカタツムリの触角(大触覚)に押し寄せます。
そこで色鮮やかな緑色などに擬態をし、激しく動きまわります。カタツムリの触角は大きく膨らみ、まるでイモムシそっくりになります。
さらにロイコクロリディウムが激しく脈動するので、その部分だけ見ると小さなイモムシが活動しているように見えるのです。
ところがこのロイコクロリディウムに触角を支配されてしまいますので、視覚機能が働かなくなり、日中でも葉の表側などの危険な場所に身をさらすことになります。
しかもイモムシそっくりに肥大した触覚がウネウネと動き、異常を感じたカタツムリ自体も触角を振り回し、体をくねらせたりするのです。
こんなに目立つ獲物を鳥が見逃すわけがありません。
こうしてロイコクロリディウムはカタツムリをリモートコントロールして、まんまと最終宿主の鳥に食べさせてしまい、自身も鳥の体内に取り込まれるのです。
そして成虫となって鳥の直腸に行き、寄生するという一生を送るのです。賢いと言うべきか、恐ろしいと言うべきか、みごとなライフサイクルです。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
人間にも寄生する広東住血線虫
このほか、カタツムリに寄生するものに広東住血線虫がいます。この線虫はネズミなどを最終宿主にしていますが、その幼虫はロイコクロリディウム同様にカタツムリを中間宿主にしています。
ただしこちらはロイコクロリディウムと違い、おとなしくカタツムリに寄生していて、ネズミなどの小動物に食べられるのを待っているだけです。
カタツムリを触ったり生食した場合に、この幼虫は口や傷口などから人体に侵入します。
胃壁を貫通して血管やリンパ管に入り、脳やせき髄、眼などに達します。
脳に達したものは、2週間ほどの潜伏期間を経て、好酸球性髄膜脳炎を引き起こします。
激しい頭痛や手足のけいれんや麻痺に見舞われ、最悪の場合死にいたることがあります(日本では平成12年に沖縄県で初めて女児の死亡例がありました)。
眼に侵入した幼虫は失明させるなど、重大な障害を起こすこともあります。
本土にいるカタツムリには広東住血線虫はまだ寄生していないようですが、温暖化の影響で北上してくる可能性はあります。
しかし、その他の寄生虫は数多くいますので、カタツムリを触ったら、きれいに手を洗うに越したことはありません。
また絶対に生食することは避けなければなりません。
カタツムリって食べられるの?
それでは今度は、このカタツムリを食べるということについてお話ししていきましょう。
ちょっと怖い話が続いてしまいましたが、カタツムリは生食さえしなければ、人間も問題なく食べることができます。
むしろ美味しいと言われるほどです。
食用のカタツムリは衛生管理がなされた飼育場で養殖されていますので、寄生虫の心配はまったくありません。
フランス料理の高級食材として『エスカルゴ』が有名ですが、ヨーロッパでは広く一般的に食べられており、日本でも元々カタツムリを食べる習慣があります。
ただあまり認知はされていないようですので、ゲテモノ扱いになることが多いのでしょう。
種によって微妙な違いはありますが、あまり味は変わらないようです。
■「ナメクジ」は塩で溶ける?カタツムリの仲間なのに駆除される不快害虫
大きさはまちまちですので、ある程度大き目の個体の方が旨みは多いといわれています。
味はツブ貝やサザエなどに近く、貝類独特の歯ごたえのあるものですが、陸貝ですから当然磯の香りはありません。
ヨーロッパでは多くの国で養殖されており、特にワインに使うブドウの葉だけを食べさせたものは味が良く、高級な素材になっています。
通常はガーリックバターと塩コショウ等で味付けされ、オーブンで焼いたものが食卓に供されますが、パエリアなど炊き込んで使うこともあります。
私は試したことはありませんが、日本人ならツボ焼きにして醤油をたらしても良いかもしれません。
かつては生食していたこともあったそうですので、刺身にしていたのかもしれませんが、今は絶対に避けるべきです。
また、カタツムリの卵も、ホワイトキャビアと称して、ビン詰などで売り出されています。
(投稿者:オニヤンマ)