深海で暮らす生き物の中には、わたしたちの想像もつかないような奇怪な姿をしたものが多く存在しています。
ミツクリザメは数ある深海生物の中でも、特に恐ろしい外見をしていることで知られています。
今回は、そんなミツクリザメの魅力をみなさんにご紹介していきます。
ミツクリザメってどんな生き物?
ミツクリザメは深海に住むサメの仲間です。
ミツクリザメのいちばんの特徴は、その恐ろしい外見です。
ミツクリザメはその別名を「Goblin Shark」といいます。
ゴブリンとはヨーロッパで言い伝えられている妖精で、多くの場合は醜い小人のような姿で描かれます。
ゴブリンシャークという異名のとおり、ミツクリザメはゴブリンのように醜悪で見る者に恐怖さえ抱かせるような凶々しい外見をしています。
日本ではその特徴的な長い吻から「天狗鮫」と呼ばれていたそうです。
海外でも日本でも、人ならざる物怪の異名を付けられている点が共通しているのが興味深いですね。
ミツクリザメの生態
ミツクリザメはネズミザメ目ミツクリザメ科に属します。
ネズミザメ目に分類される生き物は総じて大型で、ミツクリザメの最大全長は6mに達するともいわれています。
ホホジロザメやメガマウスなどもネズミザメ目に分類されます。
前述したようにミツクリザメは深海域に生息し、水深1,300m以上というかなり深い場所で暮らしています。
世界中の広い海域に分布していますが、特に東京湾や駿河湾など日本近海での発見例が多いため、日本を中心とした海域に生息していると考えられています。
深海性の魚類や甲殻類、イカやタコなどの頭足類を捕食します。
長い吻は何のためにあるの?
天狗の鼻のように長く発達した吻は、実際に触ると柔らかくぶよぶよしているそうです。
それは外敵を倒す武器ではなく、獲物を見つけ出すための探知機の役割を果たしています。
ミツクリザメの吻にはロレンチー二器官という、筋肉が発する微弱な電流を感知する感覚器官が備わっています。
このロレンチー二器官を駆使することによって、視界の効かない深海でもミツクリザメは獲物を見つけ出すことができるのです。
ミツクリザメのもうひとつの特徴
ミツクリザメの特徴は、その長い吻だけではありません。
ミツクリザメは獲物を捕食する際に、顎が大きく突き出します。
ただでさえ奇怪な容貌が、顎を突き出すことによってより恐ろしい姿へと変貌します。
凶々しい容貌で獲物を貪るミツクリザメの様子は、まさに「Goblin Shark」の名にふさわしい姿だといえます。
しかし捕食時に顎が突き出すという性質はミツクリザメに限定したものではなく、多くのサメ類に共通しています。
また、その恐ろしい外見から人間を襲う「人喰いサメ」だと思われることの多いミツクリザメですが、性質は比較的温厚で、人間を襲うことは滅多にないそうです。
ミツクリザメと人間との関わり
多くの深海生物と同じように、ミツクリザメは捕獲例が少なく、その生態は謎に包まれています。
水族館などの施設でも飼育は非常に困難であるため、生きているミツクリザメを目にする機会はほとんどないといえるでしょう。
しかし過去に国内の水族館で生きたミツクリザメが展示された例もありますので、運がよければ、悪名高い(?)ゴブリンシャークを生で見ることができるかもしれません。
東京都の「しながわ水族館」や埼玉県の「世界クワガタムシ博物館」、神奈川県の「京急油壺マリンパーク」及び「葉山しおさい博物館」、静岡県の「駿河湾深海生物博物館」ではミツクリザメの剥製標本が展示されておりますので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。
こんな生き物が存在するのかと大きな衝撃を受けることでしょう。
恐ろしい姿のミツクリザメですが、その生態を知った後では愛嬌のある姿に見えてくるから不思議なものです。
(ライター:國谷正明)