世の中には変わった顔つきの魚がいるものです。
オニボウズギはその中で異形ともいえる姿や生態の持ち主かもしれません。
暗く静かな海の中でこのような生物がこっちを向いてゆっくり近づいてきたらギョッとするに違いありません。
オニボウズギス
オニボウズギスは硬骨魚類の一種です。
体長は尾ひれまで入れて30cmほどになるようです。
600m~1000mほどの深海を泳ぐ深海魚です。
外洋といって比較的広い海を泳ぐようです。スズキ目の仲間なだけあって、外見はさほど変わったものでもありません。
つるつるした表皮に大きい眼球、口には尖った歯が並びます。
オニボウズギスの胃の仕組み
オニボウズギスの泳ぐ海域は餌が少ないので、オニボウズギスは食べられそうなものに遭遇すると、ここであったか百年目とばかりに丸呑みします。
ウミヘビのように自分の体より大きいものも当然丸呑みです。
その為、オニボウズギスの下腹部あたりにある胃は膨れ上がり、消化に時間がかかりすぎるので、なんと胃の内容物が傷んでしまう事もあるのだといわれます。
しかも胃腸に獲物を入れすぎるあまり胃の皮膚が耐え切れずに死んでしまう個体もいるらしいという、異様な魚なのです。
もちろんこのような大きい獲物はしっかり消化し終わらなければ新しい獲物を捕食、というか丸呑みする事は出来ません。
もう体に何も入らず物理的に不可能です。
オニボウズギスの胃は半透明の皮膚で覆われているので、中で消化中の獲物が透けて見える事があります。
入りきらない獲物と一緒のオニボウズギスの姿を見ると、どちらがどちらを捕食しているのか分からないような有様です。
表層に上がってくるオニボウズギスはこの消化にともない発生するガスにより体がパンパンに膨れ上がり、口は開けっ放しで目を見開いた姿のオニボウズギスである事が多いようです。
このような変わった食習慣を持つ魚類が生存していると思うと、日本近海もすいぶん不思議なものに思えてきますね。
また、消化に関係する器官に腸がありますが、オニボウズギスの腸は黒っぽく見える事が多いと言われます。
深海に棲息する魚類の中には、発光器を持ち光るものもいますので、そういった光る物を丸呑みした場合、それを隠す為ではないかなどと言われます。
光らないオニボウズギス
オニボウズギスは光りません。いつもじっとしており、獲物が通り過ぎるのを待っているそうです。
オニボウズギスが棲息するとみられる海域は水深600m~1000mくらいといわれます。
1000mもの深さになると水圧は100気圧くらいになり、水温は1度から5度くらいです。
この辺りにいる生物はチョウチンアンコウなど、発光器を持つ魚類もいます。
オニボウズギスは待ち伏せをして捕食するようなので、自分が光ってしまうと相手に警戒されてしまいます。
オニボウズギスは光ってみたい願望をぐっと抑えて光らずにじっとしているのかも知れません。
実際、発光器を持つ事のメリットは棲息海域や捕食方法により様々で一概に光ると良い、というわけでもなさそうです。
オニボウズギスの展示
平成18年に千葉市中央学物館でオニボウズギスの展示が行われました。
現在は終了しています。
オニボウズギスにはいくつか種類がいるといわれていますが、その中のクロボウズギス科オニボウズギス属のオニボウズギスの展示だったそうで、インドネシアのフローレス海で見つかった個体だそうです。
膨れた胃はそのまま展示されたそうです。
オニボウズギスの漢字
オニボウズギスは漢字で「鬼坊主鱚」と書きます。
「鱚」はキス科のキスの事だそうで、円筒形の細長い魚です。
オニボウズギスも胃が膨れていない時は丸い筒状の細長い体の魚なのです。
しかしそのような姿を我々人間が目にする機会はあまりありません。
食べすぎるオニボウズギス
悪魔というとdevileですが、ハイ・カロリーの濃いチョコレートケーキをdevile’s food cakeと言ったりします。
悪魔のような顔などと形容されてしまうオニボウズギスですが、食べすぎによって胃が膨れ上がり死んでしまう事があるという、恐ろしい魚類なのです。
(ライター:おもち)