北海道では初雪が降る少し前頃から雪虫という白くてふわふわした虫があちこち飛び回ります。
農村地域では時に大量発生して、辺り一面ものすごいことになることもあり、季節を知らせる風物詩となっています。
今回はそんな雪虫のお話。
雪虫の特徴
雪虫とは実はアブラムシのうち白腺物質を分泌する腺を持っているものの総称。
他には綿虫と言われたり、地域によってはオオワタやシーラッコ、シロコババ、オオツコジョロ、オユキコジョロなどと呼ばれたりもします。
具体的にはトドノネオオワタムシやリンゴワタムシなどが代表的な存在。
アブラムシは普通翅のない姿で単為生殖することによってコロニーという集団を作ります。
しかし、越冬する前などに翅を持つ成虫が生まれ、交尾して越冬する為に産卵します。
この時に翅をもつ成虫が、ロウ物質を体にまといながら風に流されるように飛ぶ姿がまるで雪のようなのです。
トドネノオオワタムシの生態
トドネノオオワタムシはカメムシ目・腹吻亜目・アブラムシ科に属する昆虫。
体長は最大で4㎜程度。
日本では北海道や東北地方を中心に10~12月頃に見られます。
春にヤチダモやハシドイなどの一次宿主の幹で越冬した卵から第一世代のメスの幼虫が孵化し、新芽の葉裏に寄生します。
寄生された葉は縮れ、偽虫こぶとなってしまします。
幼虫はここで篩管液を吸って成長します。
5月頃に成熟したこれらの成虫は幹母と言われ、単為生殖することにより多数のメスの幼虫を出産します。
これがいわゆる第二世代となり、幹母の形成した偽虫こぶの中で成長し、羽化し、翅をもった成虫になります。
翅をもった第二世代の成虫たちはヤチダモから飛び、次の宿主のトドマツに移動。
トドマツに飛来した第二世代の有翅虫は幹の地際や地中の根に寄生して単為生殖により数世代をここで過ごし、増殖します。
この時期にはケアリ属のアリが甘露を利用しつつ保護を行い、地中の巣の中で共生七えることも知られています。
秋が深まると単為生殖で産まれたメスの幼虫から再び翅を持ったメスが登場し、これらは産性虫と呼ばれます。
トドマツの地際から地表に現れると飛び立ち、ヤチダモなどの一時宿主に移動して雌雄を出産。
この時だけは有性虫が誕生するというわけ。
この時の成虫には口器はなく、繁殖するためだけに生まれ、交尾と出産を終えると死んでいきます。
有性虫はオスが緑色で、メスは体内の巨大な卵が透けて見えるので橙色をしています。
産卵は樹皮の裂け目などに産み付けられ、これが翌春孵化して幹母となり再びサイクルがスタートするのです。
空中を移動する翅を持った成虫には体表に炭化水素などを成分とする糸状のロウ物質で包まれているような姿をしていますが、初夏のヤチダモからトドマツへの移動は密度があまり高くないことから、目立ちません。
晩秋のトドマツからヤチダモへの移動はとても密度が高く、それは本当に雪がちらついているかの様なこともあります。
雪虫の大量発生
2011年の10月頃、北海道各地で雪虫の大量発生が報告されました。
普段どこかロマンチックな雪虫も、大量発生すると、これまた別物。
外を少し歩くだけで口の中や目の中、鼻の穴にさえも飛び込んできます。
少々大げさではありますが、マスクとゴーグルなしでは歩けないほど、車で移動すれば、ワイパーは常に動かしていなければならないほどです。
収穫真っ只中の農業機械に入って機会をショートさせることすらあります。
しかし、雪虫はとても弱く、人間の肌や体温に触れるとすぐに死んでしまったり、人間でなくても付着してしまったところで死んでしまうことも多いのが現実です。
(ライター ナオ)