ゲンゴロウと並ぶ最強の肉食水棲昆虫

タガメは巨大な鎌状の前足と野太い口器でカエルや魚のみならず、亀や蛇、ネズミなどの小型の哺乳類までを捕食する、もっとも獰猛な水棲昆虫としてよく知られています。

時には人間の命をも脅かす猛毒を持つマムシの捕食例も報告される事があり、戦うステージによっては最強昆虫の称号を与えられて然るべき昆虫であります。

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Photo by (c)Tomo.Yun

なお、タガメはその太い口器のイメージから、獲物の血を吸って栄養を補給していると思われがちですが、実はそうではなく、ゲンゴロウや他の水生昆虫同様に獲物の体内に消化液を流し込み、肉をドロドロに溶かしてから吸い取るという体外消化という捕食方法をとります。

タガメに捕食されるカエル

自分よりも大きな獲物をいとも簡単に捕えて行動不能に陥れる様子を見ていると、まるでタガメには麻痺系の毒があるように思えます。

因みにタガメとよく似た食性で知られるゲンゴロウの幼虫は、獲物に消化液を流し込むだけでなく麻痺毒を注入する事で自分よりも大きな獲物を捕らえる事で知られています。

タガメの生息域

自然界のタガメは、水深の浅い流れの緩やかな清流や沼地での棲息に適応していますが、その生態が人間が人工的に作り出した田んぼや用水路などと非常に相性が良い為、かつては田園地帯では普通に見られた昆虫でした。

ところが農作物への農薬の使用や、環境汚染などが原因で現在ではその生息数を急激に減らしています。

人間の生活圏ではほとんど見ることが出来なくなったタガメですが、まだまだ水の綺麗な池や清流などでは充分に採集が可能なようです。

ただし、彼らは強力な鎌状の前足とぶっとい口器をもっていますので、くれぐれも咬まれないように注意が必要です。

この消化液を流し込むタイプの昆虫に咬まれた場合、最悪組織が壊死する可能性があります。

慣れていないのであれば素手で掴まない方が賢明です。

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最悪の肉食女子、タガメのメス

タガメのメスは、交尾後に陸上で産卵しますが、卵は常に水分を必要とする為、オスが卵を守りつつ、給水など卵の世話をする特殊な生態を持っています。

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タガメのメスは卵の世話をしないばかりか、自分以外のメスが産んだ卵を保護しているオスを蹴散らして、卵塊を破壊してしまう事があります。

卵を保護している間のオスは繁殖行動が出来ないので、自分の子孫を残す為の本能としてインプットされた行動なのですが、これはオスライオンが群れのリーダーを追い出した時にその群れの子供達を皆殺しにしてしまう習性と良く似ています。

肉食化が進む日本の女性達ですが、世の男性諸君もタガメ女には注意した方が良さそうですよ。

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タガメは日本最大の水生昆虫!

タガメは、半翅目(カメムシ目)のコオイムシ科に属する昆虫で、水生昆虫としては、日本国内で最大を誇ります。

またカメムシ目の昆虫の中でも最大の種になります。

タガメは絶滅の危機にあるが・・

現在その生息数は激減しており、環境省レッドリストの絶滅の危険が増大している種である絶滅危惧Ⅱ類に分類されています。

したがって、ただちにというわけではありませんが、近い将来に絶滅が心配される種でもあるのです。

ただし都道府県や市町村などの各自治体が独自に設定しているレッドリストでは、それより上位の絶滅危惧Ⅰ類に指定されていたり、絶滅種としてすでに自然環境下ではいなくなったと認定されている場合もあります。

タガメの思い出!

私は子どもの頃、田舎の水田で捕えてきたタガメを飼っていたことがあります。

今思うと、当時ゲンゴロウはよく見かけましたので、水槽などで飼っている友だちも結構いたのですが、タガメを飼っている人は少なかったようです。

ですから友人たちにも珍しがられて、自慢して見せびらかしていた記憶があります。

もしかしたら、すでにその頃から数が少なくなっていたのかもしれません。

水中のギャングの獰猛な「お食餌」シーン!

縁日の金魚すくいで取ってきた金魚や近所で捕えたトノサマガエル、ミドリガメなどをエサにして、みんなでタガメの食餌のシーンを、歓声を上げながら眺めていました。

 

さすが「水中のギャング」と呼ばれるだけあって、その食いつき方の激しさと、デメキンをはじめ自分よりも大きな獲物にも迷うことなく向かっていく獰猛さは、子ども心にもしびれるものがありました。

陸のカマキリ、空のオニヤンマ、水中のタガメ・・昆虫少年たちにとっては、こういった獰猛な肉食性の昆虫たちは、カブトムシやクワガタムシのような正統派の人気者とはまた別の、ちょっとした悪のヒーローでもあったのです。

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たくましい大きなカマ

タガメの成虫は、その体長が5~6センチにもなります。多くの昆虫同様オスの方がさらに一回りほど大きくなります。

前脚はガッシリとして長く、カマキリに匹敵するような大きなカマ状を呈し、先端はカギ状に鋭くなった爪になっています。

ただしこの前脚には、カマキリのようなトゲ状のギザギザした突起はついていません。

捕まえ損ねて指などをはさまれると、かなりビビってしまいますが、痛さはそれほどではありません。

私には経験がありませんが、前脚ではさまれて口吻で刺されると、尋常ではない痛さだそうですし、その後大きく腫れあがり、大変なことになるようです。

テナガコガネ?ゴキブリカマキリ?

私にはこのタガメの姿が、どうもテナガコガネと重なってしまいます。

どちらかと言えば、テナガコガネを見るとタガメを思い出すような感じですが・・・。

 

でも私の友人は「ゴキブリカマキリ」だと言っていました。

背格好は大型のゴキブリ(これほどデカいゴキブリは日本にはいませんが)に似ていながら、カマキリのような大きなカマを持っているからでしょうが、こちらの方が言い得て妙かもしれません(笑)

体色はまさにゴキブリのような茶色から褐色を帯びています。

ですからすばしこいのと相まって、一見すると水中に潜ったゴキブリのようなイメージがあります。

その姿を見てギョッとする方も多いのかもしれません。

若い固体には黄色と黒のシマ模様が見られます。

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扁平な脚と呼吸管

タガメはこのカマ状の前脚で獲物をガシッと捕えてむしゃぶりつきます。

前脚だけが取りざたされますが、その他の2対の脚は扁平で、水中での活動に適しています。

ただし陸上でも歩き回ることができるようになっています。

 

また尻からは数センチ程度の長さの呼吸管が伸びており、これを水面に突き出して呼吸をします。この呼吸管の存在もタガメの姿を特徴付けていると言えます。

クモと同じく体外消化!

タガメは、後述しますが、カマキリやオニヤンマのようにそのままガブリとかぶりついて捕えた獲物をむしゃむしゃ食べるのではなく、先の尖った口吻という針状の口を刺し込み、体外消化という方法で食餌をするのです。

これはクモによく見られる食餌方法ですし、同じ半翅目(カメムシ目)の水生昆虫であるタイコウチやミズカマキリも同様です。

自分より大きな獲物にも怯まず!

タガメはその幼虫から肉食性を示し、小魚やカエル、他の水生昆虫を補食します。

場合によっては自分の身体よりはるかに大きなヘビやカメ、ネズミなどの小型のほ乳類などまで補食するという獰猛さを示します。

 

大型の獲物であれば、数匹のタガメが同時に張り付いていることもあるようです。

胃液を吐き、それを吸う!!

前述したように、タガメはクモ同様の体外消化を行います。

セミを始め、カメムシ目の特徴である鋭く長い口吻(こうふん)を獲物の身体に突き刺し、相手の体内に消化液を流し込むのです。それにより溶けた身体である液状の物質を吸い込んで食餌しています。

血液や体液を吸っているイメージがあるのですが、直接吸い上げているわけではありません。

血液以外の組織も溶かされて吸われますので、むしろ肉汁といった方が適切かもしれません。

ですからタガメの食べた後の獲物は骨と皮だけが残ります。

これをヒトにたとえると、胃液を吐き出して獲物に注入し、ちょっと待って溶けるのを待ち、時間を置いてからそれをチューチューと吸い戻すということになります。

ちょっと気持ちが悪くて、想像したくもありません。

しかし消化器系の臓器にとっては固形物がないので、実に効率の良い消化吸収が可能だと言えるのです。

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タガメは害虫なのか!?

個体数が多いときには、養魚池などに入り込んで養殖の金魚や川魚の稚魚などを「食い荒らし」たり、水田を守る存在であるカエルや小魚を捕らえて補食してしまうので、タガメは人間にとっての害虫として扱われることがありました。

しかし現在ではタガメの数が激減していますので、自然下ではほとんどその影響は無いものと思われますし、駆除するほどの数もいませんのでその必要性もありません。

日本産タガメの立派さに驚く!

タガメは、かつては北海道を除く日本全国に広く分布していましたが、個体数が激減しているので、現在では自然環境の下で見かけることはほとんどなくなってしまったようです。

多くの自治体からその地域での絶滅の報告が出ています。

国外では台湾に多くおり、中国大陸や朝鮮半島にも生息しています。

世界にはおよそ20種類の近似種がいます。日本のタガメより体長が大きなものもいますが、前脚の発達具合は日本産が飛び抜けており、その容姿の美しさやスタイルのたくましさも抜群で、とても人気があります。

漢方薬や食用にも・・

タガメは中国では漢方薬の材料になっています。

台湾などの多くの国では、唐揚げなどの食材として積極的に用いられているそうです。

かつて日本国内でも佃煮などに調理して食べていた地方もありました。

あの大きさですから食べ応えはあるでしょうし、水生昆虫ということを考えれば、その味はけっして悪くないはずです。

 

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復活する可能性はあるのでしょうか・・

タガメは、原生的な自然環境よりも、むしろヒトの手によって整備された「里山」などの環境のほうがその生存に適しているようで、水田や用水路を好んで生息しています。

したがって農薬等を使わなければ、ある程度近代的な農村といったような環境のほうがその繁殖に適しているのかもしれません。

そのような環境を保全できるのならば、自然下でもその数を増やし、かつての繁栄が復活する可能性もあるのではないでしょうか。

水生昆虫だって飛び回る!

水生昆虫は水中を自由自在に泳ぎまわる代わりに飛行できない・・どうもそういうイメージを持たれているようです。

しかし、半翅目(カメムシ目)の水生昆虫にはきちんと4枚の翅があり、けっして飛ぶことが苦手なわけではありません。

飛ぶときには前翅にある突起を後翅に引っ掛けて前後二枚の翅を重ね合わせてしっかりと飛ぶことができるのです。

これは膜翅目(ハチ目)の昆虫にも見られる特徴ですので、むしろ飛行能力はかなり高いといえるのです。

ですからタガメは繁殖期になると、相手を求めて盛んに空を飛び回ります。

エサが少なくなると、かなり遠くはなれた場所に飛んで移動していきますし、夜間は灯火などに集まる習性も見せるのです。

 

あの大きさのタガメが、蛾などと一緒に街灯の下などをブンブン飛び回っていたら、さぞかし迫力があることでしょうし、逃げ出してしまうかもしれませんね(笑)

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冬を越すタガメたち

タガメの寿命は成虫で2~3年ほどです。成虫としてはかなり長寿と言えます。

夏に盛んに活動した後、秋になると貪欲に食餌をして、肥え太って越冬します。

水田などにいる個体は田んぼから水を抜いてしまうので陸に上がり、その近くにある草むらや大きな石の下などに潜り込んで冬眠をします。

冬期に凍結しない池や沼地などにいるものは、そのまま浅い水中で緩慢な活動を続けるので、冬眠せずに過ごします。

タガメの求愛行動

4~5月ごろに冬眠から目覚めたタガメの成虫は、夏にかけて成熟していき生殖活動を開始します。

オスは、その腹を使って一定のリズム(2~3回刻み)を刻みます。この行動をポンピングといいます。

水面を叩くというより、水中で腹を震わせながら波を起こすようです。

 

この音というか波というかでメスを呼び寄せるのです。

メスが寄ってくると求愛行動を示して、交尾をします。

タガメの交尾と産卵

タガメの交尾は日没後に行われ、すぐに産卵場所選びを開始します。

水中から突き出た杭だとか水草の太い茎などが最適な場所になります。

他の昆虫と異なり、オスとメスは一緒に産卵まで行動を共にします。

卵は一度に50~100個程度産みつけられます。

 

産卵が終わると、メスはすぐにどこかに移動して姿を消してしまい、その後はオスが卵を保護するのです。

卵を守るタガメのオス

タガメのオスは卵の周囲につき添って離れず、一日に1~2度、卵塊に給水をしてやり乾燥から守るのです。

卵は他のオスやときにはメスにも狙われることがありますので、片時も卵から離れるわけにいきません。

 

そのときタガメのメスは・・・

タガメのオスはこうして孵化するまで卵の世話に追われますが、その間メスは新たなオスを見つけて交尾することもあります。

タガメのメスはオスを取り換えながら、年に4回ほど産卵をします。

オスが世話をしている卵は確かにそのオスの遺伝子を受け継いでおり、間違いなくそのオスの子なのですが、ちょっと複雑ですよね・・

また他のメスが保育中のオスの卵を破壊することがあります。

これは、そのオスを狙っている場合が多いようです。

卵を破壊されたオスは発情して、卵を破壊したメスと交尾をし直します。

そうして新たに産んだ卵を守ることになるのです。

タガメのメスというのは、相当自分勝手で、挑発的な『肉食女子』でもあるようです(笑)

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タガメの幼虫時代

タガメの卵は、お父さんに守られて10日ほどで孵化し、黄白色から半透明の成虫そっくりの1齢幼虫が出てきます。

幼虫はそのまま水中に落ちていき、水中生活をスタートさせます。

幼虫は小さな水生生物を貪欲に捕食し、成虫同様に体外消化をして成長していきます。

5回の脱皮を繰り返し、1~2カ月ほどで成虫になります。

さなぎを経ない不完全変態です。

成虫には翅がありますので、飛び回り移動することができます。

そのまま秋まで活動をして、成虫のまま越冬して、春にまた活動を再開します。

前述したように成虫の寿命は2~3年ほどですが、飼育下ではもっと長く、数年以上生きることもあるようです。

これがタガメの生活環です。

水生昆虫はマルチな活動家!?

水生昆虫または水棲昆虫とは、生涯の少なくとも一部を水中や水面で生活する昆虫のことをいいます。

多くの水生昆虫は、トンボ、ホタル、カゲロウ始めユスリカや蚊など、幼虫期までを水中ですごして、成虫になると陸に上がって生活をします。

ところが、タガメやゲンゴロウ、タイコウチなど成虫になっても水中で生活する種もけっこういるのです。

ただしこれらの昆虫は水中でしか生活できないわけではなく、翅を持ち、空中を自由に飛び回ることはできますし、陸上を歩きまわることもします。

タガメの産卵は水中から這い出て行いますし、ゲンゴロウのサナギも水から上がり、羽化は陸上でします。

またアメンボやミズスマシは、水中にけっして入らず水面上を生活の本拠地にしています。

水中生活に適した形態変化!

これらの昆虫では、水中生活に適応した形態の変化がみられます。

水流の強い渓流などで生活する種は、扁平や流線型の身体に変化し、岩などにしがみつく必要があるので、鋭い爪や吸盤を発達させた脚を持つものが多いのです。

水中を泳ぎまわる昆虫では、通常後脚や中脚は扁平になり、フィンのような遊泳に適した形態に変化しています。

アメンボなどでは中脚と後脚に多量の毛が密生して生えており、この毛の水を弾く力が表面張力となって水面に浮き上がっているのです。

またその先端にはかぎ状のツメがあり、これが水中に入り込むことで、水を掻きながら水面上を移動することができるのです。

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水中では呼吸ができない!

ただし、多くの時間を水中で生活する昆虫であっても、基本的には陸上生活をする昆虫と同様に肺で空気呼吸をしますので、いかに空気を取り入れて長時間水中で生活できるかどうかは重要なことです。

ミズカマキリなどでは尾部に長い呼吸管を持ち、そこから空気を取り入れています。

ゲンゴロウでは翅と腹との間に空気をためる袋状の空洞を持ちますし、ミズムシなどでは腹に密生した毛に空気を閉じ込め、それを使って呼吸しています。

なかにはカゲロウの幼虫のように、気管エラと呼ばれるヒレのような形のエラを発達させて水中呼吸ができる種もいます。ただしカゲロウの成虫には気管エラは無く、肺呼吸です。

ほんのわずかな水があれば・・

水生昆虫と言えば、真っ先に川や湖沼、池などが思い浮かびますが、その他に、水たまりやほんの少量の雨水等の中・・たとえば外に出しっ放しにしておいたバケツに少したまった程度の雨水・・でも生活できる種がいます。

これらは生活環がごく短く、そのごく少量の水分が蒸発する前に羽化できるであろうと産卵されたものでしょうけれど。

わずかな水たまりを見つけてそこで産卵してしまうなんて、それこそ昆虫の生命力の強さを感じる現実とも言えます。

昆虫のたくましさ!

考えてみれば、昆虫はあらゆる場所に生息しています。

陸上、水中はもちろん、土中、倒木の中や果ては汚物や腐肉の中まで・・。

そういった過酷ともいえる環境であっても、たくましく生きられるというべきなのか、そういう環境にこそ生きられる場所を見出したというべきなのでしょうか。

あらためて昆虫のたくましさに驚かされます。

ただし、さすがに海という環境では、なかなかその生息域を広げられなかったようです。

海で生活する昆虫はごく限られており、ウミユスリカやウミアメンボなどのごく少数の種が生きるのみです。

タガメによく似たタイコウチ!

タイコウチはタガメと姿かたちがよく似た水生昆虫です。

 

北海道を除く日本全域に生息しています。

タガメと同じ半翅目(カメムシ目)で、タイコウチ科に属しています。

名前の由来であるタイコウチとは、水中遊泳時に左右の前脚を交互に動かしますので、その姿が太鼓を打っているように見えることから付けられたようです。

英語名では、WATER SCORPION=つまり水サソリと呼ばれているのです。

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水サソリの本性!

タイコウチの成虫の体長は3〜4センチほどですので、タガメよりもひと回りほど小さく、なおかつ身体はかなり細身です。

しかしタガメ同様のカマ状の前脚を持ち、これで獲物を捕らえるのですが、サソリの名に恥じず、その獰猛さはタガメと同等といってもよいくらいです。

そしてタガメ同様、鋭い口吻を獲物に刺し込んで体外消化を行います。

タイコウチの尾部にはかなり長い呼吸管があります。

これがあるので、その姿形から水サソリという名がついたと思われます。

ただし呼吸管で獲物を刺すことはありませんし、毒を持っているわけでもありません。

水中では呼吸ができませんので、この長い呼吸管を水面に出して、水草のかげや水深の浅い場所では泥の中に身を隠し、そばを通る獲物を待ち伏せしていますが、同時に水面上に落ちてきた昆虫なども狙っているようです。

 

タイコウチの得意技は死んだふり!

タイコウチには得意技があります。

それは死んだふりなのです。

人間が捕まえようとすると脚を縮めて死んだふりをして動かなくなります。

その間も隙を見て逃げ出すチャンスをひそかに窺っていますので、タイコウチを構っていると飽きません。

そういう性格のようですから、反撃してくることはほとんどありません。

タイコウチの生態はタガメと似ている!

タイコウチの生態はタガメとよく似ており、寿命は2~3年ほどです。

成虫のまま越冬しますが、流れの穏やかな水中でジッとしているか、干上がった田んぼの回りの土中や石の下で冬眠状態になるかです。

こうして春を迎えると活発な活動を開始し、生殖活動をします。

タイコウチの驚きの卵!

タイコウチのメスは、夏の間に水辺のコケや草むら、土中などに産卵します。

この卵には呼吸糸と呼ばれる数本のヒゲのようなものが突き出しています。

この卵の形態はタイコウチ独特のもので、水中に多少没しても呼吸=酸素を取り込むことができるようになっています。

またその見た目は、コケや水草に擬態しているようにも見えます。

孵化した幼虫は、タガメ同様成虫を小型にした形態をしており、1~2カ月の間に5回の脱皮を繰り返して成虫になります。

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タイコウチを飼おう!

タイコウチは水生昆虫として非常に飼育が容易ですので、初心者向きと言えます。

生きた獲物なら、ほとんどなんでも食べますので、金魚やカエル(オタマジャクシ)などの水生生物に限らず、バッタやコオロギなどの陸生の昆虫でも十分エサになります。

タイコウチの生命力は非常に強く、しばらくエサをやり忘れても、数週間程度は生き延びることが可能なようです。

また水質の変化にもかなり耐えことができるので、極端な話ではカルキ抜きをせずに直接水道水の中に入れても、ほとんど問題ないほどだそうです。

水生昆虫の飼育にはフタを忘れずに!

ただしついつい忘れがちになるのですが、水生昆虫も翅を持ち飛翔しますので、水槽には必ず蓋が必要になります。

私も以前、油断して蓋を閉め忘れて、次の日数匹の水生昆虫がいなくなり、てっきり共食いをしたのだと思っていたら、網戸に張り付いていたことがありました(笑)

タガメの子分のコオイムシ!

コオイムシは、タガメと同じ半翅目(カメムシ目)コオイムシ科に属する昆虫です。

タイコウチよりもコオイムシの方が、よりタガメに近い種と言えます。

日本全国ほぼ全域におり、近隣でも中国や朝鮮半島の平野部に分布しており、水田や浅い池などに生息していますが、近年では環境汚染等によりその数を減らしてしまっています。

成虫の体長は2センチほどです。

体型はタガメを二回りほど小さくした、ずんぐりむっくりしたものです。

まるでタガメの子分のように見えます。

体色も茶色から褐色なので、小さなゴキブリと見間違えやすいのですが、タガメ同様のカマ状の大きな前脚を持っています。

 

コオイムシは2本ヅメで抑え込む!

タガメにそっくりなコオイムシですが、異なるのは、このカマ状の前脚の先端にある爪の形です。

タガメのものが鋭くとがっているのに対し、コオイムシではピースサインを出しているように先端が割れて2本になっています。

これはタガメが獲物を抱え込むようにガシっと捕えるのに対して、コオイムシは前脚の先端を縦に動かし、獲物に突き刺しながら抑え込むように捕えるためだと思われます。

この方法であれば、二本爪である方が有利だと考えられるのです。

したがってタガメでは自分の身体よりもかなり大きな獲物であっても食らいついて捕食できますが、かなり小型のものでは捕えにくいのに対し、コオイムシでは大きな獲物は捕えにくいけれども小型のものはしっかりと捕えることができますし、貝類など殻に入り込んでしまう獲物であっても、外から引きずり出して捕食することができるのです。

 

コオイムシも体外消化!

この前脚を使い、水生の小型の生物や前述したモノアラガイなどの貝類なども捕食します。

食べ方も他の種同様で、鋭い口吻を獲物に突き刺し、消化液をその体内に流し込んで、溶けた肉汁を吸うという体外消化という方法です。

コオイムシは尾部に出し入れ自在のタガメ同様の短い呼吸管を持っていますが、腹部と翅の間に空気を溜める袋様の空洞も持っていますので、より長い時間水中に潜っていられるのです。

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コオイムシのオスは卵を背負う!

コオイムシの名の由来は、その子である卵を背負うことです。

タガメは交尾後にメスが産んだ卵をオスが孵化するまでつきっきりで管理をしますが、コオイムシでは、交尾後にメスがオスの背中に卵を産みつけます。

オスは卵を背中に乗せた(くっつけた)まま、孵化するまで通常の活動をするのです。

コオイムシの寿命は2~3年ほどです。

越冬したコオイムシは春になると活動を再開させ、交尾をしたメスは、そのオスの背に30~40個程度の卵を産みつけます。

この卵塊を背負ったオスは翅が使えなくなるために飛翔はできなくなりますが、それ以外では通常の活動が可能なのです。

したがって捕食行動もしますし、場合によっては他のオスが背負う卵を狙うこともあります。

 

至れり尽くせりのコオイムシのお父さん

背負った卵には、酸素を与えるために時々水面から背を出すこともしますし、孵化が始まると出やすいように身体を動かしてあげるなど、至れり尽くせりのかいがいしい世話までするのです。

コオイムシのオスは、立派なお父さんですよね。

この不自由な生活を強いられる期間は数週間ほどで、卵が孵化し終わるとコオイムシのオスは身軽になって、再び繁殖活動を始めるのです。

コオイムシの生活!

幼虫は、成虫に近い形態をしており、その生活も他のカメムシ目の水生昆虫とほぼ同じです。

水生生物を捕らえ、体外消化によって食餌をします。

5回の脱皮を繰り返して、サナギを経ない不完全変態で、1~2ヶ月で成虫になります。

夏から秋にかけて盛んに活動をし、やがて越冬の準備に入ります。

タガメやタイコウチ同様、水中で活動を抑えながら越冬するか、土中や石の下などに安住の地を見つけて冬眠するかします。

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飼育が容易なコオイムシ

飼育はタイコウチ同様、非常に容易です。エサについては水生に限らず陸生の生物でもほぼ何でも食べるといってもよく、水質の悪化にも強く、環境適応性は抜群です。

卵を背負って生活するオスの姿、その背から卵が孵化する様子は一見の価値があります!

ただしコオイムシは共食いをする可能性があるのです。

孵化した幼虫同士はもちろん、成虫がせっかく守ってきた自分の子(幼虫)を捕食してしまうこともあるので、十分なエサを用意したり、水草を多めに入れて隠れ場所、逃げ場所を確保するほうがよいでしょう。

余裕があれば、個体同士を引き離して単独で飼育する方が良いと言えます。

タガメのニセモノ!?タガメモドキとは・・

コオイムシのごく近い種に、タガメそっくりのタガメモドキという大型種がいます。

アフリカのナイジェリアにおり、体長は7センチにもなります。

そっくりといってよいほど姿かたちはタガメによく似ていますが、コオイムシ亜科に属しタガメモドキ属を構成していますので、実はコオイムシにより近いのです。

その証拠に、コオイムシ同様、タガメモドキのカマ状の前脚の先端の爪はピースサインをしているように2つに割れているのです。

またタガメが前脚を横に動かすのに対して、タガメモドキはコオイムシ同様に前脚を縦に振り降ろすように動かします。

タガメモドキはアフリカ産のデカいコオイムシ!

そして何よりの決定的な動かぬ証拠は、繁殖期になるとわかります。

タガメモドキのメスは、オスの背中に卵を産みつけ、オスはその世話に奔走するのです。

ですからタガメモドキは、「アフリカ産のデカいコオイムシ!」だといえるのです。

(ライター:オニヤンマ)