筆者の田舎には清流が流れており、毎年鮎漁が解禁される初夏になると、川端に他県ナンバーの車が停まり、流れのほうに目を向けると長い釣竿を持った釣り人の姿をよく見かけました。清流にぴちぴちと銀色の姿を踊らせる鮎、旬の時期や美味しい食べ方などを探ってみましょう。
鮎とはどんな魚?
日本を中心に東アジアの川で見られますが、川や海を回遊する魚です。
大陸の大河川よりも日本の清流に適応した魚です。
全長は10cm~15cmですが、30cmになる大物もいます。
灰緑色で背びれは黒、胸びれの後ろに大きな黄色の楕円形斑があります。
秋に性成熟するとオレンジ色と黒の婚姻色が現れます。
名前の由来
鮎は、キュウリに似た独特の芳香がするため「香魚」、一年で一生を終えるので「年魚」、口が銀色に光るので「銀口魚」などとも呼ばれます。
「アユ」の語源には諸説あります。
- 秋の産卵期に川を下ることから「アユル(落ちる)」。
- 神前に供える食物であることから「饗(アエ)」。
- 美しいとか愛しいという意味の「アヤ」。
「鮎」という漢字が当てられるようになった由来にもいくつかの説があります。
- 神武天皇が大和国に入り治安を占って瓶を沈めたときに浮き上がってきたのが鮎だったため。「魚+占」で鮎。
- 神功皇后が朝鮮半島に出兵したとき鮎を釣って勝敗を占ったから。
- 鮎は縄張り争いをして、一定の区画を独占するから。
鮎の一生
[秋]鮎は秋、水温が20度を下回るようになると遡上した川で産卵します。
鮎が産卵するには、粒が小さく水通しのよい砂利の川底が必要です。
また鮎は1対1ではなく、2匹以上のオスとの産卵放精を行います。
卵は2週間ほどで孵化し数日のうちに海や河口付近に流れ下ります。
[冬~春]鮎の稚魚は、プランクトンなどを食べながら河口もしくは沿岸から4kmぐらいの海を回遊して過ごします。
[春~初夏]海水と川の水温がほぼ同じ13~18度になると川を上り始めます。
鱗が全身を覆い色もついてきます。
岩の藻類を削り取って食べ、鮎が泳いでいる付近をよく見ると、岩に櫛のような歯形「はみあと」が見られることがあります。
「夏」鮎は成魚に育つと藻類が多い場所を独占して1m四方ぐらいの縄張りを作ります。
そのころの鮎は黄色が強くなってきますが、縄張りを主張する色だと言われています。
縄張りに侵入してくるものに対しては体当たりして激しい攻撃を加えます。
「秋」成熟期を迎えオレンジ色と黒の婚姻色が強くなった鮎は「さびあゆ」と呼ばれ、産卵のために「落ちあゆ」となって川を下ります。
産卵を終えた鮎は、1年間の短い生涯を閉じます。
鮎の漁法
鮎と日本人との関わりは古く、1200年前の「古事記」にも鮎の記述が見られます。
川釣りの対象魚、食用魚として重宝されてきました。
[梁漁]産卵期に川を下る鮎の生態を利用した漁法。
川の流れの中に、木や竹で作った簗(やな)と呼ばれるすのこ状の台を設置し、上流から泳いできた魚が簗にかかるのを待つ漁法です。
[友釣り]鮎は縄張りを作り侵入するものに体当たりして撃退するという生態を利用した漁法。
生きた鮎をおとりとして鮎の縄張りの中に入れ、体当たりしてくる鮎を引っ掛けるという漁法。
[鵜飼]鵜という鳥を使って鮎を獲る漁法。
岐阜長良川の鵜飼が有名ですが、これを有名にしたのは織田信長です。
鵜飼は当時京都桂川での都人の遊びだったのですが、京文化にあこがれていた信長が長良川の鵜匠を優遇したのが始まりということです。
近年では鮎の放流や養殖も増えています。受精卵を放流する方法、稚魚を養殖して10cm程度に成長したものを放流する方法、稚魚を捕獲し育成する方法などがあります。
鮎の旬の時期
鮎の遊漁解禁は、河川ごとに漁協によって決められていますが、初夏6月1日というところが多いようです。
そのため市場には6月から8月ごろにかけて出回ります。
鮎の旬の時期は初夏から夏になります。
その中でも7月ごろが骨まで柔らかくて美味しくいただけます。
また、旬の時期の終わり頃、産卵前の「落ちあゆ」を好む人もいます。
鮎の美味しい食べ方
現在の日本では、天然の鮎は高級食材の一つで、清涼感をもたらす初夏の代表的な味覚です。
川魚は独特の臭いがあるので嫌いだという人も多いですが、確かに濁りのある川で獲れたものは泥臭くて口に合わないこともあるでしょう。
でも空気が澄んだ清流で獲れる天然の鮎の味は風味がよくて最高です。
[塩焼き]鮎の食べ方としては独特の香気が味わえる塩焼きが一番です。
晩夏のものは腹子が味わえます。
また食べ終わって残った骨をさらに炙り、日本酒の熱燗に注ぐと骨酒として楽しめます。
[田楽]甘辛くした味噌を焼いた鮎に塗ります。
一度焼いたあともう一度味噌を塗るとさらに美味しくなります。
[鮎寿司]川魚には寄生虫がいることがあるので、刺身など生食はしないほうがいいでしょう。
酢や塩につけて鮎寿司にします。
鮎の姿寿司は京都駅の名物にもなっていますね。
鮎の塩焼きの骨を一気に抜く方法!
尾頭付きの魚を食べる場合は、まず上の片面を食べて、ひっくり返してから残った面を食べるという方が多いと思います。
でも鮎の場合は、骨をきれいに抜いて食べることができます。
まずお箸を使って尾びれをとります。
さらにお箸を鮎の身の部分に端から順番に押し当て身を柔らかくしていきます。
十分にほぐれたら、頭の部分を持って軽くねじるようにしてゆっくりひっぱると、骨が筒状になった身から抜けてきます。
筆者の田舎では、鮎は高級魚ではなく普通に食べられていました。筆者は親戚のおじさんにこの骨抜き方法を教わりました。
みなさんもぜひやってみてください。
天然鮎復活への取り組み
日本では清流が消え、鮎がもどってこなくなった川が多くなりました。
そのようなどぶ川の清掃をし、水質浄化を進めて、天然の鮎を復活させようという取り組みが各地でおきています。
直線に固められた川を曲がりくねった自然に近い姿にしたり、産卵しやすいような川底に整備したり、いろいろな取り組みのおかげて鮎がもどってきたといううれしい話題も聞こえるようになってきました。
まとめ
ぴちぴちと生命力にあふれた美しい姿の若鮎は、まさしく初夏の使者、清流の女王と呼ばれるにふさわしい魚です。
観光地の渓流近くにあるお土産屋さん付近では、炉端焼きの鮎の香ばしい匂いにひきつけられますよね。
この夏は、ぜひ鮎を味わってみてください。
(ライター sensyu-k)