リカオンは『ハイエナ』イヌ!?
リカオンは、食肉目(ネコ目)イヌ科リカオン属に分類されるイヌによく似た哺乳類です。
このリカオン属は、リカオン一種のみで構成されています。
リカオンの別名を『ハイエナイヌ』と言いますので、ハイエナにごく近い種だと思われがちですが、実はまったく違うのです。
ハイエナの別名はタテガミイヌ!
ハイエナには『タテガミイヌ』という別名があります。
なんだイヌの仲間じゃないかと思われるかもしれませんが、食肉目(ネコ目)イヌ科ではなく、独立したハイエナ科に属します。
確かにハイエナの容姿はイヌによく似ていますが、身体全体がやや丸みを帯びており、しなやかな作りだといえます。
ですからイヌとネコの中間的な性質をもっていると考えられ、ややネコに近い存在だと言えるかもしれません。
ハイエナともっとも近縁な種はジャコウネコだと言われています。
リカオンは大型のイヌに匹敵する!
リカオンは、サハラ砂漠を除くアフリカ大陸に広く分布しています。
リカオンの体長は80〜110センチほどで、これはシェパードやドーベルマンなどの大型のイエイヌに匹敵する大きさになります。
オオカミもほぼ同程度です。
肩の高さは60〜80センチで、尾は30〜40センチほどです。
リカオンの体重は17〜36キロほどですので、大型犬に比べてスリムで引き締まった身体をしています。
厳しい環境に生きていますので、必然的にそういう体型になるのでしょう。
リカオンでは、その身体の大きさに雌雄差(オスメスの差)がほとんどありません。
リカオンは彩色されたオオカミだった!?
リカオンの学名である『Lycaon pictus』は、彩色されたオオカミという意味で、カラフルな身体の色合いを特徴としています。
また、このリカオンという名の由来は、ギリシア神話に登場する、魔法でオオカミの姿に変えられてしまった王様の名前から取られているのだそうです。
リカオンの体色は個体差が大きく、はっきり決まっていない!
リカオンは、黒やオレンジ、白または灰色などの硬く短いゴワゴワした体毛に覆われています。
この色違いの毛の作り出す模様は不規則で、中には単色の個体もいますので、体色は固体により様々なのです。
ただし、ほぼ共通の特徴として、鼻から目にかけては黒い体毛に覆われており、尾の先端は白くなっているという点が挙げられます。
また体毛の生え方も生息地により異なり、高地に住む個体では毛が太めで密になっており、暑く乾燥したサバンナに住む個体では細めの毛がまばらに生えています。
リカオンの耳はまるくて大きい!
リカオンの耳は、イエイヌやオオカミと比べると非常に大きく、なおかつ丸みを帯びていますので、とても印象的です。一見、ディズニーランドに迷い込んだような…(笑)
リカオンの耳を見ていると、獰猛な性質であるのにもかかわらず、どことなく愛嬌のある感じがしてくるから不思議です。
イヌ属の聴力は一般には他の哺乳類よりやや優れており、その可聴周波数は40〜4万7千Hzといわれています。
ヒトの可聴周波数20〜2万Hzに比べて、高音域ではるかに広く聞き取れることができるのです。
ですから犬笛(約3万Hz)を使うことも可能なのです。
聴力に関しては、イヌ属での種の違いはほとんど見られません。
ですからリカオンの場合も特に優れた聴力があるわけではなく、耳を大きくすることで集音能力を向上させることができるのと、熱帯地域に生息するので、これが体温調節にも有効に働いていると考えられています。
リカオンの裂肉歯は特に発達している!
リカオンは他のイヌ属同様に42本の歯を持ちます。
口を開けると、イエイヌに比べてかなり尖った大きな歯がびっしり並んでいるので、ちょっと驚きます。
あの歯で咬まれたら、相当なダメージを受けることでしょう。
上顎の第四前臼歯(ヒトの小臼歯に相当)と下顎の第一後臼歯(ヒトの大臼歯に相当)を裂肉歯と呼びます。
裂肉歯は、肉食性の動物に特有のもので、獲物を骨ごと咬み砕くことができるように特に鋭く大きく強く発達した歯です。
リカオンの裂肉歯は、歯尖(ヒトの咬頭に相当する突起)が一つしかありませんので、より鋭く対象物に突き刺さりますので、咬み砕く能力は抜群に優れているのです。
リカオンの足の指は4本しかない!
リカオンでは、指趾(足の指)は4本しかありません。
イヌ属の第一指を『オオカミ爪(狼爪=ロウソウ)』と呼びます。親指に相当し、イエイヌでは通常は地面につくことなく、爪だけが見え隠れしています。
リカオンではこの『オオカミ爪』が欠損して、ありません。この点がイヌ属と決定的に異なるのです。
猟犬など速く走るイヌでは、この『オオカミ爪』がその行動に支障をきたす場合があるので、切除してしまうこともあります。
リカオンはスタミナ抜群の長距離ランナーだった!
リカオンの4本の足は長く、走力に優れています。
瞬間的には、時速70キロものスピードを出すことができるといわれていますが、その本質はむしろ長距離の追跡にあります。
リカオンは非常にスタミナがあり、獲物を何時間もかけて追跡することができるのです。
リカオンが獲物を探して一日に移動する距離は、通常半径10キロ圏内といわれています。
ただし獲物が少ない場合には、平均時速10キロ程度の移動を2〜3日もぶっ続けですることもありますし、驚くほど広い生活域を持つのです。
リカオンの生活域は超広大であった!
リカオンはおもに標高3000メートル以下にある草原やサバンナを中心に活動しており、ステップなどの半砂漠地帯にも生息しています。
アフリカ最高峰のキリマンジャロ(標高5894メートル)の頂上付近での目撃例もあるほど、あちこちに獲物を追って出没するようです。
通常の生活域はとても広く、1500〜4000平方キロメートルにも及ぶことがあります。
この中を群れでひたすら獲物を求めて移動していくのです。
当然のことですが、獲物が豊富な時にはこの行動範囲は狭くなりますし、繁殖期には巣を持ちますので、通常期の1/10程度の50~200平方キロ程度に縮小します。
リカオンにはナワバリはない!?
リカオンでは、群れ同士の明確なナワバリはないようです。
あまりにも広大だからなのでしょう。
リカオンも他のイヌ属同様、マーキングを行いますが、リカオンのマーキングは、ナワバリを主張したり、存在をアピールするというよりは、発情期のオスが交尾後にしたり、出産の近いメスが巣穴周囲にすることが多く見られますので、コミュ二ケーションの一環としての行為のようです。
リカオンは社会性のある群れで生活している!
リカオンはおもに昼行性ですが、まれに夜間に活動することもあります。
家族による群れを形成しており、群れは平均で10頭前後といわれています。
最小でも3〜4頭、繁殖期に幼獣を加えると20〜40頭ほどになることが多く、なかには40~60頭もの大集団となっている場合もあります。
この群れの中では、イエイヌ同様のきちんとした序列がありますので、社会性を持ってなかよく暮らしているようです。
またリカオンは群れでの仲間意識が強く、お互いにニオイを嗅ぎあったり、身体を触れ合ったりして、常にコミュニケーションを取っています。
弱った個体がいても見捨てることなく群れに残し、序列の下の個体が獲物を運んできて食べさせることもあります。
リカオンが仲間を呼ぶ鳴き声は数キロメートル先まで届くと言われています。
リカオンは群れで効率的に狩りをする!
リカオンの食性はほぼ完全な肉食性で、群れで組織的、効率的に狩りをします。
リカオンの狩りは、早朝7~8時と夕方18~19時頃がピークになります。
リカオンはライオンなどのネコ属のように獲物に忍び寄って一気に襲いかかるのではなく、獲物を追いかけまわして取り囲みますので、朝と夕暮れの日差しの弱い時間帯の方が相手から見つかりにくくなりますので、より効率良く狩りができるのです。
獲物はおもに視覚と嗅覚で探します。
リカオンも一応雑食性なので草も食べる!
リカオンが狙う獲物は地域によって異なりますが、インパラやガゼル、アンテロープやシマウマなどの中型から大型の哺乳類が多く、ノウサギ、ネズミなどの小型の哺乳類なども捕食します。
一応イヌ科はすべて雑食性ですので、草なども少量食べます、ただし、これはおもに繊維質による体調管理(排便などを促す)目的だと考えられています。
また、他の動物が捕食した食べ残しや、死んだ哺乳類の腐肉などもまれに食べることがありますが、あくまで狩りをして生きた獲物を捉えることがメインです。
リカオンは獲物を追いかけまわし、狙いを絞る!
リカオンは獲物をみつけると、接近しながら追跡していきます。
追跡は10~60分ほどに及ぶこともあり、瞬間的な最高速度で時速60~70キロ、長距離ならば時速50キロものスピードで疾走することが可能です。
リカオンの群れは社会性が高く、組織力に優れていますので、そのチームワークも抜群なのです。その上、スタミナがありますので、それを活かした持久戦が得意なのです。
獲物の群れを追いかけながら幼獣や弱い個体を見つけ出し、ターゲットを絞りこみます。
群れを散開させながら狙った個体を群れから引き離すようにたくみに誘導して追い詰めていきます。
こうして、獲物が疲れ切るまで執拗に追いかけまわし、最後は取り囲んで仕留めるのです。
リカオンは腹に食いつき、一気に仕留める!
リカオンは狙った獲物に追いつくと、まずはその腹を狙って咬みつきます。そして一気に内臓を引き裂いて、息の根を止めるのです。
こうして仕留めた獲物を、序列に従ってその場で即座に食べ始めます。ほとんど一気食いという感じであっという間に食べてしまいます。
それには明確な理由があります。
リカオンの天敵であるライオンやハイエナにせっかく捕えた獲物を横取りされてしまう可能性があるからなのです。
ハイエナの群れは、ときに獲物の横取りを狙って、狩りをしているリカオンの群れを追跡していくこともあるのです。
リカオンの狩りの成功率は、サバンナでナンバーワン!
こうしたリカオンの組織的な狩りは、他の肉食動物よりも格段に効率が良いのです。
その成功率は50%以上とも、70%とも言われており、サバンナの中ではナンバーワンを誇っているのです。まさに、狙った獲物は逃さないということなのです。
リカオンは早食いのチャンピオンでもある!
リカオンは、その抜群のスタミナを維持するために非常に食欲旺盛で、見た目以上の大食漢なのです。
身体の大きさはほぼ同等ながら体重はその倍近くもあるブチハイエナと同量の食物を摂取すると言われるほどです。
リカオンはその強靭なアゴと裂肉歯を使い、バリバリと獲物を片っ端から咬み砕いて、一気食いをしてしまいます。食べるスピードもサバンナでナンバーワンなのです。
食後すぐのリカオンは、まるで獲物を飲み込んだヘビのように腹が大きく膨らんでいます。
その食事量がどれほどのものか、想像がつきます。しかし消化吸収能力も高いので、しばらくすると、はち切れんばかりだったお腹は元通りになり、動き回れるようになるのです。
リカオンの繁殖とは?
リカオンはその生活域によって繁殖の状況が変わります。
温帯域に住む個体群は、冬季になると交尾を行いますが、熱帯域に住む個体群では、一年を通じて繁殖(周年繁殖)します。特に3~6月の雨季に活発になります。
妊娠期間は60〜80日とかなり短めです。
リカオンの群れは、繁殖期から幼獣が群れと行動を共にできるようになる時期までの間だけ巣を持ちます。
リカオンのメスは、土手や岩の隙間、他の動物(ツチブタなど)の古い巣穴を見つけると、そこで出産をし、2〜19頭ほどの幼獣を生みます。
繁殖できるのは高位のメスだけの特権だった!
リカオンの群れの中で繁殖ができるのは、リーダーなど高位のごくわずかの個体だけなのです。ちなみにリカオンの群れでは、メスがリーダーになります。
群れの中では序列がはっきり決まっているので、もし低位のメスが出産した場合、その幼獣は高位のメスに殺されてしまうこともありますし、群れの中ではとうてい生きて行くことができないのです。
これはリカオンの群れでは、メンバー全員が協力して子育てにあたるからなのです。
食餌は幼獣が最優先で食べることができますし、成獣たちは幼獣の世話をして保護をしなければならないのです。
周年繁殖をおこなう熱帯域のリカオンでは、出産間隔は12〜14ヶ月ほどです。
生れたばかりの幼獣には、過酷な競争が待っている!
生れたばかりのリカオンの幼獣は、300~350グラム程度です。誕生直後は目が閉じており、まったく見えません。およそ2週間程度で目が開き、見ることが可能になります。
授乳は母親が立ったまま行います。
乳頭の数は10〜14個です。イヌ属の社会は序列が決まっており、この時期から過酷な競争が始まります。
幼獣たちはまだ目が見えないうちから良いポジション(乳房)を得ようと他の幼獣を押しのけながら、母親の乳頭に食らいつきます。
乳の出の良い乳頭を得た個体は、より早く成長することができますが、競争に敗れた個体は成長が遅れたり、場合によっては栄養不良で死んでしまうことになります。
母親の乳頭の数に対して、生れた子どもの数の方が多いと、当然母乳にありつけない個体が生じてしまうのです!
リカオンの子どもは最優先で育てられる!
こうして成長したリカオンの子どもたちは、5週間ほどの授乳期間を経て11週頃に離乳し、成獣と同じエサを食べ始めます。すでにこの時期には幼獣たちの間にも明確な序列が出来上がっているのです。
群れの中に幼獣がいる場合、獲物は幼獣が優先的に食べることができます。
成獣は獲物を捕えると、まず自分の口でその肉を咬み砕いて食べやすくし、巣穴に持ち帰ります。
そしてそれを吐き戻して幼獣に与えるのです。これを複数の成獣が繰り返し行うので幼獣たちは順調に育つことができるのです。
幼獣は生後7週頃から体毛に変化が見られ、やがて成獣と同じような模様になり始めます。
リカオンの群れは、子どもが成長すると移動を開始する!
リカオンの幼獣は、生後3カ月頃になると巣穴から出て遊ぶようになります。
やがて群れの後を追うようになり、群れの行動に参加し始めます。
生後6ヶ月からは狩にも参加できるようになります。少しずつ成獣たちから狩りの仕方を教わりながら覚えていくのです。
性成熟は1年半〜2年ほどで、寿命は10〜12年ほどだといわれています。
長寿記録では、カザフスタンの動物園での飼育下で、15歳1カ月というものがあります。
群れの幼獣たちが成長していき、巣穴の周囲の獲物が減少してくると、群れは巣穴を放棄して移動を開始します。
これは一カ所に留まってその地域の獲物を取り尽くすことがないようにする知恵でもあるようです。
リカオンのメスは成熟すると群れを離れる!
リカオンの若いメスは生後18~24か月で生まれ育った群れから離れ、血縁関係のないメスだけの群れに合流します。
オスの個体はそのまま群れにいつまでも残りますが、群れが大きくなりすぎた場合に限って、兄弟を伴って離脱することもあります。
リカオンの群れは父系集団だった!
哺乳類が、通常群れをつくる場合、一頭のオスを中心にした母系集団(母親とその子ども)によって構成されることが多く、オスの子どもたちはある程度成熟すると群れを離れ、単独または若いオスのみで群れをつくって暮らしていきます。
ところがリカオンでは、父系集団によって『パック』と呼ばれる群れを作ります。
オスの子どもたちが群れに残り、性成熟した若いメスが群れを離れていくのです。
リカオンの群れのリーダーはメスだった!
ただし、リカオンのこのパックと呼ばれる群れのリーダーはメスです。
リカオンでは雌雄差が少なく、メスの方が体格的に優れている場合が少なくありません。
よそから嫁いできたメスがリーダーとなり群れを引っ張っていくのです。
またパックの中に複数のメスが存在する場合には、イエイヌ同様のきちんとした序列に従いますので、前述したようにリーダーや高位のメスのみが繁殖できるのです。
リカオンの天敵はライオンとハイエナ!
リカオンの天敵としては、まずはライオンが挙げられます。
同じ環境に暮らす肉食獣同士ですから、どうしても争う機会が多いと言えます。
いかに群れで行動するリカオンであっても、体格差では圧倒的にライオンが有利です。
獲物の横取りは日常茶飯事で、ときにその争いで死に至ることもあるのです。
ライオンが原因で死亡するリカオンは10%にも上るのです。
その他、同じようにハイエナに襲われ、獲物を奪われることもあります。それゆえに、リカオンには早食いの技が身についたと言えるのかもしれません。
また、ヒョウやハゲワシなどの猛禽類にリカオンの子どもが狙われることがあります。
リカオンの最大の天敵はやはり人間か!?
リカオンは、広大なアフリカ大陸に広く分布していましたが、徐々にその数を減らしています。
1980年代で8千頭、最近のデータでは3千頭ともいわれています。
ヒトからしてみれば、リカオンは大切な家畜を襲う害獣だとみられてきたのです。
ただし生活域が重なるわけではありませんので、人とリカオンが遭遇する機会はそれほどなかったと考えられますが……。
リカオンは絶滅危惧種に指定されている!
現在、開発による生息地の破壊・分断と狭小化、害獣としての駆除、イエイヌからの伝染病の感染(狂犬病、ジステンパー)などがリカオンに危機的な状況を作り出していると言えるのです。
リカオンは、国際自然保護連合(IUNCN)によるレッドリストでは、絶滅危惧種(EN)に指定されています。
近い将来絶滅の危険性が高いと考えられているのです。
野生のリカオンは壊滅的にその数を減らしているのです。
イヌに似ているから保護が進まない!?
リカオンはアフリカを代表する動物であり、近年は個体数が激減しており、滅多に見ることができない希少な動物であるにも関わらず、その知名度はかなり低いと言えます。
リカオンの容姿はイヌ属そのものですから、観光客にしてみればアフリカに来てまでわざわざイヌを見たいとは思わないなどという意見もあるようです。
リカオンは、サバンナでは、アフリカゾウやライオン、サイ、カバ、キリンといった動物に比べるとどうしても見劣りがしてしまいます。
こうした人気や知名度の低さからわかるように、リカオンの保護はなかなか進まないというのが現状のようです。
リカオンの肛門から芳香が漂う!?
リカオンの肛門周囲にある臭腺はよく発達しており、強い麝香臭を放つのです。
イヌ属は肛門周囲にニオイ物質を分泌する臭腺を持ちます。
ここから、排便時などに液状の分泌物が分泌されます。
個体により異なるニオイを有しますので、ナワバリの主張やその存在をアピールするために使われているのです。
イエイヌが肛門のニオイを嗅ぎ合うのはお互いを認識し合うからです。
香水の素材としてのムスクは、シカの分泌物が原料だった!
麝香(ジャコウ)は、オスのジャコウジカの腹部にある香嚢=ジャコウ腺から分泌される物質を乾燥したものです。
別名は『ムスク』と言い、おもに香料や生薬として用いられています。
甘い香りを持ち、香水の香りを長時間持続させる働きがありますので、香水の素材として非常に重宝されてきました。
またこれを内服することで、強心(心臓の働きを強化)作用や興奮作用などの薬理効果も認められています。
宇津救命丸や救心、六神丸などの伝統的な薬や家庭用の薬にも使用されています。
ただし漢方では煎じ薬として用いられることはありません。
ジャコウジカは性フェロモンとして使っている!?
ジャコウジカは、一頭ごとにナワバリを持ち、単独で生活していますが、繁殖期にだけメスとのつがいで暮らします。
このため麝香は、ジャコウジカのオスがメスに位置を知らせて呼び寄せる性フェロモンとして用いられていると考えられています。
ただし、分泌量は季節に関係がないという説もありますので、まだその役割ははっきりしていません。
ヒトからは、未だ異性を発情させたり興奮させたりする作用のある性フェロモンは発見されていません。
しかし麝香は、ジャコウジカの性フェロモンだと考えられていますので、ヒトにも効き目があると思われています。
したがって、こうした作用のある『媚薬』の一つとして、妄信的に扱われることがあるのです。
動物が作り出す、芳香にヒトも酔いしれる!?
ジャコウジカが作りだした麝香の他にも、ヒトをうっとりと夢心地にするような芳香を放つ物質が多々あります。
マッコウクジラの腸内の結石である龍涎香(リュウゼンコウ)、ジャコウネコの肛門周囲の香嚢から採取される霊猫香(レイビョウコウまたはシベット)などが知られています。
リュウゼンコウは、マッコウクジラの死体から分離され、海岸に偶然流れ着いた物からしか得られない貴重なモノだったようです。
レイビョウコウは、現在飼育(養殖)されているジャコウネコから定期的に採取されていますので、安定した供給がなされています。
リカオン展示舎の転落事故!
2012年の11月4日に痛ましい事故が起こりました。
アメリカ合衆国ペンシルベニア州の動物園で、リカオンの展示舎内に幼児が転落してしまい、11頭飼育されているリカオンのうちの4頭に咬まれて死亡しました。
このピッツバーグ動物園では、幼児が転落した直後に飼育員がリカオン7頭を展示舎外に追い出しましたが、残る4頭は幼児を取り囲み、興奮状態になり次々に咬みついたということです。
うち1頭は飼育員により射殺されました。
展示舎では、柵の他に防護網も設けられてありましたが、3歳くらいのその男児は網の間から転がり落ちてしまったとのことです。
日本国内にもリカオンがいる!
日本国内の動物園でリカオンを飼育し展示しているところがあります。
リカオンの実物を見ることができるのは、よこはま動物園ズーラシア(横浜市)と富士サファリパーク(静岡県裾野市)の二カ所です。
機会があれば、ぜひ見に行ってみてください。
リカオンと誤解されやすいハイエナとは!?
ハイエナは食肉目(ネコ目)ハイエナ科に属する哺乳類で、現在4種が存在しています。
別名をタテガミイヌとも呼ばれていますが、イヌ科の種とはかなり離れた存在になります。
サハラ砂漠以南のアフリカ大陸全般と、トルコ、アラビア半島からロシア南部、インドにかけて広く生息しています。リカオンと生息域がかぶる地域が多々あるのです。
ハイエナはアゴの力が強大で骨を食べる!
ハイエナは、非常に硬い頭骨と強靭な顎を持ち、そのうえ消化能力にも優れているのです。
そのため、他の動物が食べ残すような骨やその周囲の部分をバリバリと咬み砕きながら食べることができますので、『サバンナの掃除屋』とも呼ばれ、『ハイエナは他人の食べ残した腐肉を漁って食べる』というイメージが私たちに強く印象付けられているのです。
他の肉食性の動物に比べてハイエナの頭が小さいのは、アゴを動かす咀嚼筋が強力に発達したためだからです。
ブチハイエナは俊足のハンターだった!
実際には、中型種のカッショクハイエナやシマハイエナは、おもに他の動物の食べ残しなどを漁ることが多いのですが、大型種であるブチハイエナは非常に優れたハンターで、リカオン同様その強靭なスタミナと時速65キロに達するほどの俊足を活かして群れを作って組織的に狩をしています。ヌーやシマウマなどの大型の哺乳類を捕らえるのです。
ただし同じ環境に存在するライオンに獲物を奪われることもしばしばあります。
ハイエナは巣を作る!
ブチハイエナは、他の動物が掘った巣穴を横取りしてそこに住み着きます。
巣穴には食べ残した動物の骨などを貯蔵しておきます。食料が不足すると、この骨を掘り出して食べ、飢えをしのぐことがあります。
だからハイエナの糞には未消化の骨が混じることがあり、白色をしていることが多いのです。
ただし消化不可能な骨や角、蹄などは『ペレット』と呼ばれる塊にして吐き出します。
ハイエナはメスが大きく威張っている!
ブチハイエナはメスをリーダーとした群れを作ります。10頭〜最大で40頭以上もの集団になります。群れの中はイエイヌのように序列がはっきりしており、仲間同士で争うことはありません。平和主義者のようです。
リカオン同様、子を産むことができるのはリーダーだけです。
ただし、リカオンとは異なり、リーダーのメスの子が群れを引き継ぐ女系社会になっています。ハイエナはオスよりメスの方が大きいので、オスは群れの中の序列では、下方に置かれています。
ハイエナの群れの結束は強い!
ハイエナの群れの結束は非常に強く、傷ついたり弱ったりした個体でも決して見捨てることなく、仲間から定期的にエサが与えられます。
ハイエナはリカオン同様に子育ても共同でおこない、各個体が協調しながら世話をするので、生れた子どもの一年後の生存率は60%を超えます。この数字は、野生動物としては驚異的なものだと言えます。
ハイエナの代表格ブチハイエナ!
ブチハイエナは、サハラ砂漠より南側のアフリカ大陸に広く分布する、ハイエナの代表格といえる種です。
灰色の体色に黒い斑点(ブチ)を持ち、体長100〜165センチ、体重は50〜80キロにもなる、もっとも大型のハイエナです。
哺乳類にしては珍しくオスよりもメスの方が一回り大型です。
生殖器が特殊な形状をしており、その外形から雌雄の区別がつきにくいので雌雄同体の下等な哺乳類だと考えられていたこともあります。実際にはオスとメスでは、はっきり異なります。
ブチハイエナは母系の群れをつくる!
ブチハイエナは、『クラン』と呼ばれる母系の群れを形成し、共同の巣穴を持ち群れで狩りをしながら暮らしています。
強力な顎を持ちますので、バリバリと骨まで咬み砕いて、驚異的な速さで獲物を食べ尽くしてしまいます。
これはライオンなどに横取りされる前に食料を確保しようという生活の知恵から生れた行動なのかもしれません。
腐肉を漁るイメージそのもののカッショクハイエナ
カッショクハイエナは、アフリカ南部に分布する中型のハイエナです。
体長110〜140センチ、体重は40〜55キロほどです。ブチハイエナ同様、強力なメスをリーダーとして、巣穴を中心に母系の群れを作ります。
ただしあまり狩をすることはなく、ハイエナのイメージそのままに、ライオンなどの食べ残しや病死した動物の腐肉を漁ります。
単独で生活するシマハイエナ
シマハイエナは、サハラ砂漠北部のアフリカから中近東、ロシア南部からインドにかけての草原や乾燥地帯に広く生息しています。
体長100〜120センチ、体重40〜55キロほどの中型のハイエナです。
背中に黒いタテガミを持ち、胴や四肢にはその名の通り黒いシマ模様があります。
群れは作らずに単独で生活しており、繁殖時にだけつがいになります。
シロアリを専門に食べるアードウルフ!
アードウルフは他のハイエナとはかなり異なった様相を呈する小型の種です。
尖った大きな耳を持ち、ウルフ(オオカミ)というよりもキツネに近い容貌をしています。
別名をツチオオカミともいい、北東アフリカと南アフリカにのみ生息します。
体長55〜80センチ、体重10〜15キロで、歯は細いクシ状になっており、隙間が多く、裂肉歯などは発達していません。
シロアリを主食にしていますが、昆虫や腐肉なども食べます。
シロアリの巣を見つけると一晩かけて巣を破壊しながら20万匹ものシロアリを食べ尽くすこともあります。
シマハイエナ同様、群れを作らず単独またはつがいで巣穴を掘り、生活しています。
ハイエナは両性具有!?
ハイエナは肛門にある臭腺が非常に発達しており、これがメスの生殖器と見誤られていたり、メスの生殖器も外見上肥大化してオスの生殖器と区別がしにくいなどのために、ずっと両性具有の下等な動物だと信じられてきました。
したがって死んだ動物の腐肉を漁るという食性と相俟って、ハイエナの印象は非常に悪いものであり、最悪のイメージがつきまとっています。
実はライオンは横取りが得意だった!?
ブチハイエナにとっての最大の天敵はライオンです。
ハイエナは他の動物が捕らえた獲物を横取りするイメージがありますが、実際には逆で、ブチハイエナは組織的に狩を行い、非常に高い成功率を誇ります。
実はそのブチハイエナが捕らえた獲物を横取りするのが、ライオンなのです。
ライオンはブチハイエナを見つけると、捕食するわけではないのに襲いかかり殺してしまうことがあります。ライオンにとってブチハイエナは、子どもを狙う憎い天敵でもあるからです。
ライオンが唯一ネコ科で群れをなすのは、こうしたサバンナにおける過当競争を勝ち抜くための知恵だと考えられているのです。
ハイエナは実は賢い動物だった!
ハイエナは最近の数々の研究により、実は賢い動物であることがわかっています。
たとえば箱の中のエサを食べるために試行錯誤を繰り返して、カンヌキを外したりするなどの創意工夫をすることができる能力を有することがわかりました。
また自分のナワバリに入ってきた敵の数を正確に数えることができるのです。
これは群れで生活する上で身についた能力とも言えます。つまり、自分たちの群れの数よりも敵の方が多い場合にはスゴスゴと退散しますが、逆に敵の数が少ない場合には果敢に攻撃を仕掛けるというのです。
ハイエナはコソコソ歩く!?
ハイエナは、他の肉食性の動物に媚びへつらうようにその後ろからコソコソと歩く、卑怯者のようなイメージを持たれていますが、実はこれも誤解から生まれたものです。
ハイエナは、前後の足の長さが大きく異なるのです。
前足が長いために、歩く姿がぎこちなく見えるのですが、実は持久力のある俊足ランナーなのです。視野を確保したうえで、スピードに乗って走るので、その姿はなかなか絵になります。
また狩りの時には獲物を執拗に追跡していきますので、あとをコソコソついて行くという誤解が生まれたようです。