キングコブラは世界最大・最強の毒ヘビです。
最強と言うと、いろいろな意味で誤解が生じるのですが、あえて表題に掲げてみました。
なにしろ名前に『キング』が付くわけですから、世の中の人々もコブラの中の『王様』であると認めているわけです。すごい毒ヘビであることに間違いありません。
キングコブラは、キングコブラ属の単独種
キングコブラは、ヘビ亜目コブラ科コブラ亜科キングコブラ属に分類されます。
キングコブラ属はキングコブラのみの単独種です。
その点から言っても、他に並ぶべきモノの居ない、誇り高き、孤高の『王様』であるわけです。
日本では特定動物に指定されている!
日本国内では、キングコブラは『特定動物』に指定されています。
『特定動物』とは、『動物愛護管理法』に規定されている危険もしくは有害な動物等を指します。
おもにライオンやトラ、クマなどの猛獣類やゾウ、サイ、カバ、キリンといった大型動物、チンパンジー、ゴリラといった霊長類やワシ、タカといった猛禽類、ワニ、オオトカゲ、ニシキヘビなどの爬虫類などがこれに該当し、もちろんコブラなどの毒ヘビは全て含まれます。
ところが、シャチは猛獣と言えますが水中でしか生きられず陸に上がることがありませんので除外されていますし、獰猛なホオジロザメ、ウツボなどの魚類も同様です。
またドクガエルなどの両生類、スズメバチなどの昆虫やムカデ、タランチュラなどの節足動物はいかに危険で毒を持つ種であってもこれには含まれません。
特定動物を飼育するには都道府県知事の許可が必要だ!
これらの『特定動物』を飼う場合、あらかじめ届け出をしておき、都道府県知事の許可を受けなければなりません。
許可を受けるためには、各自治体により詳細は異なりますが、毒ヘビでは、マイクロチップを体内に埋めることが義務付けられていたり、常時有効な抗毒血清を用意しておかなければならない、二重のカギのかかるケースで飼わなければならないなど、その制約はかなり厳しいと言えます。
まあ当然ではありますが。
こういった厳格な規制があったとしても、マンションの隣人がコブラを飼っていたら…、それだけでも、かなり怖いですよね。
キングコブラの皮革が人気なのです!
キングコブラの場合、個人等が飼育するという目的で生体を取引するよりも、バッグや財布などに加工・使用するために、その皮革を輸出入することの方が圧倒的に多いのです。
キングコブラは強さの象徴でもありますから、ライオンやトラなどの猛獣の毛皮を手に入れて飾っておく人たちの心理に共通しているのかもしれません。
ワシントン条約が国際取引を規制している!
キングコブラの皮革は、ワシントン条約の付属書Ⅱに該当しています。つまり、国際取引を規制しないと絶滅の恐れのある種に挙げられておりますので、その輸出国政府の発行する許可書が無いと日本国内には持ち込めないことになっているのです。
したがってキングコブラの場合は、生体そのもの(もちろんかなり危険ですが)というよりは、その皮革が輸入制限の対象になっています。
キングコブラはアジアのジャングルにいる!!
キングコブラは、インド東部からインドネシア、フィリピン、中国南部など東南アジアの広い地域の、おもに熱帯雨林(ジャングル)に生息しています。なかには山岳地帯や平原に分布するモノもいます。
キングコブラは5メートルを超えることもある!!
キングコブラの成体は、平均で3~4メートルほどの長さになり、最大で5.5メートルにもなります。体重は8~10キロほどです。
1924年に捕殺されたキングコブラの個体が全長559センチで、現在のところ最大のモノとされています。
1932年にマレーシアで捕獲された個体が554センチで、生きているモノとしては最大になります。体重では12.7キロという記録もあります。
その他400センチを超える個体が多数捕獲されていますので、キングコブラは世界最大の毒ヘビであると言って間違いありません。
キングコブラの体色はバリエーションに富んでいる!
キングコブラの体色のバリエーションは豊富で、暗い緑色から黒に近いモノ、暗褐色やオレンジがかった明るい色を呈するモノもいます。
そしてそこに黒や褐色、場合によっては黄色などの不鮮明なシマが入る個体も多く見られます。
キングコブラの体色は生息地によって変わる!
このキングコブラの体色は、捕食対象から目立たないように保護色のような役割をしているので、その生息地によって大きく変わるのです。
簡単に言ってしまうと、周囲の明るさに応じて、熱帯雨林(ジャングル)に住む個体は濃い色をしており、平原に住む個体は淡い色をしているということです。
ただし幼体の場合はほぼ共通で、黒っぽい色を呈し、横シマが明瞭に見られます。
その目はゴールド色をしており、中央の瞳は黒く丸くなっています。
キングコブラはどこにでも現れる!
キングコブラは、地上ばかりでなく、木登りも得意なので樹上でも生活できますし、泳ぎも得意なので、湿地や水辺などでは水上や水中で生活することもできるのです。
こういった生態は、実はキングコブラの食性に大きく関係しているのです。
キングコブラは他のヘビを食べる!!
キングコブラはもちろん肉食性なのですが、おもに他のヘビを好んで捕食しています。
したがっていかにもヘビの出没しそうな所によく現れます。つまりネズミや鳥類、カエルなどが生息する場所で、それを狙うヘビが現れるのを待っていることが多いのです。
そのほかによく食べているのが、トカゲ類などの爬虫類です。
同じ爬虫類同士ですから共食いに近いといえるのですが、近似種であれば身体に必要な栄養素がすべて揃っているわけですから、消化効率が非常に良いということになります。
キングコブラは好物の爬虫類がいない場合、鳥類の卵や小型の哺乳類を捕食することもありますし、飼育下ではネズミなどを食べることもあります。
キングコブラの学名は『ヘビを食べるモノ』だった!
キングコブラの学名は、Ophiophagus Hannahですが、この属名を表すOphiophagusとは、『ヘビを食べるモノ』という意味です。それほどキングコブラは好んでヘビ類を食べており、人々にも認知されているのです。
ですから英語名の『KING』という名の由来も、コブラの最大種であり威厳に満ちた王のような存在というよりも、他のヘビを圧倒して食い尽くす最強の王者というところから来ているようです。
キングコブラは巣を作り、卵を守る!
キングコブラの生態の最大の特徴として、産卵のために巣を作るということが挙げられます。これはヘビ類では唯一といってよい行動なのです。
キングコブラはマムシのような卵胎生ではありません。産卵期を迎えると、メスは木の洞などに枯れ葉を集め、そこに20~50個程度の卵を産みます。
ヘビ自体は変温動物ですので、鳥類のように直接卵を温めているわけではありません。
卵を枯れ葉などで覆い、その周囲にトグロを巻いて居座り、卵の保護をしているのです。
枯れ葉は発酵が進むと熱を発しますので、その熱を利用しているのかもしれません。
ただしキングコブラの生息域は熱帯および亜熱帯地域なので、特にその熱を利用しなければならないほど外気温が低いということではありません。
こうしてキングコブラの卵はメスにしっかりと守られて、60~80日程度でふ化します。
キングコブラの寿命は、野性下では20年ほどだと言われています。
巣を守るキングコブラのメスは非常に攻撃的!
このように巣をつくり、それを守っているときのキングコブラは非常に神経質で、かなり攻撃的になっています。巣に近づくモノに対しては容赦なく威嚇し、場合によっては激しく攻撃を加えることもあるのです。
この点では、卵胎生で妊娠中のマムシのメスの行動とあまり変わりません。
キングコブラはヒトの目の高さまで直立する!!
キングコブラが相手を威嚇する場合、トグロを巻いて、その体長の1/3ほどを持ちあげて、コブラ独特のファイティングポーズを取ります。
キングコブラが興奮すると、もたげた鎌首の頸部を大きく拡げ、イヌのような低い唸り声(呼気音)を発しながら威嚇します。
ただし、肋骨の構造が異なるので、インドコブラなどのフードコブラ属の種ほどまで頸部は大きくは拡がりません。
大きな個体の場合、その頭の位置が高さ1メートルを超え、大人の胸元から子どもなら目の高さを上回るほどにまで達します。
まさに大蛇ににらまれるといった感じです。
これは想像するだけでもかなり恐ろしい状況だと言えます。
キングコブラは高さ1メートルのファイティングポーズのまま迫ってくる!
キングコブラの本当の恐ろしさは、この高さ1メートルにも達するファイティングポーズを取ったまま、移動することができるという点です。
他のコブラもキングコブラ同様に、トグロを巻いて鎌首を持ちあげるという威嚇のポーズを取りますが、その体勢のまま移動することはできません。
ですから、ある程度の距離さえ確保できていれば、いきなりガブっと咬まれる心配はありませんが、キングコブラはいつでも咬みつけるぞという、そのままの体勢でこちらに近づいてくるのです。
その状況では、いつ攻撃されるかわかりませんので、これほど恐ろしいことはありません。
キングコブラは実はおとなしい!
ただしその移動速度はゆっくりしたものなので、走って逃げれば子どもでも十分に逃げ切れるほどです。
また、ブラックマンバのように必要以上に追いかけてくることはありませんので、離れてしまえば大丈夫だと言えます。
キングコブラは実はおとなしい毒ヘビですので、通常はそれほど攻撃性が高いわけではありません。
むやみやたらにこちらから刺激をしなければ、ジャングルで出くわしてもキングコブラの方から去っていきます。
キングコブラの毒は『キング』ではない!
キングコブラの持つ毒は他のコブラ類と同様の神経毒です。毒の強さは、かなり強烈なモノで、マムシの12倍といわれています。
ところが、他のコブラ類と較べると突出して強い毒というわけではありません。毒の強さでは『キング』ではないのです。
他のコブラ類の毒が強過ぎるということでもあるのですが……。
キングコブラの毒は、ヘビ毒ランキングの何位ぐらい?
毒の強さを表す指標として、LD50値がよく使われます。
これはマウスによる実験データから求められたもので、毒を注入した個体群の半数が死亡してしまう量を、体重1kg当たりに換算して数値で表したものです。
キングコブラの毒のLD50値は1.7mg/kgです。体重50キロのヒトなら85mgに相当します。
この数値は、某サイトに掲載されているヘビ毒ランキングの46位に該当します。
まあ、キングコブラという名前からしたら、微妙な位置付けと言えますよね(笑)
ただし、前述したようにマムシの毒(20mg/kg;ランキングでは78位)と比較すると、実に12倍もの強さになりますので、かなり強力であるのは間違いありません。
毒の強さよりもその量が問題だった!
キングコブラに咬まれて問題なのは、毒の強さよりもその量です。
キングコブラはコブラの仲間では最大種ですし、側頭部にある毒腺も大きく発達しているために、一回の注入量が非常に多いのです。
一度に分泌される毒液の量は7ミリリットルにもなります。これは他のコブラ類の数倍にも相当する圧倒的な量なのです。
また毒素の量としても実質350〜600mgにもなりますから、ヒトのLD50値の5倍以上にも達しているわけです。
ですから万が一、キングコブラに咬まれた場合は、すぐに処置をしないと死に至る可能性が非常に高いと言えるのです。
キングコブラの生息地域で咬傷事故は頻発している!?
キングコブラは、山地の森林(ジャングル)がおもな生息域ですから、通常ではヒトとの接触はほとんどありません。
前述したように性質はおとなしいので、刺激を与えない限り攻撃してくることもありません。
キングコブラによる咬傷事故は他のコブラ類に比べて極めて少ないと言えます。
タイでは、キングコブラは神聖な動物として扱われている!
「タイ王国」では、キングコブラは神聖な動物として扱われています。
ですから、たとえ人里に現れたとしても、けっして殺すようなことはありません。コブラを取り扱う専門の職人がおり、こういう人たちの手で捕獲して、丁重に森林の奥へと逃がすのです。
キングコブラとヒトは共存できる!
キングコブラが人里に現れるのは、ネズミなどを狙って出没する他のヘビ類を捕食するためです。通常はジャングルの奥地に居ますので、めったに現れるわけではありません。
キングコブラは家畜を狙うこともありませんので、駆除の対象にもなっていません。
ヒトに直接害を与えることはありませんし、棲み分けもできていますから、十分に共存できるはずなのです。
キングコブラに咬まれて生還した男がいた!
キングコブラに咬まれた人がいます。
フランスにある民間研究機関の『パスツール研究所』というところで、研究のために飼われていたキングコブラにエサをやろうとした際、研究員が指を咬まれる事故がありました。
『パスツール研究所』は、生物・医学の専門の研究機関ですので医師も駐在していますし、抗毒血清も用意されていましたので、早急な処置がなされたために、死亡事故には至りませんでした。
しかし、その毒の強さと量は尋常ではなかったようで、治療に使われた抗毒血清は、実に1リットルにもなったそうです。
キングコブラの実物が見られる!
現在、日本国内でキングコブラを飼育・展示しているのは、群馬県にあるジャパンスネークセンター(http://www.snake-center.com/)があります。また静岡県にある体感型動物園『イズー』でも飼育されているようですが、ホームページ(http://www.izoo.co.jp/)にはキングコブラに関する記載が見当たりません。
かつて上野動物園の両生爬虫類館でも飼われていましたが、2007年9月に頸部に腫瘍ができたために死亡してしまいました。
ヘビ使いをご存知ですか?
ヘビ使いをご存知ですか?インドの大道芸で、カゴに入ったコブラが顔を出し、ヘビ使いの笛の音に合わせて踊るというものです。
このとき踊らされているのは、キングコブラやインドコブラです。
キングコブラは大きくて見栄えがするのですが、インドコブラは鎌首を持ちあげたときのファイティングポーズが素晴らしく絵になるのです。
インドコブラなどフードコブラ属は骨が拡がり、頸部を半球状に平べったく膨らますことができるのです。
ちなみにインドコブラの頸部の背面にはメガネのような特徴的な斑紋がありますので、すぐわかります。
ヘビ使いの笛はコブラには聞こえない!
現在インドでは、コブラの捕獲が禁止されていますので、かつては数十万人いたといわれるヘビ使いも激減しまったそうです。
ヘビ類には、聴覚器官は痕跡程度にありますが、実際に音を聞き取ることはできないといわれています。したがってヘビ使いが吹く笛の音は、コブラには聞こえていません。
ヘビ類は、音は聞こえずとも、振動を感知することはできますので、ヘビ使いがカゴや地面などを足で叩いたり突っついたりすることでコブラを刺激して、ファイティングポーズを取らせているのです。
そのときのコブラの動きに合わせて巧みに笛を吹いているので、あたかも笛の音色に合わせて踊っているように見えるのだそうです。
コブラの毒は抜かれていた!
ヘビ使いになるには10年以上の修行と経験が必要とされていたそうです。
いかに長く接して慣れていたとしても、コブラに咬まれることはあるそうです。
ただ実際に興行で使われるコブラはその毒牙が引き抜かれています。
その他の小さな歯はありますので、咬まれることはあるそうですが、毒はありません。
もし大都会の大通りで、猛毒を持つコブラが逃げ出しでもしたら、それこそ街中がパニックになることでしょう。
キングコブラに天敵がいる!!
無敵で怖いものなしだと思われがちなキングコブラですが、実は強力な天敵がいます。
それはクジャクです。
オスが美しい大きな羽根を拡げることで有名な、あのクジャクです。
クジャクはヘビ類を好んで食べます。
また神経毒に耐性があるため、たとえ咬まれても、キングコブラの毒がまったく役に立たないのです。
同様にサソリの毒も効きませんので、こちらもクジャクの餌食になってしまいます。
ヘビやサソリなどヒトが嫌うモノをまとめて『蛇蠍(だかつ)』などと言いますが、あの美しい姿をしながら、コブラやサソリを食べるとは、恐るべし、クジャク……
そしてクジャクは神様になった…
クジャクが最大、最強の毒ヘビであるキングコブラをいとも簡単に捕え、やっつけてしまうことは、昔からインドではよく知られていました。
このことから仏教では悟りを妨げる三毒を食べて浄化する(邪気を払う)シンボルとして崇められています。そして、その姿を『孔雀明王』として現わし、信仰の対象にもなっているのです。
孔雀明王は女性の尊格でありながら、『戦女神』となっています。
キングコブラの毒から鎮痛剤が作られている!
一般に毒ヘビの持つ『ヘビ毒』は危険なモノとして取り扱われていますが、抗毒血清を作るばかりでなく、人類にとって有用な薬として研究・開発がすすめられています。
キングコブラの毒はその牙から採毒され、鎮痛剤や関節炎の治療薬として合成されています。
モルヒネの20倍もの鎮痛効果があり、非常に有効な痛み止めなのです。
その他にもブラックマンバ、ガラガラヘビなどの多くの毒ヘビのヘビ毒も採毒され、研究・開発の対象になっています。
1リットル450万円!キングコブラの毒液は超高額だった!
キングコブラの毒液の取引価格は、1ミリリットル当たりおよそ4500円です。
1リットルに換算すると、なんと450万円にもなるそうです。
需要はとても多いのですが、量が限られていますし、採毒には危険を伴いますので、高額にならざるを得ないようです。
ちなみにサソリの毒液はもっと高価です。1リットルでおよそ11億円もするそうです。
これは1回の採毒でわずか0.5mgしか採取できず、1キロ採取するのに数十万匹のサソリが必要だからだそうです。
毒ヘビに咬まれ、毎年3~4万人が死んでいる!
ヘビ類は全世界でおよそ2700種おり、そのうち約300種が毒を持ちます。
毒ヘビによる咬傷事故は、世界で年間およそ50万件発生しており、そのうち3〜4万人が死に至っています。
特にアフリカやアマゾン流域での被害が多く、医療の遅れや経済状況もあり、致死率は15%に達するとも言われています。
医療の充実したアメリカ合衆国でも年間6000〜7000人が咬まれ、14〜15人程度が死亡しています。
野口英世博士は毒ヘビの研究をしていた!
1909年に出版された、『ヘビ毒』という本があります。
1000ページにも及ぶ大著はすべて英語で書かれています。著者は日本が誇る医学者である、あの野口英世博士です。
野口博士は黄熱病の研究で知られていますが、実はそれ以前からアメリカで毒ヘビの研究もされていたのです。
特に『コブラ』の毒については詳しく書いてあり、神経毒として呼吸障害を引き起こすことが記されています。『ヘビ毒』に関しての、世界最初の学術書としても知られているのです。
ヘビ毒には神経毒と出血毒の2種類がある!!
ヘビ毒に関しては、大きく分けるとコブラなどが持つ神経毒とマムシやハブなどが持つ出血毒に分類されます。
コブラなどが持つ神経毒は、その名の通り神経系に作用して、神経の伝達を阻害します。
特に自律神経といわれる、自分の意志と関わりなくセルフコントロールをする系統が麻痺を起こしてしまうと、生命活動が維持できません。
心臓を動かす、呼吸をする、体温を維持する…こういったことに支障が起きてしまうのです。
ですから神経系の麻痺を起こす前に、なるべく早期に治療を始めなければ、死に至る可能性が高いのは言うまでもありません。
キングコブラに咬まれると、人間は15分以内で死に至るという説もあるくらいなのです。
神経毒は、派手さはないが、致死率は高い!!
コブラに咬まれた部位は、痛みを伴うよりも神経麻痺によるシビレが強く現れます。
激痛を伴う出血毒を持つヘビに咬まれるよりも軽く見られがちですが、これは大きな間違いです。
血が止まらない、激しい痛みを伴う、組織が壊死して変色するなどという症状が現れる出血毒に比べれば、けっして派手さはありません。
ですが、即効性があり、早期に重篤な状態に追い込まれてしまい、致死率が高い神経毒は、恐ろしいモノなのです。
もし、キングコブラに咬まれたら!?
私たち日本人が、キングコブラに咬まれるなどということはまずありませんが、何かの用事で生息地に出かけたり、ジャングルを探検したり……などということがあるかもしれませんので、その対処法を覚えておいて損はないと思います。
まず毒ヘビに咬まれたと判った場合、冷静になりそのヘビを確認し、種を特定できる特徴などを観察してください。色、形、大きさなどをしっかり覚えておいてください。
毒ヘビに対しては、抗毒血清の接種がもっとも有効なのですが、ヘビの種によって抗毒血清は異なります。他の毒ヘビの血清では、まるっきり効き目がない場合もあるのです。
そして医療機関を目指して、迅速に行動してください。とにかく一刻も早く処置をしなければなりません。
毒を排出することで、症状が軽くなる!
次に毒を排出することを考えなければなりません。
腕や足などを咬まれた場合、傷口から毒を絞り出すように押し出し、その部位よりも心臓寄りの場所を圧迫して、毒が拡がらないようにすることが大事です。
清潔な水が確保できる場所なら、傷口を水で洗い流してください。ただし汚れた水では別の感染を起こすこともありますので、要注意です。
こうすることで、体内に注入された毒の量を減らすことができます。
特にキングコブラは一回の毒の注入量が多いので、致死量を大きく上回っていることがほとんどです。少しでも毒を排出することが、その後の生死を分けると言っても過言ではありません。
そして一刻も早く最寄りの医療機関に駆け込むことです。
毒を口で吸い出すのは、どうなの?
万が一、キングコブラを始めとした神経毒を持つコブラ類に咬まれた場合、毒の侵入・拡散を防ぐために、その対処法として口で吸い出すことを挙げている場合があります。
しかしこれはかなりの危険を伴いますので、止めた方がよいです。口腔内や消化管に傷があった場合、そこから体内に毒が取り込まれる恐れがあるからです。
神経毒はタンパク質で構成されている!
コブラ科の毒ヘビの持つ神経毒は、ほとんどがタンパク質から構成されています。
理論上では、飲み込んだ毒は胃内に入ると通常のタンパク質同様に胃液によってアミノ酸に分解されてしまうので、まったく問題ないということになるのですが…。
あくまで口腔から胃までが無傷であれば…の話です。
キングコブラはゾウをも倒す!?
さて、キングコブラの生息地であるインドから東南アジア地域にかけては、アジアゾウも生息しています。
現地ではキングコブラはゾウをも倒すと言われていますが、本当でしょうか?
前述したように、マウスのデータから得られたキングコブラの毒液のLD50値は1.7mg/kgですから、体重50kgのヒトではおよそ85mgになります。
キングコブラが一回咬むときに分泌される毒液の量は約7ミリリットルといわれ、この中に350~600mgのヘビ毒が含まれていると考えられます。
この毒量はヒトに換算すれば、実に5倍以上に相当します。
ヒトなら15分以内で死亡するといわれるのも、この辺りのデータからのものでしょう。
ゾウの体重はヒトの50~100倍!
ところで、現地に生息するアジアゾウ(インドゾウ)では、オスの平均体重は5400キロ、メスでも2700キロに達します。ヒトの体重の50~100倍にもなるのです。
理論上は小型のメス(2500キロ)であっても、4250mgの毒量が必要になりますので、一咬みでゾウを死に至らしめるのは、ちょっと無理かなと思います。
神経毒ですから、フラフラとさせて、まともな状態で立っていられない…という意味での『倒す』は可能でしょう。
キングコブラの毒牙がゾウの分厚い皮膚に刺さるのか!?
キングコブラの毒牙は、長さが1センチ程度と他の毒ヘビに比べてかなり短めです。
これでは、分厚いゾウの皮膚に深く食い込ませることは不可能です。
また初回の攻撃で毒牙が折れる可能性が高いので、二度目以降の攻撃はかなり難しくなります。
それに…キングコブラの毒牙は、注射針のように中が中空になっているのではありません。
溝牙といい、毒牙の表面に溝が切ってあり、毒腺から分泌された毒液は、その溝を伝わって注入されますので、分泌される毒がすべて相手の体内に注入されるとは限りません。
実際にキングコブラに咬まれたことで死んだアジアゾウがいるようですが、体調が弱っていたとか、子どものゾウであったとか、別の死に至る原因があった可能性もあります。
いかにキングコブラでも、ゾウを倒すのはちょっと無理なのではないでしょうか。
頭を切り落とされたヘビが、咬みつく!!
3年ほど前の記事に掲載されていましたが、中国の広東省の仏山という街でその事故は起こりました。
高級レストランの厨房で、コブラを使った料理を作っていたところ、頭を切り落としたコブラのその頭に咬まれて料理人が命を落としました。
毒ヘビは、インドシナドクハキコブラ(記事のママ)と記載されています。
頭を切り落としてからすでに20分以上経過していたにも関わらず、その頭だけのコブラが料理人の手に咬みついて毒液を注入したというのです。
実は頭を切り落とされてもすぐには死なない!
爬虫類では、頭と身体を切り離されても1時間程度はそれぞれ活動が続くそうです。
身体の方は動き回り、暴れ回ることでしょう。切断された頭には脳が残っていますし、目もあれば、アゴを動かす筋肉も付いています。
切り落とした頭といえども猛毒を持つコブラなら慎重な取り扱いが必要なのです。
これは人間にも該当します。
断頭台(ギロチン)で処刑されて首をチョン切られても、即死ということではありません。
切り落とされた頭は、30秒から1分程度ではまだ脳が死んでいませんので、音や光に反応するそうです。
眼を見開いて処刑者を睨みつけたり、口を開けたり(声は出ません)することがあるようです
ドクハキコブラの得意技は?
ドクハキコブラには、特殊な技があります。コブラの仲間ですから猛毒を持ちますが、毒牙で咬むばかりでなく、相手の眼や口を狙い、最大で3メートルも毒牙から毒液を飛ばして吐きかけるという攻撃をするのです。
毒牙の先端部が前方に開口しているので、こうした攻撃が可能なのです。毒液が眼に入った場合、ヒトでは失明することがあります。
もしかしたらこの料理人は、咬まれただけでなく、目や口などにも毒液を吐きかけられていたのかもしれません。
コブラ科の仲間はすべて毒を持つ!
ヘビ類にも分類方法が複数ありますが、コブラ科は、コブラ亜科とウミヘビ亜科に分かれています。どちらもすべて毒を持つヘビたちです。
コブラ亜科は、生息する地域により、おもにアフリカとアジアにかけて分布するHemibungarini族とアジアからアメリカにかけて分布するCalliophini族に二分されます。
Hemibungarini族には、キングコブラ、ブラックマンバを始め、インドコブラなどのフードコブラ属が含まれます。
Calliophini族にはサンゴヘビ属、ベニヘビ属など、南北アメリカに生息するコブラ類がすべて含まれます。
(ライター オニヤンマ)