強いものに模様などを似せることを擬態(ぎたい)といいますが、トラフカミキリはスズメバチに擬態させたカミキリの一種。
でも、実際はどんな昆虫なのでしょう。
トラフカミキリって?
トラフカミキリはカミキリムシの一種で、模様がとてもスズメバチに似ています。
よく見ると、翅の色や体の形など、細部は全く違うということがわかるのですが、パッと見の雰囲気はまるでスズメバチそのものです。よくぞここまで似せたな、というくらい見事なテクニック。
でも実際のところ、トラフカミキリは人を襲ったりはしませんし、刺すこともありません。
確かにカミキリムシという名前の通り、立派な顎をもっていて、その噛む力は半端ないのですが・・・。
ちょっと脱線しますが、カミキリムシは噛み切り虫からきてるそうです。また、一説には髪切り虫とも。
髪の毛を切ってしまううほどの虫。決して「紙切り虫」のようなヤワな顎ではないのでご用心。
木の皮の繊維を嚙み砕くほどの丈夫な顎は、噛まれると結構痛いのです。
トラフカミキリの棲み家
トラフカミキリの幼虫は桑の葉を食べます。
その昔、日本で養蚕業が盛んだった頃、あちらこちらに桑の木が植えられていました。
桑畑なるものが一面に広がる光景は、今はもうほとんど見ることのない光景ですが、現在でも群馬県では養蚕業を営んでいる方がいらっしゃるようです。
その桑の害虫だったのがトラフカミキリです。
当時のトラフカミキリの被害は尋常ではなかったようで、桑の植え付けから3年ほど経ったくらいの木からトラフカミキリの害を受けはじめ、一本の木に5~6匹ほどの幼虫がいるとその木はいずれ枯れていってしまったそうです。
幼虫から成虫に至るまで、幼虫の時は木の柔らかな部分を、成虫になると固い部分まで、と桑の木の色々な部分を食べ分け、一本の木で一生を終えることもあるトラフカミキリは、養蚕業を営んでいる方たちの天敵だったようです。
対処方法としてはやはり殺虫剤が最も効果を表したようで、卵などを見つけて除去するなどということは至難の業だったようです。
予防として、トラフカミキリが産卵しにくいように、なるべく木に亀裂の入らない若い木をどんどん増やしていくなどの工夫をしていたそうですよ。
かつて養蚕業を営んでいた土地には野生化した桑がまだ残されていたり、山間地には山桑という養蚕業で植えられた畑の桑とはまた別の種類の桑が自生しているところもあり、トラフカミキリはそんな場所でも見ることが出来ます。
トラフカミキリの生態
トラフカミキリは桑の木の皮の裂け目や根元で4~5回の脱皮を繰り返しながら幼虫のまま越冬し、翌春に蛹室を作ってそこで成虫になります。
成虫としての寿命はわずか20~30日ほど。その間に交尾をして、産卵をします。
トラフカミキリの成虫は桑の木はもちろんですが、他にも栗やリンゴの木の皮、枯れ木の樹液を餌にしています。日中に活動が活発になりますが、あまり日差しの強いのは苦手のようです。
日本のトラフカミキリ
日本にはトラフカミキリの他にも体にハチと同じ黒と黄色をデザインしたカミキリムシは沢山いますが、その模様の入り方はそれぞれ微妙に違っていて、トラフカミキリほど完成度の高い擬態をしているものは、そう多くはありません。
しいて言うならば、本州中部以南に生息するヤノトラカミキリや千島列島や九州地方に生息しているオオトラカミキリが人間が思わずハチと見間違ってしまうくらいでしょうか。
ちなみに、カミキリ自体は名前が確認されている種類だけでも約2万種類。
日本にも800種類ほどが生息しています。
熱帯雨林に生息する最大のカミキリムシは15~20㎝の大きさのものもいて、その幼虫の大きさたるや25㎝!!!というのだから驚きです。日本の最大のカミキリはハナカミキリで3㎝ほどです。
(ライター ナオ)