もっともヒトをたくさん殺している毒ヘビとは?
ブラックマンバは、有鱗目ヘビ亜目コブラ科マンバ属に分類される、猛毒を持つ大型のヘビです。
人類史上、もっともヒトをたくさん殺していると言われる毒ヘビで、生息するアフリカではとても恐れられています。
世界で二番目に大きい毒ヘビ!
ブラックマンバの全長は2~3.5メートルほどで、最大のものでは4メートル50センチにもなることがあります。
ですからキングコブラに次いで、『世界で2番目に大きい(長い)毒ヘビ』だということになります。
ただし、ブラックマンバの体型は細長く、太さがあまりありませんので、大型種といえども、その長さの割にかなり軽量なのです。
最大の個体でも、体重はせいぜい2キロほどしかありません。
ブラックマンバはアフリカにいる!
ブラックマンバは、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の東部と南部の地域に分布しています。
ブラックマンバのおもな生息地は乾燥したサバンナや岩場の多い荒れ地などです。ただし、草原や森林地帯などでも生活していけますので、この地域ではどこで出くわすかわかりません。
ブラックマンバは、地表での生活が主であり、地面を這いまわっていますが、木登りもうまく、樹上にも移動しますし、他のヘビ同様、もちろん泳ぐこともできます。
ブラックマンバはおそろしい毒ヘビには見えない!
ブラックマンバは細身のヘビで、頭の形も毒ヘビ特有の三角形ではありません。
また目が大きく、割合かわいらしい顔をしていますので、パッと見では、猛毒を持つ毒ヘビだとはとても思えません。
ブラックマンバの体色は黒くない!!
ブラックマンバの体色は、灰色または薄い緑色のあまり目立たない地味な色をしています。全体的にほぼ単色で、特別な模様などもありません。
あれ?と思われましたか(笑)
ブラックマンバは、実は黒くないんです。名前の『ブラック』は、体色が黒いからではなく、開けた口の中が黒いことから名づけられました。
ブラックマンバの口の中はまっ黒!!
ブラックマンバの口の中がなぜ黒いのかはよくわかっていません。ただし、この黒い口が、相手を威嚇することに役立っていることは確かです。
ブラックマンバは敵に相対すると、シューという呼気音を発しながら大きく口を開けて、黒い口の中を見せつけて相手を威嚇するのです。
敵をビビらせる黒い口の中!!
ブラックマンバの体色は地味な色合いで、およそ猛毒を持つ毒ヘビらしくない容姿をしています。ですから通常通り、鎌首を持ちあげて戦闘体勢に入ったところで、相手に恐怖を感じさせたり、自分は猛毒を持つ毒ヘビであるから危険だぞと十分にアピールすることができないのだと思います。
そこで相手の意表を突くような、真っ黒い口の出番になるのです。
大きく開かれた口の中が、真っ黒である……。黒い口の中を見せられた相手は、相当に驚き、恐怖や危険を感じることでしょう。
青い舌を持つトカゲもいる!!
同じ爬虫類に、アオジタトカゲという種がいます。トカゲ科アオジタトカゲ属に分類されており、その舌が青紫色をしているのが特徴です。
こちらもなぜ舌が青いのかはわかっていません。
ただしアオジタトカゲの行動を見てみると、敵と遭遇した場合にこの舌を突き出しながら呼気音を発しますので、やはり威嚇のために役立っているのは確かなようです。
チャウチャウも青い舌を持つけれど……
このほかに、イエイヌのチャウチャウも舌が青いことで有名です。
ただし、色の表現としては『青黒い』と言われ、こちらはやや黒みがかった青色を呈しています。
チャウチャウは相手を威嚇する時に舌を出すことはありませんので、なぜ青い舌をしているのかはわかっていません。
カラスは口の中まで真っ黒!!
またブラックマンバ同様に口腔内が黒い動物として、カラスが挙げられます。
カラスは種類にもよりますが、幼鳥の口の中は通常通りの赤い色をしています。それが、成長するにつれてメラニン色素が増えていき、やがて舌を含めて、口の中が真っ黒に変色していくのです。ですから口腔内の変色の度合いは、成長(年齢)の目安にもなっています。
このカラスの口腔内の変色は、ヒトの皮膚のように日光に当たることでメラニンが産生されるのではありません。カラスの体内にある『チロシナーゼ』という酵素が関わっており、この働きによりメラニンが大量に作られていくのです。
ブラックマンバの超高速伝説!
ブラックマンバは、アフリカでは最大(最長)で、最強の毒ヘビでもあるので、その性質や攻撃性などがかなり誇張され、伝説的に広められています。
そのひとつに、ブラックマンバはウマよりも速く移動するというものがあります。
ブラックマンバは、ひとたび狙いをつけると執念深く追いかけてきて、たとえウマに乗って逃げても猛スピードで追いつき、馬上の人間に咬みつく…というような話があります。
これは全くの事実誤認です。確かにブラックマンバはとても素速く移動できますし、実際に恐ろしい毒ヘビであるのは事実ですが…。
ブラックマンバはヘビ属最速!?
ブラックマンバは、ヘビ属の中でも最速であるといわれるほど機動力が抜群で、かなりのスピードで移動することができます。
その速度は時速15~16キロ(100メートル走で23~24秒)とも、瞬間的には時速20キロに達するとも言われる程です。悪路であっても滑るように移動できますので、ジャングルや湿地帯でも走って逃げるヒトを追いかけて、咬みつくことは十分可能です。
ただし、さすがにウマとなるとムリでしょう。でもウマに乗っているからといっても、ブラックマンバに高速で追いかけられたら恐怖の一言ですが…
ブラックマンバの毒は強く、しかも注入量が多い!
ブラックマンバは非常に瞬発力に優れ、とても攻撃的な毒ヘビです。
またその動きは非常に正確なので、咬みついた場合、確実にその毒牙を相手の体内に差し込んで、毒液を注入することができます。
ブラックマンバの毒は非常に強く、一度の注入量も多いのです。即効性の神経毒のため、咬まれた場合の致死率は非常に高いと言われています。
すぐに処置をしなければ、数十分以内に死に至るほどだと言われています。
ブラックマンバの毒はマムシの63倍!!
毒の強さを表す指標として、LD50値がよく使われます。
体重1kg当たりでその半数が死亡してしまう量を数値で表したものです。
ブラックマンバのヘビ毒のLD50値は0.32mg/kgです。体重50キロのヒトなら16mgに相当します。
これは、某サイトに掲載されているヘビ毒ランキングの23位に該当します。
マムシの毒(20mg/kg)の実に63倍もの強さなのです。
ブラックマンバは致死量を上回る毒を注入する!!
毒の強さもさることながら、厄介なことに、ブラックマンバは、一度咬みつくと、100~120mgもの毒を注入してしまうのです。
これは、体重100キロの巨漢であっても、そのLD50値は32mgになりますから、その量の多さに驚きます。
したがってブラックマンバに咬まれた場合、致死量をはるかに上回る量の毒液が体内に入ることになりますので、すぐに処置をしないと死に至ってしまうのです。
ですから、ブラックマンバは世界で最も危険な毒ヘビの一種に挙げられているのです。
ブラックマンバはヒトを襲わない!?
ブラックマンバは細身のヘビですので、その食性は動物食ですが、狙うのは小型の哺乳類や鳥類およびその卵などです。特に樹上にある鳥の巣を襲うことが多いようです。
したがって中型以上の動物は捕食の対象にはなりませんし、捕食目的でヒトを襲うこともありません。
生殖は卵生で、一度に6~18個程度の卵を産みます。
寿命は自然下では6~8年と考えられており、飼育下で11年という記録があるようです。
ブラックマンバは気性が荒い!!
ブラックマンバは、警戒心が強いので、ヒトや大型の動物と遭遇した場合、まずは逃げようとします。この時点で積極的にヒトを襲うことはありません。
しかし、本来の気性は荒く、攻撃的でもあるので、追い詰められたり、身の危険を感じるとすぐに攻撃してきます。
ブラックマンバの攻撃スタイルはコブラと似ているが…
ブラックマンバの攻撃スタイルは、コブラのそれとよく似ています。
体長の1/3程度まで鎌首を持ち上げ、頸部の皮膚を広げて攻撃態勢を作ります。
このときにコブラとは異なる、ブラックマンバ独特の行動を取ります。口を大きく開いて、その真っ黒な内部を見せ付け、シューという呼気音を出して威嚇するのです。
攻撃は瞬時におこなわれ、正確に相手に咬みついて大量の毒を注入します。
相手がそれでも逃げ出さない場合には、何度も咬みつきを繰り返しますが、小さな相手であれば、最初の一撃で勝負は決してしまいます。
ブラックマンバとヒトは共存できる!?
ブラックマンバの生息域とヒトの生活域とは、ほとんど重複してはいません。ただし完全に分離されているわけではありませんので、ヒトと遭遇する機会は多々あるようです。
ただしブラックマンバは駆除の対象にはなっていませんし、乱獲される要因もありません。
ヒトの生活域が拡大しても、ブラックマンバが保護の対象にされるほど、その生息数が減少しているということは、今のところないようです。
もし、ブラックマンバに咬まれたら…
万が一、ブラックマンバに咬まれてしまった場合、毒の強さもさることながら、注入される量が多いので、すぐに処置をしなければ、あっという間に死に至ります。
ブラックマンバの抗毒血清が開発されていますので、咬傷後直ちに治療に入らなければなりません。ところが農村部や過疎地域では、この血清がいきわたっておらず、すぐに治療を受けることができない場合も多々あります。
したがって、ブラックマンバによる咬傷での死亡例が、現在でも頻繁にあるのです。
ブラックマンバの毒から鎮痛剤!?
『毒薬変じて薬となる』などということわざがあります。
現在このブラックマンバの強力な毒素から、鎮痛剤を作り出す研究が進んでいるようです。
この毒素の中から『マンバルジン』という化合物(ペプチド)が単離・抽出されました。
マンバルジンには、モルヒネ並みと言われるほどの強い鎮痛効果があり、なおかつ呼吸抑制などの副作用がありません。まだマウスでの実験段階のようですが、今後研究・開発が進めば、非常に優れた鎮痛剤が誕生するかもしれません。
生物の毒から有用な薬が作られる!!
こういった毒から有用な薬が作られる例は、ヘビやサソリ、昆虫などでも進められています。動物の持つ毒物から痛みや神経麻痺を起こすメカニズムが解明され、逆に有用な医薬品として開発できる可能性があるのです。
生物の作り出す毒は、特定の部位に素早く、効果的に働くものが多いので、この分野の研究には大いに期待が持てるようです。これらにより、鎮痛、鎮静ばかりでなく、血栓の分解やガン細胞の破壊など、幅広い研究が進められています。
プレイティング・コンバットって!?
2匹のブラックマンバが、絡み合うようにする様子が観察されることがあります。
これは交尾ではなく、プレイティング・コンバット(編むという意味)と呼ばれる、オス同士のメスを巡る争いやナワバリ争いなど、ケンカをしている場合に起こる現象です。
ヘビ一般に見られるのですが、自然下ではなかなか見ることはできないようです。
ヘビ同士の戦いは絡み合い!
通常、毒を持つヘビであっても、捕食や戦闘以外で毒牙を使ってかみ合うことはありません。相手を殺す意思が無いからです。
ですから相手を締め付け、降参させることが目的ですので、ヘビ属の得意技である、相手に絡みつき締め付けるという戦い方をお互いに繰りひろげるのです。
この結果、敗れた方はすごすごと逃げ出すしかありませんし、勝った方は悠然とメスを手に入れて交尾におよんだり、獲物の豊富な地域を手に入れることができるわけです。
ただし同種であっても、空腹であれば捕食の対象として相手を飲み込んでしまうこともあります。
ヘビ属の交尾は、チャンスが少ない!!
ヘビ属のメスは、通常年に一度しか交尾をしません。交尾後すぐに産卵するわけではなく、精子をそのまま体内に留めておくことができるのです。
種によっては、数ヶ月から数年も精子を保存できますので、環境を考慮して適切な時期に産卵することが可能なのです。
こういう状況ですので、オスは交尾のチャンスが非常に少なく、それを得るために常に他のオスと戦い続けなければならないのです。
オスは年に何度でも交尾することが可能ですが、なかなか交尾可能なメスと遭遇する機会が無いのです。
1年に9万4千人が毒ヘビに殺されている!!
毎年、全世界で9万4千人もの人々が毒ヘビに咬まれて命を落としています。
毒ヘビの咬傷による死者数が特に多いのは、南アジアとサハラ砂漠以南のアフリカ大陸で、特に中央アフリカ共和国と南スーダンだけでも3万人に達するそうです。
これらの地域では毒ヘビと遭遇する機会が多いということもありますが、咬まれた直後の対処が難しいこともその重大な要因になっています。
毒ヘビへの対処法としてもっとも有効なのは、抗毒血清です。咬傷後すぐに対処した方が、より効果的なのですが、血清がなかなか手に入りにくいし、高価なのです。
毒ヘビの抗毒血清はコストがかかり、利益が出ない!
ヘビ毒は複数のタンパク質から構成されています。毒ヘビの種によってその成分が異なりますので、咬んだ毒ヘビの種を特定し、その種の血清を使わなければ、意味がないのです。
約600種にもおよぶ毒ヘビの種を特定することも、その血清を常備しておくことも非常に困難であるということが実情なのです。
抗毒血清は250~500ドルもしますので、貧困な地域では治療を受けないというより、受けたくても受けられないという人が多く、アフリカでは毒ヘビ咬傷後の受診率が10%に満たないとも言われています。
また製薬会社も、コストがかかりすぎ、利益の出ない抗毒血清の製造を中止してしまう傾向にあります。ですから毒ヘビによる死者はいつまでたっても減少しないのです。
できるか、スーパー抗毒血清!
こういった事情のある抗毒血清ですが、朗報が舞い込んできました。
タイの科学者が、アジア・アフリカ地域の18種類のヘビ毒に有効な血清の製造法を発見したということです。
通常の抗毒血清の製造では、致死量に満たない量のヘビ毒をウマに注射し、ウマの体内で作られた抗体を回収します。ウマ一頭から半年かけておよそ300人分の抗毒血清が作られるのです。
この研究では、コブラやアマガサヘビなど12種類のヘビ毒を集めて濾過し、濃度をあげることでより効果的な血清が得られたとのことです。
マウスの実験では、18種類の毒ヘビ全てに対応できたとのことですから、まだまだ研究段階ですが、今後おおいに期待が持てる研究のようです。
ブラックマンバの仲間たちとは!?
ブラックマンバが所属するマンバ属には、他に3種(ヒガシグリーンマンバ、ニシグリーンマンバ、ジェイムソンマンバ)がおり、ともにアフリカ大陸のサハラ砂漠以南に生息しています。緑色の美しい体色をしておりますが、どれも強毒を持っています。
最大種はブラックマンバですが、他の種も同じように中~大型で、細長い体型をしています。
ブラックマンバ以外は樹上生活が中心で、地上に降りることはほとんどありません。性質も臆病で、めったにヒトを咬むことはありませんが、強毒を持つので、危険な毒ヘビであることには変わりありません。
(ライター オニヤンマ)