グリズリーと言えばライオンや虎、ホッキョクグマと陸上の肉食動物最強の呼び声が高い動物ですが、その最大の武器はやはり体の大きさと比例した、とてつもないパワーです。

オスのグリズリーは最大で800kgの体重になるそうですから、我々人間はグリズリーに軽く叩かれただけでも頭がスイカ割りのスイカのようになってしまうかも知れませんね。(あまり想像したくはないですが…)

グリズリーのガチンコバトル

グリズリーが強力なパワーを持った陸上の最強レベルの肉食獣であることは想像に難くないですが、意外とガチンコのグリズリーの戦いを見たことがある人は少ないんじゃないでしょうか?

そんなわけで、今回はグリズリーのガチンコのバトルシーンを集めてみました。

グリズリーVSヘラジカ

第一ラウンドは北米に生息するグリズリーとヘラジカの対決です。

このヘラジカというのはトナカイが属する仲間で、北米大陸に生息しているものはエルクと呼ばれています。

相手のヘラジカは立派な角を持ったオスですので、体のスペック的には200kg程度になるかと思います。(最大だと300kgだそうです)

因みにカナダなどでは時々人間がヘラジカに蹴られたり踏みつけられる事故が発生するようで、ヘラジカは穏やかそうに見えても意外と好戦的な部分を持っています。

 

どれだけ好戦的であるかは次のバイソンとヘラジカの対決を見て頂くとわかると思います。

 

 

どちらの動画も体重差が1.5倍はあろうかと思われるバイソン相手に怯む事無く正面から戦いを挑んでいます。

最後はパワーに押し切られて負けてしまいますが、なかなかの闘争心の持ち主であると言えます。

ではいよいよグリズリーの登場です!

状況としてはグリズリーの方が子連れなので、メスのグリズリーvsオスのヘラジカの戦いといったとことでしょう。

メスのグリズリーの平均体重は170kg程度だそうです。

ヘラジカのオスは200kgくらいが標準ですし、動画を見る限り体格的には同じくらいですのでパワーでは互角の戦いです。

 

最初はグリズリーが怯んでいましたが、逃げずに戻った事を考えるとこれは完全に空腹状態での狩りモードと考えられますね。

ヘラジカの方がやや体が大きいように感じられますし、グリズリーが何度か角でリフトアップされかけていますので、かなりハードな戦いでしたが、最後はなんとかサイドに回り込みテイクダウンを取りました。

おそらくこの状態からはヘラジカは立ち上がる事が出来なそうなので、このまま刺身にされてしまったのではないかと思います。

粘り強く戦って最後は倒すことが出来ましたが、やはり虎などのネコ科の猛獣と比べると生粋のハンターと言う感じではないですね。

「グリズリーと虎が戦えばどちらか勝つか?」という議論がされる事がありますが、虎のオスは最大で300kg程度ですので、体重差次第でしょうか。

 

同程度の体重であればグリズリーは虎には勝てないでしょう。

それは虎の戦い方や狩の方法を見れば分かります。

 

一見やる気がなさそうに見えますが、危険な角をもつ相手には正面から立ち向かわず、のらりくらりと相手の隙を誘いながらチャンスと見るや一気に急所に噛みついて一瞬で勝負をつけています。

グリズリーは雑食ですが虎は肉食なので、瞬発力や戦術を見てもグリズリーとは違って生粋のハンターと言えるでしょう。

従ってグリズリーは、オスの最大レベルを連れて来なければ虎に勝つのは難しいと言えると思います。

グリズリーVSピューマ

北米ではジャガーに次ぐ大きさのネコ科の肉食獣であるピューマとグリズリーが遭遇する可能性があります。

以下の動画は子連れのピューマが大型のオスのグリズリーに遭遇してしまったシーンですが、子供を抱える母ピューマの気迫がとんでもない事になっています。

 

随分体格差がありますので、本気で戦えばグリズリーが負ける事はないと思いますが獲物を奪いあっている様子ではないですし、たまたまピューマと遭遇してしまっただけのようですので、意味のない戦いは避けたというところでしょうか?

グリズリーVSオオカミ

グリズリーとオオカミによる獲物の奪い合いは、北米大陸においては非常に頻繁に観察されています。

体の大きさでは圧倒的にグリズリーが勝っており、オオカミには負けそうにないと思えますが、オオカミは群れで行動する為、獲物をオオカミに奪われる様子が頻繁に動画に収められてます。

 

オオカミな決して瞬発力がある方ではないですが、無尽蔵のスタミナと組織力が武器ですので、いくら相手が自分よりも小さいとは言え、攻撃される方の精神的ストレスは半端ではなさそうです。

子連れの場合などはオオカミに子供を狙われるような事もあるようですので、グリズリーと言えどもオオカミ相手には油断は出来ません。

 

グリズリーVSヤマアラシ

ヤマアラシは背中に無数の固くて鋭利な棘を背負っており、敵に恐れた時には背中を向けて棘を突き立てます。

それでもしつこくヤマアラシを捕食しようとしたヒョウなどが心臓に棘が突き刺さり、命を落とすこともあるそうです。

 

素早く器用なヒョウですら苦戦するヤマアラシに対して、グリズリーはそのパワーを生かしてどのような戦いぶりを見せてくれるのでしょうか?

 

はい…一発で相手が危険な奴と悟り、狩るのを諦めた模様です。

いくつかグリズリーの狩りや他の肉食獣との戦いをみてきましたが、雑食性の為にあまり無理はせずに危険な状況は出来るだけ避けて動いているように思えますね。

強いことには間違いないですが、ライオンや虎などの凶暴?と言った印象とは随分異なり、わりと争いを好まないところがありそうです。

次にグリズリーの生態を見ていきましょう。

その他の動物のガチンコバトルを見たい方は以下のリンクがおすすめです。

グリズリーとヒグマは近縁種だった!

グリズリーと呼ばれる米国内でもっとも有名なクマは、正式にはハイイログマと称し、北海道に生息しているエゾヒグマとはごく近縁の亜種に相当する関係になります。

北米では内陸部にすむ個体をグリズリー、沿岸部に住む個体をヒグマ(ブラウンベア)と呼び分けていることもありますが、その差はあいまいで、明確な基準はありません。

ここからは北米内陸種に限りグリズリーと呼び、他の地域の亜種を含めたヒグマ種すべてを指す場合にはヒグマと呼んでいくことにします。

データ的にはヒグマとさほど変わらない!

グリズリーは食肉目(ネコ目)イヌ亜目クマ上科クマ科クマ属ヒグマ種に属し、ヒグマの亜種として分類されています。

北アメリカの北西部、アラスカやカナダ西部、合衆国北西部に生息する大型動物です。最大級の個体は体重450キロ以上にもなり、過去508キロのものが捕獲されています。

ただし平均的な大きさとしては、オスが260キロ、メスが170キロほどで、エゾヒグマとそれほど変わりありません。

野生動物はその食料事情や環境などの違いによって、同種であっても個体の大きさに、かなりの差が出てしまいます。

特にクマ類は、巨大種や巨大個体ばかりが注目されがちになってしまいますので、あまり大きさにはこだわらず、見ていくことにしましょう。

グリズリーとエゾヒグマとの見た目の違いは、肩にコブのように盛り上がった部分があることくらいです。これは肩の周囲の筋肉がとてもよく発達しているグリズリーの特徴の一つでもあります。

グリズリーは、とにかく何でもよく食べる!

グリズリーの食性は雑食性で、ヘラジカやトナカイ、アメリカバイソンなどの大型草食獣をよく食べますが、その巨体を活かして狩りをして捕食することよりも、死骸を見つけてそれを食べることの方が多いようです。

泳ぎは得意ですので、川や湖に入ってサケ、マス、バス類などの魚類も捕食します。

その他にも昆虫類、松の実やベリー類などの植物など、ほぼ周囲に存在する食べられるものは何でも食べると言えます。

これは内陸ではエサになるものが少ないことが挙げられ、その巨体を維持するためには相当量の熱量が必要ですから、グリズリーは常に飢えている状態にあると言えるようです。

ですから共食いとまでは言えませんが、グリズリーよりも小型のアメリカクロクマに襲いかかり捕食することもあれば、オオカミからその獲物を横取りすることもあります。

またヒトの居住地に現れて、ゴミ箱などを漁ることもあります。

グリズリーに追いかけられたら大変だ!

グリズリーは、あの巨体にもかかわらず、走るのは意外と早く、時速50キロに達するほどだといわれています。また、泳ぎも得意なので、湖や川にも躊躇なく入ります。

若い個体であれば、カギ爪を引っ掛けて木にも登ってきます。

ですからもしグリズリーに追いかけられたら、逃げ道はない!……のかもしれません。

グリズリーとヒトの共存はきわめてむずかしい!

アメリカ合衆国では、西部開拓の歴史とともにグリズリーの生息域へ侵入してきたという背景があります。

家畜を襲う害獣として駆除されることもありましたが、格好の狩猟(クマ狩り)の獲物にもされてきましたし、ワナを仕掛けて生け捕りにすることもありました。

捕えられた巨大なグリズリーを見せ物にしたり、他の動物と闘わせて賭けごとの対象にすることもありました。

現在、アメリカ合衆国では、グリズリーは保護動物に指定されており、「絶滅危惧種」として扱われています。近年ではそのおかげもあって、個体数は増加傾向にあると言えます。

ただし、個体数が増えればその生息域も拡がり、ヒトの居住地に近付いてくることにもつながります。ヒトの周囲に現れる機会が増え、住民との間に軋轢が生じ、トラブルが多発します。

グリズリーとヒトとの共存は極めて難しいと言えるのです。

グリズリーとの出会いはシートン動物記

私のグリズリーとの出会いはシートン動物記です。

私が子どもの頃、シートン動物記とファーブル昆虫記はバイブルのような存在でした。

なかでもシートンの『ハイイログマ(グリズリー)ワーブ』は名作中の名作で、私は夢中になり、繰り返し何度も何度も読みました。

四兄弟で生まれた子グマのワーブは、人間の持つ銃によって母と兄弟を失います。

奇跡的に生き延びたワーブは苦労の末、森で最強の王者になっていきます。

物語の最後、毒ガスの噴き出す谷で静かに眠るシーンが強烈な印象になって残っています。

あらすじだけにとどめておきますが、その生きていく姿は涙なくしては語れず、感動を呼びます。ぜひみなさんにもお勧めしておきます。

ヒグマがいるのは寒い地域だけじゃない!!

ヒグマは食肉目(ネコ目)イヌ亜目クマ上科クマ科クマ属ヒグマ種に分類され、ホッキョクグマと並び、クマ科の中では最大の体長になる種です。

日本では北海道だけに生息し、国内の陸棲の哺乳類の中で最大の種でもあります。

ヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸と北アメリカ大陸に幅広く生息しています。

ヒグマは全身を体毛で覆われていますので、寒い地域に生息しているイメージが強いのですが、寒帯やツンドラ地域はもちろん、地中海沿岸やメキシコ湾沿岸などの温暖な地域にも生息しています。

ただし特に暖かな地域では人間による開発が進んでいきますので、徐々に生息域が狭められおり、追いやられるばかりでなく、絶滅にまで追い込まれた亜種も多数います。

亜種は多く、地域ごとに存在する!?

ヒグマの亜種はとても多く、地域ごとに微妙に異なる特徴を持っています。

グリズリー(ハイイログマ)が代表種としてもっとも有名な存在ですが、アラスカにはコディアックヒグマがいますし、北海道のエゾヒグマもこれに含まれます。

絶滅に追いやられた亜種として、メキシコハイイログマ、カリフォルニアハイイログマ、アフリカ北部のアトラスヒグマ、ヒマラヤヒグマ、最大種と考えられているカムチャッカオオヒグマなどがいました。

アルビノ種やホッキョクグマとの交雑種もいる!

国後島や北海道ではヒグマのアルビノ種(白化個体)が目撃されています。

 

地域的に見ても体色が白いからといってホッキョクグマとは考えられません。

調査によれば、300頭に一体ほどの割合でアルビノ種が出現すると推定されています。

かつて日本にも白いクマが北方から流れついたという歴史書の記述がありますが、どうやらそれはホッキョクグマではなく、ヒグマのアルビノ種ではないかと考えられています。

ただし北アメリカ大陸北部では、ホッキョクグマとグリズリーの生息域が重なる地域があり、この二種間の交雑種の存在も知られています。

ヒグマのスペックがすごい。なかには1トン越えの個体も!!

ヒグマはオスの成獣で体長は2.5~3メートルにもなり、体重は250キロから大きなものでは500キロにも達します。

メスは一回り小さく、体長1.8~2.5メートル、体重100~300キロほどです。

一般にヒグマはエサの種類と栄養摂取の状況によって体格が大きく変わります。

エサが豊富にある地域では巨大な個体が多く、内陸部でエサの少ない地域では小型の個体が多くなります。

特にアラスカ沿岸やカムチャッカ半島に生息する個体群は、サケ・マスなどの栄養価の高いエサが豊富に存在するために非常に大型化し、500キロを超える個体も数多くみられます。

野生のヒグマで過去最大の記録は、コディアック島で捕えられた1134キロにもなる個体です。

エゾヒグマで最大のものは2007年に捕えられた520キロのオスです。それでも十分大型ですが、さらに倍以上も大きな個体となれば、驚くしかありません。

ヒグマの歯は42本もある!

ヒグマの歯は、切歯が上下6本、犬歯が上下4本、前臼歯(ヒトでいう小臼歯)が上下16本、後臼歯(ヒトでいう大臼歯)が上4本、下6本の計42本になります。

歯の形態やその本数は、その動物の食性を表す指標でもあります。

乳首(乳頭)は3対あり計6個です。一度に子グマを1~3頭ほど産みますので、そういった特徴も出ています。

指はヒトと同じ前肢後肢各5本の計20本です。

すべての指の先端に鋭いかぎ爪を持ち、木登りや穴掘りも容易にできる構造になっています。

体格は全体にがっしりとしており、四肢は太く、後足で立ちあがることも可能です。

地上を時速50キロ(65キロに達するという報告もあり)で疾走すると言われています。

ヒグマは捕えた獲物に強い執着がある!

ヒグマは針葉樹を中心とした森林地帯にその多くが生息しています。

一応雑食性になりますが、肉食の傾向が強いといえます。シカやイノシシといった大型の哺乳類を始め、ネズミなどの小型哺乳類、サケ・マスなどの魚類、果実や木の実までほぼなんでも食べます。

捕えた獲物を食べきれない場合には、土中などに穴を掘って隠して埋め、あとから掘り起こして漁ることもあります。

またトラやオオカミなどからその獲物を横取りすることがあるにもかかわらず、自身で捕獲した獲物に対しての執着心が強くみられます。したがって獲物を隠した場所に近づくだけでも、獲物を横取りされると考え、攻撃してくることがあります。

ヒトの肉の味を覚えたヒグマは超危険な存在である!!

ヒグマは雑食性であるにもかかわらず、植物の消化吸収がきわめて悪く、食物繊維を分解することができません。また、本来ならその分解を助けるために多数の腸内細菌が存在するのですが、ヒグマの腸内には共棲していないのです。

ザリガニや鳥類などもよく食べるのですが、甲殻類の外骨格(カラ)や羽毛なども消化できずに、そのままの状態で排泄されてしまいます。

ヒグマは、その体格や運動能力とは裏腹に、哺乳類などを捕食することはほとんどなく、死体があればそれを食べるといった行動を取ります。

ただし、恐ろしいのは、一度でもヒトを食べたヒグマはその味を覚え、ヒトを襲う傾向があるのです。ですからヒトと接触したヒグマは、きわめて危険な存在でもあるのです。

ヒグマは川に入り、サケ・マスを捕える!

一般的なヒグマのイメージは、川に入り、産卵のためにさかのぼってくるサケ・マスを片っ端から岸に叩きつけて捕食するというものです。実際に秋の冬眠前の時期にサケ・マス類をたっぷり食べるのですが、その量は地域によって大きな差があります。

北米沿岸部の個体群では、その栄養源の30%以上をサケ・マスから得ているのに対し、知床半島に生息する個体ではわずか5%にすぎないという調査結果が出ています。

これは北海道でのサケ・マスの遡上減が原因とされており、こういった地域のヒグマは冬眠前に十分な栄養を摂れず、腹を空かせたままで冬を越さねばならない状況にあると言えるのです。

ヒグマの生活

ヒグマは発情期と子育て期以外はオスもメスも単独で行動し、活動時間は一定していません。

通常は巣穴を持たず、気に入った場所で休息し、ナワバリ内を自由に動き回ります。

泳ぎは得意で、川はもちろんのこと、大きな湖を泳いで渡ることもあります。

使われる泳法は、おもに「犬かき」です(笑)

カギ爪が長いので、それを活かして若い個体は木登りを積極的にします。樹上の鳥の巣やハチの巣を狙うこともあります。体重が増えてくる成獣では、その重さのためか、木登りはほとんどしなくなります。

手は非常に器用であり、よく使われます。また、二足立ちをし、場合によっては二足歩行をすることがあります。

驚くほど長距離を歩くことも可能なのです。

ヒグマの成獣は、相手を威嚇する場合に、低いうなり声をあげます。

また歯をカチカチと鳴らしたり、後足で地面を叩いたり擦ったりして、大きな音を発することで敵を追い払おうとします。

ヒグマの冬眠は、エコでもある!

ヒグマは冬季には巣穴の中で冬眠することでも有名ですが、実際には必ず冬眠するわけではなく、生息している環境にもよるのです。

冬季でも暖かい地方では冬眠しない個体群もいますし、空腹のあまり冬眠を中断して巣穴から這い出してくる個体もあります。

通常、冬眠は山の斜面などを掘って巣穴を作り、その中で過ごします。横穴のみで縦穴は掘りません。年齢を経てくると、複数の巣穴を持つ個体もあり、使い分けているようです。

巣穴にこもる時期は積雪とは関係なく、晩秋から初冬にかけてです。

冬眠中のヒグマの脈拍や呼吸数は大幅に減少し、体温は4~5度も下がるので、基礎代謝量は激減し、活動が低下しています。

エネルギー消費の大きなヒグマですから、冬眠することは非常にエコであるとも言えますが、妊娠したメスはそのような状況下で出産をし、授乳しながら育児に専念しなければならないのです。

ヒグマの生殖活動と出産!

ヒグマの発情期は初夏から夏にかけてみられ、妊娠期間はおよそ8カ月ほどです。冬眠期間中の2月ごろに巣穴の中で出産します。

一度に産むのは1~3頭ほどです。

子育てはメスだけがおこないます。冬眠中に出産し、巣穴で母乳を与えて育てるために、春になって外に出るころには、30%も体重が減少するといわれています。

ヒグマの活動期間は春から晩秋・初冬にかけてで、その後は冬眠をしてしまいますので、積雪期に外に出歩くことは皆無と言えます。ヒグマには雪は似合わないようです。

ヒグマの赤ちゃんはヒトの新生児より小さい!

冬眠中の巣穴で生まれたヒグマの幼獣はかなり小さく、体長は25〜35センチほど、体重はわずか300〜600グラムしかありません。ヒトの新生児と比べると大きさは半分ほど、重さは1~2割程度なのです。

 

視力も聴力もなく、全身も産毛程度しか生えていません。暗闇の中で母クマから母乳を与えられて、春までの期間を巣穴の中でじっくりと育っていくのです。

生後4か月ほど……春になって、巣穴を出てしばらくすると乳歯が生えてきて、ようやく母グマと同じ物が食べられるようになります。

1~2歳までの間は母子いっしょに暮らし、その後巣立っていきます。

生殖可能な成獣になるのは4~5歳で、野生個体の寿命は30歳程度であると考えられています。

ヒグマに天敵なし!

ヒグマは通常食物連鎖の頂点にいますので、自分のナワバリ内では無敵の存在であり、天敵は皆無であると言えます。

その大きさゆえに捕食目的で襲いかかる動物はまずいませんが、あえていえば、狩りをするために武器を所持した人間や、冬眠中にトラに襲われることがあります。

アメリカ合衆国では絶滅危惧特別個体群、カナダでは絶滅危機特別個体群に指定されており、連邦法と州法により二重に保護されています。

これによりヒグマの個体群数は回復する傾向にあります。ただしヒトとの共存は難しく、農業、畜産業の被害も著しく、人家付近への出没などでトラブルになることがきわめて多いのです。

アイヌ民族の『クマ祭り』!

アイヌ民族では、ヒグマ(エゾヒグマ)を「山の神(キムンカムイ)」として崇めており、その狩猟の際には丁重に扱い、頭骨に「イナウ」と呼ばれる飾り付けをした上で祀っていました。

 

「イヨマンテ」と呼ばれるクマ祭りの際には、ヒグマの子を殺して、その霊を天に帰すという儀式もおこなわれています。

ただしヒトを傷つけたヒグマは理由の如何を問わず悪い神として扱われており、その肉などは放置されたままで、埋葬すらされません。

ヒトの肉の味を覚えたヒグマは、また人を襲うためだと考えられています。

クマは世界各地で強さの象徴でもあった!

北米の先住民族の間においても、グリズリーを含むクマ類そのものが、畏敬と信仰の対象でありました。

先住民族の装飾品にはクマのモチーフが好んで用いられていますし、クマの歯や骨などを加工したものもお守りとしてよく使われています。

こうしたことは、クマ(特にヒグマ)が生息する地域でよくみられます。

クマは二本足で立ち上がることがあるので、擬人化されたり、神格化されることがあり、強さの象徴として存在していたことがわかります。

かつて日本各地にいたエゾヒグマは北海道のみに生息している!

エゾヒグマは食肉目(ネコ目)イヌ亜目クマ上科クマ科クマ属ヒグマ種に分類され、グリズリーを始めとする世界各地に分布するヒグマの亜種の一つなのです。

北海道のみに生息していますが、ロシア極東地域に生息するウスリーヒグマとは同亜種ではないかとする説もあります。

現在北海道内のエゾヒグマの生息数は、1万600頭±6700頭と推定されています。

北海道内の森林、原野に生息し、夏から秋にかけては山岳地帯にも出没します。

北海道中西部の石狩、手塩、増毛地域の個体群は、絶滅の恐れがあるため、地域個体群(略称LP)に指定されています。

明治以前の開拓前は、先住民族の集落以外がすべてエゾヒグマの生息域であったと考えられていますので、以後は開拓・開発が加速度的に進んだため、その生息域は激減したといっても過言ではありません。

13世紀ころまでは利尻島と礼文島にも生息していたと考えられています。

また本州や四国、九州の1万年以上前の地層からヒグマ種の化石が発見されていますので、それ以前の時代には、北海道以南の地域にもエゾヒグマが生息していたと考えられています。

エゾヒグマの毛色はさまざま!

エゾヒグマの成獣の雌雄差はかなりあり、オスの方がとても大きくなります。

体長はオスで1・9〜2・3メートルに対し、メスでは1・6〜1・8メートルほどです。

体重もオスで120〜250キロ、メスで150〜160キロです。今まで発見された野生種の記録では、2007年に発見されたオスで最大で520キロになります。

エゾヒグマの毛色は褐色から黒色まで個体によってさまざまで、その色合いによって黄褐色のモノを「金毛」などと呼びならわしています。

夏は刺毛と呼ばれる細い毛が主流ですが、冬は綿毛と呼ばれる保温性の高い毛が生えてきます。

エゾヒグマのちょっと変わった食性!

エゾヒグマは、他のヒグマ亜種と同様に雑食性ですので、周囲に存在する哺乳類や魚類から木の実などの植物まで、ほぼなんでも食べると言えます。その中でもエゾヒグマだけが食べる、北海道ならではのものもあります。

エゾヒグマに限っては、フキ(蕗)を食べることが知られています。植物ではその他にセリ科やイネ科、イグサ科の植物やザゼンソウ、ミズバショウなども食べます。

木の実ではヤマグワ、ナナカマド、ミズナラなどの実を好みます。

サケ・マス類を食べるのは、知床半島にいる個体群に限られるようです。その他の地域では遡上数が激減していることもあり、ほとんど利用していないようです。

昆虫類では特にアリを好んで食べます。巣穴を見つけるとそれを掘り起こし、出てきたアリを舌でなめるようにして捕獲します。

 

ヒグマはアリに含まれる蟻酸の味を好むと言われています。また土中にいるコガネムシの幼虫を掘り起こして食べることもあります。

エゾシカを食べる機会は多いのですが、襲いかかって捕食することはほとんどなく、餓死した個体など死体を見つけて食べています。

通常は胴(内臓を含む)と四肢のみを食べ、脚の先端や頭部はよっぽど空腹でなければ食べません。

これはヒグマ類の特徴のようです。

同様に海岸に打ち上げられた海獣類や魚類の死がいも食べます。かなり腐敗臭の漂う屍肉であってもかまわずに食べてしまうようです。

エゾヒグマは、トウモロコシ、テンサイ、メロン、スイカなどの農作物も狙います。

北米やヨーロッパではヒグマによる農作物の被害はほとんどないので、こうしたこともエゾヒグマ独特の行動と言えます。

エゾヒグマは愛されるキャラクター!?

エゾヒグマは、北海道外からやってきた観光客にとって、キタキツネ、タンチョウなどとともに北海道観光の象徴的なマスコットとして捉えられています。

特にクマの木彫り細工は有名で、典型的ともいえる北海道土産の代表的な存在となっていますので、他のクマのキャラクター同様、愛されるべき存在であるといえるのかもしれません。

 

また登別市にある「クマ牧場」は、観光用として設置されており、そこでは多数のヒグマを飼育しています。

なかには芸を仕込まれ、観光客に愛想を振りまくようなヒグマもいるほどです。

ヒグマは危険な猛獣である!

しかし実際には、エゾヒグマはとても危険な動物であり、北海道の郊外に住む一般の人たちにとっては、ごく身近にいる猛獣でもあるのです。

人家の近くに現れれば、たちまち避難し、駆除の対象になり、それはエゾシカなどよりも優先されます。

人命にかかわる可能性が高いからです。

エゾヒグマから受ける被害は、夕張メロンなどの農作物を始め、ウシやウマなどの家畜や畜産物、さらには人的被害(殺傷)にまで及びます。

明治時代の開拓当初から多数のヒトが襲撃されており、最も有名な「苫前三毛別事件」のように多数の死者を出した被害も発生しているのです。

近年ではエゾヒグマの生息地でのエサ不足が指摘されており、ヒグマによる人身事件は増加傾向にあるとされています。

山菜採りなどで山に入った場合、エゾヒグマに襲われる可能性がありますので、こういった場合には十分な警戒と対策が必要なのです。

観光客や外来者がヒグマの行動に拍車をかけている!

また観光客や写真家などが増えたことで、山間部での撮影や野生動物へのエサやりなどが原因でトラブルに発展する場合も少なくありません。

特に弁当などの食べ残しをむやみに山中に捨てていったり、エサとして与えてしまった場合、エゾヒグマはヒトの食物の味を覚えてしまいます。そしてそれを求めて人家に出没するようになり、被害が発生していくのです。

威嚇したり脅かしたり、痛い目に合わせることでヒトの怖さを野生のヒグマに教え込まないと、繰り返し人里に出没したあげく、ついにはヒトを襲うようになってしまうのです。

ヒトの味を覚えてしまった個体はその行動をマークされ、駆除として殺処分の対象になってしまいます。

エゾヒグマは保護されつつも駆除されている!

エゾヒグマは1875年に害獣に指定されており、駆除の対象にされています。

現在でも年間数百頭単位で駆除がおこなわれています。

平成26年で555頭、平成27年で600頭が射殺されました。

ヒグマによる死亡者は平成20年~27年の8年間で8人出ています。駆除はそのためにおこなわれています。

渡島半島では保護管理計画が策定されており、自然遺産に指定されている知床でもそういった動きがあります。

こうしたことは、エゾヒグマからの被害防止と共存のための取り組みでもあるのです。

白と黒の違いはあれど……ホッキョクグマはヒグマの近縁種!

ホッキョクグマは食肉目(ネコ目)イヌ亜目クマ上科クマ科クマ属に分類される、ヒグマとごく近い種でもあり、クマ属でも最大種になります。

体長はオスで2~2.5メートル、メスで1.8~2メートル。

体重はオスで400~600キロ、メスで200~350キロにもなり、最大個体では800キロにもなります。

ヒグマ同様にエサの影響もあり、生息域によって個体差が大きく、ロシアのチュクチ海付近に生息する個体群が最も大型化しているといわれています。

ホッキョクグマとヒグマは15万2千年前に枝分かれをした!

ホッキョクグマとヒグマは、氷河期であった15万2千年前に共通の祖先から枝分かれしたと考えられています。

これはアイスランドの地質学者が、ノルウェーのスバールバル諸島の地層から発見したホッキョクグマの骨の遺伝子と、現存するホッキョクグマとヒグマの遺伝子を解析した結果わかりました。

種が分かれた後でも互いに交配し、生殖能力がある子孫を残せることが判明していますので、生殖的隔離はほとんどなく、現在でも近縁種であることにかわりありません。

ホッキョクグマとヒグマの交雑種「ハイブリッド」が存在する!

温暖化の影響もあり、北上していったヒグマと、氷が溶けてしまい陸地に上がってきたホッキョクグマとの生息域が重なり合うことも珍しくなくなっています。

こうした中、「ハイブリッド」と呼ばれるヒグマとホッキョクグマの交配種の存在が確認されています。

この「ハイブリッド」は、体毛が白いのですが、盛り上がった肩の形態や長い爪など、どちらかというと、ヒグマの特徴を強く受け継いでいるようです。

多少の環境変化には適応できるはずだが……

ホッキョクグマとヒグマの祖先が枝分かれをした15万年前ごろは、現在よりも9~10度ほど気温が低く、それ以降は気温の上下を繰り返しており、現在の気温からみると-10~+5度の範囲で移り変わりっていますので、現在生き残っている動物たちはその環境に適応してきたと言えます。

今後も地球温暖化や氷河期が来たとしても、気温の変化がこの範囲ならば環境的には生き延びることが可能だと言えるでしょう。

ホッキョクグマに限れば、エサの減少や氷の減少によって今後は過酷な環境に向かいつつあるといえ、南方に住む個体群では生息数の減少が報告されています。

ホッキョクグマが、さらに南方に向かえばヒグマとの生存競争が待っていますので、行き場が無くなれば絶滅の危険性もあるといえる状況なのです。

ホッキョクグマはほぼ肉食!

ホッキョクグマは、雑食性であるクマ科の中でもっとも肉食性が強く、骨格や歯もそれに合わせて特殊な変化をしています。

もっともよく食べるのはアザラシで、ヒグマと異なり狩りをして捕食します。そのほか、魚類や鳥類も食べ、イルカやクジラの死がいを食べることもあります。

植物も食べることは食べますが、ホッキョクグマが生息する地域は長い期間雪と氷に覆われているために、氷の溶ける夏季に限り食べることができるといった程度です。

ホッキョクグマは狩りをして、アザラシを捕食する!

ホッキョクグマは、主食ともいえるアザラシを、積極的に狩りをすることで捕えます。

 

ホッキョクグマは嗅覚がとても優れているので、アザラシのニオイをはるかかなたから感知して忍び寄っていきます。

氷の巣穴にいる個体を襲ったり、呼吸用に開いている氷の穴の脇で待ち伏せをしたり、海を泳いで氷上にいる個体に忍び寄るなど、さまざまな手段を使います。

ホッキョクグマは泳ぎの達人

ホッキョクグマは、ヒグマに比べて頭が小さく、頸が長くなっています。

実はこれは、遊泳に適応した進化だと考えられています。ホッキョクグマは、氷に覆われた冷たい海を何時間も泳ぎ続けることができるのです。

頭が小さく流線型をしているのは、水中に潜ったときに、水の抵抗を減らすことが可能です。頸が長いと水面から顔を出した状態でも泳ぎやすいのです。

また高い視力を持つのは、極地では対象物が少なく視界が広いので、遠くまで見渡す必要があるためだと考えられています。

こうして泳ぎながらアザラシを探し、見つけると水中に潜って近付き、一気に襲いかかるのです。

ホッキョクグマの生活

ホッキョクグマは、3~6月にかけて発情期を迎え、交尾をして7~9カ月ほどの妊娠期間を経て真冬の時期に出産します。

これはヒグマのサイクルとほぼ同じだと言えます。

一度に産む子は1~4頭で、生後2年までは母クマと一緒に暮らします。その後独り立ちして単独で暮らし、成獣となるのは5~6年です。

寿命もヒグマとほぼ同じくらいの25~30年ほどです。

ホッキョクグマは子グマを食べる!

体重500キロのホッキョクグマのオスが必要な熱量は一日に1万2千~1万4千カロリーにもなります。

これは主食のアザラシでいえば1週間に一頭は必要になる計算です。

そのために食料事情による個体差は著しく、エサが不足して飢え死にすることもよくあります。

極地ですからエサが豊富にあるわけではありません。

飢えたホッキョクグマは、同種の子グマを狙うこともしばしばあります。

子どもを連れた母クマが、オスが近づいてくることを非常に警戒するのもこのためです。

クマの仲間は熱帯にもいる!

クマ科の動物は、アフリカ、オーストラリア、南極大陸を除く熱帯から寒帯・極地まで、かなり広い地域に分布しています。

このクマ科の中には、中国にいるジャイアントパンダや南米にいるメガネグマが含まれています。

ただし、レッサーパンダはイタチ上科のレッサーパンダ科に属しますので、少し離れた種になります。

クマ科の最大種はホッキョクグマで、次いでヒグマになります。

最小種はマレーグマで、体長100~150センチ、体重27~65キロほどですので、立ち上がればヒトの大人ぐらいでしょうか。

クマの嗅覚はイヌの7倍もすぐれている!

クマはほぼ全身を覆う体毛と短い尾、太い四肢が特徴で、特に嗅覚が発達しており、イヌの7倍もすぐれていると言われます。

頭は大きいのですが、目や耳は相対的に小さく、視力や聴覚も特別には発達していません。

ただしホッキョクグマの視力はかなり良いといわれています。

四肢の先端には長く曲がったカギ爪が発達し、木登りや穴掘りに使われます。

多くのクマは冬眠する!

クマは、おもに山岳地帯や森林に生息しています。

冬季には冬眠する種が多く、この場合秋に大量の栄養を摂取して備えます。

冬眠中は体温が5度ほども下がり、呼吸数や心拍数も激減して基礎代謝量が大きく減ります。

この間、エサは食べず水分も摂取しないばかりか、排泄や排尿も一切しなくなります。

ただし、妊娠したメスはこの冬眠中に巣穴の中で出産し、1~4頭の子どもを産みます。

クマは雑食性であるが、食べるものはさまざま!

クマ科の種は、すべて雑食性ですが、種によって食べるものが大きく異なります。

ジャイアントパンダやメガネグマのように植物を中心に食べる種、ホッキョクグマやヒグマ、ナマケグマのように肉食(動物食)傾向が強い種など、その生息する環境によってさまざまです。特にホッキョクグマはアザラシを捕食して食べるので、ほとんど肉食であるといっても過言ではありません。

食性により骨格や体型、各器官などの発達も異なり、頭部の形態や歯などにその特徴が現れています。

クマは食用よりも薬用に利用される!

昔からクマは狩猟の対象でもありました。

現在のように害獣としての駆除というよりも、食用、薬用として利用されてきたのです。

漢方を始め各地の民間療法では、捨てるところが無いほどクマのあらゆる部分が薬用として用いられています。

なかでも胆のうを原料とした『熊胆(ゆうたん)』は強壮剤や解熱剤として珍重されてきました。しかしこれは、マムシやムカデなどの強く毒を持つ動物にあやかるといった迷信めいた類ではありません。

実際にクマの胆汁酸には胆石を溶かすなどの薬効も科学的に認められているのです。

クマは山の神でもある!

日本でも、ごく身近にいる強い獣として、クマは信仰や畏怖の対象にもなっており、ご神体として祀られていることもあります。

またアイヌ民族は『イオマンテ(熊祭り)』の儀式を行います。

ただしヒトとクマとの共存はなかなか難しく、農作物を食い荒らしたり、ときとしてヒトを補食目的で襲うこともありますので、山間部では有害動物として扱われ、駆除の対象にもなっています。

人工林が野生動物を飢えさせている!?

日本では、人間と野生動物との共存を困難にしている原因に、人工林の存在が挙げられています。

戦後、野生動物が住むような山奥では、木材を切り出したあと、新たに植林がおこなわれ、人工林として整備されてきました。ここではおもに木材原料として、スギやヒノキといった針葉樹が中心に植えられました。

針葉樹は木材としては有用ですが、照葉樹や落葉樹のように、野生動物のエサとなる木の実が実ることがありません。

こうして人工林が増えることで、エサ不足となって野生動物が人里近くにやってきて、農作物などを食い荒らすことになったと考えられているのです。

クマに限らず、ニホンザルやニホンカモシカなど、野生動物の保護と駆除は大きな矛盾をはらんでいるのです。

野生動物の味覚を狂わせる!

安易にエサを与えたりすることで、ヒトの食べ物の味を覚えてしまった野生動物たちは、その味を求めて人に慣れ、人里までやってきてしまいます。

ヒグマにしても本州のツキノワグマにしても、元々積極的に人を襲うわけではありません。

ヒトの味に慣れ、一度でもヒトの肉の味を覚えてしまったクマは、以後はヒトをエサとみなしてしまい、積極的にヒトを襲うようになってしまうのです。

そうなってしまうと、もう駆除するしか方法が残されていないのです。

アラスカにいる最大種コディアックヒグマ!

コディアックヒグマはアラスカヒグマとも呼ばれ、グリズリーと同じクマ科クマ属ヒグマ種の中でも最大になる亜種です。

アラスカ半島沿岸部やコディアック島近辺に生息しています。

川の多いこの地域では、秋になると産卵のために多数のサケ・マスが遡上してきます。

こうしてサケ類を大量に食べているためコディアックヒグマは栄養的にも恵まれており、内陸にいるグリズリーよりも著しく大型化する傾向があります。

立ち上がると3メートルにもなる巨体!

イエローストーンのグリズリーの平均体重260キロに対し、コディアックヒグマの平均体重は390キロにもなります。最大級では800キロのものもいます。

こういったホッキョクグマと変わらないほど大きな個体も、けっして珍しくありません。

オスの平均的な体長は244センチ、体高133センチです。

大型のオスが後足だけで立ちあがると高さ3メートルに達するほどなのです。

飼育下でのコディアックヒグマでは、体重が1090キロに達した個体もいます。

2005年の個体数は3526頭で、保護の成果でゆっくりとした増加傾向にあります。

絶滅したかつての最大種カムチャッカオオヒグマ

カムチャッカオオヒグマは、クマ科クマ属ヒグマ種の亜種で、文字通りロシアのカムチャッカ半島に生息していましたが、すでに絶滅してしまいました。

ヒグマ亜種の中でも史上最大種であるといわれています。

コディアックヒグマと同様に、サケ・マスが多数遡上してくる川がある、めぐまれた環境下で生息していたことから大型化したものと推測されています。

カムチャッカの先住民族であるコリャーク人は、食用、薬用、毛皮獲得の為にカムチャッカオオヒグマの狩りをしていました。

またアイヌ民族と同様に、「イオマンテ」に相当するクマ祭りの風習もありました。

しかしコリャーク人たちは、必要以上のオオヒグマの狩りをしていたわけではなく、十分な共存ができていたようです。

ところが、17世紀後半にロシア人がシベリアを東進してきて、その毛皮目当ての乱獲が繰り返されました。

彼らは冬眠中のオオヒグマであっても構わずに狩りをしていったために、ついにカムチャッカオオヒグマは絶滅に至りました。

1920年に捕えられた個体が最後のものであったそうです。

メキシコにもメキシコハイイログマというヒグマがいた!

メキシコハイイログマは、クマ科クマ属ヒグマ種に属するヒグマ亜種です。

メキシコ北部からアメリカ合衆国南西部(カリフォルニア州南部、アリゾナ州、ニューメキシコ州)にかけて生息していましたが、すでに絶滅してしまいました。

メキシコハイイログマの生息していた地域よりやや北方には、やはり絶滅したカリフォルニアハイイログマが分布していました。非常に近い種であったと考えられています。

メキシコハイイログマは、カリフォルニアハイイログマよりも小型で、ヒグマ亜種の中でも最小種だといわれていました。

記録によれば、最大のもので318キロだったそうです。

ただし、メキシコ国内では最大の陸棲哺乳類でした。

メキシコハイイログマは、銀色がかった灰色の身体をしていたそうです。

他のヒグマと同様、雑食性であり、おもに植物や果実、昆虫類などを食し、小型の哺乳類を捕食したり、死骸を漁ることもあったようです。

メキシコハイイログマの絶滅の原因は、やはり人間だった!

スペイン人によるアメリカ大陸征服(コンキスタドール)と、その後のヨーロッパ人の入植によって、メキシコにも続々と人間が現れました。

彼らにとって、メキシコハイイログマは家畜を襲う害獣であり、駆除の対象にされてしまいました。

1960年にはわずか30頭に減り、メキシコ政府は慌てて保護の対象としましたが、時すでに遅し。メキシコヒグマへの狩猟は続けられ、1964年に射殺されたメスを最後に絶滅してしまいました。

その後も目撃情報がありましたが、確かめられることなく現在に至っています。

絶滅しても州旗に残るカリフォルニアハイイログマ

カリフォルニアハイイログマもクマ科クマ属ヒグマ種に属するヒグマ亜種で、その名の通り、アメリカ合衆国カリフォルニア州に生息していました。

隣接地域に生息していたメキシコハイイログマ同様、すでに絶滅しています。

身体は褐色の毛に覆われ、最小種のメキシコハイイログマよりは大きかったようですが、ヒグマ亜種としては小型の部類になります。

カリフォルニアハイイログマは、現在でもカリフォルニア州の州旗に描かれています。

これは1840年代に当時メキシコ領であったカリフォルニアで反乱が起こった際に、反乱軍が勇猛果敢の象徴としてカリフォルニアハイイログマを描いた旗を用いたことに始まります。

その後1911年に正式にカリフォルニア州の州旗に制定され、現在に至っていますので、絶滅して100年近く経っても、当地の人々には親しまれているのです。

カリフォルニアハイイログマもやはり人間が絶滅させた……

1848年から始まったゴールドラッシュにより、カリフォルニアへも移住者が続々とやってきました。

ここでもカリフォルニアハイイログマは、家畜を襲う害獣として駆除の対象になりました。

また毛皮の需要もあったために、狩猟の対象にもされ、乱獲が進んだために1880年頃にはほとんど姿を見ることもなくなったそうです。

1922年に射殺された個体を最後にカリフォルニアハイイログマは絶滅しました。その後、1924年に目撃された記録が残りますが、それ以降は一切の情報はありません。

グリズリーとホッキョクグマの交雑種「ハイブリッド」

2006年、カナダの北極圏において奇妙な外見のクマが発見され、DNA鑑定によってこれがグリズリーとホッキョクグマとの交雑種であることが判明しました。

この2種のクマの間での生殖が可能であることは知られており、実際に動物園では交雑種も誕生していたのですが、自然界での実例が証明されたのは初めてのことだったのです。

グリズリーとホッキョクグマは遺伝的にもごく近縁種であり、生息域も一部重複していることがあります。

しかし実際にはグリズリーは陸上で生活し、繁殖するのに対して、ホッキョクグマは水中や氷上で生活し、繁殖も氷上でするため、両種の自然界での交雑は不可能に近いものであると考えられていました。

1864年に発見され、標本として残るクリーム色の巨大グマ「マクファーレンズ・ベア」など、交雑種はごくまれですが、時々出現していたと思われています。

ただしこの標本は正式にDNA鑑定されていませんので、交雑種とは認められておらず、新種のクマとして扱われています。

自然界での交雑種が正式に確認されたのは世界初だった!

2006年の発見は偶然のものでした。

カナダのバンクス諸島でホッキョクグマ狩りの最中に射殺されたクマが、ホッキョクグマの特徴である白っぽいクリーム色の毛皮をしながら、グリズリーの毛色である茶色の斑紋を持っていたのです。

狩猟者はホッキョクグマの狩猟許可証しか持っていなかったので、グリズリーのアルビノ種(白化個体)であった場合には、罰金が科される可能性がありました。

こうして、関係当局が正式なDNA鑑定を行なったのです。

その結果、グリズリーの父とホッキョクグマの母から生まれた交雑種であると認定されたのです。

グリズリーとホッキョクグマに限らず、クマ科の二種間の交雑は可能なものが多いとされていますが、自然界での交雑種が確認され、DNA鑑定によりそれが証明されたのは世界で初めてのことです。

寒冷地ほど大型化するというベルクマンの法則

「恒温動物では、同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きく、近縁種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」

これはドイツの生物学者ベルクマンが1847年に発表したもので、ベルクマンの法則と呼ばれています。

体温維持に関して、体重と体表面積の関係を述べています。

体温が一定である恒温動物は、その体温を維持するために常時体内で熱を生産する必要があります。

熱は筋運動や代謝により発生しますが、体表面から放出されてしまいます。

熱の生産量は体重に比例しており、放熱量は体表面積に比例しています。

熱と体長(身体の大きさ)との関係を見てみると、放熱量は体長の二乗に、熱生産量は体長の三乗に比例することがわかりました。

したがって、体長が大きくなるほど熱生産量と放熱量との差が大きくなりますので、熱は体内で維持されやすく、その効率が上がるということになります。

温暖な地域では熱の放出量を多くしなければ体温が上昇しすぎてしまいます。

ですから、それほど多くの熱を生産する必要がありませんので、体長が小さいほど生活するには有利と言えます。

逆に寒冷な地域では熱生産量を増やし、放出量を抑えなければならないので、体長が大きい方が有利と言えるのです。

具体例として、熱帯に生息するマレーグマはクマ属の中でも最も小型の種であり、ツキノワグマ、ヒグマ、ホッキョクグマと生息域が寒冷な地域になるほど大型化しています。

また北海道から慶良間諸島にまで広く分布している日本国内のシカでは北海道のエゾシカが最大種であり、亜熱帯である慶良間諸島にいるケラマジカが最小種になります。

体温維持に関してアレンの法則というものもある!

ベルクマンの法則によく似たものにアレンの法則があります。

1877年にジョエル・アレンが発表したもので、「恒温動物において、同種の個体や近縁種の個体では、寒冷な地域に生息するものほど耳、吻(口の周りと鼻)、首、足、尾などの突出部が短くなる」というものです。

この法則も体温維持に関わるもので、上述したような突出部があると体表面積が増すので、放熱量も増えることにつながります。

したがって温暖な地域では、突出部を長く、大きくすることで放熱量を多くすることになり、逆に寒冷地域では放熱量を抑え、体温を奪われないようにしなければならないので、突出部を短く小さくした方が有利だということです。

具体例としてキツネ類が挙げられています。

アフリカや中東の砂漠地帯にいるフェネックは非常に耳が大きく、極地にいるホッキョクギツネは耳が丸くて小さいのです。

サルについても、最も寒冷な地域に生息するニホンザルは、他の地域の同種と比べて極端に短い尾を持つのです。

動物の体格は温度環境だけで決まるのではないが……

ベルクマンの法則とアレンの法則は、熱に関してほぼ同じことを述べていますので、体長と突出部の関係が両方同時に見られることも少なくありません。

ただし体長や各器官の大きさは、温度環境だけで決まるものではありません。

それぞれの生活環境によって発達の度合いも異なるものと考えられます。ですからすべての種でこの法則が当てはまるというものではありません。

逆ベルクマンの法則もある!

ベルクマンおよびアレンの法則の逆の例として、変温動物が挙げられます。

変温動物では体温維持の必要がありませんが、温暖地と寒冷地で体格差が見られる種が多数存在します。

日本国内のほぼ全域でみられる昆虫であるコオロギや両生類であるヒキガエルは、寒冷地に行くほど小型化し、温暖な地域ほど大型化しています。

爬虫類においても、ニシキヘビやオオトカゲなどの特大ともいえる大型種は熱帯地方にしか生息していません。

このような現象を逆ベルクマンの法則と言います。

変温動物は、体温を上昇させなければ活動できない!

一般的に変温動物では、低温時には日光浴などをして体温を上昇させなければ活動ができません。体積が小さい方が体温上昇が早いので、すぐに活動を開始できます。

寒冷地では活動できる時期や時間が温暖地に比べて限られてしまうので、大型化することは成長や成熟に不利であり、小型化したほうがより効率的であると考えられています。

ユーラシア大陸北方に広く分布しているコモチカナヘビでは、幼体に比べ、大型である成体のほうが、活動期間が短くなっています。

つまり冬眠期間が長くなるのです。これも体温上昇に必要な時間が大型のものほど長くかかるので、気温が上昇してからでないと出現できないということであると考えられています。

野生のクマと恐怖の遭遇!!

私はバイクに乗り、よくツーリングに出かけるのですが、とくに林道といわれる山道が好きで、よく人里離れた深山にも走りに行きます。

数年前、長野県内の林道を走っていると、数十メートル先に黒いかたまりがあるのを見つけて急停止しました。

なんと野生のツキノワグマが、路上に座り込んで何かを食べていたのです。野生のクマに遭遇したのは初めてのことです。

そこはUターンもできないような狭い山道です。

一日数台程度しか車も通らないような山の中ですから、周りには誰もおらず、助けを求めようもありません。

私の身体よりもはるかに大きなそのクマがこちらに向かって動き出した時には、全身の毛が逆立ち、悪寒が走りました。

逃げ道はありませんので、そのまま殺られるか、死を覚悟で突っ込むかのどちらかしかありません。

クラクションを激しく鳴らし続け、突っ込んでいく覚悟をしたところで、クマは悠然と脇にそれて森の中に消えて行きました。

私はとりあえず安全なところまで必死で逃げて事なきを得ましたが、その時には膝はガクガク震えて止まらず、いやな汗が吹き出してなかなか止まりませんでした。

山に入ると、ニホンザルやニホンカモシカなどをよく見かけますが、いかにヒトが切り開いた林道とはいえ、野生動物たちの領域に踏み入るわけです。

自分のナワバリに入り込んだと思われて襲撃されてもおかしくはないのです。

野生動物との共存は、本当にむずかしいものだと心底思う次第です。