もうすぐ本格的な冬がやって来ます。

冬は厳しい寒さによって、動植物や昆虫などの虫たちの活動を大きく阻む季節ですが、秋から冬にかけての風物詩的な虫と言えば「蓑虫」ですね。

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Photo by (c)Tomo.Yun

最近はめっきりとその姿を見かける事もなくなりましたが「蓑虫」は俳句の季語として使用されていたり、私が子供の頃までは毎年庭の木々にぶら下がっているのが見られたりと、ひと昔前までは日本人にとってはとても身近な虫でした。

意外と知られていない蓑虫の生態

蓑虫はミノガという蛾の仲間で、名前の由来となる蓑は蛹から成虫になるまでの仮の姿です…と私は勘違いしていたのですが、実はこれは半分当たりで半分外れと言えます。

蓑虫の仲間には、他の蛾と同様に蓑の中で越冬し、夏が近くなると活動を再開します。
やがて蛹化して、その後羽化して蓑から巣立つ者もいます。

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ただし、蓑虫は幼虫の段階で既に蓑を身にまとい、蓑から顔や半身を出しながら生活しつつ、脱皮や成長を繰り返しますので、他の蛾が蛹になる為に繭を作るのとは少し勝手が違っています。

この蓑が小鳥などの捕食者などから身を守る為の擬態や鎧の役割を果たしているのです。

奇妙な蓑虫の雌の生態

蓑虫の雄は普通の蛾と同様に羽化して飛び立つ事が出来ますが、雌の中には雄と同様に羽も脚もあるタイプ、脚はあるが羽がないタイプ、羽も脚もないタイプが存在します。

驚くべき事に、最後の羽も脚もないタイプは、蓑の中で蛹から成虫になりますが、形状はまるで芋虫で胸より下の部分は蛹の殻の中から出しません。

蓑の中で蛹の殻に入ったまま、交尾と産卵を行い、卵が孵化する頃にはメスは蓑から落ちて死んでしまいます。

蓑の中で生まれ、蓑の中で育ち、そして蓑の中でその生涯を終える蓑虫の雌は、独自の進化を遂げた種と言えるでしょうが、我々人間の価値観から考えれば、はかない人生でもあります。

蓑虫にとってはそんな事は余計なお世話なのでありましょうが、「鬼の子」「鬼の捨子(すてご)」という異名を持つ蓑虫を清少納言も『枕草子』の中に、「蓑虫いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれもおそろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて…」と書いています。

もはや絶滅危惧種となった日本の蓑虫

種の保存の為に特異な進化を遂げた蓑虫ではありますが、冒頭で述べたように近年ではめっきりとその姿を見かける事はなくなりました。

鳥などの天敵から身を守る鎧を身に着けた蓑虫ですが、どうやら蓑虫だけに寄生するという中国原産の寄生蠅「オオミノガヤドリバエ」の増殖が原因のようです。

植物であれば何でもかんでも食べる蓑虫は、害虫という側面がありますので、人為的に日本に「オオミノガヤドリバエ」が持ち込まれた可能性が指摘されています。

蓑虫は秋冬という季節を感じさせる数少ない虫で、古くから日本人の心に根付いていますのでこのまま絶滅してしまうのは日本の文化、ひいては季節の移り変わりに敏感な日本人の心が失われることにもつながりかねません。

現状は絶滅危惧種となっている蓑虫てすが、何とか勢いを取り戻して、また秋に普通に見られるようになることを願います。

(ライター まるお)

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