山茶花というと、「さざんか、さざんかさいたみち~~、たきびだ、たきびだおちばたき~~」という童謡『たきび』を思い出してしまう筆者ですが、最近は耳にすることもなくなりました。
山茶花というと、この歌のように木枯らしが吹き、焚き火をする寒い季節に咲く花という印象ですが、秋にも咲いている気がするし、春先にも咲いているような気がします。山茶花の花はいつごろ咲いて、どの季節の季語になっているか調べてみましょう。
山茶花とはどんな花?
山茶花とは、ツバキ科の常緑広葉樹で、日本の固有種になります。
本州の山口県、四国・九州、沖縄県が原産地です。西洋には、江戸時代に長崎のオランダ商館に来ていた医師が持ち帰り広がりました。
英名も「サザンカ(Sasanqua)」です。
山茶花という名前の由来は、中国でツバキ類全般を指していた「山茶」です。
その花だから「山茶花(サンサカ)」、それが訛って「サザンカ」になったといわれています。
日本では、垣根に使われることが多く広く人々に親しまれてきました。
多くの都道府県や市区町村の花に選ばれています。
山茶花の花の咲く時期
山茶花は、秋から冬にかけての寒い時期に、赤やピンク、白などの花を咲かせます。
ただし種類によっては、花の時期が異なります。
- サザンカ群:10~12月に咲きます。おもに一重咲きで野生の山茶花からできた品種です。
- カンツバキ群:11~3月に咲きます。八重咲きや獅子咲きで華やかな花が多い品種です。
- ハルサザンカ群:12~4月に咲きます。ツバキとサザンカの交雑種です。
山茶花はどの季節の季語?
さて、山茶花の花の咲く時期はいつかというと、10~4月と幅広いことがわかりました。
しかし、山茶花の原種の咲く時期はやはり、冬です。
花のない寒い冬に咲く花、冷たい冬を告げる花ということで、山茶花は冬の季語になっています。
山茶花の花言葉は、「困難に打ち勝つ」「ひたむきさ」です。
色別に見てみると、
赤:「謙譲」「無垢」「あなたがもっとも美しい」
白:「愛嬌」「理想の恋」
ピンク:「永遠の愛」
花の少ない厳しい季節に咲く花ということで、困難に耐えるひたむきさを示す言葉が多いですね。
山茶花と椿の違い
ところで、山茶花とよく似ている花として「椿」がありますよね。
そっくりな花、そっくりな葉っぱをしているので、筆者には山茶花と椿は見分けられません。
両者の見分け方を調べてみました。
開花の時期
山茶花:秋~真冬
椿:晩冬~春
*品種によっては咲く時期が異なる場合もあります。
花の散り方
山茶花:花が終わると花びらが一枚ずつばらばらに散る。
椿:花がカップ状になっており、丸ごとぼとりと落ちる。
*椿の花は、頭ごとボトッと落ちるので、昔の武士たちには縁起が悪いと嫌われていました。
葉っぱ
山茶花:3~7cm。葉脈が黒。縁がギザギザ。葉の柄や裏側に細かい毛がある。
椿:5~12cm。葉脈が白。ワックスをかけたようにツヤツヤ。
香り
山茶花:豊かな香りがある。
椿:ほとんどなし。
漱石にみる山茶花と椿の違い
山茶花と椿の見分け方として、いちばんわかりやすいのは花の散り方ではないでしょうか。
明治の文豪、夏目漱石の文学作品からそれがわかる部分を見つけてみました。
《山茶花》
「二三片山茶花散りぬ床に上」(俳句)
*山茶花の花びらが、2枚3枚と床に散っています。
「つくばいに散る山茶花の氷りけり」(俳句)
*つくばいにひらりと散った花びらが氷っています。寒さがきびしい様子が伝わってきます。
《椿》
「見ていると、ぽたり赤い奴が水の上に落ちた。静かな春に動いたものはただこの一輪である。しばらくするとまたぽたり落ちた。あの花は決して散らない。崩れるよりも、かたまったまま枝を離れる。枝を離れるときは一度に離れるから、未練のないように見えるが、落ちてもかたまっているところは、何となく毒々しい。またぽたり落ちる。」(小説『草枕』より)
*静かな春に、散るのではなく、ぽたりと「落ちる」と表現しています。
「枕元を見ると、八重の椿が一輪畳の上に落ちてゐる。代助は昨夕床の中で慥かに此花の落ちる音を聞いた。彼の耳には、それが護謨毬を天井裏から投げ付けた程に響いた。夜が更けて、四隣が静かな所為かとも思つたが、念のため、右の手を心臓の上に載せて、肋のはづれに正しく中る血の音を確かめながら眠に就いた。」(小説『それから』より)
*夜、家のなかに活けていた八重咲きの椿の花が「落ちる音」を聞いています。音が聞こえるぐらいにぼとりと落ちる様子がわかります。
まとめ
山茶花と椿、とても似ていますが、あなたは見分けることができるでしょうか。
山茶花は「冬」の季語であり、椿は「春」の季語です。
花が少ない寒い冬に私たちを楽しませてくれる山茶花、住んでいる町の家々の庭や垣根に目を向けてみましょう。
(ライター sensyu-k)