この花の姿を見て秋の訪れを知る、という事もあるかも知れませんね。

真っ赤な花弁は外側にカールしていて雄蕊や雌蕊は突き出ています。

白秋の時節に異彩を放つ、彼岸花についての話です。

彼岸花について

ヒガンバナ科ヒガンバナ属の彼岸花は、日本では本州にごく普通に見られる花です。

ヒガンバナ属にはいくつか種類があり、見慣れた真っ赤な彼岸花以外にもアジアを中心に今でも自生しているようです。

多年草で原産は中国といわれています。

流入経路や時期ははっきりとは分からず、彼岸花が山の中などに自生する植物ではなく昔から人の生活空間の近くに植えられている事などから、人間が何等かの目的で持ち込んだのではないかと考えられています。

彼岸花の球根からはでんぷんが摂れるそうです。その為、米が不作の際に非常食として用いられたという話もあります。

彼岸花の特徴

彼岸花は、9月の中頃になると突然咲き始めます。

赤の印象が強いのは、花が咲く時期には葉が落ちており、茎と花だけになっているからかも知れませんね。

背丈はだいたい30cm前後で、道端、田の畦道、墓地、寺院などあちこちによく植えられています。

 

彼岸花の特徴は球根が強いことです。

9月末頃に花の時期が終わるとあっさりと花弁を落とし茎のみの姿になります。

 

冬が近づくと細い葉を出しますが、春には枯れます。

そして秋のお彼岸の頃にはまた咲きます。不思議な花です。

 

彼岸花には種子ができません。その為、冬の時期に球根に栄養(でんぷん質)を蓄え夏には休眠します。

涼しくなるとまた花茎を伸ばし、咲きます。

花茎は地下茎から直に茎を伸ばし花を咲かせる植物の茎の事で、ユリ科やケシなどにも見られます。

彼岸花の呼び方

彼岸花には球根、茎、葉などにアルカロイド系の猛毒があります。

そのせいなのか、数奇な異名を多く持つ花でもありますね。

曼殊沙華、シビトハナ、カミナリバナなど。

これほど異称が多いのは、日本各地で彼岸花が見られるからかも知れません。

 

最近では相思花ともいわれるようです。

花が咲いている時期に葉はなく、葉のある時期には花は咲かない彼岸花の様子を言葉にたとえたものであり、韓国が由来のようです。

ロマンティックなような小粋なような、もの哀しいような。

彼岸花を見た時の心模様を映し出しているような呼び名ですね。

 

シビトバナといわれる所以には、墓地に植えられている事があります。

土葬の時代、毒がある植物を植える事で野犬が墓を荒らさないようにしたとか。

 

水田に植えられているのは、モグラが田を荒らすのを防ぐ為だとか、あるいは彼岸花のでんぷんを米の代わりに利用していたので、飢饉の際の供養のために植えただとか色々あるようです。

 

曼殊沙華というのは、サンスクリット語(梵語)が由来だそうです。

曼殊沙華という名は、仏教の経典「法華経」におめでたい時に降ってくる四つの花の中のひとつとして出てくるようですが架空の植物です。

日本では彼岸花の縁起の良い異名として浸透しています。不思議な話ですね。お彼岸の彼岸も仏教が由来の言葉とされています。

彼岸花

古くから生活に根付いており多様なイメージを持つ花だからか、彼岸花は映画や歌など大衆文化の分野で使われる事があります。

 

小津安二郎の初のカラー映画は『彼岸花』です。

原作のためか、カラー映画だからなのか、小津安二郎の映画の中ではポップで観やすい方なのではないでしょうか。

 

個人的に小津安二郎の映画では『宗方姉妹』が好きです。彼の代表作という訳ではなさそうですが、ラストシーンの印象的な作品です。

田中絹代の表情がフェデリコ・フェリーニの『カビリアの夜』のラスト、ジュリエッタ・マシーナの表情を何となく思い出させるのです。

彼岸花について

咲いている時はくっきりした色彩に目を奪われますが、花をつけていない時期の彼岸花はあまり印象に残らない気がします。

奥ゆかしく潔い咲き方をする花ですね。

(ライター:おもち)