ナベヅルは、江戸時代には日本全国に飛来していました。

ところが太平洋戦争の戦中・戦後の密猟によって、275羽まで減少しました。

そんなナベヅルは、現在どうなっているのでしょうか? 早速見ていきたいと思います。

ナベヅルの生態

ナベヅルは、ツル目ツル科ツル属に分類される大型の鳥類です。

また、シベリア南東部から中国北東部などで繁殖し、冬になると日本にやってくる渡り鳥でもあります。

 

ナベヅルの名前の由来

ナベヅルの名前の由来は、胴体の羽衣の色が、鍋(なべ)についた煤(すす)のように見えることからです。

「鍋鶴(なべづる)」というわけですね。

 

また、種小名の「monacha」は、ラテン語で「修道士の」という意味です。

頭部から頸部にかけての羽衣が、修道士がかぶっていたフードのように見えるため、そう名付けられました。

ナベヅルの生息域

ナベヅルの生息域は、中華人民共和国の東北部、ロシアの東南部、モンゴル北西部などです。

そこで繁殖をして、冬になると日本や朝鮮半島の南部、長江の下流域へと南下して越冬します。

ナベヅルの大きさ

ナベヅルは、全長がおよそ90~100cm、翼開長が160~180cmで、鳥類のなかでも大型です。

立ったときのクチバシの位置が人間の腰のあたり、翼を広げると人間の身長くらいになります。

ちなみに身長が180cmの芸能人は、福山雅治さんやGACKTさん、高倉健さんです。

ナベヅルの食性

ナベヅルは雑食性の鳥なので、動物性のエサも植物性のエサも両方食べます。

越冬期間中は、モミ、麦、草の実、ドジョウ、タニシなどを食べているようです。

 

また、自然のエサだけでなく、人間がまいているエサも食べます。

エサをよく食べるのは朝と夕方です。

ナベヅルの益害

ナベヅルは雑食性なので、農作物も食べます。

というわけで、農作物を食害する害鳥とみなされた時期もありました。

しかし19世紀に禁猟対象に指定され、後に天然記念物に指定されました。

ナベヅルは絶滅危惧種なのか?

ナベヅルは、IUCNのレッドリストカテゴリーの絶滅危惧II類です。

また、中国では国家一級重点保護野生動物です。

 

ちなみに、世界の推定個体数は約11500羽(2006年)となっています。

日本で越冬するナベヅルは、20世紀のはじめまでは、日本全国に飛来していました。

 

しかし今は、鹿児島県の出水(いずみ)地方と山口県の周南市でのみ越冬しています。

出水地方では、大正時代からツルの保護のために飼料費が地元に交付されて、さまざまなツルの保護活動が行われてきました。

 

その結果、数が徐々に増えて昭和2年にはおよそ440羽、それが昭和14年には3900羽を記録しました。

ただし太平洋戦争を経た昭和22年には、275羽に減少しています。

 

その後、昭和42年に1677羽、昭和62年には8312羽、平成9年に10469羽と増加しました。

ナベヅルは、今では1万羽~1万1千羽ほど飛来しています。

 

世界のナベヅルのおよそ9割が出水に飛来しているのです。

このような一極集中の結果、ナベヅルは狭い場所で密集してねぐらをとっています。伝染病などが発生した場合、全体に蔓延する危険性が高まります。

まとめ ナベヅル・マナヅル分散プロジェクト

ナベヅルをはじめとするツル類は、出水地方に一極集中して越冬しています。

このツル類を国内外の広範囲に分散して越冬させるべく、ナベヅル・マナヅル分散プロジェクトが開始されました。

 

日本野鳥の会が、環境省や農林水産省、文化庁など関連する省庁と連携しながら、ツル類の越冬分散地をつくることを検討している自治体や、その住民とともに分散候補地の整備とツルの誘引を試みているのです。

 

ナベヅルは、江戸時代には日本全国に飛来していました。

ツル類が自然に飛来する環境を作っていくことは、一朝一夕にはいきませんが、しかし近い将来、あなたの地元でナベヅルを見かける日が来るかもしれません。

(ライター ジュン)