サワガニは一生を淡水で過ごすカニです。海にサワガニはいません。
海中に棲む甲殻類の多くは脱皮を繰り返して成長するようですが、淡水に棲むサワガニはどんな生物なのでしょうか?
サワガニについて
サワガニは日本固有種です。英語では英名Japanese freshwater crabとも呼ばれ、水質が綺麗でないと生きていけません。
湧水や水源地など、山の方から流れてくる河川の上流やせせらぎのような場所で、しかも砂礫などがあるところが彼らの棲息地であり、サワガニが棲息している河川は水質1級とされ指標にもなっています。
名もないような細く綺麗な川をサワガニは好みます。
基本的に青森を北限、屋久島諸島付近を南限として棲息し、北海道には棲息せず、また南西諸島には亜種ではないかともいわれる淡水性のカニが棲息します。
サワガニの外見
大人のサワガニは甲の幅25mm程度です。
脚を入れて70mmくらいの小さなカニです。
エビ目カニ下目サワガニ科のサワガニは、オスのハサミは右の方が大きい個体が多いようです。
サワガニ類の脚は10脚ですが、一生を淡水で過ごす非常に珍しい十脚(エビ)目のカニです。
メスのサワガニは抱卵の為、腹部が大きいのが特徴です。夜行性でエラ呼吸を行います。
移動距離は少なく周囲にあるものを餌としています。
成体のサワガニは他の淡水に棲む甲殻類、貝類、時には落葉まで食べる雑食性です。
サワガニの体色について
サワガニの体色はブルーがかった個体や赤いもの、ところにより白い個体も出現するようです。
腹側は白い事が多いようです。体色に地域差が大きく、サワガニが棲息する淡水は研究対象になっている事も多いようです。
例えば多摩川を水源とする三沢川において発見されるサワガニは青いものが多いようです。または諏訪湖を水源とする河川の天竜川の上流などでも発見されるようです。
サワガニは成長と共に体色が少しずつ変化するようで、稚ガニの時は透き通った褐色、パープル味を帯びた暗褐色、ブルー系になったりします。
西日本で見つかるサワガニは赤い個体も棲息するといわれます。
サワガニは脱皮する
珍しい点が多く着目されにくいサワガニの脱皮ですが、サワガニも脱皮します。
最初の脱皮は、独り立ちしてからひと月後のようです。
脱皮を繰り返して成長するのは確かなようですが、皮を脱ぐタイミングについては明らかになっていません。
脱皮している時というのは生物として無防備な状態でもありますから、天敵も多いサワガニとしてはさっさと済ませたいのかも知れません。
サワガニの天敵は、稚ガニの頃は水棲の昆虫や魚類、幼体になると山に棲む動物、鳥類などです。
サワガニは6ヶ月ほどで甲幅は7mm程度、もう一年経つと14mm、3年目になると20mm程度になります。
恐らく数回の脱皮を経て着実に成長するようです。
この頃になると体色は最終的な色になっています。
サワガニの産卵と孵化の様子
サワガニの繁殖期は6月~10月頃です。
水中で交尾を行い直径3mm程の卵を数十個産みます。
卵の大きさは甲殻類にしては極端に大きく、産卵する卵の数は少ないようです。
このあたりもサワガニの生態の特色です。サワガニのメスは、この小さな卵をお腹のあたりにくっつけて孵化まで抱卵します。
抱卵時期は30日~40日です。孵化も淡水中で行われます。
サワガニのメスは抱卵中に穴を掘ってその中でじっと時を待つのです。
サワガニの孵化は不思議な出来事です。母サワガニのお腹の卵からサワガニの稚ガニが発生します。
甲殻類特有のゾエア幼生などの時代をすっ飛ばして、ダイレクトに稚ガニとして産まれてきます。
稚ガニの大きさは約6、7mmだそうです。
産まれてからすぐは体も透明感があり柔らかいので、母カニのお腹のあたりにいます。
カニらしく甲羅が硬くなってきたら独り立ちします。
寿命は10年~20年と言われます。
サワガニの利用
このように特殊なサワガニの稚ガニの発生ですが、暑さに弱いので人工的な繁殖や養殖は非常に難しいようです。
高速道路のサービスエリアなどの土産物店で、小さいカニの素揚げのようなものを見た事があるかと思います。
本州のみならず全国的に販売されています。赤く小さなカニはたまに白ゴマがついていたりしますが、原材料のところを見ると「サワガニ」「沢蟹」などと記載があるはずです。
サワガニは食用とされる事が多く、養殖も試みられていますが。
以上のような理由で難しいようです。食用として出回っているものの多くは養殖のようです。
野生化で見つかるサワガニには寄生虫がいる場合もあるようなので、むやみに捕まえず、観察するにとどめましょう。しかし綺麗なカニですね。
サワガニの越冬
夏に産まれたサワガニは越冬します。秋頃になって水温が低くなると、石の下などに潜り込み、翌春まで冬眠します。カニが越冬する、というと奇妙にも思えますが、サワガニは水質汚濁のみならず温度変化にも弱いのです。
さるかに合戦のサワガニ
昔話の「さるかに合戦」のカニは「サワガニ」のようです。
芥川龍之介の『猿蟹合戦』はまた別の話です。サルとカニが同時に出てくる話というのはよく考えなくとも妙な話です。
サルは山に棲んでいるだろうし、カニは海にいるような気がします。
しかしサワガニは淡水、特に山から流れる川の上流や沢などに棲息しますので、そこで山に棲む動物との接点が生まれる事になります。
「さるかに合戦」中に登場するサワガニのメスは子を産むと死亡します。
実際のサワガニのメスも産卵後や抱卵などがうまくいかず、死亡する場合もあるようです。
昔話の新しい解釈などが登場していますが、「さるかに合戦」だけではなく昔話というものはゾッとするようなものが多いですね。
海に行かないサワガニについて
日本に棲息している淡水性のカニはサワガニとモズクガニが知られます。
モズクガニは最終的に甲幅は8cmほどになるようですが、モズクガニの幼体とサワガニの成体は区別がつきにくいようです。
モズクガニは川に棲みますが、河口付近のすぐに海に出られるところに産卵され、小ガニは海で育ち、また川に戻るといわれます。
しかし、一度も海に出ずにずっと淡水にいるカニはサワガニのみです。サワガニは目立ちませんがきわめて珍しいカニのようです。
(ライター:おもち)