クモという生物はよく考えてみれば不思議な生物です。虫っぽいですが、昆虫ではありません。
日本には多くのクモが棲息しています。だいたい500種はいるといわれます。
中でも一番大きいクモなのではないかといわれるオオハシリグモはどんなクモなのでしょうか。
大きいオオハシリグモ
オオハシリグモ(dolomedes orion)は日本に棲息するクモの中で一番大きいかもしれません。
野生の生物なので個体差はありますが、オオハシリグモは大人になると成人した大人の手のひらから脚がはみ出るほどに成長します。
クモ類の脚を開いた大きさの事をレッグスパンとよんだりします。
大きいクモであるジョロウグモなどと比べると頭部と胸部は細めです。
見た感じの印象は、アシタカグモのようでもあります。
オオハシリグモの棲息地は沖縄諸島などの南の島です。
外見は黒っぽいですが、眼はちゃんと8つあります。大きめに見える単眼が2つ、その間に小さめの単眼が2つ、下にはちいさめの単眼が4つあります。
8本の脚も暗い茶系です。1本目の脚と2本目の脚の先の方がやや白っぽいですね。
オオハシリグモは脱皮して大きくなります。
体毛は黒のことが多いようです。毛の生えたクモにとって毛とは、感覚器のようなものです。
オオハシリグモは徘徊性のクモなので、獲物を捕らえるための糸でできた網はつくりません。
苔の生えた岩場などにいることもあり、水のある沢などにひそみ魚を捕食します。
オオハシリグモの寿命は2、3年のようです。
オオハシリグモの捕食
オオハシリグモは浅い水辺付近でじっと待ち、小さめの魚が通るのを待ちます。だいぶ近づいてきたところでおもむろに動き、上顎でとらえてしまいます。
それにしても水辺に棲んで魚を食べる毛の生えた徘徊性のクモがいるとは驚きですね。
水に触れても毛はぐちゃぐちゃにはならず、撥水効果でもあるかのようです。
水辺を好むクモというのも意外にいるようです。特に南の地方や外国だとタイなどにも棲息しています。
オオハシリグモは、キシダグモ科ハシリグモ属のクモです。
八重山諸島に棲息する同じキシダグモ科のイシガキアオグロハシリグモも、徘徊性で水辺を好むようです。
しかしイシガキアオグロハシリグモは主に昆虫を食べますから、オオハシリグモはやや変わり種ともいえそうです。
オオハシリグモの単眼
オオハシリグモもそうですが、クモの目は少し変わっていますね。
キシダグモ科というのは、動物研究家の岸田久吉氏(1888年~1968年)という方のお名前からつけられたそうです。
クモの同定は難しいようですが、眼のつき方などでだいたいは判断できるとの事です。
キシダグモ科のクモの目の特徴は、8眼2列が基本でありクモの体の後ろ側に湾曲しているようについている事のようです。
オオハシリグモの単眼の配列もほぼそのようになっています。
岸田久吉氏は動物の研究家でもありますが、主に無脊椎動物であるクモ類にたいへん尽力された方のようで、明治末期からクモの研究を始め、教師の傍ら論文の発表を続けた方だそうです。
日本は意外にクモが多いようですが、明治時代から既にクモの研究をしていたとはこれまた驚きです。
日本は1971年から「月刊むし」という昆虫雑誌が発行され続けているほど昆虫愛好家が多いという特異な国ですが、クモ類に特化した明治時代の方というと数少ないのではないかと思われます。
もちろんクモ類は昆虫ではなく、サソリやムカデなどに近い生物ですが、棲息環境に合わせて生態が変わることも多々あります。
そのため、地域の生物たちを熱心に調べそれを書き残している人というのは、随分貴重なのではないでしょうか。
オオハシリグモ
オオハシリグモはその名の通り素早く動くクモです。
そのため暗がりで発見してもすぐにどこかへ走り去ってしまい、そのクモがオオハシリグモであるかどうかを素早く判断するのは至難の業です。
オオハシリグモは岩陰や石と石の隙間に入り込むこともあるようです。
まだ生態は不明点が多いのですが、大きい事には違いない徘徊性の毛の生えたクモです。
(ライター:おもち)