見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ、と浦の苫屋には行ったことすらないのにふとこの歌が思い浮かぶような秋冬の景色にわびしさを感じる人もあるかも知れません。そんな時季に長期間開花する、サザンカとその病気についての話です。
サザンカについて
サザンカは、ツバキ科の常緑広緑樹で日本固有種です。
ツバキ科のサザンカ属で、学名はcameria sasanquaです。
濃い紅色の花弁が一般的ではありますが、原種のサザンカは淡い桃色や白色などで一重のものが多いようです。
高さは1m~10mにもなり、成長するのはやや遅めです。
よく似ているツバキとは交雑された品種も多数存在し、見分けるのは難しいです。
サザンカは現在では春先まで花を咲かせる品種もあるようです。
耐寒性は強くない為、四国、九州、沖縄諸島など比較的温暖な地方の生垣や庭木などとして植えられる事が多いようです。
サザンカには「山茶花」という漢字が当てられていますが、これはツバキの漢名を表しているもので実際の中国における「山茶」とは別の花だそうです。
中国にあるサザンカは「茶梅」という表記になるそうで、日本から中国に渡り改良されてまた日本に戻ってきた品種もあるようです。
実際に見間違えるほどツバキとサザンカは似ていますから、混乱しそうなエピソードですね。
しかもツバキ科のヤブツバキとサザンカの交雑というのも行われ品種も増えた事から、ますますツバキとサザンカの境目がなくなってきたようでもあります。
サザンカの樹齢は長い
サザンカは樹齢が長いのも特長です。
中には100年を超える樹もあるといわれます。
ゆっくり育つものは大きく育つという事でしょうか。
大きなサザンカの樹に花が付いている様は非常に見事です。
大分県に日出(ひじ)の名所というところがあり、この地にあるサザンカはなんと樹齢400年を超えるそうです。
樹齢については何だか長すぎる気がしますが、樹はひたすら立派です。
花は白いようですね。日出というのは城下町だそうでポタリと花を落とすツバキより、常緑のサザンカの方が武家に好まれたという事でしょうか。
サザンカの花の特徴は、散り際に花弁を一枚一枚落とす事です。
ツバキの場合は、花弁の根元がひとつにくっついているので花ごと落ちる事が殆どです。
花の大きさもサザンカはツバキより小ぶりで、花弁も柔らかめな気がします。
また、ツバキの雌蕊は基本的に一つのようですが、サザンカは雌蕊の柱頭部分が3つに分かれたようになっています。
また、樹や枝もツバキの方がどっしりとしており、サザンカは枝も細めです。しかし花自体は、ツバキが葉に隠れたように咲くのに対し、サザンカは花が見えるところに咲くようです。そういうわけで、サザンカは花が小ぶりであっても花が見えやすいのです。
サザンカの種類と開花時期
サザンカは秋の終わりから冬、春にかけて長期間開花する花です。
サザンカは大別するとサザンカ群、カンツバキ群、ハルサザンカ群、タゴトノツキなどになるそうです。
よく知られているサザンカは10月から12月に開花し、花も小ぶりで控えめな印象です。
一番自生のサザンカに近いかも知れませんね。
カンツバキは真冬に咲き八重のものなどが多いです。
ハルサザンカは4月頃まで咲きこれも華やかなものです。
同じツバキ科のカンツバキとサザンカの交雑種であるようです。
タゴトノツキは葉に光沢を持たないタイプの品種です。
これらの花が11月頃から4月くらいまで順番に開花するので、見ている側からするとずいぶん長期間咲いている花という事になります。
若干ツバキと混じっているようでもありますね。
サザンカの病気について
サザンカも虫や菌が要因で病気にかかってしまう場合があります。
いずれにしても花が終わった後などの剪定時期など、観察しておくのも予防策のひとつです。
また、散った後の花弁を掃除することになりますから、周辺に面妖なものがいないかよく見ましょう。
チャドク蛾による葉の食害
サザンカに付きやすい虫はチャドクガという蛾の一種です。
年に2回、5~6月、8月に発生します。
まず1月から4月には、葉の裏に卵がつき、気付かないでいると気温が上がる4月頃には幼虫が孵化してしまいます。
この幼虫に素手で触るとかぶれることもあり、葉を食べ始めてしまいます。
そのため、卵を見つけたら即潰すのがよいようです。
もし既に幼虫がいたら、葉を取るか新芽に影響の出ない殺虫剤を使用します。
予防としてはせん定をしっかりする事です、葉が密集しすぎると、どうしても葉に空いた穴などに気付きにくくなってしまいます。
輪葉葉枯病
葉が茶色くなり穴が開き、葉が落ちてしまうようです。
梅雨時期に発生するようです。
やはり早めの対処が大切です。
異状を見つけたら病気の部分を取り除く事です。
原因は菌のようですから、殺菌剤を使用します。
もち病
サザンカやツバキ、ツツジに特有の病気です。
新芽の時期に葉がおもちのように膨らんでしまいます。
膨らんで喜ぶのは財布か正月のもちくらいです。
進行すると葉が白くなってしまいます。
この白いのは糸状菌というカビの一種で、発生原因は日照不足や長雨によるものです。
白っぽい葉を見つけたら逐一摘み取り処理します。
これを徹底する事で、もち病は発生を抑えられます。
薬剤を使用するときは、新芽に影響がないものを使用します。
すす病
葉や枝が灰色や黒っぽくなってしまう病気です。
気温が高い時期に発生しやすいですが、年間を通して出ることもあるようです。
原因は糸状菌またはカイガラムシやアブラムシ系の害虫です。
すす病は植物の内部にまで入り込んでしまう事があり、早急な対策が必要です。
黒い斑点をみつけたら、すぐに摘み取る事が重要です。
予防としてはマシン油乳剤を使う事です。
すす病の発生原因はあくまで菌なので、殺菌しなければいけません。
薬剤を使用する場合、殺虫剤より殺菌剤が有効といえます。
サザンカについて
サザンカなど日本の固有種の花を見ると、一体だれが種を蒔いたのか不思議に思います。
日本で最初にサザンカが書物に登場したのは、貝原益軒の『花譜』だそうです。
表記は漢語で「茶梅」とされているようです。
本書は月毎の花などが記されているそうで、昔の人たちはだいぶ粋ですね。
(ライター:おもち)