ごくさりげない会話の端緒として、好きな果物は何ですかと問われ、アケビですと躊躇いなく答える人はさほど多くはないと推察されます。
なぜならアケビというものは名前を聞いた事はあるし、それが山中に見られる地味な果実である事までは知っていても、アケビ自体に関して極めて詳細な知識を有している人は恐らく多勢ではないからです。
しかもアケビですと即答した事により他愛無い会話のはずが、そこはかとなく玄人感のようなものが漂ってしまい、会話が弾みにくい事も容易に想像できます。
よく知らないにも関わらず、アケビは地味である事を多くの人は知っているものだとも思われます。
しかもアケビには幾つかの種類があります。
今まで一度として考えた事もなかったアケビについて、唐突に今、語ろうと思います。
アケビについて
アケビ科アケビ属。
一般的なアケビの学名はakebia quinateといい、アケビというのがそのまま学名になっています。
英語でもakebia、仏語でもakebieです。
古くから東アジアの山中に自生していたとみられています。
花は春先に咲き、果実が実るのは9月、10月です。
落葉のツル性植物として山中などに自生もしていますが、生産もされており生産高が抜群に多いのは山形県です。
次いで愛媛県、秋田県などです。
アケビの年間の国内生産量は少なくとも約50tであり、その8割を山形県が生産しています。
山形県がアケビを積極的に生産し始めたのは、20年ほど前のことだそうです。
山形県のある地域がアケビを関東に出荷したところ、大いに評判だった為に長い間地味な存在であったアケビにスポットライトが当たったようです。
流通しているアケビの果実は商品なので、パカッと開く前に収穫されます。
だいたい8月下旬頃からアケビの収穫が始まるようです。
また、秋のお彼岸になるとご先祖様がアケビの舟に乗ってやってくる、という言い伝えがありアケビの実をお供えする習慣を持つ地域が山形県にあるそうです。
いわれてみれば、アケビの実は舟になりそうな形をしています。
山形県はアケビの郷土料理が豊富な県でもあります。
新芽は食用、ツルはカゴ用、実は食用になります。
大規模ではないものの信州地方でもアケビは栽培されています。
アケビ栽培歴史20年という農家の方もいらっしゃいます。
アケビは結実までに8年ほどかかるようです。
近頃はアケビが人気を博しており、直売所によってはすぐに売り切れてしまう事もあるそうですね。
アケビの特徴
アケビはひとつの樹に雄花と雌花を持つ雌雄同株の植物です。
花は枝先から下がったように伸びる先につきます。
雌花は雄花より大きく、25mmから30mmほどの白い3枚の萼片の中央に赤紫色のような雌蕊が3~6本ついています。
雌蕊がべたべたしており受粉しやすい形状になっています。
雄花はそれより小ぶりの10mmから15mmほどで萼片が2枚、雄蕊は6つほどあります。
一般的に雄花の方が数は多く、アケビの雄花と雌花はわりと離れたところに花をつけるのも特色です。
受粉はどういう仕組みになっているかというと、自花不和合性といい近くにアケビの樹があればその樹と受粉は可能ですが、雌雄同株でありながら自花受粉を行いません。
人工的に自花受粉を行うと、果実がうまくつかないという事があるようです。
雌雄同株の植物が敢えて自花受粉を避けているかのように見えますが、そのことがアケビ的にどのようなメリットをもたらすのかあるいは無意味なのか、まだよく分かりません。
アケビの実が裂けたところは、チェシャ猫が笑ったようでもあり、チャックを開けたポーチのようでもあります。
熟すと実が裂けるとは、ずいぶん親切な果実です。
アケビの種類
アケビには幾つか種類があります。
一般的にアケビといわれるものは、アケビの基本種とされ日本各地の山の中などに自生しています。
自生できる環境としては、気温より降水量が関係するともいわれます。
基本種のアケビは比較的水分量が多い土地に自生しているようです。
4月から5月にかけて花が咲きます。
白い花弁のような部分は萼です。
実の大きさは約10cmで皮の色は渋い紫系です。
ミツバアケビ
葉が3枚ついていることからミツバアケビといわれます。
実が甘く、皮の着色が良いのも特徴のようです。
見た目も比較的可愛げがあるので、園芸種や食用として流通しているものもあります。
ツルの色はアケビより白く、おおよそ2m程に成長し北海道から九州まで広く自生しているものとみられます。
萼片は濃いピンクだったり様々なようです。
自生地域がアケビより広いのは、比較的乾燥に強い為と考えられています。
秋になると山の中で鳥たちがつっついて食べたりしているようです。
ゴヨウアケビ
名前の通り葉が5枚ついているアケビです。
アケビとミツバアケビが自然交雑したものと考えられます。
実がとても甘いのが特徴です。
シロアケビ
アケビの一種。
熟しても皮は白いアケビです。
実は小さめのようですね。
また、よく似た果実として「郁子(むべ)」という植物もあります。アケビ科ですが、ムベ属です。
アケビの名前の由来
アケビとあくびは語感が似ているな、と思っていたら、アケビの名前の由来のひとつに実が割れた様が人のあくびに似ている事からアケビという名がついた、という話もあるようです。
アケビの名前の説にはもう一つあり、実が裂けたところから「開く実」がアケビへ変化したというものもあります。
アケビの漢字
「木通」または「通草」と表記される事が多いアケビです。
どちらも通る、という漢字が使われています。
アケビのツルを切って片方から息を吹き込むと、空気が通るからだとか。
漢方では「木通(もくつう)」といわれ、利尿作用があることから生薬とされています。
アケビの花は春に咲く事から、アケビの花は春の季語です。
また、実は秋になるので秋の季語として「通草」とされています。
アケビの果実は「山女(やまのおんな、さんじょ)」と表記される事があります。
この由来については、アケビの実の形状を見れば自ずから想像がつくものと思われます。
アケビについて
アケビの果肉は、うっすら甘く柔らかめです。
とてもおいしい、と思う人より「?」となる人が多そうなものでもあります。
ゼリー状のものに包まれた黒い種が多く食べにくいといった感想もみられます。
可食部に葉酸を含む事から、最近では女性向きの果実のひとつとして人気があるようです。
アケビについて何も知らないままに調べてみて驚いた事は、山形県におけるアケビ栽培の熱心さです。
よってアケビ料理も実に豊富です。
秋に実のなる果実を「秋果(しゅうか)」といいます。
アケビも地味ながら着実に秋果におけるスターになりつつあるのではないでしょうか。
アケビの花言葉は「才能」で、ミツバアケビの花言葉は「唯一の恋」だそうです。
しかしアケビは、正確には花弁を持たない事になります。
こういった場合、どう解釈するのがいいのでしょうか。
そんな野暮なことをいうなよ、などという事になるのでしょうか。
※参考『花と日本人』中野進著/花伝社/2000
(ライター:おもち)