実はすごい、ラーテルという動物
ラーテルは別名を「ミツアナグマ」ともいい、ネコ(食肉)目イヌ亜目クマ下目イタチ科ラーテル亜科のラーテル属に分類される動物です。
小型の雑食性の哺乳類であり、ラーテル属は一属一種のみです。
日本人にとって「ラーテル」とはあまり聞きなれない名前だと思いますが、ギネスブックには「世界一怖いもの知らずの動物」として認定されているほどで、何者をも恐れぬ大胆極まりない性質と、その自由気ままな行動が賞賛されているようです。
それにしても、誰がどんな目的でギネスブックに申請したのでしょうかね?そっちの方が気になります(笑)
ラーテルは順応性の高い動物!
ラーテルはアフリカ、アジアに生息し、サハラ砂漠を除いたアフリカ諸国およびアラビア半島、インドなどに広く分布しています。
乾燥した草原やサバンナから森林地帯にいたるまで幅広い生活域を持っており、環境の順応性が非常に高いといえる動物なのです。
ラーテルは通常群れを形成せず、単独か、オスメスのつがいで生活しています。
ラーテルは一度に二頭の子を産みますが、その実態はあまりわかっていません。
おもに夜行性なのですが、昼間に活発に活動することもあります。
ラーテルの足は太く、短かく、地を這うような低い姿勢を取りますが、それでいてちょこまかとせわしく動きながら、よく歩き回ります。
耳は小さく、四肢には大きく発達した鋭いカギ状のツメが備わっています。
このカギ爪を使って穴を掘ったり、木に登ったりすることも可能なのです。
ラーテルの持つ最強の武器とは!?
ラーテルは20~30センチもある長い尾をもち、それを含めた全長は80~110センチほどです。
体重は7~14キロ前後ですので、ずんぐりむっくりとした感じです。
身体全体は黒い体毛で覆われていますが、頭から背、尾にかけて白い体毛が走り、一部は黒毛と混じって灰色の背中をしているものが一般的です。
皮膚は分厚く、特に背中の部分が装甲のようになっていることがラーテルの最大の特徴でもあります。
頭部から背にかけて、伸縮性の高い、それでいて非常に硬くて強靭な組織を作り出しており、この硬さと厚さが実はラーテルの最大の武器でもあるのです。
ラーテルは気性が荒く、ライオンにも突激していく!
ラーテルはその見た目以上に気性がとても荒く、捕食以外の目的でも自分よりも大型の動物に立ち向かっていきます。
通常、野生環境下で動物が相手に攻撃を仕掛ける場合、まずは捕食目的が挙げられます。
その他、ナワバリ争いで、自分の領域に侵入してきたモノに対して追い出すことが目的で攻撃を仕掛けることがあります。
ただこの場合には、侵入者を追い出すという目的さえ達成すれば、あとを追いかけてさらに攻撃を加えるようなことはありません。
あとは、子どもと一緒に行動しているような場合です。
親は、子どもが襲われないようにと警戒するために防衛意識が過剰になっており、とても神経質になっていることがあります。
近付いてくるモノには激しく威嚇したり、先制攻撃を仕掛ける場合が多々あるのです。
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ラーテルは無差別攻撃のテロリスト!?
ラーテルは、こういったこととは無関係に、近づくモノ、眼に入ったモノに対して、相手が誰であろうと無差別に攻撃を仕掛けることがあります。
それがヒトであっても、ライオンやヒョウなどの大型の肉食動物であっても、スイギュウなどの大型の草食動物であっても・・です。
ラーテルが、自分の進む方向に、ライオンの群れや、ハイエナの群れを発見したとしても、けっして避けたり、迂回したり、逃げ出すことがありません。
群れに向かって突進していき、攻撃を受ければ『倍返し』以上の反撃をくらわすこともあるのです。
ラーテルは、絶対的な武器を持つことで、無敵になった!?
ラーテルがそこまで強気で、何物をも恐れない行動に出られるのは、背中に絶対的な武器を持っているからだろうと思われます。
ラーテルの背中を覆う柔軟で、なおかつ分厚く強靭な装甲は、たとえライオンの牙であろうと、爪であろうと、あるいはコブラの鋭い毒牙であろうとびくともしないのです。
身体を裏返しにされて軟らかい腹部を攻撃でもされない限り、これらの大型動物はラーテルにダメージ一つ負わせることができないのです。
ですから、ラーテルは荒野でほぼ無敵の存在であると言えるのです。
ただしライオンやハイエナの群れに単独で対峙した場合、向こうが本気でラーテルを捕食しにかかれば、多勢に無勢、いかに無敵なラーテルといえども無事ではすみません。
そんな危険なライオンやハイエナなどの群れが生息しない地域では、ラーテルは生態ピラミッドの頂点に君臨しており、まさに天下無敵の存在であるといえるのです。
ラーテルにはコブラの猛毒も効果なし!!
ラーテルは、猛毒を持つコブラに対してもひるむことなく攻撃し、捕食してしまいます。
ラーテルは、コブラ科の毒ヘビが持つ神経毒に対して耐性があり、たとえコブラに咬まれても、その毒により死亡するようなことはほとんどありません。
実際にラーテルは動きが素早いので、コブラに咬まれることはほとんどありませんし、たとえ咬まれても、背中の装甲の部分であれば、逆にコブラの牙が折れてしまいます。
ラーテルの弱点ともいうべき手や顔(特に鼻)などの軟らかい部位を咬まれると、さすがにコブラの猛毒が注入されてしまいますので、ダメージを受けて倒れてしまいます。
しかし、それも一時的なことであり、数時間で強烈な神経毒を分解して排出し、元のように回復する能力を持っているのです。
このようにヒトをはじめ、あらゆる動物たちに対してまったく怯むことなく攻撃を仕掛けていきますので、ラーテルは『世界一怖いもの知らずの動物』として知られているのです。
ラーテル恐るべし・・
ラーテルは白黒の帽子をかぶったような姿をしている
ラーテルの特徴の一つに、頭から背中にかけての白っぽい体毛が挙げられます。
身体全体は黒一色ですが、正面からみると頭には帽子をかぶったように境目がくっきりした白い体毛が生え、それが背中から尾まで続いています。
私的な見解ですが、アラブの王族などが頭に被って垂れさげている白い布「クーフィーヤ」に似ているなあと思います。
ラーテルのこの白と黒のくっきりした体色は、パンダというよりも、スカンクをイメージさせてくれます。
実はラーテルもスカンク同様、肛門から強烈なニオイを発するので、分類上は少しだけ離れた種なのですが、両者は似たような行動を取り、その生態も似通っているといえます。
ラーテルの恐るべき第二の武器が強烈!!
ラーテルは、硬く強靭な背中の装甲以外に、強烈な第二の武器を持っています。
ラーテルは大きな相手に襲われて危険を感じると、肛門にある臭腺からニオイの強い液体を噴射します。特に相手の顔付近を狙って噴出するので、それを食らった相手は、もんどりうって強烈なダメージを受けるのです。
これは、近縁種のスカンクによく似た行動でもあるのですが、スカンクは臭気を発する前に肛門を見せながら威嚇して、相手に警告を発します。ところがラーテルはそのような警告を発せずいきなり噴出させることがあるのです。
そのニオイは相当強烈なものなのですが、あまり研究が進んでいないようです。
ラーテルの最大の天敵は、実は・・・!?
ラーテルの天敵としては、ライオンとハイエナがよく挙げられます。
ただしラーテルはライオンやハイエナに簡単に補食されてしまうわけではありません。
むしろ逆にラーテルの方が、ライオンやハイエナを追い払ってしまうこともあるので、天敵というよりは強敵、難敵といった程度なのかもしれません。
しかし、いかに天下無敵を誇るラーテルであっても、近年はその数を減らしています。
その原因としては、人間による環境破壊がまず筆頭に挙げられますので、本当の天敵は、実はヒトなのかもしれません。
場合によっては、ラーテルはヒトを襲うこともあります。
ただし補食目的で襲うことはほとんどありませんので、無用な手出しさえしなければ、食べられてしまうようなことはありません。
ラーテルは何でも食べる!!
ラーテルの特徴の一つに、食べられるものに出くわしたら、何でも食べてしまうということが挙げられます。
それは貪欲というべきなのか、悪食というべきなのか、基本は雑食性ということになっていますが、昆虫類を始めとして、カエルなどの両生類、ヘビやトカゲなどの爬虫類やネズミ、モグラ、ウサギなどの小型哺乳類などを捕食するほか、その屍肉であっても躊躇せずに食べてしまいますし、果実や木の実なども食べます。
とにかく何でも食べ、眼に入った捕食対象のものは、手当たり次第に口にするのです。
その中でも特に大好物なモノとしてハチミツが挙げられます。
ラーテルは自分でハチの巣を見つけることができない!!
ラーテルはハチミツが大好物でありながらも、自分自身でハチの巣を見つけることは苦手です。
遠くを見渡せる能力が乏しく、嗅覚もそれほど発達していないようで、ニオイだけでハチの巣を見つけるのは困難を極めるからです。
そこで、ミツオシエという鳥と共生関係を作って、ハチミツにありついているのです。
ミツオシエという鳥は、キツツキの仲間で、ラーテル同様、特にハチミツを好んで食します。
ところがミツオシエがハチミツを得るためにはミツバチの逆襲に耐え、ハチの巣を壊さなければなりません。
ミツオシエ自身にはそういった能力がありませんので、せっかく大好物のハチの巣を見つけても、そのまま指をくわえて見ているしかないのです。
ミツオシエはラーテルをハチの巣に先導する!
そこでミツオシエはハチの巣を見つけると、まずラーテルを探します。
そしてラーテルを見つけると、そばに寄って来て、激しく鳴くことでラーテルに近くにハチの巣があることを知らせようとするのです。
ラーテルがそれに反応すると、ミツオシエは「こっち、こっち」とばかりに自ら先導してラーテルをハチの巣のある場所に案内するのです。
こうして、ラーテルはミツオシエのおかげでハチの巣を見つけ、大好物のハチミツにありつけるというわけです。
こうしてミツオシエは、ラーテルがハチミツを腹いっぱい食べ終わるのを、近くの木などに止まって待っているのです。
ミツバチだってやられっぱなしじゃない!!
いかに無敵なラーテルといえども、ハチの巣を壊すとなれば、数百、数千のミツバチを相手にしなければなりません。怒ったハチの逆襲を乗り越えなければ、簡単にハチミツを手に入れることはできないのです。
ラーテルがいかに硬い装甲という武器が背中にあっても、ミツバチだってそんな所ばかり狙って反撃してくるわけではありません。ラーテルの弱点でもある顔のまわり・・特に鼻を集中的に狙ってくるようです。
さすがのラーテルであっても、無防備な鼻や目の周りを集中的に刺されればかなり痛いでしょうから、命がけの行動と言っても過言ではありません。
コブラの神経毒に対して耐性はありますが、ハチ毒に対してはないようで、まれにこのミツバチの反撃を受け過ぎて、ラーテルでも死んでしまうことがあるようです。
ミツオシエには報酬を支払う!
ラーテルはけっして諦めることはなく、命がけとも言ってよい攻撃を仕掛けて、大好物のハチミツを得るために働きます。
苦労の末、ミツバチを追い払ったラーテルは、鋭いカギ爪を使ってハチの巣を掘り起こして壊し、ようやく大好物のハチミツにありつけるのです。
ラーテルは夢中になってハチミツを食べ尽くしますが、全部食べてしまうわけではありません。
ちゃんとハチの巣の場所を教えてくれたミツオシエの分は、その報酬として残しておくのだそうです。
こういったお互いの不得意な部分を補いながら、好物にありついたり、利益を得るというつながりを共生関係といいます。
ラーテルとミツオシエの間には、本当に共生関係があるのか!?
ところが最近の研究では、どうやら様子が違うようです。
実はラーテルは、それほど賢い動物ではないようなのです。
ラーテルは、せっかくハチの巣のありかを教えるために近付いてくるミツオシエを襲って食べてしまうことがあるというのです。
食べられるものは何でも食べてしまうというラーテルの習性は、共生関係にあると思われていたミツオシエでさえ例外ではないようです。
ですから実は、ミツオシエはハチの巣を見つけると、それを破壊してくれるモノとしてラーテルを探し出し、大声で鳴くことでラーテルを刺激して、自らが囮(おとり)になるような形で、ラーテルをハチの巣まで導いていくのかもしれません。
その間、ラーテルが諦めないように、付かず離れずしながら絶えず大声で刺激して、長い距離を追い掛けさせながら移動させるようなのです。
こうしてハチの巣近くまでラーテルを導くと、さすがのラーテルも大好物のハチミツにありつけることに気付きます。ミツオシエ一羽を捕食するよりもずっと魅力的なごちそうがすぐ近くにあるわけです。
こうしてミツオシエはまんまと自分が見つけたハチの巣までラーテルを導き(といってもけっこうリスクがありますが)、あとの処置をラーテルにお任せするというわけです。
ミツオシエはラーテルが食べ終わるのをひたすら待つ!
危険なミツバチを追い払って、首尾よくハチの巣を手に入れると、ラーテルはハチミツを食べ尽くして、満足して去っていきます。
このとき、ミツオシエのために報酬として少し食べ残しを置いていくと言われますが、どうなんでしょう?ラーテルがそこまでミツオシエに感謝の意を示すのでしょうか?
ライオンにしても、ヒョウにしても、肉食動物が獲物の骨まですべて食べ尽くすようなことはありません。
いかに貪欲なラーテルであっても、ハチの巣すべてを食べ尽くせるはずなどありませんので、食べ残しがあるのは当然ではないでしょうか。
ミツオシエはラーテルがハチの巣を食べ終わるのをじっと待って、その食べ残しにありつくと言った方が適切なのかもしれません。
ちょうどハイエナやハゲワシなどが、ライオンなどの食餌が終わるのを取り囲んで待っている。そういった感じなのかもしれません。
ミツオシエの方が一枚上手なのでは?
果たしてこのラーテルとミツオシエの関係は共生と言えるのかどうか・・・
もし共生関係があって、ラーテルがミツオシエを自分に利益をもたらす特別な動物(鳥)として丁重に扱っているのなら、けっしてミツオシエを狙うことはないはずです。
ラーテルがミツバチを追い払い、ハチミツを食べ始めた時点でミツオシエもその横に並んで警戒もせずにハチミツを食べることでしょう。
しかしミツオシエは、ラーテルが去るまではけっしてハチの巣に近付かず、じっとそばで待っているのです。
ですからむしろミツオシエの方が一枚も二枚も上手で、うまくラーテルを利用しているだけなのではないでしょうか。
ラーテルにハチの巣の場所さえ教えてやれば、あとは勝手にミツバチを追い払い、食べやすくハチの巣を壊してくれる・・結果としてミツオシエはミツバチの攻撃を受けることもなく、安全な状態で、最後に美味しいところだけを受け取ることができる。
実はそういった構図なのかもしれません。やるなあ・・ミツオシエ!
ラーテルの実物を日本で見られる!
ラーテルは、日本で唯一、名古屋にある東山動植物園で実物を見ることができます。
同園では、現在オスの「ザビー(2001年生まれ)」とメスの「フラン(2003年生まれ)」の2頭がつがいで飼われています。
個人的な感想で申し訳ないですが、ラーテルはけっしてかわいいといえような動物ではありません。むしろその顔は「ブサイク」と呼ぶにふさわしい作りをしています。
ギネスブックに掲載されているほどの動物なのですが、あまり人気のある動物とはいえません。ですから、ラーテルの展示は、地味でひっそりとしているようです。
ラーテルにはもっと頑張ってもらい、知名度を上げて、行列ができるようになってもらいたいものです。
ラーテルはNHKに出演していた!
NHKの番組「おかあさんといっしょ」の中で、かつて放送されていたヌイグルミの人形劇「ポコポッテイト」というコーナーがありました。
その中に出てくる主人公「ムテ吉」は、実はラーテルがモデルになっているそうです。
私も子どもと一緒に見たことがありますが、色もグレーだったし、あんなにかわいらしい顔をしているわけではないので、ちょっと違うような気もしていたのですが・・。
それでも、その決めゼリフは「無敵のムテ吉」ですから、やっぱり「世界一怖いもの知らず」のラーテルなんだなあ!・・と納得しました。
戦闘車両にもラーテルの名が・・
ラーテルがあまりに怖いもの知らずで、丈夫なところにあやかって、南アフリカ共和国では、自国の戦闘車両に「ラーテル」と名付けてしまいました。
その名も「ラーテル歩兵戦闘車(RATEL―IFV)」です。
南アフリカには「ラーテルのようにたくましく」という格言のような言葉もあるそうです。
ラーテルの近縁のスカンクとは・・
ラーテルの第二の武器である、悪臭のある液体を噴出することに関し、その本家本元のスカンクをご紹介しましょう。
スカンクはネコ目(食肉目)イヌ亜目クマ下目イタチ上科スカンク科に属する哺乳類です。
ラーテルとはイタチ上科まで一緒です。
スカンクは、北アメリカから南アメリカにかけて生息しています。
ごく近縁のスカンクアナグマ属はインドネシア、フィリピンを始めとした東南アジアに生息しています。
スカンク科には4属15種が分類されています。
その多くは白黒のまだら模様の体色をしています。種によって柄が異なりますが、この目立つ体色は、外敵に対する警戒色となっており、むやみに近づかないようアピールしているようです。
スカンクは超危険な動物だった!
スカンクの体長は40〜70センチほどで、体重は0.5〜3キロで、ふさふさとした長い尾を持ちます。食性はラーテルと同じような雑食性で、ネズミなどの小型の哺乳類を始め、昆虫、果実なども食べます。
地中を掘り、巣穴を作りますが、冬眠をすることはなく、一年中活動しています。
スカンクが恐れられる理由として、その強烈なニオイもありますが、もう一点、狂犬病を媒介することが挙げられます。
米国では、イヌよりもむしろスカンクを介した感染の方が圧倒的に多いのです。
ヒトが狂犬病を発症すると、死亡率はほぼ100%です。
世界ではアジア・アフリカを中心に、毎年およそ5万人が死亡する恐ろしい病気(感染症)なのです。
日本国内では1956年以来狂犬病の発生はなく、外国でイヌに咬まれ帰国後に死亡した例が2例あるのみです。
狂犬病に感染したスカンクは非常に攻撃的になり、あらゆる動物に襲いかかります。そういう意味で、ラーテルと変わりがないと言える存在なのかもしれません。
スカンクの分泌液はどんなニオイ!?
スカンクの最大の特徴は、肛門の両脇にある「肛門傍洞腺(肛門嚢)」から強烈な悪臭のする分泌液を噴出し、外敵を撃退することです。
通常「おなら」と称することがありますが、腸内から出るガスとはまるっきり異なります。
食肉目の多くはこの「肛門傍洞腺(肛門嚢)」を有していますが、それを噴出させて外敵に吹きかける能力はスカンクが際立っています。
またその強烈な臭気は他の動物の比ではなく、悪臭にのたうち回り、死んでしまう動物もいるほどなのです。
ヒトにとっては、催涙ガスに近いような強烈なダメージを受けるようです。
分泌液の主成分はブチルメルカプタンです。
そのニオイは独特で、硫化水素、ニンニク臭などが混じったような・・と表現されることが多いようです。
その他に、焼けたゴムのようなニオイ、都市ガスのニオイ、ごま油が腐敗したニオイなどという表現もあり、通常は吐き気を催すこと間違いないらしいです。
身も蓋もない言い方ですが、スカンク臭という表現もあります(笑)
また分泌液に含まれるチオールという物質は、血液中のヘモグロビンの鉄原子を取り除くので、スカンクの臭気を浴びてから数時間から24時間後に、メトヘモグロビン血症を起こし、最悪の場合死に至ることもあります。
スカンクの警告を無視してはいけない!
スカンクは外敵が近づくと、分泌液を噴出する前に前足で地面を叩いたり、尾を立てて肛門部を相手に向けたりするなどの警告動作をおこないます。
マダラスカンクにおいては、逆立ちをしながら相手に肛門を向ける独特の警告ポーズが特に有名です。
この事前警告を無視した場合、スカンクは「肛門傍洞腺(肛門嚢)」を取り囲む筋肉を収縮させることで、分泌液を相手の顔を目がけて噴出します。
この分泌液が目に入った場合、一時的に失明することがあります。
スカンクは、たとえ4〜5メートル離れた距離であっても、正確に狙い、命中させることができるほどの能力を持ちます。
悪臭は周囲2キロに拡散する!!
スカンクのこの悪臭は、狙った相手のみならず、その周囲にも拡大していきます。
その範囲は風向きにより2キロに及ぶこともあるそうですから、その威力たるや・・。
分泌液が皮膚に付着すると、皮膚上のタンパク質と強く結合することで、そのニオイを取り除くことが困難になります。
脱臭するためには専用の脱臭剤を用いることがありますが、それでも不十分で、衣服に付着した場合は、どうにもならず廃棄せざるを得ません。
路上にいる野生のスカンクを轢いてしまった車は、そのニオイがとれずに車内に充満してしまいますので、乗り続けることは困難です。
また売り払おうにも、中古車としての値打ちがまったくなくなってしまうので、廃車処分にされることが多いそうです。
スカンクの「肛門傍洞腺(肛門嚢)」には、5〜6回分、およそ15ccの分泌液が蓄えられています。一度の噴出ではわずか2~3ccに過ぎませんが、それほどの被害をもたらすのです。
もしも肛門嚢が空になってしまった場合には、分泌液の産生には一月ほどかかるようです。
それでもスカンクを捕食する動物がいる!!
スカンクのその警戒色を兼ねた体色はよく目立つこともあって、他のイタチ科の動物を好んで捕食する肉食動物であっても、スカンクを襲うことはありません。
ですから、スカンクには天敵はほとんどいないと言えます。
ただし、ワシなどの大型猛禽類やフクロウなどが、スカンクの頭上から一気に襲いかかることがあります。
嗅覚の鈍い捕食者にとっては、スカンクの臭気がいかに強烈であっても、あまり効果がないようです。
ラーテルの別称、ミツアナグマのアナグマって?
ラーテルの別称ともなっている「ミツアナグマ」は、英語名「HONEY-BADGER」ハニー・バジャーの直訳で、「ハチミツ穴熊」に由来しています。
ハチミツの大好きなアナグマという意味です。
アナグマは、ラーテルと同じイタチ科アナグマ属に分類され、ヨーロッパアナグマ、アジアアナグマ、ニホンアナグマの3種に分けられ、きわめて近い種でもあります。
小型の雑食性の動物であり、日本国内にはニホンアナグマが生息しています。
クマと呼ばれていますが、イタチ科の動物です。
ニホンアナグマは、日本のみに生息する固有種!!
ニホンアナグマは、日本のみに生息する固有種です。
本州、九州、四国の森林、雑木林、里山などに生息しており、ごく普通に見られるアナグマなのです。
体長は40〜50センチ、体重は4〜12キロほどのずんぐりむっくりした体型で、ラーテルの半分から2/3ほどの大きさしかなく、かなり小型です。
冬期(11月下旬から4月中旬)は冬眠しますが、暖かい地方では冬眠しない個体もいます。春になり、一日の平均気温が10度を超えるようになると冬眠から目覚めます。
ニホンアナグマは、メスとその子ども(1〜3頭ほど)からなる家族単位で行動することが多く、鋭いカギ爪を持ち、それで土を掘って巣穴を作ります。
おもに夜行性で、この巣穴を中心に生活しているのです。
ニホンアナグマの食性は、ラーテル始めタヌキなどと同じ雑食性です。
カエルなどの両生類、ヘビやトカゲなどの爬虫類、モグラやウサギなどの哺乳類をよく食べ、その他果実や木の実、穀類まで、ほぼ何でも食べますが、特に土中にいるミミズやコガネムシなどの甲虫類の幼虫を好んで食べます。
ニホンアナグマの巣穴は先祖代々使われる!
ニホンアナグマの巣穴は、何世代にもわたって使用することがあります。いわば先祖代々の家というわけです。
大きなものでは複数に入り口を持ち、その家族によって多くの部屋を作り足しながら使用していますので、内部は非常に複雑に入り組んでいます。
単独で生活するオスや、親元から巣立ったメスなどは、小さな巣穴を自分で掘りますが、移動して巣を放棄していくこともあります。そういった場合、キツネなどがその巣を再利用することがあります。
アナグマは娘を手元に置いて、修業させる!
アナグマの繁殖期は4〜8月頃で、交尾後の妊娠期間は1年近くに及びます。
春ころに1〜3頭の子を産みます。母親のもとで秋までは家族生活をして巣穴を中心に過ごし、秋以降に巣立っていきます。
しかし1頭のメスだけは巣に残り、母親をサポートします。メスの子(娘)は、翌春に母親が生んだ子どもの世話をしたり、食餌を用意したりします。どうやらこれは、修業を兼ねた、子育ての訓練になっているようです。
ニホンアナグマの習性はタヌキとほぼ同じ!
ニホンアナグマは、ニホンタヌキと姿かたちがよく似ており、同じように「狢(むじな)」と呼ばれて両者を混同してしまうことがよくあります。
ただしニホンタヌキはイヌ科に属しているので、ニホンアナグマの属するイタチ科とは少し縁遠い関係です。
タヌキと同じように「ため糞」に「タヌキ狸寝入り」までする!
タヌキの行動として有名なのですが、アナグマも「ため糞」をします。
「ため糞」とは、一定の場所で排便をくり返す行為のことです。
人里近くに住むアナグマやタヌキでは、人家近くの特定の場所にやってきて排便をしていくこともあります。
またアナグマは驚いた時などに擬死(死んだふり)をすることがあります。
このとき、薄目を開けて周囲の様子をうかがいながら、じっと動かずにいます。
これは「タヌキ寝入り」の語源にもなった行動でもあるのです。
タヌキ汁は、実はアナグマ汁!?
ニホンアナグマは狩猟の対象でもあり、その肉は食用に供されます。
俗に「タヌキ汁」といわれるものは、実はタヌキの肉よりもアナグマの肉である場合がほとんどだそうです。
近年では環境の悪化により、森林や雑木林などの生息地が狭まり、繁殖率の低さもあってアナグマの生息数は減少しています。
また外来種であるアライグマの異常な繁殖によって、その生存が脅かされている面も否めません。
現在ニホンアナグマは、自治体によっては、絶滅危惧Ⅱ種や準絶滅危惧種に指定されている場合もあります。
死んだふりはお手のもの!チャンスは活かさなきゃ!
擬死(死んだふり)は、刺激に対する反射行動だと考えられています。
擬死をする動物は多く、タヌキやニホンアナグマの他、リス、モルモット、オポッサムなどにも見られる行動です。
ただしその条件や姿勢、持続時間や終了方法などでは種差、個体差も見られ、さまざまです。
擬死をおこなうのは、身体の損傷の防止と、補食者側にできた隙に乗じて、逃亡を図ることが挙げられます。
捕食者に追い詰められ、逃げられない状況であるにもかかわらず無理な抵抗をしてしまうと致命的な傷を負ったり、疲労して動けなくなってしまう可能性があります。
追い詰めた獲物が急に動かなくなると、捕食者は力を抜き、そのとき隙が生まれます。
ですから、これを絶好の機会と捉えて一気に逃亡を図ったり、しばらく様子をうかがってその機会を待つなど、生存のチャンスを最大限に活かすために取る行動だと考えられているのです。
えっ!?あの動物とこの動物が親戚?・・分類法のふしぎ
最後に、分類法のふしぎな話です。
ラーテルが属するのは、ネコ(食肉)目イヌ亜目クマ下目イタチ上科イタチ科なのですが、イタチ科には、ラーテルのほか、本家のイタチ、アナグマ、カワウソなどが属しています。
姿形や、性質、生態、食性などが似通っていますので、これらは極めて近い種類だということがすぐにわかります。
イタチ科の上にイタチ上科という分類があります。
ここにはイタチ科のほかに、アライグマ科、スカンク科、レッサーパンダ科があり、スカンクもラーテルも結構近い種であることがわかります。おまけに人気モノのレッサーパンダも仲間に入っています。
その上に行くと、クマ下目に属します。
ここには、イタチ上科のほかに、いわゆるクマの仲間であるクマ上科が属してきます。一気にクマにまで近づき、ラーテルとクマもちょっと遠いくらいの親戚ということになるわけです。
ラーテルの別称はミツアナグマですし、クマの仲間も雑食性ですし、ハチミツも大好きですですから共通項も多いといえます。
ネコ目⇒イヌ亜目⇒クマ下目⇒イタチ上科・・ラーテルとネコ、イヌ、クマって、まったく別の動物という感じですよね。
何だか有名な動物が揃い過ぎていて、無理やり縁付けされているような気もしますが、分類法ってすごいなあ・・と思った次第です。
ちなみにハイエナは、別名タテガミイヌなどと言われることがありますが、イヌ亜目ではなくネコ亜目に属し、ネコ類ときわめて近い存在なのです。
ちょっとびっくりです。
ラーテルにそっくりな小さな悪魔「クズリ」!
ラーテルといとことも言えるほど近い種に「クズリ」がいます。
「小さな悪魔」などと呼ばれることもあるほど、ラーテルとそっくりな、キャラが被った似通った存在なのです。
同じイタチ科に属し、クズリ属になりますので、本当に分類表ではすぐとなりの位置付けになります。
ただし「クズリ」は生息地域がアジア、ヨーロッパ、北アメリカの寒帯域のために、ラーテルと共存することはありません。
同じような性質で、小さくても凶暴な動物なのですから、うまく棲み分けてくれないと、大変ですよね。
クズリについては、また別の機会に。
(ライター:オニヤンマ)