イソギンチャクは、漢字で書くと「磯巾着」、触手を縮めてお口の縮んだ姿が巾着(きんちゃく)に似ていることから名付けられたと言われています。

また、英名は「海のアネモネ」、ドイツ名は 「海のバラ」、いずれも触手の広がっている様子を花びらに例えた名前になっています。

海中で妖しく揺らめく海の花、イソギンチャクとはどんな生き物なのでしょうか。

磯遊びの人気者、イソギンチャク

磯遊びをしてとき、岩場の陰の潮溜まりなどをのぞくと、イソギンチャクがゆらゆらしている姿を見かけます。

ユニークな形の不思議な生き物、磯の人気者の一つです。

イソギンチャクは海中で、岩の表面などにひっついて生活する動物で、体は円筒形、その筒の上面が口盤で、その中央に口があります。

その口盤の周辺に、イソギンチャクで一番目立つパーツ、触手が多数並んでいます。

 

通常、雌雄が別々に存在する雌雄異体で、体外受精し卵を産みます。

海中でゆらゆらしている触手は、危険を察知すると口盤のなかにすぼまります。

またほかの生き物などが触れると触手にある刺胞(しほう)から針をだして刺し、含まれる毒で麻痺をさせて敵から身を守ります。

イソギンチャクの食べ物

イソギンチャクは、エサになる生き物が近寄ってくると、触手がそれに触れて毒で麻痺させてから、口に運んで丸のみにします。

けれども、魚などの生き物を毒で麻痺させて食べるというよりも、実際は、海水中に浮遊しているプランクトンや小さい甲殻類などを飲み込んでエサとしていることが多いようです。

 

また、イソギンチャクは、体の中に、褐虫藻と呼ばれる藻類を共生させていますが、この共生している藻類から多くの栄養をとっています。

変わり種のイソギンチャク

イソギンチャクというと、動くことができずエサがくるまでじっと待っていると思われがちですが、足盤を使ってゆっくりと移動します。

けれども中には活発に動けるものもいるので紹介しましょう。

オヨギイソギンチャク

オヨギイソギンチャクは、海藻が密生している場所に棲んでいる小型種で、ときどき海藻から離れて触手を揺り動かして遊泳します。

また、この種は、ちぎれた触手から全身を再生することができる能力をもっています。

キタフウセンイソギンチャク

キタフウセンイソギンチャクは、天敵のヒトデが触れると、岩盤から体を離しながら体をのばし、屈伸しながら浮き上がります。

この屈伸によって約1.5mも離れたところに移動することができるそうです。

イソギンチャクは、クマノミとの共生が有名ですが、他にもさまざまな生き物と共生していることが知られています。

ヤドリイソギンチャク

ヤドリイソギンチャクは、幼生時にオワンクラゲというクラゲに寄生するという変わった性質をもっています。

成長すると海底に沈んで通常のイソギンチャク生活にもどります。

カニハサミイソギンチャク

カニハサミイソギンチャクは、キンチャクガニとともに生活をします。

キンチャクガニは、両側のハサミでカニハサミイソギンチャクを持ち歩き、敵がくると武器のようにそれを振りかざして脅します。

タコ相手には、このイソギンチャク攻撃が非常に有効だそうです。

クマノミがイソギンチャクに食べられない理由?

映画『ファインディング・ニモ』のモデルとなったカクレクマノミのように、クマノミの仲間はイソギンチャクが大好きです。

クマノミがイソギンチャクの触手の中を気持ちよさそうに泳ぎ回っている姿には癒されますよね。

通常、イソギンチャクは、生き物が触れると触手をのばして攻撃し毒で麻痺させますが、ではなぜ、クマノミはイソギンチャクの触手の毒にやられないのでしょうか。

イソギンチャクの触手から毒を含む刺胞(しほう)がでるのは、エサとなる生き物が直接触れたときではないようです。では、どんなときに刺胞がでるのでしょう。

 

触手周辺のマグネシウム濃度が海水より低い場合にのみ刺胞がでることがわかっています。

触手の表面にあるたんぱく質がマグネシウム濃度の低い液体に触れると、スイッチが入り刺胞が飛びだすのです。

 

カクレクマノミの体の表面の粘液に含まれるマグネシウム濃度を調べると、海水より濃く、イソギンチャクのエサになることが多い魚の10倍もありました。

クマノミを包んでいる粘膜のマグネシウムの濃度が高いため、クマノミはイソギンチャクの触手とたわむれても刺胞がでないのです。

イソギンチャクの毒とは?

イソギンチャクは、触手などにある刺胞に、どんな種類でもなんらかの毒を持っていますが、ほとんどの種の毒は人間に影響を与えるほど強いものではありません。

ただし、日本周辺にも強い毒性をもった種がいることが知られています。

 

沖縄など暖かい海に生息するウンバチイソギンチャクやハナブサイソギンチャクが有名です。

これらのイソギンチャクは、砂中に埋まっていて、ちょっと見ただけではイソギンチャクとは思えない海藻のような姿をしているので不用意に触れ、刺されてしまうことがあるようです。

 

また、地中海で漁師に恐れられている毒性の強いヘビイソギンチャクの仲間、ミナミウメボシイソギンチャクもいますが、この毒はさほど強くはありません。

痒みや軽い腫れなどの症状がでる程度です。

 

房総半島に生息している、カザリイソギンチャクやスナイソギンチャクは、刺されるとやや強い痛みがありますが、深いところに生息していて数も多くないので、まちがって刺されることはほとんどないということです。

イソギンチャクって食べられる?

一見、食べられそうにない姿のイソギンチャクですが、イソギンチャクを食べるという文化が残っている地域があります。

 

有明海沿岸でとれるイシワケイソギンチャクは、味噌煮や唐揚げなどにして食べられています。

イソギンチャクを袋詰めにしたものが魚屋さんで売られていたり、イソギンチャク料理が郷土料理店のメニューになったりしています。

 

海外でも、地中海沿岸やフィリピンなどの一部の地域では、市場で売られていたり、ココナツミルクなどで煮込んだりして食べられているようです。

まとめ

イソギンチャクについては、まだまだわかっていないことがあるそうです。

たとえば寿命、年齢を調べるための手がかり、木の年輪や魚の耳石のようなものがないためです。

 

ただ、イギリスの博物館には、飼育していたイソギンチャクが70年以上生きていたという記録があるぐらい、イソギンチャクは長寿であると考えられています。

子供のころに遊んだ磯にいけば、あのときのイソギンチャクに再び出会えるかも?!

(ライター sensyu-k)

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