セミの寿命は非常に長い
セミは短命のイメージがありますが、実は驚くほど長寿な昆虫なのです。
私は子どものころ、成虫はたった一週間しか生きられない、捕まえてもすぐに死んでしまう、可哀想だから放してあげなさいと教わりました。
確かに虫カゴに入れておくとすぐに死んでしまいますが、屋外で自由の身であるなら成虫になってから1月ほどは生存できるそうです。
ましてや幼虫は数年から十数年も地下で生息していることがわかっていますから、それを含めれば、その他の身近な昆虫たちと比べると、とてつもなく長生きであることに気づきます。
私はカブトムシやクワガタを飼っていましたが、クワガタが越冬して2~3年は生きるのに対し、カブトムシは卵からその死まで完全に一年周期でしたから、なんだかつまらないなあという思いを抱いていました。
数年以上生きられる昆虫は、数えるほどしかいない少数派です。セミが短命であるというイメージは、完全に誤解なのです。
セミはカメムシ目に属する昆虫で、この仲間はすべて『口吻』というストロー状の長い口を持っています。セミはそれを樹木に突き刺し、その樹液を吸って生きています。
セミは人を刺す事がある
私は子どものころ、アブラゼミに刺されたことがあります(笑)
夏の暑い日にセミが飛んできて、なぜだか私の背中に止まりました。
珍しいこともあるものだと喜んでいると、背中に激痛が走りました。
あまりの痛さに悲鳴を上げました。
どうやら木と間違えられて、背中に口吻を差し込まれたのです。まさかの攻撃にとても驚きました。
幸い大事に至りませんでしたが、セミってヒトを刺すものなのだと、貴重な体験をした思いです。
セミを捕まえて観察してみるとよくわかりますが、この『口吻』はかなり長く、針のように硬く鋭い感じです。きっとあれに刺されたらさぞや痛いだろうなあ・・と理解していただけることだと思います。
セミが捕まえられた反撃で刺すことはありませんが、ヘタに口吻の周りを触ると指を刺される可能性がありますので、注意した方が良いです。
蚊やアブなどのように血を吸うわけでも、毒を持っているわけでもありませんが、肩や背中などに止まられた時だけは気をつけてください(笑)
セミの種類は驚くほど多い
セミは世界でおよそ1600種、日本でも30種ほどが生息しています。
国内で最も一般的な種はアブラゼミです。沖縄を除く全国各地で夏になれば普通に見られます。
そのほかにも本州のほぼ全域でミンミンゼミやツクツクボウシ、ヒグラシ、ハルゼミ、ニイニイゼミや日本最大種のクマゼミなどが生息しています。
成虫は主に夏に出現しますが、ハルゼミはその名の通り春に出現しますし、秋に出てくる種もいます
世界最大種のセミ
世界最大種のセミは、東南アジアにいるテイオウゼミで、全長が13センチにもなります。
世界最小種のセミ
逆に最小種はオーストラリアにいるウラブナナゼミで、その1/10の13ミリほどしかありません。
セミというより、ハエやアブくらいの大きさです。
素数ゼミ
アメリカ中部から東部にかけては、北側にジュウシチネンゼミ、南側にジュウサンネンゼミが生息しており、『素数ゼミ』と呼ばれることもあります。
ジュウシチネンゼミは最長寿のセミですが、特定の種ということではなく、同じ生活サイクルを送る数種の総称です。
つまりそれぞれの幼虫は16年、12年間地中で暮らし、17年目、13年目に成虫となって地上に現れるのです。
これだけ棲息期間が長いと、成虫としてバラバラに出てきても同種のセミがおらず、交尾のチャンスがありませんので、幼虫たちは声を掛け合うように一斉に成虫となり地上に出てくる・・つまり大発生をすることになります。
2004年にジュウシチネンゼミが大発生した際は、数十億匹という途方もない数になったそうで、木を埋め尽くすようにセミであふれかえりました。
大発生のしくみ、なぜ申し合わせたように一斉に出現するのかについて、実はよくわかっていません。
おそらくセミの体内時計がかかわっているものと推測されています。
ですから何かの事情でそれが狂うと、1~2年前後して成虫になる個体も相当数いるのです。
こういった場合、今年はやけにセミが少ないなあ・・ということになるのです。
セミの出現周期は良く分かっていない
成虫の出現時期については、周期の短いセミ(ツクツクボウシは1〜2年、アブラゼミは6年間幼虫)も同じで、必ず決まった年数だけ幼虫でいるわけではありません。
ただし周期が短い種は、一時に大発生しなくても毎年のように仲間がいますので、季節さえ間違えなければ、子孫を残すことは可能です。
そもそもセミは、その一生のほとんどを占める幼虫の時期の観察が非常に難しいので、その間の生態はほとんどわかっていないのです。
アブラゼミにしても7年周期(幼虫が6年)だといわれていますが、それで確定しているというわけではありません。
国内種をみても、ツクツクボウシが1~2年、ミンミンゼミ2~4年、クマゼミ2~5年、ニイニイゼミ4~5年などとかなり幅があるのです。
これは、幼虫がいる地中の環境変化によって、脱皮の時期が遅れることがあり、それによって成長の度合いがかなり違ってくるからだと考えられています。
国内種は、ほぼ夏にのみ出現しますので、時機を逃してしまえば、もう一年間幼虫のまま待たなければなりません。
アメリカのセミの発生周期がなぜ素数年なのかはわかっていません。
たとえば4年周期と6年周期の種が同じ地域に存在すれば、12年(最小公倍数)ごとに重なって大発生することになります。
周期が素数ならば最小公倍数が大きくなりますので、出現時期が重なり合うことが少ない(13年と17年なら221年おき)といえます。
そういう理屈で発生時期が決まっているのなら驚くべきことではあります。
しかし、今までに12~18年周期のセミは発見されていますが、11年や19年周期(ともに素数)のセミは発見されていませんので、なぜこうした周期の違いがあるのか、はっきりしたことはいえないのです。
セミはなぜ鳴くのか?
セミがなぜ鳴くのかご存知でしょうか。
オスがメスに存在を示し、合図を送っているのです。ですから当然オスしか鳴きません。
またメスを呼ぶわけですから、種によって鳴き声が違うのも当然です。
特に日本にいる種は独特の鳴き声を呈するものが多く、それによって種分けをすることも容易です。
セミのオスは四六時中鳴いているわけではなく、鳴く時間帯も種によって違います。
メス目当てに鳴くのですから、聞いてもらえなければ意味がありません。
たとえばクマゼミは午前中、アブラゼミやツクツクボウシは午後、ヒグラシは朝と夕方という感じです。
活発に活動する時間帯に鳴きますので、昼時の最も暑い時間に鳴くセミはほとんどいません。
セミの鳴き声は、腹全体を使って出します。
オスの腹には、発音膜というものがあり、この膜を筋肉を使って震わせて音を出します。
腹には共鳴室という空洞があり、ここで音量を上げ、さらに腹弁という調整弁を使い強弱をつけているのです。
大きな音を出す種ほど共鳴室が大きくなっています。
セミの産卵と幼虫の生態
これに対してメスの腹はオスよりも小さいのですが、中は卵巣になっていて充実しており、尾部に産卵管があります。
交尾のあとに、メスは産卵管を枯れ木などに差し込んで卵を産み付けます。
卵は、越冬し、翌年の梅雨の時期に孵化します。
半透明白色の幼虫は脱皮した後、そのまま地中に入り込み、長い地下生活をスタートさせます。
幼虫は木の根元に穴を掘って暮らし、成虫同様の長い口吻を差し込んで樹液を吸います。
数度の脱皮を繰り返して成長していきます。
幼虫は地下生活に適応して、全身が白色で、目も退化していますが、最終齢になると褐色を帯び、複眼ができてきます。
しかしその長い地下生活は謎に満ちており、ほとんど知られていません。
こうして成虫になる日をひたすら待つのですが、その間にモグラやオケラなどに捕食されることもあります。
セミの羽化
晴れた日の日没前後、最終齢の幼虫はいよいよ長い地下生活を終わらせるべく、地上に現れます。
葉の陰に隠れた見つかりにくい場所などに陣取ると、暗くなるのを待って羽化を始めます。
羽化中は無防備で抵抗できないため、外敵に狙われたら、一巻の終わりです。
ですから羽化は夜間に、周囲が暗くなってから始めるのです。
まず背中が割れて、真っ白の虫体が上半身から飛び出します。
このとき腹はまだ殻の中にありますが、脚は全部外に出してしまいます。
脚が固まるとそれを使って殻から抜け出て、翅を伸ばします。
翅が乾くと完了になり、いつでも動き出せる状態になります。
ただし完全に成熟するまでは数日かかりますので、その間はまだ鳴くことができません。
こうして成虫は自由に飛びまわり、オスは大きな音で鳴き続けるのです。幼虫に比べ成虫は活発に活動するので、多くのエネルギーを必要とします。
幼虫と同じように樹液を吸いますが、エネルギーのより多い導管液を吸うようです。
こうして、一月ほど生きながらえ、空中生活を楽しむようです。
ちなみに有名なイソップ童話の『アリとキリギリス』は、ギリシャの原題ではキリギリスではなくセミになっています。
この寓話が伝えられたヨーロッパ北部ではセミが珍しかったので、なじみのあるキリギリスに変えられました。
日本にはヨーロッパ北部から伝えられたので、そのままアリと『キリギリス』になって定着したのです。
メスはただ一度だけ交尾をし、産卵しますが、オスは相手がいれば数度交尾するようです。
セミの天敵
成虫には天敵が複数います。カマキリなどの昆虫類やクモ、鳥類もセミを捕食しますし、その死骸はアリなどにとっては、重要な食糧になるのです。
ですから秋になってセミの死骸を見つけることはほとんどありません。
ただ、ジュウシチネンゼミのような大発生をした場合には、捕食が追いつかず、大量の死骸を長期間さらすことになります。
セミのオシッコ
セミ採りは、男の子にとっては、夏の年中行事の一つでした。
虫カゴ、虫取り網に麦わら帽子。確かにカブトムシやクワガタは人気がありましたが、どこにでもいるセミは、狩猟のまね事として、格好の相手だったと思います。
セミを捕まえるとき、その真下にいると『オシッコ』をかけられることがあります。
ただしこれは尿そのものではなく、また襲ってくる相手を狙ってかけているのでもありません。
飛び立つ際に身体を軽くするために余計な水分を排出すると考えられています。
セミの飼育は難しい
せっかく捕まえたセミですが、飼うことは非常に難しいのです。
虫カゴの中で鳴くことはあっても、摂食することができませんので、せいぜい数日のうちに死んでしまいます。
セミは生きた植物の樹液を、口吻を使って吸いますので、虫カゴでエサをやりながら飼うことは不可能なのです。
私が子どものころに言われたように、逃がしてあげるのが一番だと思います。
どうしても長期間(といってもせいぜい一月ほどですが)飼いたいのなら、鉢植えの木などに大きな網をかぶせて巨大な虫カゴにしてしまうか、温室などの広い空間が必要です。
また、当然ですが、捕まえたセミがメスならけっして鳴きません。
セミの羽化を観察する時に気を付けたいこと
セミの羽化は一見の価値があります。
屋外で自然な状態で観察するのがよいのですが、夏の夜ですから蒸し暑いし、蚊に刺されるなど条件があまりよくありません。
むしろ夕方に這い出してきた幼虫を見つけたら、持ち帰り自宅で羽化を観察するのも一案です。
幼虫は、周囲が明るいとけっして羽化を始めませんので、植木などに止まらせたら、部屋を真っ暗にしてください。
落ち着いたら羽化を始めます。
背中が割れてから羽化が完了するまでは種によって異なりますが、1~2時間程度です。
屋内で観察する場合、エアコンの風が直接当たらないよう、また室内の温度を下げすぎないように十分注意してあげてください。
羽化が終わったら、そのまま外に逃がしてあげてください。前述したように、飼うのは非常に困難です。
長い幼虫期間を経てようやく成虫になったのですから、外の世界を楽しませてあげて下さい。
「空蝉の術」はセミの抜け殻のイメージ?
セミの繁殖期に、その抜け殻を目にする機会は多いですよね。
ほとんどの昆虫や虫、節足動物や爬虫類も含め、多くの動物たちは脱皮をしながら大きく成長していきます。
脱皮をしたその抜け殻には外皮を構成するタンパク質やミネラルが含まれていますので、脱皮した生物たちは、貴重な栄養源としてそれを食べてしまうことがほとんどです。
セミの成虫にはそういう必要がありませんし、私たちの目の高さに近い場所で脱皮をしますので、脱ぎっぱなしになった抜け殻を目にする機会が多いのです。
けっこうな硬さと強度があるので、長く保存できますから、子どもたちがたくさん拾い集めることも珍しくありません。
セミの脱け殻は、蛻(もぬけ)とも言われ、布団や部屋が抜け殻のような状態を表す「もぬけの殻」という表現はこれから来ています。
また、セミの脱け殻には空蝉(うつせみ)という言い方もあり、この字は「現世」の当て字としても使われ、この世の無常を表す場合などに用いられます。
「空蝉の術」は、忍者の使う身代わりの術としても有名で、相手に自分の身代わりを攻撃させながら、その間に逃げたり反撃したりするもので、セミの脱け殻をイメージして考えられたものと思われます。
セミは食べられる?
さて、食用としてのセミはどうでしょうか。
セミの抜け殻は、漢方薬として古くからあり、かゆみ止めや解熱作用があります。
日本でも『消風散』という名の薬の成分として含まれており、湿疹の治療に用いられる保険適用の漢方薬になっています。
中国や東南アジア、アメリカでもセミを食べる習慣があります。毒はありませんし、運動量が多い分、他の昆虫に比べて筋肉が多いので、食べ応えはあるようです。
もちろん生でということでなく、素揚げなど火に通して食べられています。
味は・・エビ・カニに通じるものがあるそうで、幼虫はナッツ類のようにトロリとした濃厚な味わいだそうです。
セミの種類と鳴き声
セミを害虫として捉えることはあまりないようです。
鳴き声があれだけうるさいはずなのに、『せみ時雨』などと称し、夏の風物詩として日本人には受け入れられているようです。
私も夏の午後のアブラゼミやミンミンゼミ、夕方に聞くヒグラシの鳴き声には強く「夏」という時期を感じますので、けっしてうるさいなどとは思いません。
ところがヨーロッパ人からするとうるさくてたまらないようです。」
セミの鳴き声もそうですが、秋に鳴く鈴虫やマツムシなども、騒音にしか聞こえないのだそうです。
ファーブル昆虫記には、『鳴いているセミのそばで大砲を打っても動じない』という記述があり、このことから、セミには聴覚がないという誤解をされていますが、そのようなことはありません。
これはセミ自身の可聴できる周波数の違いと考えられます。
メスが聞こえていないのに、オスが必死になって鳴く意味がありません。
それに、あれだけ大きな音で鳴くのですから、目立たないわけがありません。
捕食者にとっても狙いやすい存在といえるのですから、もしかしたらセミたちも、命がけで鳴いているのかもしれません。
(投稿者:オニヤンマ)