「耳タコ」という言葉があります。

「耳にタコができる」という慣用句の省略形です。

 

この場合のタコは、生き物の「蛸」ではなく、皮膚の一部が厚く硬くなったもの「胼胝(タコ)」です。

同じことを何度も聞かれてうんざりしたことをいうたとえで、江戸時代から使われてきた言葉だそうです。

ところで、生き物のタコに耳はあるのでしょうか。今回は、「タコの耳」を探っていきます。

耳(?)がかわいい、「ダンボ・オクトパス」

ダンボ・オクトパスというタコの仲間がいるのをご存知ですか。

水深300~400mに棲んでいる深海生物で、パステルカラーの胴体、頭にはまるで2つの耳のような突起があり、とてもキュートな姿で深い海の底を漂っています。

普通のタコと同じく海水を吸い込んで漏斗から噴射して、足を動かしながら泳ぐのですが、深海の水圧でうまく泳ぐことができないので、ディズニーキャラクター、子象のダンボの耳に似ているヒレを使って、方向転換したりバランスをとったりして泳ぎます。

 

このダンボ・オクトパスには耳があるように見えますが、これは耳ではなくヒレです。では、タコには耳はないのでしょうか。

タコってどんな生き物?

タコの英名は「ctopus」ですが、「8本足」という意味のラテン語の「Octopu(オクトープス)」に由来します。

タコは、吸盤がついた8本の足(触腕)をもっているのが特徴ですね。

 

日本語のタコは、「タ」は「手」、「コ」は「たくさん」、手がたくさんあるということに由来するそうです。

タコというと、よく頭にハチマキをしているキャラクターを見ますが、丸くて頭のように見える部分は胴体です。

本当の頭は足の根本のあたりで、そこに眼や口が集まっています。頭から足が生えていて、イカと同じく「頭足類」です。

 

タコは古代から生息している生物で、世界各地の熱帯・温帯海域に広く分布しており、南欧や地中海沿岸地域では、日本やアジア地域と同様食用とされています。

けれども、それ以外のヨーロッパでは「悪魔の魚」と言われるなど、恐怖の象徴として忌み嫌われてきました。

タコのおもしろい生態

〔知能〕

タコの脳ミソは9つあるといわれています。

頭にある大脳のほかに、運動中枢の集まりが8本の足の根本にあります。

 

大脳から出された司令がそれぞれの足に伝わり、それぞれの足は見事な連携プレーをします。

さらにタコには学習能力もあり、貝や石、ココナツの殻などを使って巣をつくったり、敵から身を守るために使ったりするそうです。

〔生殖〕

タコのオスは8本ある足のうちの1本は生殖器になっています。

その足は精子のつまった袋をメスに手渡すための「交接腕」といわれています。

 

他の足とは違って、先のほうには吸盤がついていません。

一方メスのすべての足には吸盤がきれいにそろってついているのでオスメスを見分けることができます。

〔心臓〕

タコには3つの心臓があります。

ひとつは人間の心臓と同じように全身に血液や酸素を送るメインの心臓、あとのふたつは、左右のエラの付け根にそれぞれひとつずつついており、エラを通して血液を筋肉に送り届ける働きをしています。

そのおかげで、タコはふにゃふにゃな見かけにかかわらず、敵が来ると猛スピードで泳ぎ姿を隠すことができるのです。

〔皮膚〕

タコはかなりのカモフラージュ能力をもっています。

タコの皮膚には色素細胞が広がっており、周囲の環境に合わせて体色を変化させ、周囲に溶け込んで身を守ります。

〔墨〕

タコはイカと同様、危険を察知するとスミを吐き敵を威嚇します。

イカのスミは粘液が多いので、水中に吐いたスミは塊となり、いわば自分のダミーをつくって敵がそっちを襲っている間に逃げます。

 

一方、タコのスミは粘度が低いので、吐き出されるとすぐに広がります。スミで敵の視界がさえぎって逃げるのです。

またタコのスミには、敵の嗅覚を鈍らせる成分が含まれているともいわれています。

〔再生〕

タコは足を襲われると、足を引きちぎってそのすきに逃げますが、タコの足は引きちぎられても再生します。

切り口によっては2本に再生されることもあるので、足を襲われるごとに再生を繰り返し足が96本に進化したタコが見つかったこともあるそうです。

またタコは、環境の悪化やストレスなどのため、自分の足を食べることもあることが知られています。

〔血液〕

人間の手の甲などに浮き出ている静脈も青く見えることがありますが、なんとタコの血液は青いのです。

タコの血液には、酸素と結びつくと銅イオンになるヘモシアニンというタンパク質成分が含まれているので青く見えるということです。

タコに耳はあるのか?

解剖学的には、タコに「耳」はありません。

ダンボ・オクトパスのように耳に見える部分もありますが、耳ではなくエラです。

 

では、タコには耳がないのでしょうか。

以前から、タコは船のスクリュー音や水槽の壁を叩くことで生じる水の振動を感じることはできるということは知られていました。

 

けれども皮膚などで水の振動を感じることはできても、人間が感じる400ヘルツ以上の普通の「音」は聞こえていないのではないかという説がありました。

研究者が麻酔をかけたタコに400ヘルツ以上の音を聞かせたところ、眠っているタコの神経が音に反応したとのことです。

つまり、タコには解剖学的な「耳」の部分はありませんが、サカナやエビなども音を聞くために使っている平衡脳で音を聞くことができるのです。

タコの旬とは?

タコは一年中流通しており、地方によって旬が異なります。

一般に味がいいのは冬、たくさん獲れるのは夏のようです。

大阪方面では、半夏生(はんげしょう)の7月2日にタコとハモを食べる習慣があり、夏に食べるので「麦わらダコ」と呼ばれているそうです。

 

タコのうまさは筋肉のもつ食感のよさにあります。

さらにタコには、アミノ酸の一種である「タウリン」という成分が含まれており、血圧を正常に保ち、貧血を予防し、肝臓の解毒作用を強化するなど、さまざまな働きをすることが知られています。

タコの釣り方

タコの釣りの有名な方法として、タコつぼやタコテンヤを使う方法があります。

タコつぼ漁

20mのロープに60個ほどのつぼを結び海底に沈める方法で、タコが穴に潜む性質を利用する方法です。

意外にもタコはきれい好きなので、汚れたつぼには絶対に入らないとのこと。

特にフジツボは大敵で数ヶ月ごとに掃除をしなければならないそうです。

タコテンヤ

重りのついた細長いプレートに大きなタコ釣り専用の針がついていて、プレートにカニなどのエサを縛り付けて使用するタコ釣り専用の道具です。

生エサでなくてもカニの形をしたソフトルアーでも大丈夫とのこと。

堤防などで岸際に落とし込んで釣ることができるので初心者におすすめの方法です。

まとめ

「このタコめが!」など、罵りの言葉として使われることもあるタコですが、音を聞くことができたり、意外にも驚くべき能力をもっている生き物なんですね。

ハイスペックなタコ、見直しました。

(ライター sensyu-k)